第五話 ノアールの死の意味するところ
ノアールの死去はすぐに国内外に通達された。
帝都では故人を偲び、その偉業を称えるパレードが催された。
また、一般人も参加できる献花台には、三ヶ月にわたって訪れる人が止まず、
中には片道一ヶ月以上もかけて辺境星系から訪れる者までもいた。
彼は真に英雄だった。
その偉業は数え切れず、先々代皇帝レオンの時代から守護神として神聖帝国の前に盾のように立ちはだかっていた。
武人としてだけではない。
オブジディアン家は過去に軍務大臣を何代も輩出する名門であり、政治の中枢に常に立ち続けたにも関わらず、彼の温厚で誠実な性格は敵を作らなかった。
貪欲で利己的な貴族連合の大貴族たちですら、彼には一目をおいていた。
ただ温厚なだけでもなかった。
レオン帝が病死(史書では病死とされているが暗殺されたのは疑いようがない)し、先代女帝ココが擁立された際、真っ先に彼は彼女の守護者となった。
かつての序列一位をシズク達に譲り、不当な降格とさえ囁かれながらも、その厚き忠義でココを支え続けた。
父帝暗殺後の若き女帝の政権、これが短期間で盤石の体制を築けたのは、まさにノワールの功績が大きい。
政敵に対する彼の睨みは狡猾な貴族連合の大貴族でさえも萎縮させ、それ以上ココを害することを許さなかった。
ココは自分のやりたい政治を行うことができて、その結果が今の神聖帝国なのだ。
ノアールの国葬が行われ、国内の貴族や隣国の友好国大使も多数参加した。
またかつての敵国の好敵手とみられる提督達も多数参加し、彼の死に惜しまず敬礼したという。
国葬ではウララの弔辞が参加者の涙を誘った。
彼はココ、ウララという共に若くして父を失った母娘にとっての、最大にして最高の父代わりだったと言える。
その想いが弔辞の中で真摯に語られた。
また、トウガの弔辞では、その偉業を称え漢泣きする姿が皆の心を打った。
あのシズクでさえも目に涙を溜めながら、ノアールの遺影を複雑な顔つきで見つめていた。
これだけからもわかるように、彼の死はただの一人の提督の死ではなかった。
神聖帝国の守護神はまさにウララの代になっても守護神だったのだ。
この神聖帝国にとって、そしてウララにとってもかけがえのない存在の喪失は――
今後の彼女の未来に大きな影響を与えることは疑いようがなかった。
ノアールの跡目は嫡子のジジが継いだ。
戦場を駆け巡り、なかなか跡継ぎに恵まれなかったノアールにとっての自慢の息子だった。
ジジはウララの幼馴染として育ち、ノアールの命によってウララを常に護衛して生きてきた。
ウララに対する忠誠心は、トウガにも劣らぬものだった。
ノアールが親ウララ女帝派として常に五大将の仲を取り持ったのは、ウララとジジのこの関係も背景にあった。
ジジは広大な領国と軍事力を継承したが、彼はまだ20前後の若輩であり、不世出の英雄である他の四大将の能力とは残念ながら同格とは言えなかった。
実質の5強は4強になったと言えた。
継承後の初めての評議会。
彼は挨拶をしてかつてのノアールの席に着席した。
「ジジ、固くなるな。お前はもうオブジディアン家の当主だ。
ここに座っていても何一つ恥じることはない。」
トウガが笑顔でジジの緊張をほぐそうとする。
「はっ、若輩ゆえ皆々様にはご迷惑をおかけするとは存じますが、なにとぞ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
シズクとシノは表情を変えずに彼を見た。だがその目には何の感情も籠っていなかった。
取るに足らない。おそらくそれが彼女達のシンプルな想いだろう。
議長のラートリーが淡々と議題を進めていく。
何も変わらないように見えて、大きく変わった評議会、間違いなく今までの均衡は失われており、暗い未来が見え隠れしていた。
本作、最後までの骨子(1万五千字程度の設計書)は作り上げていて
それをもとに小説化しています。今までのペースだと4万字程度には
落ち着くはずでした・・。
ですが、「いや、端折りすぎ。この骨子なら40万字規模の話!」
とダメ出しをもらったので方針変更します。
これからはもうちょっと深堀させていきます。
いきなり粒度変わりますがごめんなさい。
前Epでノンストップと言いましたがそうじゃなくなるかも??
偉大なる帝国の守護神を失い、静かにそして確実に物語が動き始めました。
新たなる英雄の卵の登場、ジジ。
今後の帝国の行く末をどうかお見守りください。
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本作は政治の頂点で繰り広げられる息詰まるお話です。
読み疲れたらこちら。
本来のニャーン達の日常から、ギャグ、シリアスまでの
疲れない話がここにあります。
ニャニャーン番外短編集(不定期更新)
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