表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ探索者たちのダンジョン攻略録 ~地味職ウォッチャー、観察から始まる冒険~  作者: 砂風船
第1章:不協和音の欠片たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/32

第25話 拳と心、開く夜

 採取任務を終えた一行は、夕暮れに染まる街を抜け、ギルドへ戻ってきた。

 受付で素材を提出し、手続きが済むと、依頼完了の証として報酬が渡される。


 普段なら慣れた流れだが、今日はどこか空気が違った。疲労の中に、微妙な緊張と期待が入り混じっている。


 蒼井がテーブルに広げられた報酬を眺め、眉をひそめた。

「思ったより報酬が少ないな……」

 採取目標の《苔花》は無事だったが、戦闘で破壊されたスモッグビートルの素材分が大幅に減額されていた。


「虫の素材、粉々だったもんね」

 彩葉が小さく笑ってつぶやく。


 烈は苦笑いを浮かべ、頭をかいた。

「……悪い。加減は苦手なんだ」


「わかってるならいい。次から気をつけろ」

 蒼井の声には苛立ちはなく、諭すような響きがあった。二人の間に完全な信頼はまだないが、確かな変化は見えた。


 烈はうつむき、短い沈黙の後で口を開いた。

「加減なんて、俺には一番苦手なことなんだよ」

 その表情には、僅かな影が差していた。


 陽向は、落ち込む烈に声をかける。

「烈、でもさ! アタシ、烈のパンチの衝撃波で、新しい発明のヒントもらっちゃったもんね! 絶対すごいのができるって!」


 陽向の明るい声に、烈の表情が少しだけ和らぐ。


 蒼井は自分の分の報酬を整理しつつ、烈に視線を向ける。

「……依頼自体は問題なくこなせたな。ただし烈、お前の立ち回りはやっぱり危なっかしい」


 烈はふんと鼻で笑う。

「けど、敵は全部倒れただろ? 俺の拳、役に立ったじゃねえか」


 結人も口を開く。

「烈さんの力は本当にすごい。でも、息を合わせないと危険も大きい。……だからこそ一緒に工夫したい」


 烈は舌打ちしつつも、拳を震わせたまま黙り込んだ。


「でもさー」

 陽向が重苦しい空気を和らげるように笑った。

「烈がいたから採取もスムーズに終わったんじゃん? アタシ、めっちゃ楽しかったよ! あんな大暴れ見られるなんて、刺激ありすぎ!」


 彩葉は微笑みつつも、どこかほっとした表情。

「陽向ちゃんはポジティブすぎ……でも、助けられたよね」


 烈は皆のやり取りを聞きながら、口を少し引き結び、ぽつりとつぶやく。

「……一人でやるよりは、悪くなかった」


「ん?」と陽向が首をかしげる。


 烈は頭をかきながら、照れ隠しで続けた。

「俺は拳で戦うしかねえ。ギルドじゃ笑われるし、居場所なんてなかった。でも……お前らと組んでると、不思議と“戦ってる”って実感があるんだ。……そういうの、続けてもいいかもなって、ちょっと思っただけだ」


 仲間たちは言葉を失った。

 それは烈なりの、「仲間に加わりたい」という意思表示だった。


「つまり、烈はうちのパーティに入りたいってこと?」

 陽向がにやりと笑って直球で尋ねる。


 烈は肩をすくめ、そっぽを向く。

「さあな。“ちょっと思った”ってだけだ」

 しかし頬がわずかに赤くなっているのを、彩葉は見逃さなかった。


 蒼井は腕を組み、しばし黙考する。

「……少なくとも、今日の依頼でわかった。烈の拳は確かに力になる。けど、俺たちのやり方とは全然違う」


 蒼井は問いかけた。

「烈、どうして拳にこだわる?」

 烈はぐっと拳を握りしめた。しばらく口を開けなかったが、やがて語り出す。


「俺は、『ウォーリア』になりたかった。子どもの頃から格闘技が好きで、特性も『格闘』だった。でも、ジョブは『ウィザード』。魔法はからきしなのに、何度鑑定しても変わらなかった」


 言葉は次第に熱を帯びていく。

「笑われ続けて、誰からも認められなくても、……拳だけは裏切らなかった。だから拳を止めたら、俺じゃなくなる」


 彼の声に、場が静まり返った。彩葉がそっと口を開く。

「烈君は、自分を信じてきたんだね」

 その大きな瞳には、真剣な色が宿っている。


 陽向はにかっと笑い、工具をくるくる回す。

「なんか、わかるかも! あたしも、失敗ばっかで『クラフターのくせにポンコツ』って言われてたし。でも、それでも好きでやめらんないんだよね」


「俺もそうだな」蒼井が肩をすくめる。

「盾役なのに、攻撃を受けきれないから追放された。笑えるだろ? けど、それが俺の特性なんだって受け入れたら、違うやり方が見えた」


 結人はうなずき、静かに言葉を紡ぐ。

「僕も同じだよ。『ウォッチャー』なんて、戦闘職としては誰からも期待されなかった。『観察するだけのハズレ』だって言われ続けた。……でも、その目があったから、今はみんなの力を活かす道を見つけられた」


 烈は、黙って彼らを見回した。そこに自分と同じように、過去を抱え、それでも進んできた仲間たちがいる。

 拳を握り締めたまま、彼は小さく笑った。


「……お前ら、意外とハズレばっかじゃねぇか」


「そうだよ!」彩葉が勢いよくうなずく。

「だからこそ、強いんだと思う。だって、みんなが自分の“やり方”で支えあっているから!」


 蒼井は椅子に背を預け、腕を組んだ。

「烈、お前の拳は確かに危なっかしい。だが、俺たちが受け止めれば、武器になる。……お前はどうしたい?」


 烈は真っ直ぐに前を見た。

「……俺は、お前らとなら、もう少し先に進める気がする」


 蒼井はゆっくりとうなずいた。

「よし。だったらしばらく“試し”で一緒に行こう。ただし、暴走はナシな。俺たちはパーティーだ」


 烈は拳を軽く掲げ、笑った。

「任せとけ!」


 そして勢いよく立ち上がり、手を振ってギルドを後にする。

「よし、明日からもよろしくな!」


 残された四人は、どこか呆気に取られながらも笑みを漏らした。


「にぎやかになったね」彩葉が笑う。

「でも、まだ仲間募集の掲示って出してるよね?」陽向が首をかしげる。


 蒼井は考え込み、やがて結論を出した。

「よし、一度休止にしておこう。枠は残して、縁があればまた誰か来るかもしれないしな」


 その判断に、皆がうなずいた。


 その夜、結人はノートに記す。

(烈の力は制御不能な部分が多い。だが努力する意志も見えた。ハズレ同士だからこそ補い合える――その可能性を信じてみたい)


 こうして彼らは、新たな五人として歩み出すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ