表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

#19 作戦会議

 夏祭りは8月15日。ちょうど、あと1ヶ月後。


 どうにかして、相原さんを誘いたい。


「なんでまた急にそんなこと……」

 

「お前がそうさせたんだろ」


「……まぁ、そうか」

 

 カズは頭をかきながら苦笑する。

 

 夏祭りといえば、花火、かき氷、りんご飴、浴衣――。


 浴衣姿……。見たい!いや、見たすぎる!絶対可愛い!


 相原さんはどんな浴衣を切るんだろう。ネイビーにひまわり柄とか?髪もアップにしちゃったり??うわぁ〜、たまらん!超可愛い!


 妄想が暴走してにやけていたら、カズが冷静に水を差した。

 

「よくわからんけど、初デートで夏祭りはおすすめしねえぞ」

 

「え、なんで?ロマンチックじゃん!」

 

 俺が拗ねて反論すると、カズは呆れ顔で「甘いな」と一言。

 

「暑いし混んでるし、浴衣なら余計疲れる。ストレスまみれでテンション下がるぞ。まずは無難に快適な場所を選べ」

 

「……な、なるほど」


 悔しいが、恋愛経験値はカズの方が圧倒的に上だ。

 

 ここは大人しくアドバイスに従うべきだが、理屈では納得しても「相原さんの浴衣姿を見たい」という気持ちは消えない。


「でも、浴衣……」


 諦めきれずぼそっとつぶやくと、カズはスナック菓子をかじりながら言った。

 

「夏祭りがダメってわけじゃない。初デートにはハードル高いってだけ。2回目、3回目のデートなら楽しめると思うぞ。ま、1回目で次の約束を取りつけられるかが勝負だけどな」


 ほう。さすが恋愛マスター。

 

 俺は心のノートに「一回目に距離を縮める 帰り際→次の約束!」と書き込んだ。


「てか、どうやって誘うつもりなんだ?あの相原さんだぞ?」


 カズは眉間にシワをよせる。


「まあまあ。それは企業秘密ってことで」


 俺はニヤッと笑う。


 何も、がむしゃらにアタックしようとしているわけではない。


 こちらには秘策があるのだ。


 相原さんとのデート。この俺が、絶対成功させてやる!


 

 授業中も、頭の中は“相原さんデート作戦”でいっぱいだった。

 

 荒唐無稽な妄想だけど、なぜか上手くいく気がする。根拠?そんなものいらない。恋に理屈は通用しないのだ。

 

 俺は深呼吸し、作戦を整理する。


 まず初めに。


 このデートの目的は、相原さんと付き合うこと……ではない。

 

 いや、もちろん、できることならそうなりたいけど、現実はそう甘くないってこと。

 

 だったら潔く諦めて、「相原さんの浴衣姿を見る」という一点に全力を注ごう。


 欲張って全部失うより、目標を絞った方が勝率は高い。


 これが、素晴らしき学年最下位の頭脳。


 俺が思うに成功の鍵は、「七瀬匠海と相原アスカのデート」にしないことだ。だって、相原さんは俺に興味ゼロだから。あぁ、言ってて泣ける……。


 というわけで、俺は「俺以外の誰か」としてデートに誘うことにした。


 世界が驚く発想の転換。まさに、ノーベル賞もののアイデアである。


 作戦の全貌はこうだ。


 まず、ななちゃんとして1回目のお出かけを成功させる。

 

 そしてその帰り際に、夏祭りの約束を取りつける。

 

 8月15日。俺はまたまたななちゃんに変身し、相原さんの浴衣姿を目に焼き付ける。

 

 ……完璧だ。

 

 よし、この方向性でいこう。


 冷静に考えるとツッコミどころ満載の計画だけど、今はそれでいい。希望ってやつは、無理めなほうが燃えるのだ。

 

 さて、次は初デート場所を決めよう。


 カズいわく「暑くなくて混んでなくて、ストレスが少ない場所」だっけ。


 動物園――暑い。

 

 水族館――近くにない。

 

 遊園地――暑いし混む。

 

 ……詰んだ。


 俺は頭を捻らせ、脳内フォルダに「デートスポット 近場」と検索をかける。結果はもちろん「該当なし」。恋愛経験ゼロの脳みそが情けない。


 くっそ、なんでだよ……。


 そのとき、ふと思い出した。

  

 数週間前、姉にもらったアフターヌーンティーのペアチケットがあったじゃないか。


 ショッピングモールのくじ引きで当てた二等賞。甘いものが苦手な姉から譲り受けて以来、財布の中で眠っていた。

 

 お城みたいな空間でケーキと紅茶。


 甘党で、可愛い服に興味がある(らしい)相原さんは、喜ぶに決まってる。

 

 ホテル最上階のティーラウンジ。窓の外には綺麗な景色。


 その向かいに座るのは――相原さん。


 ……よし、決まり!


 これが成功すれば、相原アスカ(浴衣ver)まで一直線だ。


 俺は鼻息荒く拳を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ