第十二話
「どういうことだ?」
まだ怒りが感情を支配しているようだが、人の言葉に耳を貸せるぐらいの理性は残っているようだ。
「創造主……つまりマスターのお母様はマスターに継がせられないことも考えてこれを秘密にしました。あなたに苦痛を与えないように」
「ふん、あいつが俺の心配をするわけがないだろう。それに俺自身あいつを母親だと思ったことがねぇんだよ!」
怒りの感情を乗せた斬撃は騎士の体を大きく弾き飛ばし退けさせる。
「目を背けるのはいい加減になさったらどうでしょう?あなたも薄々気付き始めているのではないですか?」
「何にだ?」
「私があなたの姿だけではなく剣術をも受け継いでいるということに」
その言葉でディリミアの動きが硬直した。
それは明らかな動揺、理性によって抑えつけていた感情が体を支配した瞬間だった。
「私達は姿形だけならばそこまで時間も能力も使わなくとも作ることができます。ですが誰かの力を、癖を、剣術を持たせるためには能力も時間ももちろん並々ならぬ努力が必要となりますが一番必要となるのは理解、その方を本当に理解しその内面まで全て理解していなければ反映されることはありません」
そこで一度言葉を切り問うた相手を見るが今だ、動揺が体を縛り付けている。そして最後をサフィーが締めるために口を開く。それは静かにしかし、人に安らぎを与える慈愛に満ちた言葉。
「母様は誰よりも兄様の事を見ていたし、一番理解していらっしゃいました。そうじゃなければこの方は生まれませんでしたし、そもそもお亡くなりになられるはずもありませんでした。これは私しか知らない真実ですが母様はこの方を生み出す為に魔力のほとんどを使用し魔力枯渇による衰弱のせいで亡くなったのです」
「それは俺のせいであいつは死んだというのか、俺の為に死んだとそう言いたいのか!」
「いいえ、母様は自らが選んだ事です。後悔はしていないでしょう。ですが兄様の為に死んだというのも少し違います。母様は自分を責めていました。兄様ときちんと向き合わなかった自分を。兄様に今まで伝えられなかった母様の言葉を伝えます。
「『ごめんなさい。そしてお願い』それが最後の言葉です」
母の言葉を発した時サフィーの後ろに優しげな笑みを浮かべた女性のシルエットが見えた気がした。ディリミアは唇を噛み締め口の端から血が一筋流れ落ちていく。それは流せぬ涙の代わりのように。そしてそれを知ってはいけない禁忌の如く更に拒絶の言葉を口にする。
「だが、俺はあいつを認めるわけにはいかない!認めてしまえば俺の人生が無駄になってしまう!だから俺はあいつを認めない。認めるわけにはいかないんだ!」
頭の上に掲げた剣に魔力が集約していく。それはディリミアが絞り出せる魔力の全てだろう。
「それは兄様が決めることです。ですが私は母様の想いを受け継ぐ女王としてあなたを止めます」
同じようにサフィーのレイピアに魔力が集中していく。ディリミアの魔力総量には及ばないまでもサフィーの決意と呼応するように鋭く細く研ぎ澄まされていく。
「マスター、今までどれほどの苦悩をあなたが味わってきたかは私には分かりかねます。ですがこれからは私がマスターの片腕としてお支えし間違った道を進むというならばそれを止めて見せます」
騎士の甲冑の隙間から魔力が噴き出す。騎士は剣に魔力を集中させず身に螺旋を描くように纏う。魔力は外に出ては体に戻り密度を濃くしてまた外へ、幾重も幾重も繰り返し循環し、その力を増していく。
「それでも俺は今までの自分を否定できないんだぁああああ!!!」
振り下ろされるディリミアの全てが籠った斬撃受け止めるは母から意思を受け継ぎ支える覚悟を決めた二人の異なる想い。衝突は一瞬全てが白き閃光と音に包まれる。
そして目を開いた先に――――――