表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ探索者たちのダンジョン攻略録 ~地味職ウォッチャー、観察から始まる冒険~  作者: 砂風船
第1章:不協和音の欠片たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/32

第32話 調和の協奏曲

 骨の濁流はなお止まらない。

「焔堂! 前を割るぞ!」

 翔子が叫ぶ。

「任せろ!」

 烈が拳を振り抜く。


 骨が粉砕され、飛び散った破片が通路を覆う。翔子はその隙を見逃さず、斜めに剣を滑らせて敵の列を裂く。背中合わせの二人の呼吸が、暗い通路で短く重なる。烈は前、翔子は後ろ。拳と刃が交互に閃いて、押し寄せる《スケルトン・ラット》の鼻先を片端から潰し、断ち、踏み止める。

 だが、波は途切れない。壁や天井から次々と這い出すラットが、すぐに穴を埋めていく。

 

「――今、流れが左に寄ってる!」

 結人が声を飛ばす。見下ろすライトに群れのうねりが映る。崩落で開いた穴から湧いた波が、壁の溝に沿って左へ巻いている。


「蒼井さん、左壁に楔! 僕が中央で釣る!」

「了解ッ!」


 蒼井の盾が壁際へ滑り込み、骨の列を押し潰す。結人は半歩前へ出て、スモールソードを小刻みに突いた。速い、浅い、だが狙いは的確。下顎、膝関節、首の付け根――急所を穿つたび、群れの歩幅が乱れる。


「陽向さん、天井! 閃光のち粘着!」

「行くよっ!」


 ドローンが天井に吸い付くように滑り込み、白い閃光が狭い空間を爆ぜる。群れが一拍ひるんだ瞬間、薄い糸が雨のように垂れ、前列の足を絡め取った。ばらついた列が更に崩れ、通路中央に薄い空白が生まれる。


「彩葉さん、二人と蒼井さんに回復!」

「任せて!」


 温かい光が三人の肩と背に灯り、裂傷が息をするたび塞がっていく。鈍い衝撃が盾と拳を通して返ってくるが、痛みはすぐ光に溶けた。


「翔子さんたちが押し切られるぞ!」

 蒼井が盾で骨の突撃を受け止めながら叫ぶ。

「――今だ、右へ抜ける!」

 結人の声が群れ越しに飛んだ。


「おうっ!」

 烈の拳が再び通路を穿ち、翔子が切っ先でその隙間を広げる。


 結人はすかさず仲間へ指示を飛ばす。

「蒼井さん、右壁を押せ!」

「了解!」


 蒼井が盾を思い切り叩き込み、敵の列を横から削り取る。その衝撃が烈と翔子の突破口とつながり、通路右手に“斜めの面”ができあがった。


「その面を滑れ!」

 結人の声に、烈と翔子が同時に肩を沈める。

 並走に切り替わった二人は、烈が正面を叩き割り、翔子が脇を掃き払う。

 四歩、五歩――圧が緩む。

 

 蒼井が盾を一枚分下げて通路を空け、二人が滑り込む。背中に温かい気配。彩葉の回復が重なり、烈の肩口に走っていた血の筋が消えた。


「全員、合流完了!」

 結人は即座に声を切り替える。

「ここから殲滅に移る。形はくさび――蒼井さん先頭、烈さん右、翔子さん左、僕が中央。陽向さんは列の上から足止め、彩葉さんは隊列後方で回復!」

 結人の指示に五つの応答が重なる。


「了解!」

「うん、やる!」

「オッケー!」

「よし、任せとけ!」

 烈が拳を構え直す。翔子は静かに剣を振り払い、視線を群れへと据えた。


「照明、追加するよ!」

 陽向のドローンが通路の上を走り、白光が群れを照らし出す。光に一瞬ひるんだラットたちへ、陣が動く。


 蒼井の盾が中央に“壁”を刻み、烈の右拳が右側の列を削る。逆側では翔子が刃を横に滑らせ、膝関節を順繰りに断っていく。結人は半歩引いた位置から、崩れかけた個体の首へ針のような突きを差し入れ、数の圧力を目に見えて減らした。


「陽向さん、三連!」

「りょーかいっ!」


 ドローンが小さな起爆を三つ、間合いを測って連鎖させる。音と風圧で群れがたわみ、そこへ蒼井の【シールドバッシュ】が叩き込まれた。衝撃が骨の列をまとめて弾ね、空気が抜けるように前列が潰れる。


「どけえっ!」

 烈が踏み込み、拳が三度。打・打・捻――砕けた骨が後続の膝を刈り、翔子の刃が無駄なく斬り足す。一歩の中で二人の線が交差し、また離れる。足音が揃っている。呼吸が合っている。


「回復、間に合ってるよ!」

 彩葉の声が背中を支える。


 殲滅線が前へ、前へと押し出されていく。

 骨の音は、もう地鳴りではない。散発的な、弱い音だ。


「ゆいとくん、反応減少――左壁の穴、湧き止み!」

 陽向の声が弾む。


「よし、このまま狩りきる! 蒼井さん、最後の押し!」

「うおおっ!」


 盾が床を擦り、散らばった骨を前へ押し流す。烈が砕き、翔子が断ち、結人が刺し、彩葉の光が隊列の疲労を洗う。

 やがて――最後の一匹の頭蓋が烈の拳で弾け、静寂が戻った。


 しばし、全員の息遣いだけが通路に残る。灯りの粒子が白い骨粉の中で渦を巻いた。


「……討伐、完了だな」

 結人が肩の力を抜き、スモールソードを下ろす。

 陽向がドローンで周辺を走査し、親指を立てた。「反応ゼロ。安全域!」


 蒼井が盾を下ろし、どさりと腰を落とす。

「ふぅ……効いたぜ、腕に」

 彩葉は短い詠唱でみんなの擦過傷を撫で、安堵の笑みを浮かべた。


 翔子は鞘に刃を収め、烈の方へ向き直る。ほんの一拍、言葉を選び――小さく頭を下げた。

「……助けてくれて、ありがとう」


 烈は目を丸くし、照れ隠しに鼻を鳴らす。

「へっ、まあな――」

 続く視線には、いつもの冷静さがあった。

「ただし、無駄が多すぎます。次は三手、もしくは二手目で止められるように。衝撃による崩落リスクは常に前提に置いてください」


「お、おう……気をつける」

 頬をかきながらも、烈の声には先ほどより素直な色が混じる。


「二人とも、すっごくカッコよかったよ!」

 陽向がぱっと笑い、ドローンのカメラをくるりと回す。

「後でハイライト編集して渡すね! あ、スローで見ると翔子さんの斬り、鳥肌もの!」

「編集はほどほどに。……でも、少し見てみたいです」

 翔子がわずかに口元を緩め、彩葉がくすっと笑った。

「帰ったら、甘いもの食べながら鑑賞会しよ。だよね?」


 結人はそんな輪を見て、短く頷く。

「今回の目的は《薄闇の洞窟》の小型討伐。目標は達成――帰りましょう。帰りは崩落区画を避けて、来た道を安全優先で戻ります。陽向さん、マーカー回収。蒼井さん、先導。烈さんは衝撃抑えめで。翔子さん、後方監視。彩葉さんはみんなの状態管理を」


「了解!」

 整った返事が、濡れた岩肌に気持ちよく跳ね返る。


 帰路は慎重だったが、もう足取りは重くない。

 洞窟の外に出ると、夕光が薄く差し込み、汗ばんだ頬を撫でた。冷たい風に、張り詰めていたものがふっとほどけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ