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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第四章 赤青(せきしょう)の徒花

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第四十八話 航路の先に

軍港内、シズクは出航前のレイナの背中を黙って見つめていた。

そこへトウガが現れ、声をかける。


「トウガか。エリスの様子はどうだ?」


「俺の言葉には従っている。だが納得しているようには見えないな。

 なぜ、あそこまでレイナを憎むんだ?」


「だから言っただろう。

 エリスがラートリーの讒言に踊らされているだけだ。」


「しかし、エリスはラートリーとは個人的には接触をしていない。

 本当はお前たちの方が黒なんじゃないか?エリスの確信具合は尋常ではない。」


「まだ疑っているのか。

 私ならともかく、レイナがそこまでエリスに嫌われる理由は考えられん。

 帝国の未来はお前にかかっている。

 エリスを落ち着かせろ。

 もし疑いが晴れぬというなら、ある程度なら我々の情報を公開しても構わん。」


「・・・、お前が自分から公開する情報なんて信用できると思うか?

 なぁ、シズク。そういえばだが、カナリアのことを覚えているか?」


シズクは意味が分からないと言った顔をした。


「カナリア?・・・ん?お前、鳥なんて飼っていたか?

 なんだ、気持ち悪い。変な顔をするな。

 知らん。興味がない。」


長年シズクとは顔を合わせているが、それは本気で興味がないことに対する顔だった。


「そうか。結構可愛がっていたんだが。」


「知らんわ!お前のペットのことまで私が諜報するとでも思ったか?

 そんな話は別のところでしてくれ。」


「いや、ミオリが好きそうだなと思っただけだ。」


「・・・、ミオリか・・。」


そのまま少し考えこんだシズクを見て、トウガは少し晴れやかに笑った。


「あははは、お前も娘のことになると少し変わるな。エリスの事は任せろ。」


「ん?なんだ?気持ちの悪い奴だな。」


侮蔑した表情のまま、シズクは立ち去った。


トウガはようやく確信が持てた。


違和感だ。カナリアの発言でずっと付きまとっていた違和感だ。


カナリアは常にシズクの影に怯えていた。

エリスに保護されたのもシズクから逃れるためだった。

だが、当のシズクは、カナリアのことは全く興味すら示していない。


カナリアの確保でシズクがエリスに後れを取るなんてありえない。


カナリア自体は嘘をついている様子はなかった。

だが、洗脳することなどいくらでもできる。

これはシズクと俺に向けられた罠だ。


シズクとレイナは白だ。


エリスを止めねばならん!


トウガも自邸に向かって急いだ。


ラートリーとレイナはそれぞれの討伐対象に向けて艦隊を発進させた。




一方、その前夜、セリオンは次の一手のためにFTL航路を眺めていた。


父上は敵を油断させるためにあえて帝都を離れた。

ここが最後の締めを飾るに最適だ。

どうすればエリスに着火できる・・?


何度もレイナの行き先についてFTL航路図をなぞる。


何度も何度も。様々な航行パターンに沿って。


その度に星系の情報を確認した。



その時、セリオンが目を見開いた。


あった・・・。こんなところに特大の火種が。


「ふふははははははは!!!」


自室でセリオンが笑う。まるでラートリーのように。


「父上は褒めて下さるだろうか?」


セリオンは急ぎ、どこかに連絡をした。



次の日、ラートリーとレイナの出航が近く、帝都は慌ただしい。


シズクやトウガは軍港に居たが、エリスは一人、皇宮の庭園で佇んでいた。


「エリス殿。」


唐突に呼びかけられて警戒しながら振り返るとそこにセリオンが立っていた。


「またお前か。」


警戒しているのがよくわかる。セリオンは努めて平静に語り掛けた。


「また・・・少々懸念がありましてね。

 ・・・・レイナ殿のことです。」


無視する予定だったエリスがその言葉に食いつく。


「レイナがどうした?」


「失礼します。これをご覧ください。」


そういうと領国内星系のFTL航路図が示された。


「これからレイナ殿はディモン討伐のため、ニャイネール星系に向かいます。

 その場合、ここ、ニャニャーンからどのような経路で行くと思われますか?」


しばらく厳しい目でセリオンを睨みつけていたエリスだったが、黙って

指を使って、FTL予定航路をなぞった。


「はい、そうです。普通はその航路を使います。ですが、もし・・・。

 この経路を使ったとしたら?」


セリオンがやや遠回りをするFTL航路を指でなぞる。


「それがどうした?やや遠回りかもしれないが、到着が40日ほど遅れるだけではないか。」


「はい、そうです。ニャーニレム星系経由で行けば40日遅れる。

 普通はそんな経路を選びません。何か戦略上の理由でもなければ。」


「何が言いたい?」


苛立ちを隠さず、エリスはセリオンに詰める。


「もし、遠回りをする過程で、もう1星系・・さらに遠回りをした場合は?」


そういいつつセリオンは指でFTL経路をなぞり、その先にある星系をタップした。

その星系内の艦隊情報が拡大表示される。


そこには、国内最大規模の海賊団である赤毛猫海賊団の大艦隊と、トウガの次男リオ提督が率いる第9艦隊が映し出された。


「リオっ!?」


「そうなんです。ニャーニレム星系の隣の星系で今、リオ提督が戦っています。

 もし・・・レイナ殿がニャーニレム星系経由に進路を取られた場合・・・・」


そう言いかけたところでエリスは軍司令部に向けて走り出した。

取り残されたセリオンは薄ら笑いを浮かべた。



一方、航行中のレイナ艦隊に緊急連絡が入った。

ニャケンプ星系の星系軍港からだった。


「レイナ提督、ニャケンプ星系軍港からの緊急連絡です。」


「つなげ。」


軍港副司令からの直接回線だった。


「レイナ提督、申し訳ありません。

 当星系軍港で星系レーダーが故障してしまい、ただいまレーダーが使用できない状況にあります。

 もし、進行計画に余裕がおありでしたら、ニャーニレム星系の迂回路をお勧めいたします。」


副司令からの連絡に対して少しレイナは考えた。


シズク様からは、この遠征に関して時間をかけて討伐しろと指示を受けている。

ちょうどよい・・・。これも遅れの理由にしよう。


レイナはそう考えた。


「副司令、連絡ありがとう、当艦隊は敵に心理的な圧力をかけるために遅行行軍中です。

 迂回は問題ありません。

 ニャーニレム星系経由で進軍します。」


副司令は頷くと敬礼して通信を切った。


「当艦隊はニャーニレム星系経由でニャイネールを目指す!」


第4艦隊は奇しくもセリオンの思惑通りの進路を取った。



司令部の駐車場から全速力で走ってきたエリスは荒い息を吐きながら、航路参謀室に到着した。


最高顧問特権でレイナ艦隊の航路計画を入手した。


慌てて本部の航路参謀の一人に問いかける。


「え!? なぜ第4艦隊はニャーニレム星系経由で進行しているの?

 ニャケンプ星系で何かあった?」


航行参謀は慌てて端末から情報を確認する。


「いえ、特にニャケンプでは問題が発生しておりません。

 現在は遅行行軍中であると、第4艦隊から連絡を受けております。

 敢えて遠回りの迂回路をお使いになったのではないでしょうか?」


エリスはニャケンプで問題がないことまでしか聞いていなかった。


「レイナ・・やっぱり・・・。」


エリスの目は血走っていた。そのまま、第5艦隊の停泊地に向けて走り出した。


第5艦隊はエリスの指示で常に臨戦態勢を維持しており、補給も完全に済ませてあった。

そして艦隊クルーには第2種警戒配備を命じており、急な出撃に備えていた。


全クルーに向けて招集命令を出した。

半日もしない内に全クルーが集合する。


エリスは目的も告げずに、全艦の発進命令を出した。


「目標、ニャーニレム星系の第4艦隊。全艦最大船速で発進せよ!」




トウガはエリスを探していた。

邸宅やエリスが良く向かう先にも足を運んだ。エリスが見当たらない。

野生の勘か、何か嫌な予感しかしない。


軍高官専用の衛星特別電話で何度も呼びかけても一切反応しなかった。


その時、シズクから連絡が入った。


エリスの第5艦隊が無断で緊急出撃したという知らせだった。


トウガとシズクは急ぎ軍司令部に向かった。


事態の深刻さを悟った。

エリスはレイナを追い、全速力でニャーニレム星系に向かっているという事実だった。


トウガとシズクはウララの許可を取り、後を追うことにした。

幸い、彼らの艦隊は最近出撃しておらず、最新装備への換装時に完全補給されていたため、すぐに出撃が可能だった。


1日遅れでトウガとシズクもエリスの後を追った。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


今回のお話は、もう、本当に心臓がバクバクしました!

**「すれ違い」と「罠」と「誤解」**が、複雑に絡み合って、とんでもない事態になってしまいましたね!


トウガの確信、そして行動

まず、トウガさん!

彼はシズクさんと話す中で、ずっと心に引っかかっていた**「カナリア」の存在について尋ねました。

でも、シズクさんは「カナリア?鳥のこと?知らないわ!」**と、本当に心底どうでもよさそうに答えます。


この反応こそ、トウガさんにとっての**「真実」でした!

カナリアさんは、「シズクに命を狙われている」**と怯えていました。

でも、シズクさんは、カナリアさんのことなんて、全く気にしていなかったんです!


この瞬間に、トウガさんは確信しました。

**カナリアさんの話は、誰かによって仕組まれた「偽りの真実」**であり、**シズクさんとレイナさんは「白」**だと!

そして、エリスさんが、その罠に完全にハマってしまったことを悟り、彼女を止めようと急ぎます。


セリオンの最終段階

一方、ラートリーさんの「影」であるセリオン君は、父が帝都を離れた今が、**「最後の仕上げ」だと考えていました。

彼は、レイナさんの艦隊の航路図を丹念に調べ、「特大の火種」**を発見します。


それは、レイナさんの迂回航路の先に、トウガさんの次男、リオ提督の艦隊がいるという事実でした!


セリオン君は、この情報をエリスさんに伝えます。

「レイナさんの航路の先に、リオ提督がいる…」

この言葉を聞いたエリスさんは、**「やはり、レイナはクリムゾン家の兄弟を狙っている!」**と確信し、いてもたってもいられずに、第5艦隊を無断出撃させてしまいます。


しかも、ここで最悪な偶然が重なります。

レイナさんの艦隊は、**「軍港のレーダー故障」という連絡を受けて、偶然にもセリオン君が狙った迂回航路を選択してしまったんです!

そして、エリスさんは、「ニャケンプ星系に問題がない」という情報だけを聞き、「やはり、レイナは意図的に遠回りをして、リオを狙っているんだ!」**と、完全に誤解してしまいました…。


「レイナ、やっぱり…。」

この言葉は、エリスさんの心に深く根付いた疑念が、**「確信」**に変わった瞬間でした。


緊迫の追走劇

こうして、エリスさんの艦隊は、**「復讐」**の炎を燃やしてレイナさんを追いかけ、それに気づいたトウガさんとシズクさんも、慌てて後を追います。


エリスさんは、レイナさんを「裏切り者」だと信じて、彼女を討とうとしている。

レイナさんは、何も知らずに、航路を変更して進んでいる。

トウガさんとシズクさんは、そのすれ違いと誤解を解くために、必死で追いかけている。


この、全員がそれぞれの思惑で行動する**「三つ巴の追走劇」**は、一体どんな結末を迎えるのでしょうか…!?


え?「最悪な偶然が……」が違うだろ?

セリオン君が火種を見つけた時に連絡してたから、これ、偶然じゃなくて彼の策略だろって!?


な!?……読者ちゃんも鋭くなったね!合格だ。

もちろん作者子ちゃんもその事実を知っていて読者ちゃんを試したんだ。


汗?ひっ冷や汗じゃないよ。暑いんだよぉ。



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あとがき


トウガがようやく罠に気づきました。

そして今からエリスを止めようとしたその矢先、入れ違いかのようにエリスは暴走しました。

これも全てセリオンの手によるものです。


トウガ・シズク達はラートリーの手のひらの上で踊っている状態ですが、

今後彼らはそれに対抗できると思いますか?

この先神聖帝国がどこに向かうか予想できますか?


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。

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― 新着の感想 ―
作者子ちゃんの説明が、目からウロコ的にものすごくよかったです! 応援してます~!
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