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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第五章 風の選別、律の胎動

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第六十七話 赤青の講和

シズクの執務室。

イレーネからの秘匿通信が繋がった。


「シズク様ぁ、赤青の講和に向けて種を蒔きましたぁ」


シズクは頷いた。


「そうか。よくやった。だが、こちらからは悪い知らせだ」


イレーネの表情が引き締まった。


「何でしょう?」


シズクは手元の資料を見つめながら答えた。


「ラートリーの元帥府設立に関して、確証が持てた。

 思ったよりも慎重に、そして堅実に法改正が進んでいた。

 よく読み込まねば気づけないようにな。

 全て他の内乱時特例法に隠して、ウララ陛下の名で発布されている」


イレーネは肩を落とした。


「……そうですかぁ……。申し訳ありません、もっと早く気づいていればぁ」


シズクは静かに首を横に振った。


「いい、私は自分でやっても無理だと思うことで、他人は責めぬ。

 それとだ。セリオンが無事生還した。既にラートリーと合流している。

 もはや陛下の所在を探ることは不可能だ」


イレーネは深く息を吐いた。


やはり、ラートリーとセリオンの諜報力は健在だった。

イレーネが心配そうに問いかける。


「講和と元帥府設立とどちらが早いでしょうかぁ?」


表情を変えずにシズクが返す。


「このまますんなり決まれば講和の方が早い。

 だがな、イレーネ。

 一度制御を失って走りだした車は、

 ブレーキを踏んでもすぐには止まらんのだ」


イレーネは首を傾げた。


「そういうものですかぁ?

 既にこの内乱で暴走している輩はぁ、命令ではなくぅ、

 自らの欲に駆られて動いているということですかぁ?」


シズクは窓の外を見つめた。


「そうだ。我々が和解したところで、この内乱は即日終わったりはしない。

 陛下が、あるいは元帥が、停戦を強制でもしないかぎりな」


イレーネは静かに呟いた。


「ラートリーが元帥になればぁ、

 この内乱を鎮めたのは元帥たるラートリーの功績なんですねぇ?」


シズクは苦々しく答えた。


「あぁ。だがな、それでも講和と同盟は必須だ。

 我らの従属勢力は一時の存在である元帥にそう簡単にはなびかん。

 勢力として維持させねばならん。

 とはいえ、既に我らの勢力は疲弊しきっている。

 もちろん時間が経てば、ラートリーに寝返る者もでてくるだろう。

 いつまでも争っているわけにはいかんのだ」


イレーネは少し考えてから、静かに提案した。


「そうですねぇ。

 一つだけ、この講和と同盟を確実に、

 迅速に成立させる方法がありますぅ」


シズクの目が鋭くなった。


「なんだ?」


イレーネは慎重に言葉を選んだ。


「ミオリ様をクリムゾンに預けましょう」


シズクは即座に立ち上がった。


「馬鹿か!ならん!なぜミオリを人質に!

 それでは私が風下に立ったと思われるではないか!」


イレーネは慌てて答えた。


「人質じゃありませんよぉ!

 教育をお願いするのですぅ」


シズクは怒りを隠さなかった。


「どういう意味だ?」


イレーネは落ち着いて説明を始めた。


「親善大使としてミオリ様を派遣するのですよぉ。

 本当の目的は兄弟のいないミオリ様の教育を任せるんですぅ。

 まだ幼いミオリ様には勉学、帝王学だけではなく

 人との関係を学ぶ方が良いのですぅ」


「人との関係だと?」


イレーネは頷いた。


「言ってもぉ、クリムゾンは超一流の大貴族ですぅ。

 学者も多く、教育者も充実していますぅ。

 そしてあそこには兄弟が多く、温かい家庭がありますぅ。

 シズク様では教えられない、人の心を学んでいただくことで

 シズク様を超える後継者になりますぅ」


シズクは拳を握りしめた。


「人の心か……。ラートリーに敗れ、レイナを失った私にとって

 痛い所をつくな」


イレーネは真剣な表情で続けた。


「クリムゾンはミオリ様を丁重に扱ってくださるでしょう。

 そして人質はミオリ様ではありません。

 ミオリ様は親善大使であり、私が人質です。

 私は人質ですが、カイさんに頼んで、

 私がミオリ様のお近くで後見できるようにしてもらいますぅ。

 必ずお守りしますぅ!」


イレーネは心の中で呟いた。


(これは方便でミオリ様が人質ですけどねぇ)


「私という人質を出す代わりに、クリムゾンからは

 リオ・クリムゾンを人質に出させます。

 もちろん名目上はこちらも親善大使で、

 アルシアさんと合同作戦をしてもらいます。

 間近でアルシアさんの軍略を学んでもらうというわけです。

 リオにとっても有益なことです。

 これなら人質交換なのでシズク様は風下でもありません」


彼女は再び尋ねた。


「いかがですか?」


シズクはしばらく考え込んだ。

珍しく、考えがまとまらない。

ミオリは、もはやシズクにとってかけがえのない存在になっている。


だが、イレーネの言葉にも一理ある。


自分には、人の心を教えることができない。

戦術は教えられる。

策略も教えられる。

だが、人の心は……。

シズクは遂に決心がついた。


「いや、いい。この際お前に任せる。その案でいけ。

 ミオリを頼む。お前が付いていれば安心だ」


イレーネは深く一礼した。


「はい、カイさんに連絡しておきますぅ」


通信が切れた。

イレーネは一人で微笑む。


(特別な外交カードを手に入れましたぁ!)


彼女は急いでカイに連絡を取り始めた。

赤青の講和は、ミオリという小さな少女を中心に、動き始めた。


・ ・ ・


一方、トウガの執務室。

扉が開き、カイが入室した。


「父上」


トウガは書類から目を上げ、息子を迎えた。


「カイか、今回はよくやった。

 クリムゾンの名を辱めない活躍と聞いている」


カイは姿勢を正した。


「ありがとうございます」


トウガは少し表情を曇らせた。


「ロドリクの最期は?」


カイは静かに答えた。


「まさに帝国の忠臣としてご立派な最期でした。

 あの方を討ち取ることができたのは私としても光栄の至りです」


トウガは深く息を吐いた。


「そうか、ロドリクには申し訳ないことをしたが、

 討ち取ったのがお前だったことが、あいつにとっても唯一の救いだっただろう。

 ヴァルストン家は何が何でも守らないといけない。

 ところで今日の用向きはなんだ?」


カイは深く息を吸った。


「はい、単刀直入に申し上げます。

 アジュールと講和します」


トウガの表情が一変した。


「は?何を言っている。シズクはエリスの仇だぞ!」


カイは怯まなかった。


「講和だけではありません。アジュールと同盟も結びます」


トウガは立ち上がった。


「おい、勝手なことをするな!俺は認めんぞ!」


カイは手元の端末を操作し、データを提示した。


「父上、義姉上の死は直接的にはシズク女公の手によるものです。

 ですが、この証拠ご覧ください」


トウガはデータに目を通した。

その目が見開かれた。


「……お前、これをどこで?

 ラートリーがエリスとレイナを謀殺したということか?」


「イレーネ、元第4艦隊提督からです」


トウガは憤った。


「敵からの情報ではないか!?

 お前はシズクの恐ろしさを知らんのだ!

 これもお前を陥れる策かもしれんぞ。

 こんなデータの塊よりも目の前でシズクの放った

 タキオンランスの方が、まぎれもない事実だ!」


カイは真っ直ぐトウガを見つめた。


「……父上、いい加減にしてください。

 薄々父上もラートリーの暗躍は気付いておられるのでしょう。

 ただ、義姉上のことがあるから、それを心に閉じ込めておられる。

 シズク女公を恨もうとしておられる。

 それが将として――しかも英傑と謳われたクリムゾンの為すべきことですか!?」


トウガは怒りを露わにした。


「若造が知った口を叩くな!」


カイは一歩も引かなかった。


「クリムゾンは、陛下を――、

 そして帝国を守る忠義の槌ではなかったのですか!」


「うるさいっ!」


ガン!

雷鳴のような怒号と共に、机すら叩き割りそうな勢いで拳を叩きつけた。


だが、カイの目は揺らぎなくトウガを見つめた。

そして冷静に次の話を投げかける。


「父上、ウララ陛下の身に危険が迫っております」


トウガの表情が変わった。


「ウララ陛下の!?何か分かったのか!?」


「ラートリーは元帥府を立ち上げようとしています。

 陛下は何も知らずにその力を全て奪われようとしているのです」


「なんだと!?それもシズクの情報か!?」


カイは首を横に振った。


「いえ、私が探り出しました。まだイレーネにしか伝えておりません。

 そのイレーネが私の仮説を元に調べてくれましたが、このような

 法案が成立しているようです」


カイは別のデータを提示した。

トウガが法案を1個1個確認していく。

その顔が徐々に青ざめていった。


「くぅ!!ラートリーめっ!!」


「今、この事実はイレーネ経由でシズクにも共有させました」


トウガは驚いた表情を浮かべた。


「シズクですらわからなかった策か!

 ラートリーめ、やりおるわ!」


カイは頷いた。


「私も運よく気づけた過ぎません。

 これは防ぎようがなかった……。

 シズクはこの事態に際し、講和を合意しました」


「シズクが?」


「はい、最大限の妥協をもって……です」


トウガは眉をひそめた。


「妥協とは?」


カイは静かに答えた。


「講和の際にミオリを人質に出しても良いと。

 リオとの人質交換です」


トウガは目を見開いた。


「リオとの……いや、待て。

 あのシズクがミオリを差し出したのか?」


「はい、ただし条件付きです。

 ミオリもリオも建前上は親善大使とすること。

 我がクリムゾンにおいて、彼女を教育してほしいそうです。

 特に家族の絆について」


トウガは呆然とした。


「シズクが……そんなことを言ったのか?」


カイは頷いた。


「はい、レイナを失ったのは家族の絆を知らないことが原因と分析しているようです。

 そしてそれはアジュールでは学べない」


トウガは少し考え込んだ。


「……リオを差し出すのか?」


「いえ、こちらもアルシア大将の第4艦隊と共同戦線を張り、

 軍略の手ほどきをしてくれるようです。

 アルシアの軍略をリオが近くで学べるのは

 あいつにとっても得る者が大きいでしょう。

 この人質交換を条件に講和だけではなく、

 赤青同盟を成立させて元帥府に対抗するのです」


トウガは首を横に振った。


「赤青同盟……いや、ならん。それではエリスが浮かばれん」


ガンッ!

カイはトウガよりも大きな音で机をたたいた。


トウガが驚いた表情を浮かべる。


「父上、何を腑抜けたことを仰るのです!

 私は義姉上を敬愛しておりました。

 義姉上への想いは父上にも負けない自信があります。

 そんな私でも前を向こうとしているのです!

 あのシズクでさえ、ウララ陛下をお守りするために

 目に入れても痛くないくらい可愛がっているミオリを差し出そうとしている。

 父上だけが過去に囚われて閉じこもっておられる!」


トウガが目を血走らせてカイを睨みつけた。

息子の目には、迷いがなかった。


トウガはしばらく沈黙し、ゆっくりと目を瞑った。

深く、深く息を吸った。

次に目を開けた時には、穏やかな表情に戻っていた。


「カイ、お前は成長したな、立派なクリムゾンの男になった。

 お前の言う通りだ。

 応じよう。この同盟に。

 ミオリを迎えるならば最大限の敬意を持って接せよ。

 レオンが年が近い。あいつをミオリの護衛に充てるのだ」


レオンはトウガの四男でまだ成人していないが、その才能は既に開花しつつあった。

レオンと共にミオリを教育するということは、最大限の執り成しともいえる。

カイは深く一礼した。


「父上……」


トウガは微笑んだ。


「俺は良い後継者を持った。この交渉はお前に一任する。

 うまくやれ。俺はウララ陛下の捜索、従属勢力の取りまとめ、

 そしてラートリーの元帥就任を少しでも遅らせるように動く」


「は!」


カイは力強く頷いた。

こうして、赤青の内乱は講和と同盟へと急遽舵きりした。

そんな中、2か月が経とうとしていた。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。

第六十七話「赤青の講和」、タイトル通り、「赤と青の講和と同盟」が成立しました!

今回は、「シズクの覚悟」と「カイの成長」が描かれた、感動的な話でしたね!


今回の67話、「赤青の講和」というタイトル通り、長年の内乱がついに終わりを迎えようとしています。

シズクさんが、ミオリちゃんを手放す覚悟を決めたのが、本当に泣けました…。

「人の心を教えることができない」と認めて、クリムゾンに預けるって、シズクさんにとってめちゃくちゃ辛い決断だったと思います。

そして、カイさんの「父上説得」も、めちゃくちゃ熱かったです!

カイさんが、トウガさんよりも大きな音で机をたたくシーン、かっこよすぎました!

「そんな私でも前を向こうとしているのです!」

この言葉、本当に重みがありますね。

カイさん、本当に成長しました。

次回、元帥府設立がどうなるのか、楽しみです!

そして、ミオリちゃんとリオくんの「人質交換」も、どうなるのか気になりますね!

次回も、絶対見逃せませんよ~!

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