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落ちこぼれ探索者たちのダンジョン攻略録 ~地味職ウォッチャー、観察から始まる冒険~  作者: 砂風船
第1章:不協和音の欠片たち

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第26話 響きあう予感

 烈が加入して迎える二度目の探索の朝。まだ薄明に包まれた空気は冷え、吐く息は白い。拠点の前で装備を確認しながら、誰もが緊張を隠さなかった。


「烈、今日は加減を忘れるな。後衛まで巻き込むな」

 蒼井の声は低く鋭い。前回の探索で背に走った冷汗が、まだ抜けていないのだ。

「わかってる。俺だってバカじゃねぇよ」

 烈は鼻で笑ったが、その闘志の瞳は“我慢”という鎖に縛られているようだった。


(あれは抑えているだけ……本当に“仲間に預けている”とは言えない)

 結人はその横顔を見つめ、小さくつぶやいた。


 ダンジョンに足を踏み入れると、湿った冷気と土の匂いがまとわりつく。苔の光が通路を淡く照らし、松明の火に誘われた虫が舞った。今回の討伐目標は、Dランクの《スモッグビートル》と《バイラントモール》。どちらも癖の強い魔物だ。


「前方、三体」

 結人が低く告げるや否や、烈は即座に飛び出した。

「よし、任せろ!」

 鋭い拳が甲殻を砕くたび、毒煙が噴き出して視界を濁す。足元も揺れ、後衛の動きが一瞬止まった。


「背後!」

 結人の声に、地面を割って飛び出したモールの爪が烈を襲う。

「……ッ!」

 蒼井が盾で割り込み、衝撃を受け止めた。


「烈! もっと周りを見ろ!」

「チッ……悪い!」


 陽向の罠がモールの足を絡め取り、烈が追撃を叩き込む。彩葉の癒しの光が烈の腕を包み、裂傷を塞いだ。初戦はしのいだものの、形は依然として烈の独走だった。結人はスモールソードを強く握り直した。


 さらに奥。今度は四体が通路を塞ぐ。

「まとめて叩き潰してやる!」

 烈の拳が甲殻を砕く。だが濃い毒霧の中から、別のモールが烈の背後を狙った。


「させるか!」

 結人は飛び出し、刃を滑らせて突進を逸らす。蒼井の盾へ誘導する――そのつもりだった。しかし衝撃は想像以上に重い。腕に痺れが走り、一歩後退する。


「ぐっ……!」

「結人、下がれ!」

 蒼井の声が飛ぶ。


「……まだ!」

 結人は歯を食いしばり、再び刃を押し込み、敵の軌道をずらす。蒼井が受け止め、烈が渾身の拳を叩き込んだ。群れは倒した。だが結人の膝は震えていた。


(……押し負ける。僕の剣じゃ、敵の力を支えきれない!)

 胸の奥に、悔しさが鋭く残った。



 探索を終えてギルドに戻ると、周囲の視線は冷ややかだった。

「見たか? また拳で突っ込んでた」

「仲間は迷惑だろうに」

「所詮“ハズレ”同士だ」


 烈の肩が震える。

「……誰がハズレだと?」

 拳を握りしめて振り返ろうとした烈の腕を、蒼井が押さえた。

「烈。ここで騒ぎを起こせば、奴らの思うツボだ」

「だが!」

「戦いで証明するんだ。拳じゃなく、結果でな」


 烈は苦々しく口をつぐんだ。結人はその背中を見つめ、胸の奥が重くなる。

(“ハズレ”……それは俺も同じ。だけど、立ち止まるわけにはいかない)

 そう胸の内で噛みしめた。



 夜、拠点にて

 夕食の時間。

「……味、薄くねぇか?」

 烈がぼそりと漏らす。

「何! 私が作ったのよ!」

 陽向がむっと返す。

「いや、うまいんだけど……」

「なら自分で作れ!」

 小さなやり取りに彩葉が笑い、蒼井がため息をつく。結人も、ようやく肩の力を抜いた。


 食後、彼は真剣な声を落とした。

「今日の戦いで思った。烈さんの拳は強い。でも溜めがある。その隙を狙われやすい」

 烈が黙り込むと、蒼井が応じる。

「なら俺が前で引きつける。烈の隙を潰せる」

「私は仕掛けで足を止める! 拳が外れにくくなるはず!」

 陽向が続ける。

「烈くんの動きは真っすぐだから、その先を予測して支えられる」

 彩葉もうなずいた。烈はしばし黙り、口の端をわずかに上げた。

「……なんだよ。俺を止めたいのか、戦わせたいのか」


「両方だ」

 結人が静かに答えた。

「烈は戦える。だからこそ、俺たちで支えるんだ」

 烈は照れくさそうに顔を背けた。



 その時、結人の端末が震えた。画面にはギルドからの通知。


『募集は終了していることは承知しています。

 ですがどうしても、一度だけお話をさせてください』


「へぇ、面白そうじゃん!」

 陽向が身を乗り出す。


「知らない人が来るのは……少し怖いかも」

 彩葉は不安げだ。


 結人は迷った。

(やっと形が見え始めた。ここに新しい誰かを入れるのは、危うさもある)


 だが同時に思う。

(僕ひとりでは押し返せない。足りない力があるなら――補えるかもしれない)


「だったら直接確かめりゃいい」

 烈が笑った。

「来るってんなら、話ぐらい聞いてやれよ」


 蒼井は腕を組み、険しい表情のまま黙っている。結人は深く息を吐いた。

「……明日、会ってみよう」


 新たな縁の予感に、拠点の空気が揺れていた。

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