第20話:王宮のダンスは、ステップよりも「お腹」が大事?
王宮のテラス。夜風で少し落ち着いたとはいえ、ルミナのポンコツセンサーはフル稼働していた。
「……うう、シエル、ガルド。さっきの王子の前で、お腹の音が『ぐ〜きゅるる〜』って鳴っちゃった気がする……」
「……安心しろルミナ。オーケストラの演奏でかき消されていた。……たぶん」 「おう! 俺が大きな咳払いをしてやったからな! 完璧だぜ!」
シエルが微妙な顔で目を逸らし、ガルドが親指を立てる。全然安心できない。 そんな中、ダンスホールの喧騒を避けて、再びエドワード王子が優雅に(そしてしつこく)姿を現した。
「聖女殿、少しは落ち着かれましたか? さあ、改めて一曲――」
「あ、はいっ! えと、えと……!」
断るタイミングを逃したルミナは、慌てて王子の手を取ろうとして……盛大にドレスの裾を踏んづけた。
「わわわっ!?」
『ドスンッ!!』
華麗なステップではなく、ルミナは王子の足の甲に思いっきり尻もちをつく形で着地した。しかも、その衝撃で「全属性適性」の魔力が無意識に漏れ出し、ルミナの手から小さな光の玉がパチンとはじけて、王子の豪華なカツラ(実は秘密だった)を少しだけ焦がしてしまった。
「…………え?」 呆然とする王子。静まり返る会場。
「……あわわわ! ごめんなさい、燃やすつもりじゃなかったんです! 治します、今すぐ全属性魔法で治しますぅ!」
焦ったルミナが闇雲に魔法を使おうとすると、今度は『敬愛の加護』が発動した。
(みんなに迷惑かけたくない! 家族のみんなを困らせたくない!)
というルミナの必死で純粋な「真心」が、まばゆい光となって広間全体を包み込む。 するとどうだろう。焦げたカツラ(と王子)を見た貴族たちは、あざ笑うどころか、 「なんて……なんて一生懸命な聖女様なんだ……」 「失敗しても懸命に謝るそのお姿、まさに慈愛の象徴……!」 と、なぜか感動の涙を流し始めた。
「…………これ、加護のせいだよな?」 シエルが頭を押さえて天を仰ぐ。
「……だな。でもよ、嬢ちゃんが必死なのは本当だろ? ほら、行くぜシエル。あいつ、焦りすぎて自分のドレスを燃やしそうだ」
「……はぁ。本当に、目が離せない家族だ」
二人はため息をつきながらも、笑顔で(でも目は笑わずに)王子の間に割って入り、転んだルミナを両脇から「ひょいっ」と抱え上げた。
「……王子、本日はこの辺で。家族の団欒の時間ですので」
シエルの冷たくも誇らしげな言葉に、ルミナは二人の腕の中で「ふえぇ……」と情けない声を出しながら、王宮を後にするのだった。




