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第七話

言葉が世界に浸透し変化が起こる。

鎖が千切れ飛びその欠片に灯っていた金色の炎が雪の様に降ってくると共に前方から莫大な光量を湛えた光源が出現する。光源の源はヒロの両眼、今もまだ降り続いている炎と同じ金色の光を放っている。


「さぁサクッと終わらせるわよ幸介!」


ヒロは喜色満面、喜々としてスケッチブックと鉛筆を取り出し粗いタッチで何かを書き始める。

それを確認した俺はライフルを前方空中に投げ半ば呆けている黒服達に無手で突っ込む。黒服達はすぐに手の中にある拳銃のハンマーを持ち上げ引き金を引き応戦してくる。ジグザグにわざと大きく動いて銃弾をかわしなお黒服達に接近していく。

後、五歩の距離まで詰めた時、


「右手、長さ一メートル幅三十センチ、両刃」


言った途端、スケッチブックから一枚切り離す。

その紙にはラフなタッチで両刃剣が描かれていた。紙に金色の炎が燃え上がり一瞬で灰に変わると共に俺の右手に金色の炎が灯り絵に描かれていた様な両刃剣の形を取る。それに呼応するように世界を映さない右目に金色の光が灯る。

残り五歩を一足跳びに縮め右手を一文字に振り抜く。黒服達の体は上半身と下半身が強制的に分けられた。斬り伏せた俺の右手には無機質に煌めき白銀の輝きを破勝つ冷たい両刃剣が握られている。両刃剣の先からポタポタと地面に血を吸わせている。

先程空中に投げておいたライフルを片手でキャッチし両刃剣を振って血を落としておく。パタパタと足音を鳴らしてヒロと姫が近づいてくる。特に姫のダッシュが凄まじい。スカートが捲れるのも気にせず猛烈な勢いでこっちに向かって来る姫。


「何をしてるんですか幸介さん!」


開口一番怒鳴ってくれた。耳鳴りがしばらく鳴る程の声量で怒鳴って喉が嗄れたりしないだろうか?

「暴力はいけないと教わらなかったのですか!」

「これが俺の仕事だが?」

「仕事って……」

「それにこいつら殺さないと姫、あんたが殺されてたんだぞ?」

「殺す……」

そう言って姫は俺が切り伏せた二つの死体を見ようとしたがすかさず眼をヒロが後ろから覆って遮った。


「サフィーは見ちゃだめだよ。見たら眼が腐っちゃうから」


死者に向かってそれはないだろう……


「幸介さん!あなたはなんて事をなさるんですか!人の命をこんなに安々と奪っておいて何も感じないのですか!思わないのですか!」

「思わないでもないが、俺は仕事として割り切る事にしてるからな。それにこいつらは姫あんたの命を狙ってきた奴らだぞ。そんな奴らでもあんたは殺すなと言うのか?」

「それは……ダメですが……だからと言ってこちらが命を奪っていいということにはならないと思います!」

「なら姫は俺に抵抗せずに殺されろって言うのか?」

「そういう事を言っている訳ではありません。命を奪わずに自分を守る事だって幸介さんだったら出来たはずです!」

「そうだな。だがそこで俺が命を奪わなかったとしてそいつらがまた姫に手を出す可能性が残っている以上俺は野放しにはしない。姫もよく覚えておけ。世界では今でもこんな小競り合いがしょっちゅう起きてるんだ。そして俺達みたいに殺しで成り立ってる奴らもいる。姫は今その一端を垣間見ているに過ぎない」


ここまで一気に捲し立てた。姫はすでに俺の勢いに気押されて俯いている。


「姫の言ってる事は確かに正論だ。だが正論だけではこの世界を生きて行くには理不尽で不平等だ。姫はこれから起こる事をしっかり両目で見て、残酷な現実を受け止めて見せろ」


俺は言いたい事は言った。姫が俺の言葉をどう受け止め、どう折り合いをつけるかは姫の自由だ。

俺の説教が終わるのを傍らで待っていたヒロが確認するように俺に問いかける。


「片付いたかしら?」

「いや、まだ終わってないだろう。こいつらも俺達の様に雇われただけみたいだし、末端の様だからな。姫の正体を知らずに誘拐しようとしていただけみたいだ。それに俺を姫から遠ざけようと陽動するくらいだ。おそらく統率する頭がいるだろう。そいつを押さえない限りはこの依頼は解決しないだろう。ところで姫。心当たりはないのか。命を狙われるようなことは?」


俺はさっきの説教の事は脇に置いといて必要な事を尋ねる。

その対応に姫は口をもごもごと動かしていたが掠れるような小さな声で答える。


「あっ……えっと会った時にも言いましたが、私の国にはそんな事ないと思います。あるとしたら私の国をよく思ってない人たちだと思います……」


最後の方は尻すぼみになりほとんど聞こえなかった。それにやはり嘘が滲み出ている。


「ところで、幸助人が少なすぎる気がするんだけど、あんなに騒いだのに野次馬一人さえいないんだもん。気のせいかな?」


今度はヒロに説教する必要が出てきたみたいだ。


「おまえ、気付いてなかったのか!そんなわけないだろう。人払いの結界を張ってるんだよ。この遊園地を覆う程巨大な結界がな。だからここでどんなに騒いだって外に漏れることもないし人が集まることもない。ある意味ここは世界から隔離された密室ということだ。だが、逆にいえばこの密室の中にいる俺たち以外の人間は敵だと思っていい」

「それじゃまず敵の位置を把握しないといけないわね。ならチョコちゃん、あなたの右目を使いましょう」


ハァッ!と俺は目を見張り思わず口から出た大声に姫がビクンッと体を強張らせた。俺はそんな些細な事には無視して大声でヒロを問い詰めた。


「おまえ、前からバカだバカだとは思っていたがそこまでのバカ発言は聞いたことがなかったぞ。頭でも打ったのか?これが終わったら目と脳と精神と神経の医者の所に連れてってやるからそこで寝てろ!」


俺は道端にベンチが備え付けられている一つを指差して言ってやった。


「バカとは何よ、バカとは私は社長だぞ。幸介よりも偉いんだからな」


飄々と抜かしやがったヒロは姫に向かって、


「サフィーは何か能力持ってないの?私の目みたいなの」


ヒロは金色に変わった自分の両目を指しながら聞いていた。


「えと、あるにはあるのですけど私がこの力の事をあまり好きになれないんです。力は代々王位継承者に発現するらしいのですが、私はまだ全然使いこなせていません。力の事を一番知っていたのは母なんですけど、その母も一月前に病で亡くなってしまって……」


姫はそこで言葉を止め眦に涙を溜めていく。


「わっえっとごめん、そんな事情があったなんて知らなくって」


あたふたと慌てながらも慰めようと頑張るがほとんど効果はなく姫の涙は決壊寸前のダムのごとくすでに溢れだしそうだった。だが、姫は零れおちる前に首を激しく左右に振って涙を飛ばし、目元をゴシゴシ擦って体裁を整える。


「大丈……夫です。母の事……は悲しい、ことですけどでも……私は我慢……しなくちゃいけないんです」


嗚咽を漏らしながらも気丈に振る舞おうとする姫はかなり無理しているようだった。

俺は無意識の内にさっきの事も忘れていつもヒロにやってやるように姫の頭に手を置いてくしゃくしゃと撫でてやる。姫は最初ポカンと呆けた顔をしていたがしだいに頬を緩ませ、満面の笑顔になった。その頬は少し朱に染まっている、それが彼女を年相応の少女に見せる。

しかし、仲のいい兄妹に見えるこの光景を疎ましく思う者がいた。ヒロだ。


「チョコちゃんの浮気者~~~!!!!!」


ヒロがさっきまで俺が持っていたはずの両刃剣を両手で持ち、上から振り下ろして襲いかかってきた。俺は後ろに跳んでやり過ごす。俺は呆れて力なく言う。


「お前いきなり切りつけてくる奴がいるか?」

「ここにいるわ!」


自信満々に胸を張って非人道的な事を堂々と言い切りやがった。


「おい、よくもそこまではっきり言えたものだな。それになにが浮気者だ。俺がいつ浮気になるようなことをした。そもそもお前と俺はただの社長と社員、上司と部下だろうが」

「そうだよ。だからチョコちゃんは私の命令には絶対服従なの。だから私が浮気者って言った瞬間チョコちゃんは浮気者なのそう決まったの」


この天上天下唯我独尊娘め、ここいらで本気の痛みと説教というものを分らせてやるのがこいつのためかもしれないな。


「もういいよ、チョコちゃんがやらないならこっちで開けるから」


ヒロが我儘を通そうとする。


「お前、責任取れよ」


俺はこの状態のヒロに何言っても意味がないのであきらめて深い深いため息を吐く。


「オーケーオーケー私にまかせなさいって」


その自信はどこからわき上がってくることやら……ハァ。


「それじゃ始めるよ。サフィーは離れてて」


すぅと息を吸う。

【異世界への扉を叩きましょう

 新世界はその先に

 目指す未来はこの向こう

 私はそこにいる

 あなたを望んで叫び続ける

 願いは彼方に響き

 あなたが来るのを待ち焦がれる

 それは永久に感じる時間の檻

 世界があなたを見捨てても

 私はあなたを愛します

 さぁ招かれざる客よ

 我が両の双眸の前に姿を現せ】


すべての言葉を紡ぎ終えたヒロの言葉に反応するように俺の右目が発熱するように熱を帯び始める。それと同時にヒロの背後に歪な黒い飾り気のない立方体が現れる。その箱は中空を不規則に回りながら小刻みに震え、奇妙な声を響かせている。


【たゆたう世界の不思議箱パンドラ


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