#19 作戦会議
夏祭りは8月15日。ちょうど、あと1ヶ月後。
どうにかして、相原さんを誘いたい。
「なんでまた急にそんなこと……」
「お前がそうさせたんだろ」
「……まぁ、そうか」
カズは頭をかきながら苦笑する。
夏祭りといえば、花火、かき氷、りんご飴、浴衣――。
浴衣姿……。見たい!いや、見たすぎる!絶対可愛い!
相原さんはどんな浴衣を切るんだろう。ネイビーにひまわり柄とか?髪もアップにしちゃったり??うわぁ〜、たまらん!超可愛い!
妄想が暴走してにやけていたら、カズが冷静に水を差した。
「よくわからんけど、初デートで夏祭りはおすすめしねえぞ」
「え、なんで?ロマンチックじゃん!」
俺が拗ねて反論すると、カズは呆れ顔で「甘いな」と一言。
「暑いし混んでるし、浴衣なら余計疲れる。ストレスまみれでテンション下がるぞ。まずは無難に快適な場所を選べ」
「……な、なるほど」
悔しいが、恋愛経験値はカズの方が圧倒的に上だ。
ここは大人しくアドバイスに従うべきだが、理屈では納得しても「相原さんの浴衣姿を見たい」という気持ちは消えない。
「でも、浴衣……」
諦めきれずぼそっとつぶやくと、カズはスナック菓子をかじりながら言った。
「夏祭りがダメってわけじゃない。初デートにはハードル高いってだけ。2回目、3回目のデートなら楽しめると思うぞ。ま、1回目で次の約束を取りつけられるかが勝負だけどな」
ほう。さすが恋愛マスター。
俺は心のノートに「一回目に距離を縮める 帰り際→次の約束!」と書き込んだ。
「てか、どうやって誘うつもりなんだ?あの相原さんだぞ?」
カズは眉間にシワをよせる。
「まあまあ。それは企業秘密ってことで」
俺はニヤッと笑う。
何も、がむしゃらにアタックしようとしているわけではない。
こちらには秘策があるのだ。
相原さんとのデート。この俺が、絶対成功させてやる!
♡
授業中も、頭の中は“相原さんデート作戦”でいっぱいだった。
荒唐無稽な妄想だけど、なぜか上手くいく気がする。根拠?そんなものいらない。恋に理屈は通用しないのだ。
俺は深呼吸し、作戦を整理する。
まず初めに。
このデートの目的は、相原さんと付き合うこと……ではない。
いや、もちろん、できることならそうなりたいけど、現実はそう甘くないってこと。
だったら潔く諦めて、「相原さんの浴衣姿を見る」という一点に全力を注ごう。
欲張って全部失うより、目標を絞った方が勝率は高い。
これが、素晴らしき学年最下位の頭脳。
俺が思うに成功の鍵は、「七瀬匠海と相原アスカのデート」にしないことだ。だって、相原さんは俺に興味ゼロだから。あぁ、言ってて泣ける……。
というわけで、俺は「俺以外の誰か」としてデートに誘うことにした。
世界が驚く発想の転換。まさに、ノーベル賞もののアイデアである。
作戦の全貌はこうだ。
まず、ななちゃんとして1回目のお出かけを成功させる。
そしてその帰り際に、夏祭りの約束を取りつける。
8月15日。俺はまたまたななちゃんに変身し、相原さんの浴衣姿を目に焼き付ける。
……完璧だ。
よし、この方向性でいこう。
冷静に考えるとツッコミどころ満載の計画だけど、今はそれでいい。希望ってやつは、無理めなほうが燃えるのだ。
さて、次は初デート場所を決めよう。
カズいわく「暑くなくて混んでなくて、ストレスが少ない場所」だっけ。
動物園――暑い。
水族館――近くにない。
遊園地――暑いし混む。
……詰んだ。
俺は頭を捻らせ、脳内フォルダに「デートスポット 近場」と検索をかける。結果はもちろん「該当なし」。恋愛経験ゼロの脳みそが情けない。
くっそ、なんでだよ……。
そのとき、ふと思い出した。
数週間前、姉にもらったアフターヌーンティーのペアチケットがあったじゃないか。
ショッピングモールのくじ引きで当てた二等賞。甘いものが苦手な姉から譲り受けて以来、財布の中で眠っていた。
お城みたいな空間でケーキと紅茶。
甘党で、可愛い服に興味がある(らしい)相原さんは、喜ぶに決まってる。
ホテル最上階のティーラウンジ。窓の外には綺麗な景色。
その向かいに座るのは――相原さん。
……よし、決まり!
これが成功すれば、相原アスカ(浴衣ver)まで一直線だ。
俺は鼻息荒く拳を握った。




