#21 夏希様
カズと電話した後、俺は隣のドアをノックした。
「麗しきお姉様〜、少しご相談とお願いがあるのですが〜」
少し開けた扉から顔を覗かせ、俺は夏希ちゃんの様子をうかがう。
ベットに寝転がってスマホをいじっているようだ。機嫌は悪くないと予想。
「洋服を、貸していただけないでしょうか」
俺はもふもふのラグに正座して、できるだけ低姿勢でお願いする。
「服?あたしの?」
「うん」
「女装ってこと?」
「はい」
姉は一瞥もくれず、「勝手にどうぞー」とクローゼットを指差した。
扉を開けると、まるで洋服が繁殖しているかのような光景が広がる。どこに何があるのか、もはや本人にもわからないレベル。さすがO型。
……お、これとかいいじゃん。
俺は淡いピンクのワンピースを取り出した。芸術的なまでにシワがあるから、アイロンは必須だな。
「ねー、女装してどこ行くの?」
夏希ちゃんは尋ねる。
「……アフヌン」
「あ、こないだ私があげたやつ?」
俺は服の山を漁りながら、「うん」と返す。
「へー、いいね。誰と行くの?バイトの女装仲間?」
俺はゴクリと唾を飲む。
……どうする、七瀬匠海。真実を告げるか、適当に誤魔化すか。
クラスの女子と行くと言ったら、姉はどんなリアクションをするだろうか。
騒ぎつつ、なんだかんだ「女子目線」のアドバイスをくれそうな気もする。正直、夏希ちゃんを頼りたい。
俺は、できるだけ平然を装って答えた。
「……まあ、クラスの女子と」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、夏希ちゃんがガバッと起き上がった。
「え!?えええええ!?あ、あんた彼女いたの!?」
「ちょちょちょちょちょ、声が大きいですよお姉様」
「いるのね!?てことはいるのね!?」
「あーもううるさい!いないです!まだ付き合ってないです!」
「“まだ”ってことは、付き合う予定があるのね!?」
ない!多分ない!
俺が心の中で叫んでも、姉のテンションは止まらない。
「も〜う!そんな、告白秒読み♡ってお相手がいるなら早く教えなさいよ〜!優しいお姉ちゃんが恋愛指南してあげるのに〜」
俺は恥ずかしさで耳まで熱くなり、服の山に逃げ込む。
「ね、どんな子なの?アフターヌーンティーに行くくらいだから、the・女の子!なタイプ?可愛い系?美人系?写真ないの?あたしはね、ひらひらの清楚系だと予想!」
「あー、言わなきゃよかった……」
何がひらひらの清楚系だ。相原アスカはツンツンの優等生だよ。
「女の子は写真をいっぱい撮りたい生き物なの!ヌン活ってのは、ケーキを食べることよりも可愛い写真を撮るのが目的みたいなもんだから!」
姉は鼻息荒く力説する。
相原さんが写真ねぇ……。どうなんだろう、チェキは撮ってくれたけど。
「見てみて、タク!こんな感じで似た系統の洋服を着て行くと、統一感が出て写真映えもバッチリなんだよ〜!」
姉は力説しながらスマホで「#ヌン活」を検索。
画面では、似た色味のワンピースでおそろコーデした女子たちが、マカロン片手に笑っていた。
なるほど。統一感ってこういうことか。
「……ん。てかタク、女装で行くの?デートに?」
「まあ、ちょっと事情があって」
「ふーん」
姉はそれ以上何も聞かず、あっさり受け入れた。考えすぎないところ、ありがたい。
夏希ちゃんは目を輝かせて続ける。
「で、彼女はどんな服で来るわけ?」
「だから彼女じゃないって」
言いつつ、俺は相原さんの私服を想像する。
制服とジャージ姿しか知らないけど、多分シンプル系な気がする。
そのとき、1つのアイデアが降ってきた。
「……あ、そうだ」
俺はパッと顔を上げる。
「服、もう1セット借りてもいい?」
「え?タクの分だけじゃなく?」
「うん」
「いいけど。服は腐るほどあるし」
よっしゃ。俺は再びクローゼットに突入した。
お茶会デート当日。もし、相原さんが「もっとおしゃれしてくればよかった〜」なんて笑ったら、このふりふりコレクションを貸そう。荷物にはなるが、もしものために持って行きたい。
俺は手当たり次第にパステルカラーの服を探す。
裾にレースが着いたミニスカート。なんだか女児アニメの衣装みたいで可愛い。
しかし……。
「……相原さん、背高いからな」
俺は相原さんの姿を思い浮かべる。
正確な身長を聞いたわけではないが、おそらく彼女は俺よりも背が高い。
足が長くてスタイルがいいから、余計に背が高く見える。
服の持ち主である夏希ちゃんは、自称151cm。俺の家系は全員チビで、カズに言わせると、人間版シルバニアファミリーだ。
サイズ、合うかな……。
悩んだ末、俺は自分用にワンピースを、相原さん用に白のブラウスとピンクのロングスカートを選んだ。
ふわりとしたフェミニンな相原さんを想像して、胸がきゅっとなる。
ななちゃんこの服貸して〜、なんて言ってくれたら、俺は多分その場で死ぬ。




