第五十七話 第三の勢力
下部主力艦隊筆頭、第6艦隊を主力艦隊に昇格。
この知らせは、シズク陣営とトウガ陣営を大いに驚かせた。
この赤青の内乱は隣国の野心を刺激し、ジソリアン同盟列藩国やメクト・パクス統制府による一時的な領域侵犯や、彼らが暗躍する私掠船団による略奪を招いた。
これらに対抗するにはラートリーの第3艦隊だけでは心もとなく、新たな主力艦隊を昇格されることは自然な判断ともいえる。だが、重要なのはその提督を誰が担うかであった。
現在、第6艦隊の艦隊力底上げの準備として、艦船の建造が急務で行われており、同時に提督の人選は女帝ウララによって――とはいえ、実質的にはラートリーの意向と見て間違いない――行われていた。
シズクもトウガも、そしてカイもイレーネも、その行方を警戒している。
間違いなくラートリー派によって任命されるだろう。
今まではどんな状況であれ、2艦隊を擁するシズク派、トウガ派は、ラートリー派よりも有利な立場であり、ラートリーは無茶を押し通せない状態ではあった。
だが、ここにラートリー派による第6艦隊が登場するとその軍事均衡は大きく崩れるだろう。
シズクやトウガはその妨害に走るが、ラートリーによる徹底した隠蔽により、ウララの消息は掴めず、ただただ見守る他、術はなかった。
そして4か月後、帝国内の全造船ドックを日夜問わずフル稼働させて、かつてない速さで弩級戦艦や大型空母と言った主力艦隊級を用意し、第6艦隊の陣容は整った。
そしてウララの宣言の元、6番目の主力艦隊提督が任命された。
ロドリク・ヴァルストン侯爵 60歳
神聖帝国軍大将の古参であり、どこの派閥にも属さない中立派。
派手な武勲はないが、堅実な戦術と部下からの厚い信頼で知られ、“白壁の老将”と呼ばれる。
この決定は誰からも不平が漏れなかった。至極妥当ではあるが、面白みに欠ける決定に見えた。
敢えて言うならば今まで大きな失敗をしてこなかった堅実な将、ただそれだけだった。
シズクはラートリーの真意を勘ぐって最大限に警戒を示し、トウガはウララの賢明な判断に安堵した。
だが、その後も内偵を繰り返した両陣営は、そう時間をかけずにラートリーの真意を知る。
第6艦隊の参謀長は、先月中将に任官されたばかりの、ラートリーの嫡子 セリオン・ヴァーダント伯爵だった。彼は無能な御曹司としてラートリーに見放され、今まで軍にも政府にも仕官できない出来損ないとみなされていた。
だが、今となってはそれすらも疑わしく、ラートリーは、ただこの時のためにセリオンを表舞台から遠ざけていた・・・・・誰もがそう考えた。
おそらく中立派のロドリクは、セリオンの顔を隠すための只の仮面でしかなく、実質、第6艦隊はラートリー陣営と見て間違いないだろう。
シズク、トウガはこの三つ巴の状況に、警戒せざるを得なかった。
その頃には、カイ、イレーネの艦隊の修理も完了し、戦線に復帰、各々の陣営最前線での戦闘を繰り返していた。
そして、ジソリアン同盟列藩国と隣接するレイニャプス星系にて、再び風と水が相まみえる。
「おい、巨乳お化け!
今までは1勝1敗の五分だ。今度こそを決着をつけるぞ!」
「ん~、だからそれはセクハラですよぅ。まぁ、良いですぅ。
今回で終わりにしますからぁ!」
通信を切断し、各々が戦闘態勢を取る。
「各艦、アストラ・ヴェインを最大限警戒しろ。
クリムゾン式の突撃をもう一度お見舞いしてやれ!
奴らの状態をよく見ろ、レーザーとミサイル、適宜使い分けるんだ!
散らした敵は容赦するな!集中砲火で必ず仕留めろ!」
「各艦、アストラ・ヴェインは使うふりだけで良いですよぉ。
どうせ~2度目は効かないのでぇ、積んでませーん。
あるとぉ思わせればいいんですぅ!
もうパターンはぁ、知ってますぅ!
突撃には~、こちらも突撃で行きますよぉ!」
烈火のごとく敵を蹂躙するクリムゾン式突撃と、シズク陣営の銀河最強とまで謳われた最高練度の突撃。
銀河最強をかけて両艦隊がぶつかる。
艦隊全体が1機の戦闘機のように、広い宇宙を駆け巡り何度も交差した。
「あいつ・・・トロいだけの女じゃないな!面白いっ!」
「カイさん・・さすがですぅ。
私の計算では、もうとっくに私の勝ちで勝負がつくはずなんですけどぉ。」
何度目かの突撃戦。
カイが遂にクリムゾンお家芸の突撃で押しかけた時、急遽イレーネが無秩序後退・反転を行った。
「逃がすかっ!」
カイにとって大打撃の好機到来した。
完全に背後を取り、遂に決着が付こうとしていた。
だが、イレーネの向かう先にジソリアン略奪艦隊を発見する。
そしてそれから逃げる辺境惑星の脱出コロニー船も。
この内乱のため、国境防備が弱り、ジソリアンによる略奪が増えていた。
イレーネはそれに気づき、突撃被害を覚悟で反転、救出に向かった。
思わずカイは攻撃中止を各艦に通達した。
彼女からするとこの辺りはシズクの領地なので、守るのは当然であり、民の忠誠度への影響を考えたに過ぎない。だが、カイはイレーネの目標に気づいて、突撃を停止させた。
イレーネは無事ジソリアン艦隊を撃破、難民を救助した。
その後、カイが通信を接続した。
「・・続きやるか?」
「え?はい、大丈夫ですよぉ。かかってきてくださぁい。
でもぉ、なぜ攻撃を止めたんですかぁ?」
「俺は野蛮人じゃない、騎士だ!」
「はぁ???カイさんって面白いですねぇ。
真顔でそんなことぉ、言う人初めて見ましたぁ!」
イレーネが笑顔で応えた。言っていることは侮蔑に過ぎないが、彼女の顔には悪意が見えなかった。
それよりも心底面白そうに笑う笑顔にカイはドキッとした。
「な、馬鹿言うな!騎士道こそ正義!
それこそが帝国を平和に導く概念だ!」
「うふふ・・・さらに滑ってますよぉ?」
「あーー!!ジョークじゃねぇっての!もういい!
白けた。今日の所は俺の勝ちとして見逃してやる。」
「あはは・・・逃げ出すカイさんの方が負けですよぉ。」
どう表現すればよいのか分からず、複雑な表情で睨み返した。
「俺は負けてない!やっぱり再開する!」
「あぁ・・・ごめんなさぁい。私はこの人達を護衛しまぁす。
負けで良いですよ~。1勝2敗、次で五分に戻すので今日は見逃してくださぁい。」
「・・・全艦撤退する。」
笑顔で話しかけてくるイレーネにどう対処していいか分からなくなったカイが後ろを向いて退却を宣言、通信を切った。
この二人の決戦は次に持ち越された。
カイがFTLジャンプで星系から離れたのを見届けると、イレーネは無表情に呟いた。
「やはり、カイさん。あなたがぁ、この内乱を鎮める決め手ですぅ。」
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
今回は、ついに帝国に“第三の勢力”が登場しました!
そして、カイさんとイレーネさんの“銀河最強突撃バトル”も再び勃発!
でも最後は……まさかの“騎士道”で決着がつきませんでしたぁ~!
帝国の軍事バランスを揺るがす第6艦隊が、ついに主力艦隊に昇格!
提督は“白壁の老将”ロドリクさん──堅実で中立、誰も文句を言えない人選でした。
でも!その裏にはラートリーさんの“本命”が隠れてました!
第6艦隊の参謀長は、なんとラートリーさんの息子、セリオン・ヴァーダント伯爵!
今まで“無能な御曹司”として隠されていた彼が、ここで登場するなんて……
ラートリーさん、どこまで磁場を仕込んでるんですかぁ~!
そして、カイさんとイレーネさんが、再び激突!
今回は「アストラ・ヴェインは積んでませーん!」というイレーネさんの“フェイント”が炸裂!
カイさんも「レーザーとミサイル、適宜使い分けるんだ!」と、戦術の幅を見せてくれました!
両艦隊が、まるで一機の戦闘機のように交差する突撃戦──
これはもう“銀河最強”の名にふさわしい戦いでしたね!
でも、今回の決着は“戦術”じゃなくて“価値観”でした。
イレーネさんが、略奪艦隊から民間船を救うために反転。
それに気づいたカイさんが、攻撃を止めて「俺は騎士だ!」と宣言──
「うふふ……さらに滑ってますよぉ?」
イレーネさんの笑顔に、カイさんがドキッとする場面は、作者子ちゃん的に“今週の萌え磁場”です!
そして最後のイレーネさんの一言──
「やはり、カイさん。あなたがぁ、この内乱を鎮める決め手ですぅ。」
この言葉が、次世代の希望を感じさせてくれましたね!
次回、セリオンくんがどう動くのか?
そして、カイさんとイレーネさんの“磁場の共鳴”はどこへ向かうのか──
作者子ちゃん、もうワクワクが止まりませぇん!
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あとがき
これまでの章と違って若い人達が主人公になって動いているので少し安心してみていられますね。
とはいえ、ラートリーが動き始めました。
どうなることやら。予想つきます??
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