第四話
ヒロは両手をクルクルと回って嬉しさを表現している。
「それでSP達は連れていく気はないんだろう」
俺はバカヒロの馬鹿で奇妙な踊りは無視してこれからの事を姫と話し合う。
「はい、彼らに言っても止められると思いますから」
「当たり前だと思うがな。だがそうなるとどうやってここから逃げ出すかという問題が発生するんだが考えているのか?」
「はい!テレビで見たのですがこういった王族が部屋から逃げる時お決まりの方法があるみたいなのでそれで逃げようかと」
「あっそれってシーツや服とかを結んで縄にして窓から逃げ出す典型的なやつ?」
ヒロが人差し指を立てて王女に言う。王女は感動したようにその人差し指を両手でギュッと握りしめて感動に声を荒げた。
「はい!そうです、嬉しいです。わかってくれる人がいるなんて!」
「だけどそれじゃ楽しくないわ。逃げるなんて人生において後ろ向き過ぎるもの。やっぱりここはSPを
全員叩きのめして堂々出口から出て行くのが正しい選択よ!」
「それはダメです! SPさん達は私の為に付いて来てくれているのですから私の我が儘で傷つけるわけにはいきません」
「傷つくってのは怪我をする事ということでいいの?」
「と言いますと?」
「ようするに怪我をさせなきゃあなたはOKな訳でしょ。だったらそんな方法いくらでもあるわよ」
そんな事を言いながらヒロは俺に邪悪な笑みを向けてきた。嫌な予感しかしないのはいわずもがなだ。
「任せたぞ幸介」
親指をグッと立ててくる。予感は的中、一体何をさせられるのやら。
「で、俺に何をさせる気だ」
ちなみにまだ姫はヒロの言葉が分からないらしく頭の上を疑問符が旋回していた。
ヒロが俺に至極単純で明快な方法だった。要するにSP達を傷つけずに気絶させろと言う事だった。
「それくらいなら俺がやらなくてもお前だってできるだろ」
「そんな物騒な事私が出来るはずないじゃない」
ケタケタと軽い調子で笑う。嘘を吐く時は大抵この乾いた笑いをする。
「まぁ気絶させるのは別に構わないが、まずは外に出るための準備をしてもらわないとね」
王女様は部屋の隅で話す俺達を不思議そうな眼で見ている。
「そうね」
そう言ってヒロは姫に向き直り、言う。
「サファナリア、その恰好じゃ目立ちすぎるから着替えてくれない、服がないなら私の貸すから」
王女様の格好はレースやフリルの付いたピンクのドレスに小さくとも目を引く綺麗なティアラを頭に載せている。その姿は道で歩いていたら十人中十人が振り向くほど絵画の中から抜け出したかのように現実離れした色香をその年齢に合わない魅惑的な体から漂わせていた。
俺は小さく絶対にヒロには聞こえないようにお前のじゃ入らないだろと突っ込んだ。
「いえ、こんな時の為に買っておいた物がありますので大丈夫です。それよりも……」
王女はそこで言葉を切り、口ごもりながら俺に上目使いプラスほんのり頬を赤く染めて、
「着替えますので少し席を外して頂けると大変助かるのですが……」
俺はすぐさま回れ右をして部屋を出ていく。
俺は背を壁に預けながら王女が着替えている間にSPの数を確認することにする。
ざっと周りを見渡して五、六人の姿は確認できるが、お忍びで訪れているとはいえ護衛がこれだけな訳がない。ということはSPを引きずり出すための何かをしないといけないということだ。
俺は何か言い考えがないか思考しながら着替えが終わるのを待つ。
「終わったわよ」
ヒロが扉から頭だけをヒョコっと出して呼んできた。
部屋の中には薄い水色のワンピースと同色の鍔の広くリボンがあしらわれた帽子を被っている王女がそこにいた。
「ほう」
俺は感嘆の吐息で称賛する。
ドレスの様に派手ではなくなったものの王女自信の高貴さはシンプルなワンピースによって更に映える印象を与える。どこぞの良い所のお嬢様といえば一番しっくりくる。
「さて、準備は整ったな。とりあえずSPを誘き出す必要がある。ということでリーダー閃光弾の用意とSPの半分はよろしく」
ヒロはいつも護身用と称して手榴弾や拳銃、ナイフを常に携帯している。物騒な事極まりない。
「えーこんなか弱い私にそんな物騒な事させるの」
「依頼達成の為と言ったら?」
「さっぐずぐずしてる暇はないわよ」
背筋をシャキッと正してきびきびと歩いて行くその手には既にピンが抜かれた閃光弾が握られていた。
「てりゃさ」
奇妙な掛け声と共に閃光弾を放り投げる。合図も何もあったもんじゃないいきなり始めやがった。室内に目を焼く光と耳を劈く轟音が木霊する俺は爆発が終わる前に動き出す。
SPはサングラスをしているから光は効かないが音は別、刹那の時間隙を作る事が出来る。だが、その刹那の間さえあれば俺には十分。
床を滑るように俺は滑らかな動きでSPの後ろに移動し当て身を喰らわせていく。時間にしてわずか五秒にも満たない戦闘はあっさりと終幕した。俺の周りには伸びて気を失ったSPが屍の山を積み重ねている。
ヒロの周りにも同じようにSPが山を作っていた。片手には火花を散らしながら電流を放出しているスタンガン、あれも持ち歩いている護身装具の一つだ。
「何事だ!」
他の部屋で待機していたらしいSpが飛び込んでくる。ヒロはまた閃光弾を爆発させその間に気絶させていく。
「そっちも片付いたみたいだな」
「私のスタンガンは強力だからね。しばらくは起きないでしょ」
「乱暴はダメって言ったじゃないですか!」
姫は惨状を見て目を見開いて驚き姫らしくなく大声で俺達に迫って来た。
「大丈夫よ、気絶させただけだから。怪我はしてないわよ」
「でも、私の我儘でこの人達が傷つく必要はないはずです!」
「あのね、姫。これはお姉さんからのアドバイスなんだけどあなたはもうちょっと我儘言っていいと思うわよ。何もかも我慢してたら人間どこか狂っちゃうものなんだから。たまには羽目を外す事を覚えなさい」
ヒロが良い事を言っている、珍しい。だがお姉さん風を思いっきり吹かせているのは頂けないがな。
「でも……」
まだ何か言おうと口ごもっている姫にヒロは更に畳み掛ける。
「それに外の世界を見たかったから私達に依頼したんでしょ。それを見ずにこんなとこで立ち止まってそれであなたは満足できるの?外の世界への興味を抑えつける事ができる?これが最後のチャンスかもしれないでしょ。我慢して空っぽになるか、歩き出してその胸を満たすか選びなさい」
姫は俯き、時に床の上で伸びているSPを見、時に前にいるヒロを見て、再び視線を床に落とす。しばらくそのまま視線を落としていたが意を決したようにガバッと顔を上げはっきりと、
「私行きます! 外の世界見たいです!」
その答えを聞いたヒロは破顔して姫の腰辺りに思いっきり抱きついた。こいつと付き合いが短かったなら素直に仲むつまじい光景だと清い心で喜ぶ事ができただろうが付き合いが長い分ヒロの癖に気付いてしまう。金勘定の為に指を無意識に指を折る所とか、目を細めて奴の瞳を覗き込めば金のマークが浮かんでいるとか上げていけばきりがない。
まぁそんな事を無視さえすれば微笑ましい光景に違いはないので俺は苦笑しながらもその光景を黙って見続ける。
抱き合いが数分続いた所で俺は痺れを切らして声をかける。
「二人共あまり時間はないんだ。そろそろ行くぞ」
俺は歩き出しその後ろに二人の足音が重なるそして、
「仕切るな―」
という怒声が聞こえてきた。
一足先に出た姫は年相応にはしゃぎまくりあっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ首を三百六十度回しまくり初めての世界を堪能しているようだ。
「それで姫はどこに行きたい?」
俺が端的に言うと、
「私は……」