第5話:焚き火の温もりと、秘密のスープ
街での大騒動をなんとか(シエルの胃痛と引き換えに)切り抜けた三人は、次の目的地へ向かう途中の森で野宿をすることになった。
「はぁ……。もう二度と、君を一人で歩かせない。例えトイレに行く時でも、僕が糸で繋いでおくからな」
「それはそれで別の問題があると思うんだけど!?」
シエルの容赦ない言葉にルミナが反論している横で、ガルドが盛大に自分のお腹を鳴らした。
「……あー。腹減ったぜ。シエル、今日の飯はなんだ?」
「……街の騒動で買い出しの時間が削られたからな。干し肉と、この硬いパンしかない」
差し出されたのは、石のように硬いパン。
(……あ、これ、今のお腹の状態だとちょっときついかも……)
前世からの体質で、疲れが溜まるとお腹を壊しやすいルミナは、そっと自分の鞄を探った。
「ねえ、二人とも。私が何か作ってみてもいい?」
「はぁ? 君に料理なんてできるのか? 鍋を爆発させるのが関の山だろ」
「失礼ね! こう見えて、胃に優しくて美味しいものを作るのは得意なんだから!」
ルミナは聖剣を包丁代わりに(シエルが『国宝を何だと思ってるんだ』と叫んだが無視した)、街でこっそり買っておいた根菜を丁寧に刻み始めた。
水魔法で清らかな水を出し、火魔法で絶妙な弱火を保つ。
「……いい匂いがしてきたな。なんだ、この落ち着く香りは」
ルミナが作ったのは、現代の知識を活かした**『和風出汁の根菜ポトフ』**。
野菜の甘みを引き出し、少しの塩と、魔法で再現した「お腹を整えるハーブ」を入れた特製スープだ。
「はい、召し上がれ!」
「……いただきます」
恐る恐る口にしたシエルの動きが止まる。
ガルドにいたっては、スープを一口飲んだ瞬間、目を見開いて叫んだ。
「……っ! 染みる……! 体の芯から温まるじゃねえか! 嬢ちゃん、あんた、剣だけじゃなくて料理までチートかよ!」
「……悪くない。……いや、今まで食べたどんな宮廷料理よりも、優しい味がする」
シエルが珍しく素直に、何度もスープを口に運ぶ。
パチパチとはぜる焚き火の音の中、ルミナはふと、ずっと気になっていたことを口にした。
「……ねえ。二人とも、どうして私と一緒にいてくれるの? 私、方向音痴だし、ホラーで叫ぶし、今日だって街で迷惑ばっかりかけたのに」
しばしの沈黙。
最初に口を開いたのは、ガルドだった。
「俺はよ、あの暗い地下道で、あんたの光を見た時に決めたんだ。……この『温かさ』を守れるなら、俺の盾はいくらでもボロボロになってもいいってな」
「ガルド……」
「……僕は、君を監視してるだけだ」
シエルがスープに視線を落としたまま、静かにつぶやいた。
「君の力は強すぎる。……でも、それ以上に、君の心は脆すぎるんだよ。……一人で泣かれるくらいなら、隣で毒を吐いてる方がマシだと思っただけだ。勘違いするなよ」
「……ふふっ、二人ともありがとう。私、この世界に来て、二人に会えて本当によかった。……ねえ、私たち、もう『家族』みたいだね!」
「家族!? ガハハ、いいじゃねえか! 俺がお兄ちゃんだな!」
「……誰が兄貴だ。……まあ、パーティー(家)の秩序を守る役なら、引き受けてやらないこともないけどな」
シエルの耳が少しだけ赤いのを見て、ルミナは確信した。
神様がくれた一番のギフトは、最強の魔力でも聖剣でもなく、この温かなスープを一緒に囲める「仲間」だったのだと。




