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#16 噂話

「……相原さんって、なんなんだろうな」


 放課後。


 俺がポツリとこぼすと、カズは軽く笑った。


「なんだよその質問。相原さんは相原さんだろ。……っつーか、まだ相原さんのこと好きなん?メイドカフェ通いなのに?」


「しっ!声でかい!」


 俺が睨むと、カズは「悪い悪い」と肩を竦めた。


 俺はぼんやり考える。


 メイドカフェ通いなのに、か。


 カズの言葉がこだまする。


 今となってはそのギャップが好きなんだけど、まぁ、こんなこと言えたもんじゃねえ。


 俺は適当に誤魔化した。


「やっぱ、めっちゃ美人じゃん。メイドカフェの常連客とか関係ないくらい見た目がタイプっていうか」

 

「……まー、確かに。相原さんは綺麗だもんな」


「うん」


「一目惚れだっけ?」


 ふいに尋ねられ、俺は照れながら小さく頷いた。


 1年前の入学式。


 ステージで新入生代表の挨拶をする彼女を見て、何かがビビッと来たのだ。


 この子しかいない!と本気で思った。あの時の鼓動は、今でもはっきり覚えてる。


 1年の頃は違うクラスだったものの、廊下ですれ違う度にテンションが上がっていた。


 髪が綺麗だの、良い匂いがしそうだの。1人で騒いでは、仲間たちに冷めた目で見られてたっけ。


 やがて、塩対応とか無表情とかいう噂が流れてきたが、それでも俺の恋心は変わらなかった。それどころか、謎のベールに包まれたことで、相原さんへの気持ちが加速したのだ。……全く、七瀬匠海というのは、恥ずかしくなるくらいに一途な男である。


 やっと同じクラスになったと思ったら、バ先のメイド喫茶で遭遇し、補講課題を押し付け、裁縫中に指を刺され、真っ赤な嘘で庇ってもらって……。


 ほんと、どこからつっこめばいいんだ?


 俺が嘆くと、カズがハッとしたように口を開いた。


「そうだ、相原さんといえば」


「何?」


 カズが鼻息荒く続ける。


「駅前のモールに、レディース服だけのフロアあんじゃん?」


 ……ああ、4階ね。俺もたまに覗く。


 俺は頷いた。


「そこの角に、ほら、原宿系っていうのか?ピンク、ふりふり、リボン!みたいな店が集まってるエリアがあって」


「知ってる。その店がどうした?」


 俺が聞くと、カズは声を潜めて言った。

 

「その店に、相原さんが居たんだって」


「え?」


 自分の耳を疑い、反射的に聞き返す。


「こないだ千春が見かけたらしい」


「ちょ、まじ?」

 

 想定外の展開に驚き、俺は目を丸くした。


 千春ちゃんはサッカー部のマネージャーで、何を隠そうカズの彼女だ。


 小柄で可愛らしい、The・女の子!という見た目。たしかに、千春ちゃんがあの店に通っているのは想像が着く。


「千春もビビったって。ああいう服、相原さんのイメージじゃないだろ?」


「うん……」

 

 俺は衝撃の新事実に戸惑い、頭の中がパニックになる。


 相原さん、もしかして可愛らしいものが好きなのか――そんな考えがふと浮かぶ。

 

「そういえば、私服は見たことないの?」とカズ。


「ない。大体制服かジャージばっかで」

 

 俺が答えると、カズは腕を組んで悩みふけってしまった。


「わからんね、あの子」


「ほんとに」


 俺はぼんやりと目を閉じ、脳内で相原さんを思い浮かべる。

 

 ピンクのワンピースに大きなリボン、裾にはふんわりフリル。ポニーテールをほどいて、毛先にウェーブをかけたら……。


 ――やばい。こりゃかわいい。


 相原さん(プリンセスver.)のためだったら、全財産はたいてもいい気がしてきた。


「おい、タク。何ニヤニヤしてんだよ」


「ごめんごめん」

 

 俺は笑ってごまかし、脳内の着せ替え人形をそっと箱に仕舞った。

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