表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ探索者たちのダンジョン攻略録 ~地味職ウォッチャー、観察から始まる冒険~  作者: 砂風船
第1章:不協和音の欠片たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

第20話 招かれざる乱入者

 仲間探しを決めてから、既に数日が過ぎていた。

 結人たちはギルドの紹介所やネット掲示板で新たな仲間を募集していた。

 だが、返ってきたのは応募の通知ではなく――冷たい噂だった。


「“あのパーティー、また募集かけてるぞ”」

「失敗続きだし、近づくだけ時間の無駄だろ」


「ハズレパーティー」。

 そう周囲に知られてしまっている現実が、彼らをじわじわと追い込んでいく。


「誰も来てくれない……」

 彩葉が端末の空欄を見つめ、肩を落とす。


「まあ、弱いパーティーに入りたい物好きなんて、そうそういないよなー」

 陽向は自嘲気味に笑った。強がる笑顔の裏で、胸の奥に小さな痛みが広がっている。


 蒼井は腕を組み、言葉少なく視線を落とした。

(……俺がもっと守れていれば。誰かが来たいと思える戦いができていれば)

 悔しさを押し隠しながら、唇を固く結んだ。


「……仕方ない。今は僕たちだけでできることを続けよう」

 結人は淡々と告げる。声に迷いはないが、誰よりも現実の壁を噛みしめていた。

 受けた依頼は、〈蒼根草〉という希少植物の採取。危険度は低く、探索メインの依頼だ。


 ダンジョンの奥、湿った空気が漂う通路。

 薄暗い光に照らされた草むらで、彩葉がしゃがみ込み、青白く発光する草を指差した。


「わー、これだよね? 依頼書に書いてあったの!」

「うん。根っこを傷つけると価値が下がるから気をつけて」

 結人が冷静に指示を飛ばす。


 陽向は小型装置を取り出し、地面に並べていく。

「よーし、これで採取中に何か来ても、少しくらいは遊んでくれるでしょ」

 明るい声を出してはいるが、仲間が見つからない焦燥感が胸の奥で燻っていた。

 和やかな空気が流れていた――その瞬間まで。


「……待て」

 蒼井が低く呟き、立ち止まる。足元の地面を指差した。

「この足跡……大きすぎる。しかも棘の破片が散ってる」

 一瞬の静寂の後、耳をつんざく咆哮が響く。

 地響きとともに茂みが吹き飛び、泥のような装甲に覆われた巨影が姿を現した。


《泥棘のガスト》。

 Dランクダンジョンで中ボス級とされる怪物。鋭い棘を揺らし、濁った眼でこちらを睨み据える。


「うっそ、何でこんなのが出てくんのよ!」

 陽向が慌てて身構える。


「来るぞ、構えろ!」

 蒼井がシールドを展開。巨体の突進を受け止めた。

 轟音。火花。衝撃で蒼井の足がめり込み、歯を食いしばる。

「ぐっ……! デカいくせに速い!」


「慎君、下がって! 回復入れる!」

 彩葉が詠唱し、淡い光が蒼井の体を包む。


 陽向はポーチから即席装置を取り出し、地面に投げつける。

「よっしゃ! 爆ぜろ!」

 閃光と煙が弾け、ガストの注意が逸れる。


 その隙を狙い、結人がスモールソードを突き込む。

 だが――刃は甲殻をかすめるだけ。

「硬い……!」

 剣先はあっさり欠け、手に嫌な衝撃が走った。


 数合の応酬で、彼らの疲労はじわじわと増していく。

「長引けば、こっちが先に削られる……!」

 結人の胸に冷たい予感が走る。


 盾の蒼井の腕は痺れ、彩葉は額から汗を流し、陽向の装置も底を突き始めていた。

 焦りと諦めの気配が漂い始めた、その時――


「俺も混ぜろォッ!!」


 豪快な声とともに、赤髪の青年が飛び込んできた。

 肩口に輝くジョブマークは〈WIZ〉。

 明らかにウィザードのはずが――拳に魔力をまとわせ、殴りかかる。


「ウィザード……なのに、殴ってる!?」

 彩葉が目を見開く。


 烈火のような連打が、巨体を一瞬押し返した。

 だが、着弾ごとに爆ぜる魔力は烈自身をも巻き込み、血飛沫が舞う。

「細けぇことは気にすんな! 俺は烈! 魔法はぶっ放すより殴ったほうが性に合ってんだ!」

 血を滴らせた拳を構え直し、烈がにかっと笑う。


「は、はぁ!? 自分まで傷ついてるじゃん!」

 彩葉は慌てて駆け寄り、治療魔法を展開する。

 しかし血の赤さに顔をこわばらせ、一瞬固まった。

「っ……だ、大丈夫、落ち着いて……!」

 必死に言い聞かせるように、手を震わせながら魔法を放つ。


 烈はそんな様子を気にすることなく、笑いながら突っ込んでいく。

 魔力の制御は荒く、着弾点は爆発し、床や壁まで砕け散った。

 巻き込まれて自分の腕も裂けるが、止まる気配はない。

「がはっ……けど、まだまだいけるッ!」

 傷口から血が流れようが構わず、さらに殴り込む。


「やっべぇ火力……けど、メチャクチャ!」

 陽向が声を張り上げる。


 結人も同じ思いだった。

(戦況をひっくり返せる力はある……けど、このままじゃ全員持たない!)


 蒼井の盾はひび割れ、彩葉の魔力は限界、結人の剣も折れかけていた。

 烈自身も肩から血を流し、息が荒い。


「――撤退する!」

 結人が冷静に叫ぶ。


「ちぇっ、盛り上がってきたのに!」

 烈は悔しげに笑うが、文句は言わず後退に合わせる。

 彼の荒々しい火力が敵の注意を引き続けたおかげで、撤退は成功した。


 ダンジョンから無事に脱出した四人は、全員がぐったりと座り込み、息を整える。


 烈は拳を血まみれにしたまま、にかっと笑った。

「今日はここまでか。だが面白ぇ戦いだったぜ!」


 彩葉はまだ血に怯えながらも、震える声で言葉を絞り出す。

「……あ、あの……烈さん。助けてくれて……ありがとう」


「おう!気にすんな。やっぱり仲間と強い敵と戦うのは燃えるな!」

 烈は肩をすくめ、豪快に笑った。


 陽向が腕を組み、半ば呆れながらも口を開く。

「荒っぽいけど……火力だけはやっばいね」


 蒼井は険しい表情のまま短くうなずく。

「……あれが制御出来ていたらとんでもねぇな」


 結人は一歩引いた場所で、烈の背中をじっと見つめていた。

(もし仲間にできたら――戦い方が大きく変わる。いや、面白くなるかもしれない)


 烈は片手を軽く振り、別の道へ去っていく。

 その姿を見送りながら、結人は小さく呟いた。

「……焦らず、次はきちんと話をしよう」


 四人はそれぞれの胸に思いを抱き、静かにギルドへの帰路についた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ