第31話 決死の独奏
《薄闇の洞窟》の探索は、ここまでは順調そのものだった。
翔子の冷静な采配により、敵は広間へと誘導され、烈の突撃で分断。蒼井の盾が通路を塞ぎ、陽向のドローン罠が骨の群れを翻弄する。彩葉の回復も滞りなく、結人は全体を見ながら的確に指示を飛ばしていた。
まさに、理想的な連携。誰もが手応えを感じていた。
――だが、油断はほんの刹那の隙に訪れる。
烈が豪腕を振り抜き、通路奥の群れを一気に粉砕した。骨が派手に砕け、数匹のラットが宙を舞う。その衝撃が壁に伝わり、嫌なきしみ音が響いた。
「……今の、嫌な音だな」
結人が眉をひそめた刹那、天井から小石がぱらぱらと落下する。
「――まずい、壁が!」
壁のひびは目に見えて広がり、落石が通路の一部を塞ぐ。鈍い音とともに石壁がひび割れ、瓦礫が雪崩のように落ちてきた。
「翔子さんっ!」
蒼井の叫び。
「っく……!」
翔子はとっさに身を翻したが、足場が崩れて膝を落とす。
次の瞬間、背後は瓦礫で塞がれ、彼女は狭い区画に取り残されてしまった。
そこへ――カチカチと骨の鳴る音。
崩落で空いた穴の暗がりから、無数の《スケルトン・ラット》が壁を這い、床を走り、天井から垂れ下がるようにして翔子と仲間たちを分断するように迫ってくる。
「囲まれた……!?」
翔子の目が鋭く光る。剣を構え直すも、狭い通路、背後は瓦礫で塞がれ逃げ場はない。群れは彼女一人を喰い潰さんと迫っていた。
冷静沈着な翔子の顔に、一瞬だけ焦りが浮かんだ。彼女は敵の猛攻を剣でさばき続けるが、数が多すぎた。
「――くそっ、キリがないわね……!」
「蒼井さん! 穴を抑えられますか!?」
「無理だ! 数が多すぎる!」
蒼井が盾で迫るラットを弾き飛ばしながら叫ぶ。
「退路を切り開く!」
結人はスモールソードを抜き、迫るラットを突き刺しながら翔子へ声を飛ばした。
「翔子さん、持ちこたえてくれ!」
「言われなくても!」
翔子は迫るラットを片端から切り払う。骨が砕け、甲高い音が響く。しかし切っても切っても、次の群れが壁や天井から這い出してくる。
「ドローンで照明増やすよ!」
陽向が操作する小型機が翔子の頭上に滑り込み、強いライトで周囲を照らす。
ラットたちが光に一瞬ひるむ――その隙を翔子は見逃さない。閃光を浴びた群れに鋭い突きを叩き込み、通路の端を切り開く。
「ナイス、陽向さん!」
結人の声が洞窟に響く。
しかし、敵の波は止まらない。
壁からは這い出し、天井からは飛び降り、通路全体を覆う。数の圧力は圧倒的で、翔子の剣だけでは防ぎ切れない。
「――どうする、これ……!」
蒼井の額に汗が滲む。大盾で押し返しても、次の敵が続々と迫る。
「彩葉さん! 回復を!」
「やってるかもっ!」
光の奔流がみんなの体を包み、裂傷を癒す。しかしそれでも数の不利は覆らない。
「ちっ……!」
烈は奥歯を噛み締めていた。
目の前で翔子が必死に孤立戦を繰り広げている。剣さばきは冴えているが、押し寄せる骨の群れは止まらない。
「烈! 落ち着け!」
蒼井が声を張る。
「数を減らすことを優先しろ!」
「くそっ……でも、このままじゃ……!」
烈の拳は震えていた。翔子が一瞬体勢を崩した。ラットの爪が肩をかすめ、赤い筋が浮かぶ。
その光景に、烈の我慢は限界に達した。
「どけぇえ!!」
叫びと同時に、烈は全力で瓦礫を蹴り飛ばし、群れの中へ飛び込んだ。拳が振り抜かれるたびに骨が砕け散り、通路に白い破片が雨のように舞う。
「馬鹿!正面から突っ込むなんて無茶を!」
翔子が叫ぶが、烈の瞳はまっすぐだった。
翔子の隣に滑り込み、背中を合わせる。
「任せろ! ここからは俺が壁だ!」
「……仕方ありませんね。背中、預けます!」
翔子の声は短く、冷徹。しかしその冷静さの奥には、烈を信じる覚悟が垣間見える。
烈の拳が正面のラットを吹き飛ばすたび、翔子の剣がその隙を断ち切る。
豪快と精緻。荒々しさと冷徹さ。相反するが互いの死角を補い合うその動きは、偶然か、それとも必然か――狭い通路の戦場で、二人の力が不思議なほど噛み合った。
一方、仲間たちも死力を尽くしていた。
「二人が下がれる道を作るんだ! 蒼井さん、盾をもっと前へ!」
「了解!」
蒼井が大盾で骨の群れを弾き飛ばし、結人はスモールソードで隙を突いて急所を狙う。
ラットの顎を突き砕き、骨片を蹴り飛ばしながら、冷静に指示を飛ばす。
「陽向さん! 閃光をもう一発!」
「よしきた!」
爆裂光が通路を覆い、ラットがひるんだ瞬間、彩葉の治癒の光が二人に注がれる。
烈と翔子はその援護を受け、さらに攻勢を強めた。
「おらぁぁッ!」
「そこです!」
拳と剣が重なり、群れを次々に打ち倒す。
しかし――まだ敵の波は途切れない。
壁を這い、天井から舞い降り、通路は骨の群れで埋め尽くされていく。
烈は歯を食いしばり、翔子は眼光を鋭く光らせる。
二人の背中には、仲間たちの必死の支援と、絶え間なく押し寄せる危機が重なっていた。
戦いは、まだ終わらない――。




