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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第五章 風の選別、律の胎動

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第六十三話 犠牲の先

第6艦隊旗艦、ニャンフュール。


ロドリク・ヴァルストン侯爵は、一人執務室にいた。

窓の外には、かつて忠実に従っていた艦隊が見える。


だが今、その艦隊の半数は、彼から離反していた。

ロドリクは、通信機に手を伸ばした。

最初に繋いだのは、ラートリーだった。


「ラートリー候……お願いがあります。

 私は陛下を軟禁などしておりません。

 これは明らかにシズク女公の讒言です。

 どうか、真実を明らかにしていただけないでしょうか」


画面に映ったラートリーは、冷たい表情で答えた。


「ロドリク提督。それはできない相談だ」


「な……なぜです!?

 あなたは真実をご存知のはずです!」


ラートリーは感情を一切見せず、淡々と答えた。


「……真実?そのような物は無きに等しい。

 お前は政争に負けた。それだけだ。

 忠義だけでこの世界は渡り歩くのは不可能だ。」


「そんな……私は、あなたに協力したではありませんか!」


ラートリーは冷酷に言い放った。


「協力?何の話だ?逆賊に協力を仰いだ覚えはない。

 セリオンが少しばかり世話になった。その恩には報いよう。

 ヴァルストン家は我が力をもって全力で守ってやろう。」


ロドリクは言葉を失った。


(私は……ただの駒だったのか……

 セリオンが我らを討つために第3艦隊に合流したと聞いた)


ロドリクは拳を握りしめた。


(セリオンまでもが……)


彼は、シズクにも通信を試みた。

だが、何度呼びかけても応答はなかった。

完全に無視されている。


ロドリクは、最後の希望に賭けた。

トウガ・クリムゾン公爵。

古くからの友人であり、かつて共に戦った戦友。

通信が繋がると、トウガの顔が映った。


「ロドリク殿……久しぶりだな」


「トウガ殿……頼む。私を助けてくれ。

 私は、陛下を軟禁などしていない。

 これは、ラートリーとシズクの陰謀だ」


トウガは深刻な表情で頷いた。


「……わかっている。卿がそんなことをする男ではないことは、俺が一番よく知っている」


ロドリクは涙ぐんだ。


「トウガ殿……」


「だが、すまない。今すぐには卿を助けられん。

 陛下がどこにおられるのか、俺にもわからん。

 おそらく、ラートリーが隠しているのだろう」


「では……」


トウガは真剣な表情で言った。


「だが、約束する。

 ヴァルストン侯爵家の存続だけは、必ず成し遂げる。

 卿の孫娘、リリアーナ様の皇位継承権は、俺が命に代えても守る」


ロドリクは震えた。


「トウガ殿……ありがとう……」


「すまない、ロドリク殿。力になれなくて……」


通信が切れた。

ロドリクは、深く息を吐いた。

副官が尋ねた。


「提督……どういたしますか?

 第3艦隊、第4艦隊、第5艦隊。

 三つの艦隊が、我々を討とうとしています」


ロドリクは立ち上がった。


「……第4艦隊、第5艦隊に向けて進路を変える」


「は?しかし……」


「セリオンには討たれん。

 あの男は、ラートリーの息子だ。奴に討たれれば、ラートリーの功績になる」


副官は黙って聞いていた。

ロドリクは続けた。


「カイ・クリムゾンに討たれよう。

 あの若者は、トウガの息子だ。

 騎士道を重んじる、真っ直ぐな男だ。

 もし私が討たれるのなら……あの若者に討たれたい」


「提督……」


ロドリクは窓の外を見つめた。


「私の命は、もう長くない。

 だが、せめて……この死を、次世代のために使いたい。

 カイが私を討てば、奴は神聖帝国、そして陛下を守る騎士となろう。

 そして、ヴァルストン家も……トウガが守ってくれる」


副官は涙を浮かべた。


「提督……わかりました。全艦に命じます」


ロドリクは、最後に呟いた。


「リリアーナ……すまない。

 おじいちゃんは、お前を守れなかった。

 だが、トウガが……トウガならば、必ずお前を守ってくれる」


第6艦隊は、カイとイレーネの艦隊に向けて舵を切った。

老将の最後の戦いが、始まろうとしていた。


・ ・ ・


第4艦隊と第5艦隊が合流した宙域。

カイとイレーネは、接近してくる第6艦隊を確認していた。


「来たな……」


カイが呟いた時、通信が入った。

画面に映ったのは、老将ロドリク・ヴァルストンだった。


「お前がクリムゾンの嫡子、カイか」


カイは姿勢を正した。


「その通りだ。私はカイ・クリムゾン。

 ロドリク提督、投降を勧める。

 無駄な血を流す必要はない」


ロドリクは静かに笑った。


「投降?笑わせるな、小童こわっぱ

 私は決して皇族に対して謀反など働いておらん。

 だが……お前たちは既に我が命を政治的切り札とみなしているようだな」


カイは言葉に詰まった。

ロドリクは続けた。


「私はそう簡単には討たれはせんぞ!

 長年に培った力を味わうがいい!」


通信が切れた。

次の瞬間、第6艦隊が陣形を展開した。

イレーネが感嘆の声を上げた。


「あれは……カルネオン陣形……!

 第3次辺境戦争で使われた古典的な防御陣形ですぅ!」


カイは驚いた。


「まさか、あんな古い陣形を……!」


ロドリクの艦隊は、完璧な陣形を維持しながら迎撃態勢を整えた。

長年の経験と訓練が、今ここに結実していた。

カイは全艦に命じた。


「全艦、攻撃開始!だが、無理はするな!」


戦闘が始まった。

第6艦隊は、数で劣るにもかかわらず、見事な連携でカイの艦隊を迎え撃った。

ロドリクの指揮は的確だった。

若き日に培った戦術眼が、今も健在であることを証明していた。

カイは歯を食いしばった。


「くそ……!さすがは老将……!」


だが、戦力差は歴然としていた。

徐々に、第6艦隊は押されていく。

その時、イレーネの通信が割り込んだ。


「カイさん!第3艦隊です!セリオンが来ました!」


カイは宙域図を確認する。

宙域の反対側から、第3艦隊が現れた。

セリオンの声が通信に響いた。


「カイ・クリムゾン。よくやった。

 だが、ここからは我々が引き受ける。

 逆賊ロドリクは、我が第3艦隊が討つ」


カイは怒りを露わにした。


「待て!これは俺たちの戦いだ!」


「戦いに一番も二番もない。勝てばいいのだ」


セリオンは冷たく言い放った。

第3艦隊が、ロドリクに向けて砲撃を開始した。

その時、イレーネが第4艦隊全艦に通信を開いた。


「第4艦隊、全艦!

 これよりぃ、指揮権移譲を解除しますぅ!

 全艦、宙域122へ全速前進!」


カイは驚いた。

今まで忠実にカイの指揮下で運行していた第4艦隊が突如離脱した。


「イレーネ!?待て?!何をする気だ?!」


「カイさん、私が第3艦隊を抑えます!

 必ずロドリク提督を討ってください!」


一方、第6艦隊――


全てを悟ったような無表情でロドリクが部下に命じる。


「そろそろ頃合いか。カイへ通信を繋げ!」



第5艦隊――


あまりに状況が動き過ぎるため、さすがのカイも混乱していた。

だが、ロドリクからの通信が入ると虚勢でも冷静な態度をとる。


「ロドリク、降伏の申し出か?」


小童こわっぱ、老いぼれと侮るな。

 これより旗艦同士の一騎打ちを所望する。

 もし儂が勝てば第4、第5艦隊は撤退せよ。

 そして儂が負ければ、この命をもって第6艦隊の投降を認めよ。」


「……望むところだ!」


(ロドリク……死に場所を俺との戦いに定めたか。

 これだけ士気に差があって俺に勝てるわけがあるまい。

 降伏した場合、第一功の判断が難しくなる。

 敢えて俺に討たれることで、華を持たせる代わりに、

 ヴァルストン家と部下の命をクリムゾンに預けたか)


「全速前進!」


カイとロドリクが同時に叫んだ。



第3艦隊――


「ロドリクはカイに向かっていくか……。追え。

 背後から先に撃ち抜いてしまえ!」


セリオンが叫ぶ。

それと同時に艦橋内のオペレータが焦りながら報告した。


「第4艦隊、第5艦隊から離脱し、我らの対角上に移動しました!」


挿絵(By みてみん)


「なんだと?!何のつもりだ?

 イレーネのことだ。油断はできん。

 監視の目を怠るな!」


第4艦隊――


「イレーネ様、どうなさるおつもりで?」


「ふふ。実はぁ。こっそり第一艦隊からタキオンランスを盗んできましたぁ」


「な・・・!?なんですと?」


「今から第6艦隊を狙ってタキオンランスを撃ちますよぉ。

 私の計算が誤って、第3艦隊を撃ち抜いちゃいますけどぉ!」


「それでは味方を撃つことになります!」


「はぁい、だから計算間違いなんですよぉ!

 私は社会的に死ぬかもしれませんが、セリオンを討てます。

 ん~、シズク様は怒るでしょうねぇ。だから内緒なんですぅ」


「いや、そんな簡単に!?」


(シズク様はウララ陛下をお救いすることを目的だと勘違いされてますぅ。

 ウララ陛下を見つけることは大事ですが、

 やっぱり一番成し遂げないといけないのはセリオンの始末ですよぉ。

 ウララ陛下を救いだしても、あの二人が健在なら、また次の一手が来ますぅ。

 私はぁ……この誤射で提督はクビ、最悪死刑かもしれませんねぇ。

 でもシズク様の陣営の人材の厚さはラートリーでは比較になりませんよぉ)


「イレーネ様?」


「タキオンランス、起動!旗艦に動力接続!」


第4艦隊の旗艦から、巨大な砲身が展開された。

エリスを一瞬で葬ったシズクの切り札。


セリオンも気づいた。


「タキオンランス……!?まさか、シズクが……!」


イレーネは微笑んだ。


「セリオンさん……狙いはロドリクさんではありませんよぉ」


セリオンは即座に理解した。


「緊急FTL準備!今すぐだ!」


ニャンフューメルンの艦橋が一気に慌ただしくなる。

だが、艦隊戦に不慣れなセリオンを案じたラートリーは

極秘で副官に指示を与えていた。

常にFTLドライブには80%のエネルギーを維持するように。


セリオンの生存第一と、指示をだしていたのだ。


タキオンランスへのエネルギーの充填とニャンフューメルンのFTLドライブへのエネルギー充填、時間勝負となった。


そこでセリオンも気づく。

艦体運用に不慣れなセリオンは自分以外の艦隊への指示が遅れた。


「しまった。全艦緊急FTLジャンプ、あるいは本宙域から強行離……」


指示の途中でニャンフューメルンが緊急FTLジャンプを実行した。

取り残された第3艦隊はいきなりの旗艦の消失に混乱をきたした。

そこへ、第4艦隊からのタキオンランスが撃ち込まれた。


放たれた光の槍が、第6艦隊の左翼の一部を一瞬で消滅させた後、

第3艦隊の中央を貫いた。

ラートリーの精鋭部隊、第3艦隊の実に70%が一瞬で消滅した。

タキオンランスの餌食となったのだ。


イレーネはじっとモニタを見つめていた。

大量に流れる戦没艦船コードを確認するが、ニャンフューメルンが見当たらなかった。


イレーネが脱力して頭を抱える。


「ラートリー……さすがですぅ。

 セリオンを守り切りましたねぇ。」


カイとロドリクは光の槍を見つめ固まっていた。


「イレーネ、バカな?

 それはマズいだろう!?」


カイが思わず叫んだ。


ロドリクは静かにそれを見まもった。


「イレーネと言ったか。

 あの娘、儂の命よりもセリオンを狙ったか。

 シズクがここまでさせるとはな……。

 やはり陛下の敵はラートリーとセリオンだったということか。」


ロドリクは悟った。


「儂の命はこの者達に託すしかないな。

 それが陛下を、そして神聖帝国を守る儂なりの最後の忠義よ」


彼は通信を開いた。


「カイ・クリムゾン……聞こえるか?」


カイが応答した。


「ロドリク提督……!」


「お前は強い。

 陛下を……神聖帝国を頼んだ。

 逆臣を必ず討ち果たしてくれ」


ロドリクは微笑んだ。


「トウガに伝えてくれ。

 リリアーナを頼む、とな」


カイは叫んだ。


「ロドリク提督……」


ニャンフュールが無謀とも言える接近戦を仕掛けてきた。

トゥルローニャッドから一斉に反撃が行われる。


ニャンフュールのシールドは機能せず、追加装甲も格納されたままで、

反撃の全弾がニャンフュールに致命的なダメージを与えた。

各所から炎が上がり、ニャンフュールは爆散した。


カイは拳を握りしめた。


「ロドリク提督……」


イレーネが通話上で静かに言った。


「カイさん……これで、あなたはウララ陛下に謁見できますぅ」


カイは通信モニタに向かう。


「イレーネ……お前、最初からこれが狙いだったのか?」


イレーネは苦笑いした。


「はい。セリオンを排除し、第3艦隊を弱体化させる。

 そして、カイさんに功を渡す。

 肝心のセリオンは取り逃がしましたぁ。

 私はおしまいですぅ」


カイは複雑な表情を浮かべた。


「……そういうな。お前との同盟はまだ失うわけにはいかん。」


宙域に、静寂が訪れた。

老将ロドリク・ヴァルストンは、戦場で散った。

第3艦隊は大損害を受け、セリオンは逃亡した。

そして、カイ・クリムゾンは、次世代の英雄となった。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。

第六十三話「犠牲の先」、もう……涙なしには読めませんでした…。

今回は、「ロドリクの最期」と「イレーネの賭け」が描かれた、壮絶な戦いでしたね!


今回の63話、「犠牲の先」というタイトルが、ロドリクさんの最期を完璧に表してますね…。

ロドリクさんは、何も悪いことをしていないのに、策士たちの戦いの「犠牲」になりました。

でも、その「犠牲」の先に、次世代の希望があるんです。

カイさんという「英雄」が生まれ、ヴァルストン家も守られ、神聖帝国の未来が開かれる。

ロドリクさんの死は、無駄じゃなかったんです。

そして、イレーネさんの「タキオンランス」も、本当に衝撃的でした!

イレーネさんは、自分が提督をクビになるかもしれないことを覚悟で、「セリオンを討つ」ことを優先したんです。

でも、セリオンくんは逃げ切っちゃいました…。

ラートリーさんの「息子を守る執念」、恐ろしすぎます…。


次回、どうなるのか、作者子ちゃん、ドキドキが止まりません!

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