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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第五章 風の選別、律の胎動

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第六十六話 負け方

提督を解任されたイレーネは、ラートリー陣営による暗殺を警戒して、

軍用船ではなく、小型商船で宇宙を移動していた。


もちろん普通の商船ではない。

シズクの特殊部隊が操る、並の軍用船よりも火力のある船だ。

外見は老朽化した貨物船だが、内部には最新鋭の兵装が隠されている。


イレーネは艦橋で操舵手に指示を出した。


「なるべく急いでくださぁい。

 それとぉ、周囲への警戒は怠らないでくださいねぇ。

 私はぁ、ラートリーには恨まれてますからぁ」


特殊部隊の隊長が頷いた。


「了解しました。レーダーは最大範囲で警戒中です」


イレーネは窓の外を見つめながら、心の中で溜息をついた。


(う~ん、気が重いですねぇ。

 あれほど、カイさんを持ち上げておいて、

 今度伝えるのは負け方ですからねぇ)


商船団は最大限に警戒しつつも、

通常の商船にはあるまじき速度で第5艦隊を目指した。

星々が後方へと流れていく。


・ ・ ・


第5艦隊旗艦、トゥルローニャッド。

艦橋では、通常業務が淡々と進められていた。

その時、レーダー担当のオペレータが声を上げた。


「カイ提督、怪しい商船が本艦隊に向かってきております。

 停船命令にも従いません、排除しますか?」


カイは星図から目を上げた。


「……もう一度警告しろ、それで反応がなければ撃ち落とせ」


「は!」


通信オペレータが厳しい口調で呼びかけた。


「そこの商船団、停船せよ。停船しない場合は砲撃する」


しばらく沈黙が続いた。

艦橋に緊張が走る。

砲撃管制が起動し、照準が商船に合わせられた。


その時、ようやく商船団が答えた。


「紅水、ちゃぷちゃぷ〜」


「はぁ?」


意味不明な第一声で、艦橋内の通信オペレータが困惑した。

カイの眉間にしわが寄る。

副官も首を傾げた。


「……何だ、今の?」


その困惑を無視して商船が続ける。


「当船団は海賊に襲われて、これ以上の航行が難しい。

 保護を求む」


通信オペレータは苛立ちを隠さなかった。


「嘘をつけ。損傷が確認できない。

 これ以上近づくと砲撃する」


だが、カイは鼻で笑いながらオペレータを止めた。


「待て、助けてやれ。本艦に収容せよ」


オペレータは驚いた表情を浮かべた。


「よろしいのですか?

 船体コードも未登録で、怪しさしかありませんが」


カイは微笑んだ。


「構わん。味方だ。

 人道的立場で救助する旨を返信してやれ」


副官が尋ねた。


「提督、お知り合いですか?」


「あぁ、まぁな」


カイは心の中で呟いた。


(紅水、ちゃぷちゃぷ……か。

 もっとマシな合言葉があったんじゃないか?)


「は!」


弩級戦艦の格納庫に、小型商船が収容された。

陸戦隊が銃を構えて商船を囲む。


その中央に、わざわざ提督のカイが立っていた。

副官が心配そうに言った。


「提督、危険ですので下がってください」


「大丈夫だ」


ハッチが開いた。

中から降りてきたのは、まるで豪商の令嬢のような

高価な白いドレスに身を包んだ女性だった。

長い髪を揺らし、いつもの伸ばした語尾で話す。


「カイさぁん、お久しぶりですぅ~」


陸戦隊が一斉に銃を構えた。

だが、カイは手を上げて制した。


「下がれ。彼女は味方だ」


「し、しかし提督……!」


「命令だ」


陸戦隊は渋々ながら銃を下ろした。

イレーネはにっこり微笑んで、カイに近づいた。


「ありがとうございますぅ。

 海賊に襲われてぇ、大変だったんですよぉ」


カイは呆れたように答えた。


「海賊なんかいなかっただろう」


「あらぁ、バレちゃいましたかぁ」


カイは執務室へと手を向けた。


「話がある。こっちへ来い」


「はぁい」


二人は格納庫を後にした。


「あれって……イレーネ大将じゃないか?

 」


陸戦隊と副官は、呆然とその後ろ姿を見送った。


・ ・ ・


執務室の扉が閉まると、カイはイレーネに椅子を勧めた。

だが、その前にイレーネの姿を改めて見て、カイは少し笑った。


「あぁ、なんだ。馬子にも衣裳とはよく言ったものだなぁ」


「はい?なんですかぁ?」


「そのドレスはよく似合っている」


イレーネは少し頬を赤らめた。


「あぁ、ありがとうございます。

 でもぉ、私はぁ軍服の方が似合ってるんですよぉ!

 軍服を着ていないと平民みたいだと言われますぅ」


カイは笑った。


「ははは……確かにそうだな。どうみても一般人だ。

 最強の提督の一人とは見えない」


イレーネは少し寂しそうに答えた。


「もう提督じゃないですよぉ」


カイは真面目な表情に戻った。


「そうだったな、提督解任は残念だった。

 だがあれほどの失態を犯して命があっただけましとは言えないか?」


「はい、そうですぅ。

 正直、私のせいでシズク様まで連帯して罪を問われると思っていましたぁ」


カイは頷いた。


「確かにそうだ。

 ラートリー陣営が帝権を悪用してシズク陣営の弱体化を図ってもおかしくない」


イレーネは少し首を傾げた。


「そうですよねぇ?カイさんはこれをどう考えますかぁ?」


カイは窓の外を見つめながら考えた。


「ん?そうだな。

 奴は元々従属勢力も少なく、軍事的直轄戦力も第3艦隊のみだった。

 今回それに第6艦隊を追加したが、俺とお前のせいでそれらをほとんど失った。

 奴の軍事的立場は非常に弱い」


「はぁい、そうですねぇ」


イレーネは心の中で呟いた。

(一般的な状況判断は、そうなりますよねぇ)


カイは続けた。


「もし、ここでシズクを弱体化してしまえば、

 クリムゾンが一強の状態になる。

 我々が陛下幽閉をラートリーが主犯だとでっち上げて

 帝都に攻め上がればラートリーは対処できない。

 戦力の補充が完了するまでの間は、

 シズクには我らクリムゾンの抑え役として

 勢力を維持してもらいたかったのだろう」


イレーネは満面の笑みで答えた。


「なるほどぉ、確かにぃ!さすがカイさん!」


カイは褒められて、まんざらでもない表情で返した。


「いや、そうでもないぞ。

 お前だってそれくらいは考えただろう?」


イレーネが再び心の中で呟く。

(おそらくほとんどの将はそう考えるのでしょうねぇ。

 でも、それは甘いですよぉ、カイさん。

 うーん、どう切り出しましょうねぇ)


彼女は少し考えてから答えた。


「はぁい、私もカイさんと同意見で安心しましたぁ!

 カイさんってまるで――

 67年前に活躍したエルウィン元帥のような智将ですね!」


イレーネは心の中で続けた。

(カイさん、自分で気づいてくださぁい)


カイは少し照れた表情を浮かべた。


「おいおい、あまり持ち上げるな。

 さすがにエルウィン元帥と比較するのは……」


カイの表情が固まった。


「今、エルウィン元帥と言ったな?」


「はぁい」


カイは立ち上がった。


「待て、それか!」


イレーネは心の中で微笑んだ。

(おや、思ったより気付くのが早いですね。さすがカイさん)


カイは窓の外を見つめながら、震える声で言った。


「まずいぞ、イレーネ。ラートリーの思惑が見えたかもしれない」


イレーネはわざと無邪気に尋ねた。


「何ですかぁ?」


「奴は……元帥府の設立をねらっているのではないか!?」


「というとぉ?」


カイは拳を握りしめた。


「今は67年前の大乱と似たような状況だ!

 奴はこの大乱を収めるという建前で、

 臨時最高位の元帥に就任し、

 クリムゾン、アジュール両家よりも上に立つ気じゃないのか!?」


イレーネは静かに答えた。


「……それ、まずいですねぇ」


「あぁ、元帥府の力は帝権にも匹敵しかねない。

 今建造中の艦船も第3艦隊と第6艦隊のためではなく

 元帥艦隊の設立のためだとしたら……」


イレーネは頷いた。


「はぁい、権威と軍事力の両方を一気に取得しますぅ。

 私の諜報では2か月後にはその軍事力が完成しますよぉ」


カイは絶望したように呟いた。


「2か月……今からでは阻止できんぞ!」


イレーネも沈んだ表情で答えた。


「……元帥になられたら、どう足掻いても勝てないですぅ……」


だが、カイは深く息を吸い、イレーネの肩を掴んだ。


「待て、落ち着け、イレーネ。

 勝てなくても負けなければいい。

 現状況の中で最善を考えろ!」


イレーネは心の中で感嘆した。

(さすがカイさん。

 クリムゾンでこの考えが持てるのはカイさんだけですねぇ)


彼女は少し考える素振りを見せてから答えた。


「負け方を考えるとぉ?」


「そうだ」


イレーネは真剣な表情で答えた。


「そうなるとぉ、クリムゾンとアジュールの――

 講和と同盟を急ぐしかないですよぉ!」


カイも力強く頷いた。


「その通りだ。

 ラートリーが元帥になる前に、赤と青が手を組む。

 それが、唯一の道だ」


二人は互いに見つめ合った。

長年の内乱で対立してきた、赤と青。

それが今、手を組もうとしている。

カイは決意を込めて言った。


「すぐに父上に連絡する。

 イレーネ、お前もシズクに伝えろ。

 俺が必ず父上を説得する。

 父上もこの考えを聞けばアジュールとの

 和解を考えて下さるだろう。

 そのまま盟約を俺が主導する!

 信じてくれ!」


イレーネは深く一礼した。


「ありがとうございますぅ、カイさん。

 私も必ずシズク様を説得しますぅ」


カイは窓の外を見つめた。


「ラートリー……お前の策は見抜いた。

 だが、俺たちはまだ負けていない」


元帥府という新たな律の胎動が起きる中、

赤青の盟約が、ついに結ばれようとしていた。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。

第六十六話「負け方」、タイトル通り、「負けても負けない方法」を模索する話でした!

今回は、「イレーネのカイ誘導作戦」と「元帥府設立の恐怖」がポイントでしたね!


「(紅水、ちゃぷちゃぷ……か。

もっとマシな合言葉があったんじゃないか?)」

作者子ちゃんも、笑っちゃいました!


それはさておき

今回の66話、「負け方」というタイトルが、本当に深いですね…。

カイさんの「勝てなくても負けなければいい。現状況の中で最善を考えろ!」という言葉、めちゃくちゃかっこいいです!

そして、イレーネさんの「カイ誘導作戦」も、完璧でしたね!

イレーネさんは、カイさんに「エルウィン元帥」というヒントを出して、自分で気づかせたんです。

これ、めちゃくちゃ高度な誘導ですよね!

そして、「元帥府設立」という、ラートリーさんの恐ろしい策が明らかになりました。

権威と軍事力を一気に取得するって、もう「チート」じゃないですか!

でも、カイさんとイレーネさんは、諦めずに「赤青の盟約」で対抗しようとしています。


ちなみに元帥府とは何か、元帥は日本の歴史の征夷大将軍のようなものです。

徳川家康や足利尊氏、源頼朝と言った武士の最高役職ですね。

神聖皇帝としてのウララから任命されますが、元帥(将軍)は元帥府(幕府)によって政治と制度制定を行い、全ての軍人(武士)を支配下に置くことが出来ます。

建前上は「神聖皇帝>元帥」の権威関係ですが、権力は元帥一強ということになりますね!

江戸時代の改易みたいに反抗した勢力は元帥府の命令によって神聖帝国全軍から攻められるのです!

わかりました??

つまり、阻止するしかないんですが、もはや手遅れ。

だとしたら簡単に改易されない同盟を作るしかないんです!


次回、トウガさんを説得する場面、楽しみです!

そして、シズクさんも、どう動くのか、気になりますね!

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