第五十九話 紅水の盟
フートニャム星系――
イレーネの第4艦隊が次々と星系境界にFTLジャンプして現れた。
すぐに情報士官が星系内情報を整理する。
「提督、第5艦隊の存在を確認!
敵はこちらに向けて前進中です。」
「カイさん、せっかちですねぇ。
もう戦う気満々ですかぁ。私達のことを待ってましたねぇ?
射程に入る前に通信を繋いでくださ~い。」
4度目のカイとイレーネの対決が始まろうとしていた。
それぞれが射程ギリギリの所で停止し、様子を伺っている。
カイの第5艦隊は既に鋒矢隊形を取り、いつでも突撃に移れる臨戦態勢だ。
対するイレーネは魚鱗隊形でカイの突撃に対して防御の構えを見せている。
今回はイレーネの側からカイへと通信を繋いだ。
イレーネの顔を見ると気合を入れて睨んできた。
「出たな、巨乳お化け。」
「……セクハラ…。
ふぅ。まぁいいです。
では。やぁやぁ~!遠からん者は音に聞けぇ〜!
近からん者は目にも見よぉ〜!
我こそはぁ、ニャニャーン神聖帝国第4艦隊提督ぅ、静謀の水影〜!
イレーネ・フォルセアと申す者なりぃ〜!
いざ尋常にぃ〜、ふわっと勝負ぅ〜!」
「……。おい、ふざけてるのか?」
「いえ~?カイさんの真似をしただけですよぉ。」
「お前、バカにしてるだろ?」
「あー?カイさん、自分のやってたことぉ、バカだなぁって思ってたんですかぁ?」
「もういい!今日で決着つけてやる。切るぞ!」
「あぁ、ストップストップ~!!!
待ってください。これですぅ。
降参しますぅ。1勝3敗、カイさんの完全勝利ですぅ。」
ニコニコ微笑みながら用意していた白旗を、モニタの前でぱさぱさと振る。
「……お前、やっぱりふざけてるじゃないか!」
「大真面目ですよぉ。勝ちを譲るので一つだけお話を聞いてほしいんです。」
「ん?」
「今から私一人でカイさんのトゥルローニャッドに行きますぅ。
撃たないでくださいねぇ?丸腰で行きますぅ。」
「待て!?おい、どういうつもりだ?!何の策略だ!」
カイが慌てて顔をモニタに寄せるが、それを無視してイレーネ側から通信を切断した。
「提督、お一人で大丈夫なのですか?」
心配そうにイレーネの参謀が声をかけるが、イレーネはにっこり微笑んだ。
「大丈夫ですよぉ。彼は騎士様ですぅ。
こちらは何があっても攻撃したらだめですよぉ?」
「は!」
そう言うとイレーネは本当に一人で移動用小型ビークルに乗り込み、トゥルローニャッドに向けて移動を開始した。
迫りくる非戦闘用ビークルを見てカイの参謀が不安げにカイに確認する。
「提督、大丈夫でしょうか?相手はあのイレーネです。
何を企んでいるかは分かりません。
あの中に反物質爆弾でも入っていたならば、こちらのクルーに対する被害が甚大なものになります。」
カイはビークルを見据えて、首を横に振った。
「ダメだ!あの女は白旗を上げた。
そして一人でこちらに向かうと言っている。
それを策と恐れて攻撃してみろ。
末代までの恥と思え。
これが策で、我々が致命打を受けたとしても、それまでのことだ。
むしろ、俺達の命と引き換えに、シズク陣営の名は地に落ちる。」
「ビークル到達します。」
「誘導ビーコンを発信、迎え入れろ。」
トゥルローニャッドの格納庫内にイレーネのビークルが着地した。
取り囲むように第5艦隊陸戦隊が包囲した。
カイが少し離れたところから指揮を執りつつ、見つめていた。
ビークルのドアが開き、イレーネが頭に手を当てて下りてきた。
同時に陸戦隊員が取り囲んで銃口を向ける。
「約束通り、丸腰ですぅ。
ビークルの中も見てもいいですよぉ?
でも、帰るときには返してくださいねぇ?」
いつも通りの様子のイレーネが、遠くにいるカイを見つけて、手を振った。
それと同時に陸戦隊が一斉にイレーネに向けて引き金を引きかけたため、慌てて再び頭に手を当てる。
「ごめんなさぁい、何もしませんよぉ。」
「銃口を下ろせ!」
遠くからよく通る声で指示をだし、カイがゆっくりと歩み寄った。
「こんな奴でも神聖帝国軍大将だ。礼を忘れるな。」
指示に従い隊員は銃を握ったまま、取り囲みつつ、背筋を伸ばして礼を示す。
「ありがとうございますぅ。手を下ろしてもいいですかぁ?」
「構わん。俺がカイ・クリムゾンだ。」
「イレーネ・フォルセアですぅ。」
ゆっくりとイレーネが握手を求めたため、照れくさそうに握手に応じる。
「で、何の用だ。わざわざこんな危険を冒して。」
「はい、ここでは何ですからぁ。
カイさんのお部屋で二人きりで話しても良いですかぁ?
もちろん、身体検査していただいて結構ですよぉ。」
「不要だ。武器を持っていようが、お前に遅れは取らん。ついてこい。
ビークルを見張るもの以外は持ち場へ戻れ。」
カイに先導されてイレーネは第5艦隊指令部、カイの執務室へ向かって歩いていた。
「なんで信用してくれたんですかぁ?
私はぁ、実は個人戦もかなりやりますよぉ?」
カイは無言のまま、一気に全身に闘気を纏い、隙を消した。
「嘘ですぅ。私はとても鈍クサイので実戦成績は常に”D”判定でしたぁ。」
「……おい!からかうのはやめろ!何のつもりだ!」
振り返って、怒りを露わにして怒鳴りつけると、イレーネが目を丸くして驚いた。
「えぇ?カイさんと仲良くなりたいからぁ、雑談してるだけですよぉ。」
今度はカイが焦る。
「……。
……黙ってついてこい。」
「はぁい。」
イレーネを執務室に招いて、応接間のソファーに座らせた。
自身も向かい合って座った。
「ここには、盗聴器は存在しない。
また密偵の類も侵入はできん。話せ。」
「単刀直入に言いますねぇ。
私と同盟を結びましょう~!」
「……無理だ。
クリムゾンとアジュールは、相容れない。
何より父上が同意しない。」
「もちろん、最終的にはぁ、両家の同盟は必須ですぅ。
でも今、私が言ったのはぁ、私とカイさんの同盟ですぅ。」
「は?俺とお前の?」
「はぁい。敵の敵は味方ですぅ。」
「ラートリーとセリオンか?」
「おぉ!カイさんも敵を見抜いてましたかぁ!
やはり私が尊敬する人ですねぇ!」
「な!?そっ尊敬?!」
ニッコリ笑って、少し前のめりでカイの目を見つめながら自信満々にイレーネが続けた。
「はぁい、カイさんは私達の世代での最高の英傑ですよぉ。」
カイは、さすがに照れくさくなるのを我慢して、真面目な顔で受け流した。
「せ……世辞は不要だ。続けろ。」
「トウガ様とシズク様の真の敵はぁ、ラートリーとセリオンですぅ。」
「それは我々も薄々感じてはいる。だが証拠はない。
むしろ、シズクが義姉上の仇であることの方が事実だ。」
「証拠は二つありますぅ。
一つ目、ニャケンプ星系の軍港副司令の身柄を私が確保していますぅ。」
「ニャケンプの副司令?」
「彼はセリオンに買収されていてぇ……、
レイナ殿にニャーニレム星系への迂回を強制させましたぁ。」
「どういうことだ?」
「セリオンはニャーニレム星系にレイナ殿を向かわせることで、エリス様にレイナ殿がリオ様を狙っていると思わせましたぁ。」
「なんだと!?それは確かか?義姉上の件は父上からも聞いたことがある。
義姉上がレイナを襲撃したのはリオを守るためだったと。」
「はい、残念ながらエリス様はセリオンの計略によって、レイナ殿を討ってしまい、結果としてご自身も戦死なされました。」
「セリオンが義姉上を謀っただと?確かなのか?」
「はい、間違いありませ~ん!
副司令を徹底的に痛めつ……、根気よく説得した結果、ようやく教えてくれた事実ですぅ。
嘘発見器でも、真実と断定されていますよぉ。」
「……。いや、信じよう。ここでお前が嘘をつくとは思えん。
副司令とレイナの通信記録を確認したら、副司令がレイナの進路変更に関与していたかどうかは、事実確認ができる。」
「ありがとうございますぅ。
二つ目ですが、ノア様を討った仇のセフィはラートリーに雇われていましたぁ。」
「は?なんだって!?ノアの仇が!?」
「はい、あの後、セフィはイリアキテルア聖王国で復権しましたぁ。
その際の関係者の一人であるイリア人を拉致していますぅ。」
「……、お前達。かなりえげつないことをしているな。」
「いえいえ、とんでもないですぅ。
言葉を間違えましたぁ。丁重にお招きしていますぅ。
そのイリア人からの情報によると、復権にはぁ、ラートリーから多大な助力を受けていたそうですぅ。」
「……これも正しい情報ということだな?」
「はい、随分衰弱されていますがぁ、そのイリア人を提供することはできますよぉ?
直接聞きますかぁ?」
「いや、いい。信じる。お前達のやり口の真似はしたくない。」
「つまり敵はラートリーとセリオンなのですぅ。
ここまでは良いですかぁ?」
「あぁ。」
「最後にぃ、セリオンを排除したらぁ、陛下の所在を見つけられますぅ。」
「な?!なんだと!?陛下を!?」
「はい、陛下はラートリーとセリオンによって、巧妙に隠されていますぅ。
私とカイさんでセリオンを第6艦隊ごと排除出来たらぁ。
その隠蔽に綻びが生じてぇ、必ず陛下の所在も判明しますぅ!」
「陛下を取り戻すことが出来れば、この戦いを終わらせることが出来る……。」
「はぁい!その通りです。さすが、カイさん!
それが、この紅水の盟の最大の目的なのですぅ!」
カイは静かに考え込んでいたが、やがて結論に至り、イレーネの目を真っ直ぐに見据えた。
「わかった。盟を結ぶ。両家の同盟には時間がかかる。
まずは俺達二人が手を組み、最速で第6艦隊をセリオンごと打ち砕く。
そのための策と準備が出来ているということだな?」
イレーネがにやりと笑った。
「はい、もちろんですぅ。」
身を乗り出して両手で包み込むようにカイの手を握った。
カイは急に手を握られたことで一瞬の焦りを見せた。
「カイさんと仲間になれて、とっても嬉しいですぅ!!」
イレーネの屈託のない笑みを見て、カイはつい目を反らした。
「あぁ、よろしく頼む。作戦を教えてくれ。」
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
今回は、イレーネさんとカイさんがついに“紅水の盟”を結びました!
これまで何度もぶつかり合ってきたカイさんとイレーネさん。
でも今回は、イレーネさんが“白旗”を振って、まさかの単身乗り込み!
「丸腰で行きますぅ」って、あまりにも大胆すぎて、作者子ちゃんも心配になりましたぁ…。
でも、カイさんは「俺は騎士だ!」と、イレーネさんの誠意を受け止めてくれました。
この“騎士道”が、今回の鍵だったんですね。
イレーネさんが語った“真の敵”──それは、ラートリーさんとセリオンくん。
そして、レイナさんやノアさんの死に関わっていた“証拠”も提示されました。
この情報を受けて、カイさんはついに決断します。
「俺達二人が手を組み、最速で第6艦隊をセリオンごと打ち砕く」
この一言が、紅水の盟の成立を告げるものでした。
紅水の盟は、ただの戦術的な同盟ではありません。
それは、次世代の英傑が、過去の因縁を乗り越えて、帝国の未来を選び取るための誓い。
イレーネさんの「カイさんと仲間になれて、とっても嬉しいですぅ!」という笑顔は、
この物語の中で最も“希望”に満ちた瞬間だったかもしれません。
次回、紅水の盟はどんな作戦を展開するのか?
そして、セリオンくんはどう動くのか──
作者子ちゃん、ちょっと落ち着きつつも、心の中ではドキドキが止まりません!
【あとがき】
この二人、結構良い感じなのかもしれませんね!
ラートリー陣営がどうでるか?
この赤青の内乱の行方は!?
先を推理出来ましたら感想をお願いします。
ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。
もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。




