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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第四章 赤青(せきしょう)の徒花
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第四十六話 トウガの迷い

いつものように三将顧問会議が終了し、ウララが退出し、五大将は起立して深く礼をして見送る。

その後は誰も会話することなく会議室から各々退出する。

最近はずっとそうだ。


今日もシズクと目を合わせず、トウガは退出した。


しばらくしてシズクも退出する。


シズクはいつも通り宮殿内の自分の政務室へ向かって歩いていたが、少しだけ違和感を覚えていた。

廊下を進んでいると、その中の一室の扉が突然開き、強い力で中に引き寄せられた。


叫んで助けを呼ぼうとした、その瞬間──


「叫んでも無駄だ、シズク。周りには誰もいない。俺の諜報部の兵達がそうしている。」


聞きなれた声、トウガだった。

油断した。

まさか宮殿内で、こんな直接的な方法で拉致されるとは夢にも思わなかった。

しかもトウガ本人によって。


逆にいえば自ら現れたことで、暗殺や拉致を企んでいるわけではないと悟った。


「何のつもりだ!!」


シズクが苛立ち気味に返す。


「・・・乱暴なやり方だったのは詫びる。だがお前と内密に話がしたかった。

 ここには一切の盗聴器はない。調査済みだ。

 それにさっき言った通り、この周りには人は寄り付かないようにしている。」


トウガを引き剥がし、服の乱れを整える。


「言っても無駄かもしれないが、私は女だ。

 もう少し紳士的に誘おうとは考えなかったのか?」


「無駄口を叩くな。

 俺に誘われて嬉しいと思うか?悪寒しか走らんだろうが!

 単刀直入に聞く。

 噂についてだ。」


シズクはやれやれと言った顔をした。


「馬鹿なお前に説明が必要か?根も葉もない噂だと言って信じるのか?」


トウガは一切表情を緩めない。


「馬鹿にするな。俺だって噂を鵜吞みにするほど愚かではない。

 確かにお前が黒幕だったとして何も不思議はない。

 だが、お前の話を聞かずしてお前を誅殺するほど俺は単純ではない。

 この噂について、お前が知ることを話せ!」


シズクが黙っていると、さらにトウガが畳みかけた。


「言ったはずだ。お前の話を聞かずに誅殺はしないと。

 だがそれは言い換えればお前が話す気がなければ、今ここでお前の細い首を

 へし折る覚悟だ。」


「はぁ・・・。」


シズクは深く溜息を吐くと話し始めた。


「まぁ、いい。ちょうど私もお前とは話があった。

 私は黒幕ではない。

 信じられないかもしれないが私はあの時、何もかも出遅れた。

 あれはシノが自分で招いた種だ。」


「ならばなぜ噂が立つ。火のない所に煙は立たぬと言うぞ。」


「噂に関しては私も調査中だ。だが厄介なことに根が見えない。

 これほどまでに完璧な裏工作はみたことがない。

 

 ラートリーだ。あいつがこの件にも絡んでいると考えている。」


予想外だったのかトウガが驚いた。


「ラートリーだと?!」


わかりやすい奴だとシズクは密かに思いつつ、続けた。


「この噂の出所は間違いなくラートリーだ。

 こうやってお前を焚きつけて私の細首をへし折ろうとさせているんだろう。

 現にこうやってお前が釣れているんだからな。」


少し考えこんだトウガだったが、再び厳しい目で問いかける。


「お前は神に誓って、白だと言い切れるんだな?」


シズクは少し間を置いてから、祈りのポーズと詠唱を行った。

精神主義国家のニャニャーン神聖帝国における神に誓うポーズだ。

この誓いを破れば死後、地獄を彷徨うと言われている。


「神に誓って言う。私は白だ。

 この件はラートリーが怪しい。そして、シノについても疑念がある。

 シノは平民出だ。それが私よりも先にニュクスの存在に気づいた。

 誰かが意図的にヒントを与えたからこそ、彼女は気づけたのだと思う。

 正直、あの時はシノに出し抜かれて相当苛ついたよ。

 私が敵に利を与えると思うか?

 ラートリーがシノ自体も唆したとみて間違いあるまい。

 お前がへし折るべきは私の首ではなくラートリーの首だ。」


トウガはしっかりとシズクの瞳の奥を覗き見た。


「さて、トウガ。今度は私から話そう。

 エリスがレイナに対して良からぬ想いを持っているそうだ。

 私の口から言っても信じてもらえないかもしれないが、レイナは純粋な奴だ。

 変な野心も持たぬ。あいつはエリスが思うようなことは一切していない。

 おそらくこれもラートリーの讒言だと思うのだが・・・。

 レイナを守る手助けをしてほしい。」


シズクが素直にトウガに頭を下げて頼んだ。

トウガが目を丸くして驚いた。


「エリスを止めて欲しいんだ。

 そしてお前の口からもエリスを説得して欲しい。

 この二人のわだかまりを解くのは時間がかかるだろう。

 だが、必ずとけると信じている。

 実際、レイナは何もしていないからな。

 私はレイナにエリスを守れと厳命した。

 そしてレイナは私の命令にのみ従う。

 だから本当にノアのことは何もしていないのだ。

 これについても、神に誓える。

 私やレイナではエリスを止めることはできん。

 そしてこのわだかまりは神聖帝国にとって害にしかならん。

 だからこそ、こうしてお前のような者に頭を下げている。」


黙って考え込んでいるトウガだったが、ゆっくりと口を開いた。


「お前の話は分かった。こうやって話せてよかった。

 俺もレイナのことはよく知っている。

 エリスの事は任せてくれ。

 俺もあの二人は今後の神聖帝国のためにも手を取り合うべきだと信じている。


 そうだ、一つ言っておく。首をへし折るというのは、冗談だ。

 仮にお前が黒幕だったとしても、お前を倒すのは戦場だ。

 俺は野蛮人ではない。武人だ。」


シズクは面倒くさそうな顔でつぶやいた。


「わかったわかった。では、もう行ってもいいんだな?」


「あぁ、強引な真似をして悪かったな。さっさと行け!」


シズクは立ち去り際に一言嫌味を付け加えた。


「謝る気がないなら、『悪かった』などと口にするな。かえって腹立たしい。」





その後、トウガは自室に戻り、考え込んでいた。


トウガは冷静に、独自の調査を重ねていた。


実はラートリーにも事前に直接考えを聞いていた。

いつも通りラートリーは帝国の安定を語り、シズクに語ったように

シズクとトウガの存在を自身の駒の如く、今は必要だと言った。

少なくとも彼は神聖帝国の安定のために、シズクの排除は考えていないと思われた。



カナリアの話ではこのような状況になった時にラートリーに罪を着せる計画があるとシズクが語ったという。

まさにその手口と一致した。


シズクはラートリーとトウガを争わせる方法を模索していた。

早い段階からこの二人をぶつけることを考えていた。

そして、今日シズクはラートリーを黒幕に仕立てようとしていた。


カナリアの言葉を信じるならば、全てにおいて合点がいく。


シズクは・・・黒だ・・・。


そう思う自分がいる。だが、なぜか胸の内が晴れなかった。

シズクとは腐れ縁だ。よく分かっている。

だからこそ、カナリアの言葉にある違和感が取れなかったのだ。


トウガは迷い、悩んだ。

そして結論は出なかった。


「・・・わからん。俺はどうしたらいい。

 いや・・エリスのことは止めねばならん。

 そのうえでもう少し探り、そして考える必要がある。」


英雄の一角、トウガにはやはりラートリーの毒は効かない。

だが、ラートリーにとって、トウガの母屋に放火する必要は全くなかった。

離れであるエリスから火の手が上がりさえすれば、その火は全てを焼き尽くすだろう。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


第四章も、いよいよ佳境に入ってきましたね!

今回は、ついにシズクさんとトウガさんの直接対決が描かれました!

作者子ちゃん、もうハラハラドキドキが止まりません!


今回のポイントは、「直接対決とそれぞれの思惑」、そして**「トウガさんの迷い」**です!


直接対決とそれぞれの思惑

トウガさんは、シズクさんを強引に呼び出して、**「巷に広まる噂の真相」を問い詰めました。

まるで、「お前が黒幕なら、ここでこの細い首をへし折る!」**と言わんばかりの剣幕でしたね!


でも、トウガさんは、ただ噂を信じているわけではありませんでした。

彼は、シズクさんの言葉を**「自分の目で見て、耳で聞いて、心で感じよう」としていました。

そして、シズクさんも、その意図を理解し、「神に誓って、私は白だ」**と、真実を語りました。


そして、シズクさんも、逆にトウガさんに**「エリスを止めてほしい」と頼みました。

「人の心」が苦手なシズクさんにとって、これは「降参」を意味します。

それでも、「レイナは何もしていない」**という、真実をトウガさんに伝え、二人の友情を守ろうとしました。


今回の直接対決で、シズクさんは、トウガさんを味方につけることに成功しました。

でも、トウガさんは、シズクさんの言葉と、カナリアさんの言葉の**「二つの真実」**の間で、深く迷い始めることになります。


トウガさんの迷い

トウガさんは、シズクさんの言葉を聞いて、彼女が黒幕ではないと**「理知」では理解しました。


でも、カナリアの言葉は全て真実のように聞こえてしまいます。


「シズクは・・・黒だ・・・。」


そう思う自分もいる。でも、長年の付き合いから、**「シズクさんがそんなことをするはずがない」と、トウガさんの「直感」が訴えかけています。

彼の心は、二つの矛盾した情報に引き裂かれて、「どうしたらいい…?」**と、深い迷路に迷い込んでしまいました。


でも、トウガさんには、一つの確信がありました。

「エリスを止めなければならない。」

彼の迷いは、やがて、真実を見つけ出すための、大きな力になるはずです!


この状況、ラートリーさんの狙いは、「火事の火元であるエリスさんから、トウガさんの母屋に火を燃え広がらせること」。

ラートリーさんの恐ろしい策略は、ついに、トウガさんという英雄を迷わせるところまで来ました…。


トウガ、頑張れ!しっかり考えろ、知性派脳筋!


ん?脳筋に知性派もねぇって?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


全てがラートリーの思惑通り進んでいます。

シズクもトウガも結局は対抗しきれていません。


そして火事の恐れは現実になりつつあります。


皆さまはこの先をどう予測しますか?



ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。

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