第五十二話 帝室の沈黙
第五章 風の選別、律の胎動
誤信と策謀が交錯し、忠義が狂気へと変貌した。
エリスとレイナ──かつて並び立った二人の提督は、互いを信じることができず、ついには刃を交えるに至った。
その衝突は、神聖帝国の中枢を揺るがし、かつての英雄たちを焦土へと導いた。
そして、誤解の果てに散った命が、帝国の未来を大きく変えていく。
赤と青──二傑の自滅が、帝国の均衡を崩し、焦土の時代を招いた。
これは、信念が忠義を凌駕した時代の記録である。
「二つの旗が翻る。
一つは怒りに燃え、
一つは誇りに凍る。
かつて並び立った英雄たちは、
今や互いの影を踏みつけ、
信じたものを疑い、
守るべきものを壊す。
銀河は見ていた。
忠義が誤信に染まり、
正義が私怨に堕ちる瞬間を。
焦土は、選択の果てに残るもの。
そして帝国は、
焦土の上に立つ者を、
新たな覇者と呼ぶ。」
かつての英雄
”赤炎の槌”トウガ・クリムゾン
”蒼氷の剣”シズク・アジュール
この両雄の争いは、”ニャーニレムの戦い”を経て、神聖帝国全土を巻き込む戦火へと発展した。
両陣営は帝国内でも最大規模の勢力を誇り、各地の大貴族を従属させていた。
彼らもまた、両雄に呼応し、各地で相争い始める。
今までの内乱と異なる点──それは、帝室が関与を許されなかったことである。
この内乱を鎮圧しうるものは存在せず、帝室はこの戦火を黙認せざるを得なかった。
それは、帝室の権威の失墜を意味していた。
民はこの事態を悲観し、ただただ新たなる救世主の出現を願った。
「なぜだ!!なぜ陛下はお会いして下さらぬ!」
シズク陣営に対して極秘で皇宮を訪れたトウガは、宮臣たち5人に抑えられて、なおそれを引きずりながらウララとの謁見を願った。
「なりませぬ、トウガ様!!」
「なぜだ!この大乱を止めるためには、もはやあいつを朝敵として定めていただくしか、策はない!」
「ですから、なりませぬ!!この騒動の当事者たるトウガ様を謁見させるわけには参らぬのです!」
「うぅ!!なぜだ!!」
トウガの怒号で宮臣たち、皆が身を縮ませた。
「陛下の御為です!」
恐怖に震えながらも、なおトウガを押しとどめる彼らをみてトウガも諦めた。
「分かった。だが、これだけは陛下に必ずお渡ししてくれ!」
「は!必ず!」
そういうとトウガは宮臣に、シズクの朝敵指定を懇願する奏上書を手渡した。
宮臣が姿勢を正して受け取ると、深く礼をして、ウララの元へと向かった。
それを見届けたトウガは肩を落として立ち去った。
「シズク様、これを。」
先ほどの宮臣だ。
「うむ。これは?」
「トウガが陛下へ直訴に参りました。その書状です。」
「そうか。」
臣、謹んで奏上つかまつる。
いま、帝国の光を遮らんとする影あり。
その者ら、陛下の恩威を忘れ、逆心を懐き、
朝廷の威を穢すに至り候。
その者、シズク・アジュール女公。
臣、これを看過すること能わず。
陛下の御名のもと、彼らを朝敵と断じ、
天下にその逆賊の名を刻み給え。
臣の願いは、ただ一つ。
陛下の御威光を以て、正義を照らし、
忠義の剣を振るう許しを賜りたく候。
「ふふふ、トウガも詰めが甘い。
ご苦労だった。少し待て。」
「は!」
シズクはその奏上書をそのまま書き改めた。
朝敵は”トウガ・クリムゾン公爵”。
「これを私からの奏上として陛下へお届けせよ。」
「かしこまりました。」
一人になってからシズクはつぶやいた。
「トウガも馬鹿な奴だ。あんな紙切れ一つで何も変わらん。
奴がいる限りな。」
後日ウララは悩んでいた。
「陛下どうなされました?」
ラートリーが心配そうに問いかけた。
現在、ラートリーが帝室を守るためにニャニャーンに常駐していた。
この大乱においてもウララが利用されない理由はラートリーの武力によるものだった。
「ラートリー候、実は・・・。シズク女公がトウガ公を朝敵にと。
とても心苦しいのですが、民の事を思えば、これを認めようと考えております。
この内乱を早期に解決させるためには、どちらかが優勢になるのが良いかと思うのです。
別にトウガ公を滅ぼす必要はないのです。
あの二人は忠臣、これ以上争わせるわけには参りません。
これを止められるのは私しかいないと考えております。」
「なりませぬ。」
「なぜですか?」
「彼らの力は強大にして、互角。
朝敵にしたところで何も変わりません。
もし一方に陛下が加担為されれば、もう一方からの恨み激しく
陛下の御身に危害が及ぶ恐れがあります。」
「ですが、勅命を与えれば少なくともシズク女公は優位に立ちます。
シズク女公は賢明な忠臣です。あの者はその尊厳さえ守られれば
矛を収める柔軟性はあると思います。
それにトウガ公も忠義厚き者です。
私の言葉であれば、一時の恥辱を耐えてでも和議に応じてくれるはずです。」
「はい、そうかもしれません。
ですが、彼らは現在、破裂寸前のガス風船のようなもの。
もし、ここで無理やり鉾を収めさせた場合、そのガスはどこに向かうでしょう?
内にです。それはさらに彼らの内にたまり、今よりも激しい衝撃を帝国に与えるでしょう。
今ならまだ彼らも理性を保ちつつ争っています。
もう少しガス抜きを施す方が良いのです。
もし、トウガがガスを制御しきれなくなったら・・・・。
朝敵するか否かは冷静に判断する必要があるのです。」
ウララは残念そうに俯いた。
「そっそういうものですか・・。分かりました。
この件、ラートリー候にお任せします。
シズク女公の気を害さぬように上手く伝えなさい。」
「は!御意!」
馬鹿な娘だと思っていたが、油断できんな。
ココ陛下の血統を確かに受け継いでいるようだ。
だが、甘い。
この国における己の力を、未だ知らぬようだな。
お前が加担したら一方は瓦解する。
あるいはお前の言う通り、このまま早期に和議が成立するだろう。
それくらいお前は影響力をもっているのだ。
だが、そうはさせん。
シズクの奏上は却下された。
「ふん・・ラートリーめ。」
シズクは始めから予見していたかのように吐き捨てた。
「この戦は早々に止めねばならん。痛み分けにするしかないのだ。
あの馬鹿さえ、納得すれば・・。
ラートリーが邪魔だ。奴が居なければ・・・。」
シズクはウララに賭けてみた。
だが、ウララではラートリーの敵にはならない。
「この戦、長引くぞ。」
シズクは深いため息をついた。
その後、内乱に乗じて帝都に対して攻撃を仕掛ける貴族勢力が存在した。
この暴挙はラートリー率いる第3艦隊の活躍により早期に鎮圧・処断が完了した。
だが、この危険性を考慮して、ラートリーによってウララは安全な場所へと避難することになった。
ウララの居場所は現状不明ではあるが、完全に行方不明というわけではなくラートリーによって保護されているという形である。
ラートリーが奏上やウララの命令を仲介することで、今まで通り政治は行われた。
だが、これはウララが外の情報から遮断されたことを意味する。
シズクはこの危険性を重々認識していたが、トウガとの戦いで後手に回った。
帝都襲撃の勢力もおそらくラートリーによる誘導であろう。
シズクやトウガはウララの状況を探る必要があり、戦争だけに集中することが難しくなった。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
第五章、いよいよ始まりました!
今回は、**「帝室の沈黙」**という、不穏なタイトルにふさわしいお話でしたね…。
シズクさんとトウガさんの戦いが、ついに帝国全体を巻き込む大戦へと発展してしまいました。
今回のポイントは、**「帝室の孤立」と「ラートリーの策略」**です!
帝室の孤立、英雄たちの悲劇
エリスさんの死、そしてレイナさんの死によって、トウガさんとシズクさんの心は、完全に**「復讐」に染まってしまいました。
彼らの争いは、「個人的な私怨」という、最も恐ろしい火種によって、神聖帝国全体を巻き込む「赤青の内乱」**へと発展してしまいました。
これまで、内乱の鎮圧には、帝室の勅命が大きな力を持っていました。
でも、今回は、帝室が全く関与できません。
なぜなら、トウガさんとシズクさんという、帝国最強の二つの勢力がぶつかり合っているからです。
どちらかに肩入れすれば、もう一方からの恨みを買い、帝室そのものが崩壊しかねません。
トウガさんは、この戦いを終わらせるために、**「シズクを朝敵にしてほしい」とウララ陛下に直訴します。
シズクさんは、トウガさんの直訴を知り、**「トウガを朝敵に」と逆に奏上します。
この二人の行動は、「相手を朝敵にすれば、戦いを早く終わらせることができる」という、彼らなりの「苦渋の決断」でした…。
でも、その決断は、帝室の「沈黙」**によって、むなしく終わってしまいます。
ラートリーの巧妙な策
ウララ陛下は、**「民のことを思えば、どちらかを朝敵に…」**と、正しい判断をしようとします。
でも、そこに現れたのは、ラートリーさんでした。
ラートリーさんは、ウララ陛下に**「なりませぬ!」と進言します。
彼は、「彼らは破裂寸前のガス風船のようなもの。ここで無理やり矛を収めさせれば、内にガスがたまり、さらに激しい衝撃を帝国に与える」**と、巧みな言葉でウララ陛下を説得しました。
「いやいや、ラートリーさん!そのガス風船、あなたが作ったんでしょ!?」
とツッコミを入れたくなりましたね!
ラートリーさんの狙いは、**「トウガとシズクを戦わせ続けること」**です!
この戦いが長引けば長引くほど、彼らは力をすり減らし、帝国の権威は地に落ちていきます。
そして、その時こそ、ラートリーさんが漁夫の利を得る、絶好の機会が訪れるのです…。
「シズクもトウガも、俺が最も欲しい手駒だ。」
ラートリーさんの恐ろしい野望が、着々と実現に向かっています…。
このままでは、帝国は、内側からボロボロになってしまいます。
この悲劇を止めることができる人物は、もういないのでしょうか…?
もうラートリーさんは野望を隠してませんね!
でも、今回の件で一番悪質なのはウララちゃんを守る振りしてウララちゃんをどこかに隠したことですね。帝都からいなくなったせいで、トウガさんやシズクさんは直接ウララさんと話が出来なくなりました。
そして、ウララちゃんにはラートリーが都合のいいことをしゃべる恐れが出てきたのです。
昔から朝廷にこういうことをする寵臣が現れると滅亡の道に進むんです……。
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あとがき
第5章の開始です。
第四章で散った二つの「花」──エリスとレイナ。
徒花と断じられた彼女達、その死は帝国の焦土化を招きます。
何一つ思い通りにならないこの世界。
これから物語は、中間地点を折り返しました。
この「焦土」の果てに、何が残るのか。
そして、帝国を蝕む「真の敵」との決戦は、どのような結末を迎えるのか。
皆さまの予想をお聞かせください。
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