第四十九話 花は刃となりて
エリス、猛追。
レイナはそのようなことを露とも知らず、ただただ時間をかけながら行軍していた。
この間にシズク様とトウガが、なんとか誤解を解き、和解の道を探ってくれるはずだった。
ニャーニレム星系
レイナは考えていた。
何故にこうなった。
いくらエリスが家族思いであったとしても、この行動と思念は常軌を逸する。
何者かによって、焚きつけられたのは火を見るよりも明らかだ。
そのことはシズク様が早くより予見していた。
そしてそれはラートリーの仕業であるとも断言していた。
しかし、ラートリーにはこれらの離間策を仕掛ける隙は全く無かった。
だからこそ、シズク様といえどもこの状況を打開しえていない。
この裏に潜む真犯人を突き止めない限り、いつまでも後手に回る。
キューイ!キューイ!
突然、艦内警告音がけたたましく鳴った。敵対行動を検知した音だ。
「何事だ!落ち着いて分析せよ!ここはまだ神聖帝国の内地だぞ!」
情報参謀が叫んだ。
「敵対的索敵を受けました! 仕掛けた相手は・・・。」
・・・嫌な予感しかしなかった。
「友軍の第5艦隊です!」
レイナは歯を食いしばりながらモニタを睨みつけた。
「全艦!第一種警戒態勢!第5艦隊に向けて急速回頭!
同時に方円陣を取れ!
各艦、前面に補助装甲を展開!
あわせて前面シールドに全出力を回せ!!」
レイナの指示は完全に敵艦隊との遭遇したものだった。
副官を含め、乗組員たちは目を丸くした。
「いそげっ!!」
訓練でも冗談でもない。それが伝わった全艦が一斉に隊形変更を行う。
まさに有事のそれで、何一つ油断はなく、万全の防御態勢をとった。
「第5艦隊、エリス提督は敵に堕ちた。油断するな!
ただし、こちらからの攻撃は固く禁ずる!
第一種警戒態勢を維持して待機せよ!」
レイナの第4艦隊の臨戦態勢と同時エリスの第5艦隊も隊形を変えた。
前面に重装艦で固め、後衛を守りつつ、高速艦を左右に展開、攻撃艦はレイナ艦隊の中央を捉えていた。
こちらも強敵を前にしたような布陣だ。
「レイナ提督!第5艦隊から通信です。繋ぎますか?」
「繋げ!」
通信接続とともにモニタに腕を組んで仁王立ちするエリスが見えた。
その目は憎悪の炎が灯り、迸る殺気は誰もが感じえた。
「レイナ、どこに向かうのかしら?」
感情の起伏を感じさせない冷淡な口調でエリスが問いかけた。
「どこ?ニャイネール星系に決まっている。何が言いたいの?」
彼女の瞳はほんの少しもぶれることなくレイナを睨みつけている。
「ニャイネール星系?ここはニャーニレム星系よ。
ディモン伯爵なんて遅行行軍するまでもない。
あなたなら到着しさえすれば3日もあれば落とせるでしょ?」
「いや、ニャケンプ星系軍港の副司令から星間レーダーの故障の報告を受けて
迂回路を選んだのよ。」
ますますエリスの目が険しくなる。
「下手な嘘を・・・。 私は総司令部でニャケンプ星系に何も問題ないことは確認済みよ。
それにニャケンプ星系軍港司令にも直接確認した。
あなた、どういうつもり?」
しまった・・。裏を取らなかった。
シズク様の意図と一致していたため、副司令の言葉を鵜呑みにしてしまった。
あいつがラートリーの手下であったとしても何の不思議もない。
「いや・・だとしたら私も副司令に騙されて、迂回路を取らされた。」
「ふん!白々しい。あなたの狙いは見えているの!
この隣にあるビーニャン星系でしょう!!
またニャーニレム星系の星系レーダーの故障と司令本部に嘘の報告をするのかしら?」
レイナは体から冷や汗が流れるのを感じた。
手元の星間図からビーニャンを検索して、その情報を横目で確認する。
トウガの次男リオ提督が率いる第9艦隊
レイナは全身から力が抜けそうになった。
やられた・・!
完全に乗せられた。
これでは言い逃れができない。
まさかこんなところにエリスの義弟が・・・・。
「ま・・待って。エリス。あなたは誤解している。
少し落ち着いて。
わかったから・・進路を変える。
ビーニャンには一切近づかない。」
懇願するようにレイナは頼み込んだが、エリスの表情は変わらなかった。
「そう・・否定しないのね。やはりあなたの狙いはリオ。
今ここでリオを守れたからと言って、それが次もそうだとは限らない。
お前をここで殺さなければ、決して安心できない!」
そう叫ぶとエリスを腕を振りかぶった。
第5艦隊から一斉に波状攻撃が行われる。
レーザーが宇宙を照らし、ミサイルが次々と撃ち込まれた。
第4艦隊のシールドが大きく乱れ、追加装甲がはじけて爆音を上げる。
「・・・ふ・・ふざけるなぁ!!
エリス、否定をしたところでお前は理解しないだろう!
そして今と同じことを言ってきたはずだ。
お前は狂っている!!
話にならんっ!」
レイナが遂に目を剥いてエリスを睨みつけ、叫んだ。
「そうよ、私は狂っている。
でも義弟達を、お前達鬼から守るためなら狂っても構わないとさえ思っている。
ここで死ね、レイナ!
安心しろ! さみしくないように、この後シズクもこの手で殺してやる!」
レイナの握り締めた拳には自らの爪が食い込んで血が滴った。
そのまま、全艦に号令を下した。
「シズク様には手をださせない!
全艦、エリスは帝国の裏切者だ!シズク様の名のもとに誅殺する!
攻撃禁止を解除!撃てぇ!!」
第4艦隊と第5艦隊が真っ向から撃ち合った。
双方激しい爆炎と共にいくつかの艦船が宇宙の塵と消えた。
「レイナ提督!第5艦隊の突撃です!」
双方の弾幕が飛び交う中、第5艦隊の重装艦が列をなして突撃してくる。
「弾幕緩めるな!実弾を全て撃ち尽くせ!反物質ミサイルも不定期に混ぜてやれ!」
前宇宙時代の古い技術である核弾頭をはるかに超える強力な反物質弾頭を搭載した反物質ミサイルが弾幕の中で大きな光をあげた。
その光に飲まれて一瞬で数隻が消滅する。
だが、エリスの突撃は勢いが止まない。
弾幕をはじきながら突進しつつ、強力な攻撃を放つ。
レイナ艦隊の前衛が次々と中破し、戦線から離れようとしている。
「さすが、紅蓮の烈花・・。敵に回すと非常に厄介だな。」
レイナも苦い顔をしている。
「全軍後退しつつ、弾幕を強化しろ。力をいなせ!まともに受けるな!」
混戦の様相が見えかけた、その時。
星系境界に熱源が多数出現した。
光の粒が組み合わさって艦船を構築していく。
第1艦隊と第2艦隊が大軍勢が次々と星系内に現れた。
「やめよ!!」
「やめろ!!」
シズクとトウガの叫び声が、第4艦隊と第5艦隊の旗艦環境に響いた。
さすがにエリスの攻勢が止まる。
その間に後退していたレイナの第4艦隊は第5艦隊と一定の距離を置いた。
すぐさま、第1艦隊はレイナの傍へ、第2艦隊はエリスの傍へ最大船速で近づいた。
第4艦隊、第5艦隊の多数の艦から炎と煙が上がる。
一定の静けさが訪れた。
「エリス!待て!落ち着け!」
「義父上!止めないでください!こいつは!レイナはリオを狙ったと自白しました!」
「黙れ!!落ち着けと言っている!!」
「義父上・・リオを失ってもいいのですかっ!!!」
そういうと髪を振り乱し、目から大粒の涙を飛ばしながら、エリスはモニタに顔を寄せた。
「レイナはリオを狙ってな」
ぱちん・・・・。
エリスが叩くように通信遮断のスイッチを押した。
そして再び、レイナの艦隊に攻撃を再開した。
「馬鹿娘がっ!」
トウガは叫ぶと全艦に向けて指示を出した。
「義父上っ!!」
第2艦隊のトウガが、第4艦隊と第5艦隊、レイナとエリスの射線の真ん中に割り込んだ!
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
今回のお話は、もう、本当に息をするのを忘れるくらい、手に汗握る展開でした!
エリスさんとレイナさんの**「友情」が、ついに「刃」**となって、ぶつかり合ってしまいました!
友情の終わり、戦いの始まり
レイナさんは、シズクさんやトウガさんが誤解を解いてくれることを信じ、悠然と行軍していました。
そんな彼女に突きつけられた、**「友軍であるはずの第5艦隊からの敵対的索敵」**という、恐ろしい事実。
レイナさんは、すぐに**「これはエリスさんを操る何者かの策略だ」と見抜き、あくまでも防御に徹しました。
でも、エリスさんは、セリオン君の仕組んだ罠と、レイナさんの「偶然の自白」によって、完全に「復讐の鬼」**と化していました。
「下手な嘘を…。私は総司令部でニャケンプ星系に何も問題ないことは確認済みよ。」
「ふん!白々しい。あなたの狙いは見えているの!この隣にあるビーニャン星系でしょう!!」
エリスさんの言葉に、レイナさんは言い逃れができない状況に追い込まれます。
**「まさかこんなところにエリスの義弟が…」と、心の中で絶望したレイナさんの反応が、エリスさんの「確信」**をさらに強めてしまいました。
そして、エリスさんは、「あなたをここで殺さなければ、決して安心できない!」と叫び、攻撃を開始。
レイナさんも、「この狂ったエリスを止めなければ、シズク様が危ない!」と、ついに反撃に転じました。
こうして、二つの花が、「友」ではなく「敵」として、真っ向から激突してしまったんです!
英雄の迷い、そして決断
そこに駆けつけたのは、トウガさんとシズクさん!
二人の叫び声が、激しい戦場に響き渡り、一時的に戦いは止まります。
トウガさんは、必死にエリスさんを説得しようとしました。
でも、**「レイナはリオを狙ったと自白しました!」というエリスさんの言葉は、トウガさんの心を揺らします。
そして、エリスさんはトウガさんの通信を遮断し、再び攻撃を再開するという、「狂った」**行動に出ました。
「馬鹿娘がっ!」
トウガさんは叫び、レイナさんとエリスさんの間に、自分の艦隊を割り込ませるという、とんでもない決断を下しました!
これは、**「どちらも撃たせない。どちらも死なせない」という、トウガさんの「親」としての、そして「英雄」**としての、命をかけた行動です!
果たして、トウガさんは、この「復讐」に燃える二人の花を、再び咲かせることができるのでしょうか?
そして、このすべてを裏で操る**「ラートリーの影」**は、この状況をどう見ているのでしょうか?
作者子ちゃん、もうハラハラしすぎて、心臓が持ちません…!
次回が待ち遠しいです!
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あとがき
第4章クライマックスです。
暴走エリス・・彼女も家族愛から動いているのが悲しい所ですね。
さぁ、トウガはバカ娘を止める為に敢えて射線に立って、落ち着かせようとしますが
この結末は・・・。
次回トウガ死す・・・・。嘘です。まだわかりません。
次回どうなるか分かった方は又聞かせてください。
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