第六十一話 首の価値
その頃、第6艦隊旗艦、ニャンフュール。
ロドリクは艦隊の訓練視察を行っていた。
傍らにはセリオンが控え、いつものように「助言」をしている。
「ロドリク提督、この隊形は少し密集させた方が防御力が増します」
「……そうだな。各艦に指示を出してくれ」
ロドリクは淡々と答えたが、内心で違和感を覚えていた。
(セリオンの助言は的確だ。だが……まるで私を操り人形にしているかのようだ)
だが、彼は何も言わなかった。
自分がラートリー親子に「担がれている」ことを、薄々感じながらも、忠義のために黙って従っていた。
訓練が終わり、ロドリクは艦橋を後にしようとした時、副官が近づいてきた。
「提督、少々よろしいでしょうか?」
「どうした?」
長年仕える副官は躊躇いがちに言葉を選んだ。
「その……帝都で、提督に関する噂が広まっているようです」
「噂?」
「はい。提督が……ウララ陛下を軟禁し、帝国を脅かしているという……」
ロドリクは目を見開いた。
「なんだと!?そんな馬鹿な!」
「私も信じてはおりません。ですが、この噂は急速に広まっており……」
副官の言葉を遮るように、セリオンが割り込んできた。
「提督、ご心配なく。これは明らかにシズク女公の讒言です。
私が真相を調査し、必ず名誉を回復して見せます」
ロドリクはセリオンを見つめた。
「……セリオン、頼む」
「お任せください」
セリオンは深く一礼し、退室した。
副官もまた、何か言いたげな表情で立ち去った。
一人残されたロドリクは、窓の外を見つめた。
(私は……一体何のために……)
彼は気づいていた。
艦隊内の空気が変わり始めていることを。
部下たちの視線に、わずかな疑念が宿り始めていることを。
そして、自分が孤立しつつあることを。
だが、どうすることもできなかった。
ラートリーに担がれた時点で、彼の運命は決まっていたのかもしれない。
ロドリクは深く息を吐いた。
「私は……ただ、帝国に、陛下に忠義を尽くしたかっただけなのだが……」
老将の呟きは、誰にも届かず、静寂の中に消えた。
10日後、ロドリクは副官から報告を受けた。
「提督、第4艦隊と第5艦隊が、『帝室に対する逆賊討伐』を掲げて
我が第6艦隊に向かっているとの情報です」
ロドリクは顔を歪めた。
「……逆賊だと?私が陛下を軟禁しているなど、根も葉もない噂だぞ!」
「ですが、帝国全土がその噂を信じ始めています。
さらに……艦隊内でも、提督に対する不信の声が……」
副官は言葉を濁した。
ロドリクは拳を握りしめた。
「くそ……なぜこんなことに……」
さらに10日後、ロドリク腹心の参謀がロドリクの執務室に慌てて入室してきた。
「提督、大変です。セリオン参謀長の率いる左翼20隻が離脱しました。」
「何だと?敵前逃亡は例えラートリー候のご子息とはいえ、軍法会議ものだぞ!」
ロドリクの顔に焦りの表情が見える。
「いえ、それが……セリオン参謀長はロドリク提督がウララ陛下を隠蔽、
弑逆しようとしている確たる証拠を得たとの声明を発表しました。
これは敵前逃亡ではなく、提督の謀反に対する対抗手段だと。
この第6艦隊を討ち滅ぼすために第3艦隊と合流しようとしています……。」
ロドリクは絶句した。
「な……何を言っている……!?」
「提督。小官も確認しましたが、その……
もちろん小官は偽りだと信じておりますが。
かなり信ぴょう性の高い証拠の数々でした。」
ロドリクは震えた。
(私は……裏切られたのか……?)
「今後、さらに離脱艦が増える恐れがあります……」
「何とかならんのか?」
「第3、第4、第5艦隊は我々に向けて、速度を上げて迫ってきています。
我々を打ち倒した者は朝敵を討ったものとして発言力が増しますので……。」
老将の心は、深い闇に沈んでいった。
・・・
・・
シズクとイレーネは秘匿通信で今後の作戦を練っていた。
「さすがラートリーだ。この状況下で最良の策を採る。
これではセリオンを討つのは難しそうだな。」
「はぁい、そうですぅ。
ですがぁ、セリオンさんは第6艦隊からの離脱と討伐に力を注ぐ
必要があるので~、ウララ陛下を探すチャンスですぅ。」
「あぁ、その通りだ。奴らの隠蔽工作には必ず綻びがくるだろう。
そこは私に任せろ。必ず見つけ出してやる。
だが、万が一私がしくじった場合のバックアップとしてお前達は必ずロドリクを討て。
セリオンよりも先にだ。」
「……ん?あぁ!なるほどぉ!
ロドリクを討った者は今回の朝敵討伐の軍功で陛下とお目通りが叶うとぉ。
ラートリーが公に陛下を連れ出さざるを得ないわけですねぇ!
一度公においで下さればそこから追うのは今より明らかに楽ですぅ。
これがシズク様の第3の策ですかぁ!!」
「そうだ。ラートリーは二手三手先まで読む。
ならば我らは三手四手先まで読まねば勝てん。
そして今回は我々が仕掛けたのだ。
これで敗れるようならば我らに未来はない。」
そう言ったシズクの顔には全くの慢心の気配はない。
むしろこれで足りているかという不安でしかなさそうだった。
「一つだけ提案しますぅ。」
シズクは顔色一つ変えずにイレーネを睨みつけた。
瞳を覗き込むような目線。これはシズクが真剣に考えている時の癖だ。
「なんだ?」
「ロドリク戦、私はカイさんの指揮下に入りますぅ。」
「は?」
「第4艦隊の指揮もカイさんに任せますぅ。
私はその間にウララ様隠蔽に関してラートリーを揺さぶってシズク様を援護しますぅ。」
「意図は?お前のことだ。単に私だけでは頼りないと思ったわけではあるまい。
その先の深謀を述べよ。」
「深謀なんてありまえんよぉ。
それにシズク様を頼りないと思ったことなんて一度もありませぇん。」
「無駄口は要らん。述べよ。」
「はぁい。まずロドリク討伐は時間との勝負ですぅ。
速攻戦はカイさんがこの世代では最強ですぅ。
そして、朝敵討伐後の陛下への拝謁はラートリーに
阻止されないような背景が必要ですぅ。
つまり次世代の英雄ですぅ。」
「英雄?」
「ただの戦勝者では、場合によって内乱中という有事を理由に
ラートリーが拒否するかもしれませぇん。
ですが、朝敵を討ちし者、内乱を鎮めし者。
このような時代を切り開く英雄をぉ、今、民衆は強く求めていますぅ。
その英雄はぁ、私よりもぉ、カイさんがお似合いですぅ。」
「なるほど……世論も味方につけて、内乱鎮圧にすら持っていくか。」
「はぁい、そしてトウガに恩を売れますぅ。
カイさんは自分一人が英雄視されることに負い目を感じるでしょう。
それを借りとみなしてぇ、赤青の講和に一役買ってくれると思いますぅ。
英雄なんて虚栄にしかすぎないのに、そういうのカイさん好きそうなんですよぉ。
そして最後にこれは副作用ですがぁ、私の手が空くのでシズク様のお手伝いできますぅ。
陛下捜索のお役に立てるはずですぅ」
シズクは黙ってイレーネの目を睨み続けていたが、少しだけ表情が緩んだ。
「この短時間でそこまで先を読んだか。
お前が敵でなくてよかった。
この件はお前に任せる。お前が敵諜報を攪乱している内に私は全力でウララ陛下をお探しする。」
「はぁい、ではお任せください!」
通信が切断されてから、しばらく黙っていたシズクだったが、ようやく口を開いて呟いた。
「まさかあの老将の首にここまでの価値が生じるとはな。」
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
第六十一話「老将の首の価値」、タイトルからしてもう……辛すぎますね…。
今回は、「ロドリクさんの悲劇」と「シズク&イレーネの三手四手先を読む策略」が描かれました!
捨て駒にされた老将、ロドリクの孤独
セリオンくんに裏切られたロドリクさん。
その「孤立」がさらに深刻になっていきます。
帝国全土に「ロドリクが陛下を軟禁している」という噂が広まり、艦隊内でも部下たちの目に「疑念」が宿り始めます。
そして、セリオンくんが「ロドリクの謀反の証拠を見つけた」と声明を出し、20隻を率いて離脱。
ロドリクさんは、完全に「朝敵」として孤立してしまいました。
「私は……ただ、帝国に、陛下に忠義を尽くしたかっただけなのだが……」
この言葉、本当に泣けます…。
ロドリクさんは、何も悪いことをしていないのに、策士たちの戦いの「捨て駒」にされちゃったんです。
しかも、今、第3艦隊、第4艦隊、第5艦隊が、ロドリクさんを討つために迫ってきています。
「老将の首」が、策士たちにとって「価値ある駒」になってしまったんです…。
シズク&イレーネの三手四手先の策略!
一方、シズクさんとイレーネさんは、ラートリーさんの動きを完璧に読んでいました!
シズクさんの「第3の策」、それは……
「ロドリクを討った者は、朝敵討伐の軍功で陛下とお目通りが叶う」
つまり、ラートリーさんは、軍功を上げた者に「陛下」を見せざるを得なくなるんです!
そうすれば、ウララ陛下の隠蔽が崩れて、居場所を追うのが今よりずっと楽になります!
これ、「三手四手先」の読みですよね!
そして、イレーネさんは、さらに深い策を提案します。
「ロドリク討伐は、カイさんに任せる。そして、カイさんを次世代の英雄に仕立て上げる」
この策のすごいところは、「一石三鳥」なんです!
速攻戦はカイさんが最強→ロドリクを素早く討てる
カイさんを英雄にすれば、世論も味方につけられる→ラートリーも拒否できない
トウガさんに恩を売れる→赤青の講和に繋がる
さらに、イレーネさん自身の手が空くので、シズクさんのウララ陛下捜索を手伝えます!
イレーネさん、「この短時間でそこまで先を読んだか」とシズクさんも驚いてましたね!
「水影」イレーネさんの真価が、ここで発揮されました!
次回、英雄誕生?それとも新たな悲劇?
そして、シズクさんとイレーネさんは、本当にウララ陛下を見つけられるのか?
ラートリーさんも、きっと次の一手を打ってくるはずです!
作者子ちゃん、ドキドキが止まりません!
ロドリクさん、本当に気の毒すぎます…。
策士たちの戦いに巻き込まれた、ただの忠臣なのに…。
次回も、絶対見逃せませんよ~!
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