第六話 シズクの過去
シズクは冷静にウララを見ていた。
ウララは、シズクが世界で唯一敬愛していた女帝ココの忘れ形見だった。
シズクはアジュール家の娘として生まれながら、常に孤独だった。
アジュール家は名門の公爵家であり、彼女の母は皇帝の娘。
その格の高さから正妻として迎えられ、その長女であるシズクはアジュール家の跡を継ぐべき娘とされた。
しかし、シズクの父シュウマ公爵は好色で、シズクの母以外にも多数の愛人を囲っていた。
当然、腹違いの子供たちも多数いた。
シズクは次期当主であっても、父から全く愛されてはいなかった。
母すらも父から愛されることはなかった。
父の顔を忘れかけたことは、一度や二度ではない。
いつも孤独な母と寄り添い、幼少時代を過ごした。
母は、他にすることがなかったのかもしれない。
一流の師を国中から集め、シズクに徹底的に学問、武術を教え込んだ。
一般的な学問から始まり、帝王学、軍学、医術、心理学、格闘術、射撃、剣術──ありとあらゆる学びをシズクに詰め込んだ。
まるで何かに憑かれたように。
そして、シズクもそれに応えた。全てを吸収し、師を満足させた。
彼女が13歳の時、初めて政治に触れた。
彼女は命を狙われた。腹違いの兄に。
シズクは、その兄を排除した。無感情に。
彼女の周囲には、自然と優秀な者が集まっていった。彼女の師たちが彼女を認め、一流の弟子たちを配下として紹介してくれたからだ。多分野において、彼女の周りは人材に溢れた。
その時も、ただ一言「兄を排除しろ」と伝えればよかった。
翌日から兄はいなくなった。興味がなかったので、その後のことは追っていない。
死んだのか、追放されたのかは知らない。
どうでもよかった。それから同じようなことが何度もおきた。
誰を排除したか、どんな奴がいたか、いちいち覚えておくことをやめた。
そんな時に、シズクは皇女ココと出会った。
拒絶するシズクに、無理なく寄り添い、話を聞いた。共感もした。認めもした。
もちろん、シズクは自分の暗部を語ったことはない。
だが、ココがどこまで把握して話を聞いてくれていたのかはわからない。
しかし、ココとの会話は楽しかった。母以外で初めてだった。
そして、彼女の話を聞くことも面白かった。
シズクはココの話に共感することを覚え、その語りで本心から笑ったこともある。
ココは一緒になって笑ってくれた。
いつしかシズクは、ココを特別に思うようになった。
また、ココはノアールをシズクに紹介してくれた。
ノアールも面白い人だった。
彼の話は壮大で、勇敢で、そして夢のようだった。
ノアールの影響で、提督という職に興味を持った彼女は士官学校に進路を決めた。(士官学校と言っても、シズクの場合は形式的なもので、将官はすでに約束されたようなものだった)
そして数年が経ち、彼女は第7艦隊の提督になった。
ニャニャーン神聖帝国では珍しいことではない。
家柄だけで、10代にして宇宙軍大将になることはよくあることだ。
だが、彼女はお飾りの提督ではなかった。
その後、彼女は連戦連勝し、格上の敵も物ともせず打ち破った。
ノアールと共に主力戦場で第一の武勲をあげたこともある。
ノアールは頼もしき後継者として彼女に協力し、時に指導した。
国内外で彼女の名はゆるぎないものとなった。
そんな時、時の皇帝レオが暗殺された。
そして、ココが女帝として即位するが、難しい舵取りを迫られていた。
シズクはノアールに付き従い、ココを支えた。
そしてココは見事立ち上がり、軍政の改革の際、シズクの父シュウマを強制的に引退させ、シズクを当主にした後、序列第一位、第1艦隊の提督に任じた。
シズクは謹んで受けると共に、ココを支えることを誓い、絶対の忠誠を捧げた。
そんな彼女は、幼いウララを複雑な眼差しで見ている。
果たして彼女にココの代わりが務まるのか。
ココの作ったこの国を決して汚すわけにはいかない。
シズクは誰にも語らぬ使命感を持っていた。
そんな彼女が今、気になっている者がいる。
シノだ。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
今回はちょっと寄り道して、青髪ポニテガール、シズクさんのお話!
よくあるじゃないですか、「お父様に愛されてなくてひねくれた貴族の悪役令嬢シリーズ」。
彼女もまさにそんな感じでした。
でも、誰も転生してくれなかったんですよ…。
だから、自力で万能チートを発動させました!
凄い天才ってことです。
…でもね、普通の優しい人が転生してくれなかったせいで、立派なサイコパスに育っちゃいました!
でも、でも!
女帝ココとの出会いで、一度は更生しかけたんですよ?
もし、そのまま更生できてたら、チートヒロインの誕生だったんです。
……残念ながら、結局サイコパスに戻ってしまいましたけどね。
はい、ここで覚えること!
シズクは万能チート持ちサイコパスです。
この背景を知ってると、これからのシズクさんの行動が、もっと面白く見えてきますよ!
それでは、本編へどうぞ!
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あとがき
シズクの過去を語りました。
今後シズクは冷酷に心を持たない女性として立ち振る舞うことも多いでしょう。
ですが、彼女は心を持たないのではなく過去に閉ざしてしまったのです。
開きかけたその心もココを失ったときに、また閉じてしまったのでしょう。
そんな彼女が危険視する・・・シノ。
次回も見届け下さい。
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前話を忘れた方向けの振り返り一コマ
(私の物語はタイトル詐欺と言われます。なので振り返り詐欺も追加で)




