第四十七話 ラートリーの影
シズクの蒔いた種が実った。
貴族連合のグレイム・ドランベル侯爵とディモン・スヴァルツ伯爵が相次いで反シズクを掲げて反乱を起こした。
その鎮圧が、シズクの提案によって国務会議の議題に挙げられた。
「速やかに鎮圧する必要がある。グライム侯爵の討伐をラートリーに任せたい。」
シズクは思惑通りに、ラートリーをしばらく蚊帳の外に置く計画を実行に移した。
ラートリーは訝しんで別の案を出す。
「別に構わんが、私の艦隊は補給ができていない。
少々時間がかかるぞ?
それよりも、シズク殿。
補給の済んでいる卿の艦隊が赴けば、卿ほどの者ならば、すぐに鎮圧できるはずだ。」
「そうだ、私も出撃したいのはやまやまだが、昨夜から我が娘が高熱を出した。
大事な唯一の後継者だ。他人には任せられん。
だからこの件は無理を承知でお前に頼んだのだ。」
ウララが真剣に心配する。
「ミオリが?大変!見舞いに伺おうかしら?」
「陛下、痛み入ります。ですが、陛下に病をおうつしするわけには参りません。
完治した後にお越しいただければ娘もきっと喜ぶことでしょう。」
ウララは少し残念そうな顔をした。
「わかりました。そうします。
ラートリー、シズクの代わりに出撃できませんか?」
「は!このラートリーにお任せ下さい!」
「・・・(よし、これでラートリーは封じた)
その代わりと言ってはなんだが、ディモンの討伐はレイナにやらせる。
レイナ、できるな?」
「は!お任せを!」
自然な流れの中で、シズクはレイナをエリスから遠ざけた。
エリスの誤解が解けるまではレイナを近づけさせない方がよい。
その様子をエリスが睨みながら静観していた。
そして他の議題を終わらせて、いつものように国務会議は閉会した。
シズクは退出し、物思いに耽りながら自分の執務室へ向かう。
よし、ラートリーとレイナは思い通りに手配できた。
ミオリよ、お前も策士の娘よ。
機を見て、母を助けるかのように熱を出す。
ふふふ。
早急に仕事を片付けて看病に向かう。待っていろ。
これでラートリーはしばらく手出し出来まい。
レイナもエリスから隔離することができた。
その間に少しでもエリスが頭を冷やしてくれればよいが。
トウガよ、後はお前にかかっている。
なんとしてもエリスを説得してレイナと和解させろ。
~~~
その夜、ラートリーの私邸。
「お呼びですか?父上。」
ラートリーはバルコニーの椅子に腰かけ、顎を撫でながら星を眺め、酒を傾けていた。
「来たか、セリオン。俺は遠征が決まった。お前に家のことは任せる。」
「遠征ですか?急ですね。」
「シズクの策だろう。
名もなき小者退治を押し付けられて、俺は帝都より追い出されることになった。
これでは策を掛けられん。」
「父上、ご機嫌ですね」
「ふはははは。当たり前だ。シズクも最早恐れるには足らんな。
これで俺を封じたと思っている所が可愛くてならん。
俺は筋書きはした。だが何もしておらん。
封じるも何も、何一つ俺は困らんのだ。
セリオン、なぜ俺がお前に官職を与えずに俺の御曹司として家に置いて甘やかしていると思う?」
「甘やかされた覚えはありませんが。」
「そうだ、お前は俺の背後で学ばせてきた。
誰よりもだ。
おかげでお前は俺の影とも言えるほど成長した。
だがな、他人から見たら俺の元から巣立つことも出来ない、お前は出来損ないの御曹司だ。」
「それはあまりの言いようかと。」
「それでいいのだ、お前は俺の最終の奥の手だ。
お前が俺の筋書き通り、実行する。
それも俺が行うのと同等に臨機応変にだ。
お前の存在に気づかぬ限り、シズクは我々に勝てん。」
ラートリーは高笑いすると杯を飲み干した。
酔っておられる、セリオンはそう思いつつ、ラートリーの話に付き合う。
「しかし、父上の策は誠にお見事です。
トウガがノアの武功を望んでいると見てグレイモアを嗾ける。
そしてセフィという奥の手をあのタイミングで投入されました。
お陰でノアを人質に取れてエリスを堕とすことができました。」
「うむ、セフィはよくやった。
レイナやエリスを相手にあそこまでやれるとは少々予想外だったがな。」
「セフィはもう排除されたのですか?」
「ん?何を馬鹿なことを言う。
使える者は必ず使え。
どんなことをしても手に入れよ。
今頃、奴はイリアキテルアで復権しておる。
奴はイリアキテルアに対する際の最良の手駒だ。
良いか?セリオン。俺はシズクもトウガも殺さん。
奴らこそ俺が最も欲しい手駒だ。
セフィなど比べ物にならんほどの上物だ。
俺が今その気になれば奴らを殺すのは簡単だ。
だが、そんなもったいないことはせん。
とことん力を奪った後、従わせてやるさ。」
酔いと自邸という安心感から遂に本心が漏れたのだろう。
「それが父上の野望ですか?」
「そうだ、帝位など奴らを手に入れれば後から自然についてくる。
お前にはそのためにも一役買って貰う。
そのために何度も言うぞ。精進を怠るな。」
「は!」
ラートリーの顔が赤い。よほど気が良かったのだろう。随分と飲んだようだ。
野獣には、決して飼いならせないものもいる──そう言いかけて、セリオンは口をつぐんだ。
野獣とはシズクやトウガのつもりであったが、父から自らが野獣と思われる。
そんな危険性を感じたからだ。
唐突に上機嫌のままラートリーが問いかけた。
「これからどうする?
策はあるか?何か授けて欲しいか?」
セリオンは済ました顔で返答する。
「いえ、任されたからには、最後までやり遂げます。」
ラートリーはニヤリと笑った。
「良いぞ良いぞ。最後までやり遂げてみよ。
俺は明日より遠征の準備に入る。
くれぐれも油断するなよ。」
「は!」
ラートリーは言葉の通り、遠征の準備に入った。
シズクたちは油断していた。だがその裏で、状況は何一つ緩んでなどいなかった──それに彼らは気づいていない。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
第四章も、いよいよクライマックスに近づいてきましたね!
今回は、**「ラートリー親子の恐るべき本性」**が、ついに明らかになりました!
今回のポイントは、「シズクさんの完璧な策略」、そして**「ラートリーさんとセリオン君の本音」**です!
シズクさんの完璧な策略
二つの反乱が起き、シズクさんは、その鎮圧を利用して、ラートリーさんとレイナさんを帝都から遠ざけることに成功しました。
ラートリーさんには、**「娘のミオリが高熱を出したから、代わりに遠征に行ってほしい」**とウララを巻き込んで、帝都を離れさせます。
そして、レイナさんには、別の反乱鎮圧を命じ、エリスさんと距離を取らせました。
シズクさんは、この間にトウガさんがエリスさんの誤解を解いてくれることを期待しています。
ラートリーさんとレイナさんを**「封じた」と、シズクさんは安堵しました。
もう、ここまでは完璧な策**でしたね!
ラートリー親子の恐るべき本性
でも、その夜、ラートリーさんの私邸では、恐ろしい会話が交わされていました…。
ラートリーさんは、**「シズクは最早恐れるには足らんな」と、高笑いします。
そして、自分の息子、セリオン君を前にして、彼の「影」**としての存在を明かしました。
「俺は筋書きはした。だが何もしておらん。」
「お前が俺の筋書き通り、実行する。それも俺が行うのと同等に臨機応変にだ。」
な、な、な、なんと!
これまでの恐ろしい策の数々、実はラートリーさん本人ではなく、息子のセリオン君が実行していたんです!
セリオン君は、表向きは「出来損ないの御曹司」として、ラートリーさんの「影」となって、完璧に彼の策を遂行していたんですね!
シズクさん……ライバルはラートリー!ってところを崩そうとしないから、これに気づかない。
可愛い所があるって馬鹿にされちゃってますよ!
そして、ラートリーさんの真の野望も明らかになりました!
彼は、シズクさんもトウガさんも殺すつもりはないと言い切ります。
なぜなら、彼らは、ラートリーさんが**「最も欲しい手駒」**だからです!
「とことん力を奪った後、従わせてやるさ。」
ゾクッとしましたね…。
ラートリーさんの目的は、帝位ではなく、シズクさんとトウガさんという、帝国を動かす二つの最強の駒を手に入れることだったんです!
この二人を手に入れたら神聖帝国どころか、銀河を手に入れられるかもしれませんしね!
シズクさんは、ラートリーさんを「封じた」と思いましたが、実は、ラートリーさんの「影」が、帝都に残っていたんです!
そして、セリオン君は、**「任されたからには、最後までやり遂げます」**と、冷酷な目で父親に告げました…。
この状況、シズクさん、そしてトウガさん、大丈夫なんでしょうか…!?
皆さんも覚悟……できてます?!
作者子ちゃんはまだできてません。
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あとがき
ついにラートリーの本心がでました。
彼は中立でもなく簒奪でもなく、ただただ、完璧主義者でした。
その駒にはシズクやトウガ、あるいはシノやジジもいたのかもしれません。
ラートリーこそシズクをも超える人材愛好者だったようです。
果たして、ラートリーのこの野心が物語にどう影響するのか。
先読みしてみてください。
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オマケ
シズクはミオリのことを「ただの後継者、自分は母親らしいことができていない、薄情な奴で愛情の一つもかけてやれない」と自認しています。
でも、実際の彼女は周りから「親バカで世話焼きでミオリを可愛がっている」とみなされていて、それは遠くウララにまで認識されているのです。
シズク変わりましたね。




