第1話:ひゃっほー!異世界転生、しちゃいました!
「……う、ん……」
重い瞼をゆっくりと持ち上げると、そこには視界の端まで続く、透き通るような白一色の世界が広がっていた。
ついさっきまでの、肌を刺すような冷たい雨の感覚も、少女を助けようと無我夢中で道路へ飛び出した瞬間の、心臓が跳ね上がるような衝撃も、今はもう遠い夢の向こう側のようだ。
(私……死んじゃった、んだよね。あの子、怪我してなかったかな……)
家族と一緒に夕食を囲むはずだった、当たり前の明日。それがもう来ないことに、胸の奥が少しだけチクリと痛む。
そんな私の寂しさを包み込むように、どこからか、春の陽だまりのような温かくて慈愛に満ちた声が響いた。
「見事な勇気でした。己の命を顧みず、見知らぬ他者の未来を救った貴女に……新たな人生を贈りましょう。そこは魔法が息づき、貴女の優しさが力となる世界です」
眩い光が私を包み込む。温かさに身を委ね、再び意識が遠のいていく中で、私は自分でも気づかないうちに小さく微笑んでいた。
……次に目を覚ましたとき、頬を撫でたのは爽やかな風の薫りだった。
「……えっ。なにこれ、私……なの?」
ゆっくりと身を起こし、近くにあったクリスタルのように澄んだ水面を覗き込む。
そこに映っていたのは、さらさらと流れる白銀の髪と、朝露を閉じ込めたような紫色の瞳を持つ、まるでお人形さんのように愛らしい美少女の姿だった。
「ひゃっほー! 異世界転生、本当にしちゃった! しかも、なんだか体中からすごい力が溢れてる感じがする……これって、ネットでよく見てた『チート能力』ってやつだよね!?」
腰元に目を向けると、そこには繊細な彫金が施された美しい鈴付きのブレスレットがあった。私が「剣を!」と心の中で念じた瞬間、鈴がチリンと清らかな音を立て、それは眩い光を放つ白銀の細身の剣――聖剣エトワール・ベルへと姿を変えた。
「すごい……かっこいい! よしっ、せっかく神様からもらった第二の人生だもん。今度はこの力を使って、新しい仲間をたくさん作って、みんなで笑いながら無双しちゃうぞー!」
不安をかき消すように、私は空に向かって高らかに宣言し、力強く一歩を踏み出した。
――それから、一時間が経過した。
「……あれ? さっきもこの同じ形の岩、見た気がするんだけど。……っていうか、どっちに行けば街があるのぉーっ!?」
最強の聖剣と無敵の魔力を手に入れた天使少女、ルミナ。
しかし、神様でも彼女の**「壊滅的な方向音痴」**だけは、どうにもできなかったようである。




