#25 夏休み
週が明け、月曜。
学校に着いた途端にカズに捕まった。
「どうだった?」
不安と好奇心が混ざったような顔。俺はニヤリと笑う。
「……浴衣デート、こぎつけましたーーーー!」
「ちょ、おい、まじかよ!」
カズの声が廊下に響く。
大丈夫。ギリギリ嘘はついてない。
手段はともかく、目的は達成できたのだから。
俺は得意気に胸を張った。
「どんな手を使ったんだ?」
「まあまあ、それは企業秘密で」
俺は笑いながら、視線で相原さんを探す。
本読んでる。可愛い。それだけで絵になるとか、モデルかよ。
「おまえ……もしかしたら、ほんとに相原さんと付き合えるんじゃね?」
あー、それは無いっすね。既に振られてるんで。
俺は大きく伸びをし、「できることなら付き合いて〜」と自虐気味に嘆いた。
♡
気づけば、夏休みになっていた。――いや、作者がサボったわけじゃない。本当に、気づいたら夏休みだったのだ。
アフヌンデート以降の恋模様といえば、特に進展なし。
学校では目も合わないし、もちろん会話もない。
今まで通り、“相原さん”と“七瀬くん”の関係。
でも、カレンダーに「夏祭り」の予定があるだけで、世界がキラキラして見える。
相原さん――いや、“あーりん”と会う予定がある。それだけで幸せすぎる。
せっかくだし、早めに課題を終わらせよう。すっきりした気持ちでデートに臨みたいし。
俺は聳え立つ問題集の山を見上げ、ふうと息を吐く。
数学のワークをペラペラめくり、うーん、気乗りしない。
じゃあ国語を。うーん、読む気にならない。
英語は?全く、ちんぷんかんぷんだ。
目を通しただけでも疲れたし、一旦休憩。インスタでも見るか。
腕を伸ばしてスマホを手に取り、アルゴリズムの波に溺れる。
画面を凝視しすぎて目が疲れ、横になってちょっと仮眠。
気づけば――
――ワンッ!ワンワンッ!
「……豆太……うるさい……」
――ワンワンワンッ!
「……暑いから散歩は夕方ね……」
眠い目を擦って時計を見る。
7:32。
おっけー、7時ね、7時……。
って、えっ!?
「嘘だろ!?もう夜!?」
「匠海ー、ご飯よー。降りてきてー」
母の声が聞こえる。
「はぁい、今行くー」
――こうして、貴重な一日をまるっと睡眠に捧げた。
気づけばダラダラモード突入。
この調子じゃ、夏休みなんて瞬殺で終わる。
自称進学校の代名詞である大量の課題を抱えているというのに、今日の成果は何も無し。
さすがの俺も少し危機感を覚えた。
やっぱ家が悪いのか?
家って快適だけど、誘惑多すぎるんだよな。
いっそ、環境を変えれば集中できるかも。
そう決意しつつ、夕飯の唐揚げを頬張る。
――とりあえず今日は疲れたし、明日から本気出そう!




