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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第五章 風の選別、律の胎動

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第五十六話 籠城戦

第一次ベアロッニャの戦いではカイは手痛い打撃を受けた。

幸いほとんどの艦船は中破・大破に留まり、損失は最小限に食い止めることが出来た。


ベアロッニャ星系はクリムゾン陣営の領土であるため、その星系要塞のドックでは第5艦隊の修理を行うことが出来る。ただし、これらの被害を考えると相当時間はかかるだろう。


緒戦では第5艦隊が第4艦隊を押していたため、イレーネ側にも一定の被害は生じていた。

だが、イレーネの指揮もあって、小破・中破にとどめたため、彼女はこのままベアロッニャ星系要塞の攻略を継続している。


「カイさん、意外と冷静でしたねぇ・・。要塞に引きこもってしまいましたぁ。

 まずいなぁ・・・。攻めづらいですねぇ。」


旗艦〈ニャンユゥ〉のブリッジからベアロッニャ星系要塞を遠目に眺めてイレーネがぼやく。


「時間をかけるとぉ、せっかく打撃を与えたのに第5艦隊が復活してしまいますぅ。」


ただぼやいているように見えながらも、イレーネは頭の中で攻め口をいくつもシミュレートしては、問題点を見出して上書きしていた。


やはりネックになるのは要塞の高出力ジェネレータを使った、複数極大レーザー砲である。


ミサイルは第一次の戦いで見せた粒子硬化器〈アストラ・ヴェイン〉によって、防げることは刷り込んだ。だがアストラ・ヴェインでは極大レーザーを偏向させることはできない。防御するためにはシールドにエネルギーを集中する必要があって、そうなると主力の攻撃手段がこちらは実弾兵器にかたよることになるだろう。


「あの要塞の分厚い装甲を破るのはぁ・・。大変かぁもしれませんねぇ。」


それでもなおイレーネは諦めとは違う表情で考え続けていた。


一方、ベアロッニャ星系要塞でもカイが要塞総司令を兼務し、この籠城戦を指揮を執っていた。


「イレーネ、変な奴だったが、ただ者じゃないな。

 かつてレイナ殿と戦場を共にした時、その実力に戦慄したものだが、

 あの女もそれに勝るとも劣らない。

 シズク陣営、人材の厚さは我ら以上ということか。」


目を瞑り静かに考えこんでいたカイだったが、目を開けるとそこには勝利を信じる武人の顔があった。


「シズクやラートリーとの戦いのために取っておきたかったが、あんな女に負けっぱなしというのも性に合わない。

 例の先駆兵器を使う。」


彼は参謀に指示をだした、

先駆兵器―――ニャニャーン神聖帝国が、先帝ココによって勝利を掴んだ先駆懲罰戦争で得られたのは、栄誉だけではなかった。打ち破られた彼らの艦船デブリは、まさに宝の山であり、未知のテクノロジーの集合体だったと言える。


シズクやラートリーはその重要性を認識しており、戦勝と同時に極秘裏に回収を進めた。それらのデブリから得られたテクノロジーが先の戦いで使われた”タキオンランス”や”アストラ・ヴェイン”である。


トウガは先駆との勝利に喜び、デブリ回収では後れを取っていた。

しかし、ニュクスの乱でシノが政争を諦めた際、シノが回収したデブリや、そこから得られた新テクノロジーが、かつての上司でもあり、恩人でもあったトウガには、共有されていた。


シノは、今後起こりうるシズクやラートリーによる動乱を予測しており、その解決をトウガに託していた。そのシノも「シノの乱」と後世で呼ばれる内乱によって、既にこの世から去っていた。

彼女の生前の機転が今のクリムゾン陣営を救ったことになる。


今回、カイが言った先駆兵器とは、まさにそのシノの遺産でもあった。


先駆兵器も万能というわけではない。アストラ・ヴェインも先駆艦隊の標準装備ではなかった。

つまり何かしらの制約が存在する。その制約はカイには見当はつかない。

おそらくアストラ・ヴェインを装備するために何らかの第4艦隊は何かを犠牲にしているか

量産に向かない、今回の戦いにおける秘密兵器だったか。


同じくカイが用意した先駆兵器も制約があった。

あまりに高出力であるがゆえに、艦船のジェネレータでは起動させることができない。

つまり要塞専用の先駆兵器だ。

だが、今回の籠城戦においては、それは何の制約にもならない。

まさに勝利を確信する最終兵器となりうるのだ。


カイは要塞副司令と今回の作戦を事細かに打ち合わせた。

そして、要塞の指揮を副司令に任せて、彼は健在である第5艦隊で出撃し、要塞内の砲台射程内に待機した。その戦力は第4艦隊の4割ほどしかなく、艦隊戦ではなく、要塞対艦隊の補助的戦力として出陣したことになる。


それを見定めたイレーネは再び考え込んだ。

そしてしばらく考え続けている。


カイからの宣戦布告通信が再びイレーネの旗艦〈ニャンユゥ〉に届いた。


「おい、巨乳お化け!

 一度くらい勝てたからと言って図に乗っているわけはあるまいな!」


「・・・。えー?」


その言葉を受けたイレーネが表情を崩さずに、かなりの間をおいて続けた。


「セクハラですぅ。」


カイが少し前のめりになる。そこにつっこむか。

そのまま、それを無視して続けた。


「まぁ、いい。そりゃ悪かったな。

 だが、俺は同じ相手に二度とは負けんぞ!

 この要塞を落とせるものなら、かかってこい!

 俺は逃げも隠れもせんぞ!」


そういうとイレーネの返事を待たずに通信を切った。


「はぁい、望むとこ・・・あ・・・切られた。」


そこで少し悔しそうな顔をしたイレーネだったが、ようやく笑みが戻る。


「ようやく勝ち筋がぁ、見えましたぁ!カイさん、あなたの連敗ですぅ!」


イレーネは再び、艦隊内の全艦に命令コードを送信した。


「全艦、命令コードに従って全軍突撃です。」


第4艦隊はシールドを前面に絞ってフルエネルギーで展開し、同時にアストラ・ヴェイン起動した。


彼女の勝ち筋は要塞に対してではない。カイに対してだ。

カイさえ倒せば要塞は無血でも開城は可能かもしれない。

彼は彼自身の存在の大きさを自分では分かっていないようだ。


そして、カイは第4艦隊の4割程度というまさに恰好の獲物と言える状態で城から出てきたのだ。

おそらくそれは彼の武人の矜持がそうさせたのだろう。

そして、それこそが彼の弱点であり、イレーネの勝ち筋でもあった。


「カイさん~、突撃が得意なのはぁ何もあなただけじゃぁないですよぉ!

 要塞レーザーはぁ、しばらくシールドで止められますぅ。

 そして要塞と違って~、カイさんの艦隊だったらぁ、

 ミサイルでも十分沈められるんですぅ!」


穏やかな普段のイレーネからは想像もつかない、苛烈で高速、そして一糸乱れぬ突撃が、カイの第5艦隊を襲い掛かった。それはまるで洪水のような怒涛の波動だった。


そして、カイは迫りくるイレーネの艦隊に対して、その場で動かず追加装甲を前面に展開して防御に徹した。


「イレーネ、俺を猪武者とでも思ったか?違うな、俺は餌だよ。お前を釣るためのなっ!」


要塞レーザー砲が第4艦隊に狙いを定めた。


それと同時に要塞内のハッチが複数開いて特殊な装置が現れた。

カイが叫ぶ。その指示に従って先駆装置が動き出した。


「シールド妨害装置ヴェイル・ディスラプター、起動!

 1分後、要塞レーザー砲を一斉射撃!!」


第4艦隊とその行先に向けて、局所的にヴェイル・ディスラプターから素粒子励起フィールドを生成された。同時に第4艦隊でアラームが鳴り響いた。


「提督っ!大変です!シールドが、シールドの出力大幅に減退しています!!」


普段冷静で、慌てることのないイレーネが、目を見開いた。


「先駆兵器ぃ?!ぜっ全艦!きっ緊急FTLジャンプ起動ぅっ!!!」


速い、まだ戦いも始まっていないが、彼女の判断は何者よりも速かった。

それは勝敗が何一つ不確定であると思われる時点での緊急退避だった。

緊急FTLジャンプは非常事態時にのみ行われるFTLジャンプで、移動先を自動計算で算出し、その場に強制的にジャンプする。そのため、事故にあう艦船も、行方が分からなくなり、合流に時間を要する場合も起こりうる。

何よりも艦船に対する負荷が高く、場合によっては大破相当の被害を受けることも考えられるのだ。


その緊急FTLジャンプをまだ双方1発も攻撃を撃ちこむ前にイレーネは指示した。

異常事態で各艦長が混乱しそうになるが、シズク陣営の艦隊の訓練度は異常に高い。

すぐに冷静に指示に従い、その場で停止して防御に徹しつつ、緊急FTLジャンプの準備に入った。


カイの指示によって、要塞から極大の要塞レーザー砲が幾重も第4艦隊に降り注いだ。

最大威力で展開したはずのシールドがいとも簡単に打ち消され、追加装甲、並びに艦船の装甲を撃ち抜いていく。

アストラ・ヴェインを搭載するためには、ある一定の追加装甲を犠牲にする必要がある。

つまりレーザー砲の直撃を受ければ艦隊に大ダメージを受ける恐れがあるのだ。


次々の第4艦隊の艦船が大破・中破していく。だがイレーネのあの判断によって、被害艦は爆散するよりも早く緊急FTLジャンプで、この星系からワープアウトしていった。


ほぼ全ての艦船が中破以上のダメージを受けたが、奇跡的に一隻の撃沈もなく、第4艦隊はベアロッニャ星系から撤退が完了した。


被害がないとはいえ、第二次ベアロッニャの戦いは完全なカイの勝利と言えた。

イレーネは予定以上に時間がかかった上で、被害艦をまとめ上げてシズク陣営の星系要塞ドックに避難した。そこでの修理には相当の時間がかるだろう。


「カイさん・・・舐めてましたぁ。あなたは、強いですぅ。次は私もぉ!負けません!!」



若い世代の互角の戦いを繰り広げる中、帝都では一つの大きな出来事があった。


ラートリーがウララを上手く言いくるめた上で、下部主力艦隊の第6艦隊を、主力艦隊に格上げすることを決定した。大幅に戦力が増強され、主力艦隊は6艦隊構成となった。


それは、ラートリーがついにセリオンを影から表の存在へと昇格させるためのものであった。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


第五十六話「籠城戦」、いやぁ……今回はもう、カイさんの“罠”が炸裂しましたね!

イレーネさん、完全に釣られちゃいましたぁ~!


烈風と水影、再び激突!

前回の敗北を受けて、カイさんはベアロッニャ星系要塞に籠城。

イレーネさんは「このままじゃ第5艦隊が復活しちゃいますぅ…」とぼやきながらも、しっかり勝ち筋を探してました。

そして、ついに見つけた勝ち筋──それは「カイさんを倒すこと」!


要塞じゃなくて、カイさん本人を狙うという、まさに“静謀の逆転発想”でした!

でも!カイさんはただの猪武者じゃなかった!


カイさんが用意していたのは、なんと「シノさんの遺産」でもある先駆兵器!

その名も──シールド妨害装置〈ヴェイル・ディスラプター〉!

この装置によって、イレーネさんの艦隊のシールドが一気に弱体化!

そして、要塞レーザー砲が容赦なく降り注ぎます!


「ぜっ全艦!きっ緊急FTLジャンプ起動ぅっ!!!」


イレーネさんの判断、早すぎて逆に笑っちゃいましたね!でも、それがなかったら第4艦隊は壊滅してました…。


結果、第二次ベアロッニャの戦いは、カイさんの完全勝利!

イレーネさんは「舐めてましたぁ…」と反省しつつ、次の戦いに向けて修理に入ります。


今回の戦いは、ただの艦隊戦じゃありません。

カイさんが使った先駆兵器は、かつての英雄シノさんが残した“遺産”でした。

彼女は、恩人であるトウガさんに技術を託していたんです。

それが今、カイさんの手によって“帝国を守る力”として使われた──この構造、泣けますよね…。


そして、帝都ではラートリーさんがまた動きました。

第6艦隊を主力に格上げして、ついにセリオン君を“表の存在”にしようとしている…!

ラートリーさん、もう完全に“帝国の磁場を操る者”ですね!


次回、イレーネさんはどう反撃するのか?

そして、セリオン君はどんな風に登場するのか──作者子ちゃんもドキドキです!

読者ちゃんは、烈風派?それとも水影派?

作者子ちゃんは……やっぱりどっちも好きぃぃぃ!!


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あとがき


烈風のカイ、静謀イレーネ、まさにライバル同士といった感じですね。

この5章は若者達の絆と希望、そして戦いがテーマなので艦隊戦多いです。

SF好きにはちょっとだけ楽しいですかね?

心理戦の方が面白い?あぁ・・・それは作者の艦隊戦を描く力量不足なので甘い目で見逃してください。


今後、ラートリー派を交えた三つ巴が始まりそうです。


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。

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