第12話:毒舌王の敗北? エルナお母さんの包容力
「……ふぅ。これでようやく、『まともな』生活が送れそうだな」
エルナが仲間に加わって初めての夜。キャンプ地の空気は、今までとは劇的に違っていた。
何しろ、これまではルミナが黄金に光るお粥を作り、シエルが不機嫌そうに干し肉をかじっていたのに、今はエルナが手際よく「体に優しい薬膳シチュー」を煮込んでいるのだから。
「さあ、シエル君。そんなに眉間にシワを寄せていないで、これを食べてちょうだい。あなた、少し胃が疲れているみたいだから、ハーブを多めにしておいたわよ」
エルナが聖母の微笑みで差し出したボウルを、シエルはいつものように素っ気なく受け取ろうとした。
「……ふん。別に胃なんて疲れてない。……だいたい、君。初対面の相手を君付けで呼ぶのは――」
「あら、ごめんなさいね。でもシエル君、とっても可愛い顔をしているから、ついつい親戚の子みたいに思えちゃって」
「か、可愛い……っ!? 誰がだ! 僕はこれでもこの若さでギルドの――」
「はい、あーん。冷めないうちに食べてね?」
「……っ、…………むぐっ」
有無を言わさないエルナの「お玉攻撃(物理的な給餌)」に、シエルの毒舌が物理的に封じられた。
モグモグとシチューを噛み締めながら、シエルの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「ガハハ! 天下の毒舌王シエル様が、一口で黙らされたぜ! 嬢ちゃん、見たか今の!?」
「あはは! エルナさん、すごい……! あのシエルが言い返せてない!」
ルミナが手を叩いて笑っていると、エルナはルミナの隣に座り、優しく背中をさすった。
「ルミナちゃんも、あまり無理をしてはダメよ。あなた、自分のことより周りのことを優先しちゃうでしょう? 今日はアクアちゃんと一緒に、早く寝るのよ」
「エルナさん……。……はいっ!」
ルミナは胸がジーンと熱くなった。今までは自分が「頑張らなきゃ」と必死だったけれど、エルナがいるだけで、ここが本当の「家」になったような安心感がある。
「……はぁ。……まったく。とんでもない『お節介焼き』を拾ってしまったな」
ようやくシチューを飲み込んだシエルが、そっぽを向いて毒を吐く。……が、その手は二杯目のおかわりをエルナに差し出していた。
「あらあら、おかわりね? 遠慮しなくていいのよ、シエル君」
「……『君』はやめろと言っているだろ! ……あと、味は……まあ、悪くない」
シエルの精一杯のツンデレに、ガルドの笑い声とアクアの「きゅるるん!」という鳴き声が夜の森に響く。
最強の家族が揃った夜。ルミナは、焚き火の温もりの中で、幸せな眠りに落ちていった。




