第八話 平民シノ(2/2)
国内最高峰のニャニャーン士官学校に主席入学。
それからの彼女は順風満帆だった……とは言い難かった。
彼女は入学後も全てにおいて主席を通し続けた。
だがそれに伴い、いじめは苛烈になっていく。
ある程度は耐えた。
自分が平民であるから仕方ないと覚悟して入学したのだ。
しかし、ある日、同級生に呼び出され、顔の形が変わるほど殴られた。
顔だけではない。
全身に暴力を振るわれ、立つことすらできなくなった。
彼らの目には殺意すら見て取れた。
死ぬんだ……こんなに簡単に殺されるんだと悟った。
その時、消えゆく意識の片隅で、赤髪の男を見た。
シノは彼に助けられ、九死に一生を得た。
医務室に運ばれたが、そのあたりの記憶はなかった。
次に登校した時から、いじめは不思議と収まった。
彼らもここまで痛めつけたことで、多少気分がすっきりしたのだろうと思った。
だが、シノはその日以降、決して目立とうとはせず、大人しく、控えめに生きる癖がついた。
**平民は目立ってはいけない。**
その教訓が彼女の心に強く刻まれた。
しかし、夢に妥協する気はなく、その後も主席であることだけは貫き通した。
ある時、戦術シミュレートの実習で、いつも通り彼女は他の学生の倍近い点数を叩き出し、チーム戦を勝利に導いた。
シミュレータボックスから降りた時、どこかで見たような赤髪の男が立っていた。
「すごいな、お前。戦闘を見させてもらった。
統率、判断、戦術。何を見てもずば抜けてやがる!」
「あ……あの、大変失礼を申し上げますが、あなた様は……」
言いかけたところで、男は笑いながら遮った。
「すまんすまん!
自己紹介がまだだったな。俺の名はトウガ・クリムゾンだ。
よろしく頼む。お前の名は?」
「あ……はい。シノ・アンバーと申します。
え?……ク……クリムゾン!?」
「そう構えるな。
お前、平民だってな。お前をいじめていた奴がそう言っていた。
だが、そんなのは関係ない。
そんなことくらいで人を見下すような奴は許せねぇ。
少しお灸を据えてやったんだが、その後は大丈夫だったか?」
「あ……え……?あなた様が!?」
「あー……いいんだ、いいんだ。
別に恩を着せるつもりはないからな。
それよりもだ!お前、進路は決めているのか?」
シノはこれまで生きてきた中で一番緊張していた。
トウガのペースに合わせるので精一杯で、いつの間にか緊張すらも忘れかけていた。
「し……進路でございますか?いえ、まだ。
私は平民です。
このまま主席で卒業し、佐官として艦長になることを夢見ています。」
「そうか!なら良かった。
まだ誰も手を付けていないんだな?」
常に冷静なシノが、初めて混乱の中で何も理解できなかった。
「お前、俺の艦隊の参謀長になれ!
俺が口を利いてやる。
准将だ、佐官どころか将官だよ。
艦長なんかになる必要はない。」
「はぁ?なんだって?」
思わずため口が出てしまった。
トウガが屈託なく笑う。
「まあ、まだ俺も提督でもなんでもないんだがな。
だが俺の家柄からして第9艦隊の提督になるのは固いだろう。
お前はその参謀長だ。
下部主力艦隊だ。
下部とはいえ、主力艦隊だ。
馬鹿にするなよ。
俺たちはすぐに主力艦隊に昇りつめる!
お前は俺に協力しろ。
もちろん、お前を今後も引き立ててやる。」
「は……はい……。喜んで。」
これが、シノの運命の出会いだった。
彼女は卒業後、約束された通り、トウガの強い口利きで第9艦隊の参謀長として准将に任じられた。
平民の進路としては前代未聞だった。
もちろん、この待遇は艦隊内で様々な嫌がらせを呼んだ。
だが、トウガはまるで兄のようにシノを守り、いつしかシノはそこに居場所を得た。
そして、トウガは有言実行だった。
破竹の勢いで敵を打ち破り、武勲を積み続けた。
主力艦隊の提督と比べても遜色がないどころか、それをはるかに凌駕する強さだった。
この功績には、参謀長としてのシノの活躍も不可欠だった。
トウガはさらに約束を守った。
自身とシノの武勲を積み続け、ついにはシノを引き立てて、彼女を平民史上最年少で下部主力艦隊の提督に任じさせた。
第12艦隊提督、シノ中将の誕生だ。
それからシノは自力で武勲を積み続け、遂には大将に昇格し、第5艦隊という主力艦隊の提督の地位を手に入れた。
それと同時に、念願の辺境伯という大貴族の地位にも昇りつめた。
そんなシノが、さらなる夢の実現に向けて立ち止まるわけがなかった
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
平民美少女、シノさんのお話の続き!
皆さん、お気づきになりましたか?
そうなんです!シノさんはまるで乙女ゲームの主人公みたいなんですよ!
困っていると、都合よくイケメンの熱血兄貴が助けに来てくれて、運命的に出会っちゃったり。
チート持ちで乙女ゲームの主人公。
この先、期待しちゃいますよね!
次に来るのはひねくれツンデレラートリー兄さんかっ!
でも、彼女、向上心が強すぎて、悪役令嬢が半分入ってるんです…。
だから、ヒロインになりきれない、ちょっと残念な子なんです。
彼女が夢を追いかける姿は、もしかしたら少し怖いかも?
さあ、そんなシノさんの「順風満帆」とは言えない物語の始まりです!
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あとがき
シノというキャラクターの“動機の核”を明確にして、
彼女の野心がどこから来たのか、なぜ彼女が冷静で利己的に見えるのか
を描き切りました。
少しの足踏みでしたが、この背景をもとに政変が進みます。
シノはさらなる高みを目指すのか、次回もお見届け下さい。
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