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第11話:胃袋と心を掴む者、エルナ

「……お腹、空いたぁ……」


「……ガルド、うるさい。空腹なのは僕も同じだ……。ルミナ、また道に迷ったんじゃないだろうな?」


シエルの夕飯抜き刑を終えた翌日。街への近道を選んだはずが、なぜか私たちは深い霧に包まれた「静寂の森」に迷い込んでいた。


ルミナの「方向音痴」とシエルの「不運」が重なり、一行の体力は限界に達していた。その時――。


『トントントン……』


霧の向こうから、何とも心地よいリズムの音が聞こえてきた。


そして、それに続くように、胃袋を直接掴んでくるような、香ばしくて、それでいてどこかホッとする「お出汁」のような香りが漂ってきたのだ。


「……何この、天国みたいな匂い……」


「きゅ、きゅるるぅ……(お腹空いたよぅ……)」


匂いに誘われ、吸い寄せられるように森の開けた場所へ出ると、そこには一軒の小さなログハウスと、エプロン姿で大鍋をかき混ぜる一人の女性がいた。


「あら、お客様かしら? ちょうどお野菜たっぷりのスープが炊けたところよ」


ふわりと振り向いた彼女――エルナは、聖母のような穏やかな微笑みを浮かべていた。


流れるような長い髪と、すべてを包み込むような優しい瞳。その手には、魔法の杖……ではなく、大きな木のお玉。


「さあ、まずは温まりなさいな。あなたたち、ずいぶん無理をしてきたみたいね」


差し出されたのは、色とりどりの野菜がとろけるように煮込まれた、透き通ったスープ。

一口飲んだ瞬間、ルミナの目から涙が溢れた。


「……っ! なにこれ、すっごく優しい味……。お腹が、全然びっくりしてない……」


「……っ!? ……旨い。ただ旨いだけじゃない。……体に、力が染み渡っていく……」


あの毒舌なシエルが、一言も文句を言わずに無我夢中でスープを啜っている。ガルドにいたっては、バケツのような器で三杯もおかわりしていた。


「ふふ、そんなに急がなくて大丈夫。まだおかわりはたくさんあるから」


エルナはそう言って、ルミナの頭を優しく撫でた。


その手の温かさは、神様が言っていた「新しい家族」そのものだった。


「……あの、エルナさん。私たちと一緒に旅をしてくれませんか!? あなたがいないと、このチーム、色んな意味で崩壊しちゃうんです!」


ルミナの必死の訴えに、エルナは少し困ったように笑い、それからシエルとガルド、そして足元でスープをおねだりするアクアを順番に見つめた。


「そうね……。これほど放っておけない子たちを放っておくのは、私の性分に合わないわ。……これからよろしくね、ルミナちゃん」


こうして、最強の「お母さん」が仲間に加わった。


シエルの毒舌すら「あらあら、元気ね」と笑顔で受け流す、最強の包容力を持って――。

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