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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第四章 赤青(せきしょう)の徒花
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第四十五話 火事の火種

翌日、トウガはエリスに連れられて、カナリアを匿っている一室を訪問した。


トウガの登場によって、カナリアは恐怖のあまり身を小さくした。


「俺は何もしない。そんなに身構えなくていい。

 少し話がしたいだけだ。望むならいくらでもこの屋敷にいてもらって構わない。」


それでもカナリアは震えたままだった。

トウガは、シノを殺した張本人の一人であり、シノと彼との関係をよく知るカナリアにとっては、最大の裏切者に映っていた。

彼女の目には、トウガは人の皮を被った獰猛な肉食獣にしか見えなかった。


「カナリア殿、私に話してくれたことをもう一度話して欲しいの。」


エリスが極力優しい声を出して質問をいくつか問いかけた。


「エリス、やめろ。俺が直接聞く。」


彼の声には揺るぎない信念が込められており、さすがのエリスも口を閉ざさざるを得なかった。


「カナリア。正直に話してくれ。」


トウガは淀みのない目でカナリアの瞳を覗き込んだ。


カナリアの瞳孔は小刻みに震え、冷や汗が頬を伝っていた。


これは嘘を見抜かれる恐怖か、それとも俺への恐怖か。


トウガは少しだけ息を吐くといつもの優しい笑顔でカナリアに語り掛けた。


「睨んですまない。怖がらせてしまったな。

 カナリア、お前の事はよく知っている。シノの傍によく侍っていたな。

 お前のおかげで政務に慣れないシノが自領地を繁栄させることが出来た。」


カナリアが震えながらも少し驚いた眼をした。


「シノはな。俺にとって妹のような存在だった。

 あいつが17の時からずっとそうだったんだ。

 今でもシノとの思い出ははっきり覚えているんだ。」


トウガの胸元には、古びた銀のペンダントが揺れていた。 それはかつて、シノが彼に贈ったもの──カナリアはそれに気づき、目を見開いた。


「知ってるか?あいつ、平民だからって本当にひどい目に会ってたんだぞ。

 お前なら重々承知していると思うが、あいつの領土、惑星ミューニャ。

 酷かっただろう?


 俺はな。あいつが辺境伯に叙勲された時に、ミューニャドロック星系ではなくて、

 俺の領土の隣の星系のニャヴェクォッド星系を与えられるように動いたんだ。

 でもな貴族連合の猛反対にあってさ。

 あの荒れはてたミューニャドロック星系が割り当てられることになったんだ。

 シノに力不足を謝ったらさ。なんて言ったと思う?

 『ちょうどいいです!

  ミューニャドロックは鉱物資源も豊富で居住可能惑星が3つもあります。

  トウガ様の領土よりも発展させますよ!』

 だってさ。あいつらしいよな。

 お前とシノは、相当苦労してあの荒れ果てた星系を開発したと聞いている。

 色々自慢してきたよ。お前のこともな。」


カナリアの目に涙がこぼれた。おそらく彼女にとっての楽しかった思い出とも一致したのだろう。


「だから本当にすまなかった。俺はシノを守ることが出来なかったことを悔やまない日はない。」


トウガはペンダントにそっと指を添えた。

それは、彼が言葉にできない後悔を、静かに語っていた。

カナリアはうつむきながら震えている。


「今から聞くことはシノのことにも関わることだ、嘘偽りなく教えてくれ。

 俺はそれによっては動かねばならん。いいな?」


カナリアがうつむいたまま頷いたのを見てトウガは質問を開始した。


彼女の表情は今なお恐怖に震えているが、それは嘘を見抜かれる恐怖とは見えなかった。

あの出来事の恐怖は彼女の心に根強く刻まれた・・それを掘り起こすことで生じた恐怖のように見えた。


トウガもエリスと同様にこの噂の真相と思われる話を全て聞き出すことができた。

ただ一つエリスと違う点は、ある程度の真実味を感じながらも、まだなお、確信には至っていない点だった。


「カナリア、無理をさせてすまなかった。ありがとう。

 最初に言った通りだ。いつまでもここにいて構わない。

 もし、お前が望むなら別の名をやる。そしてクリムゾンに仕えてくれ。

 シノを守れなかった分、必ずお前は守ってやろう。

 その方がシノもきっと喜ぶだろう。」


カナリアは顔を上げてトウガを見上げた。そしてその目から再び涙が溢れた。


「・・あ・・ありがとうございます。」


「心の整理がついて、もしその気になったならば、俺の執事にいってくれ。

 お前に適した仕事を任せる。では失礼するぞ。」


少しだけカナリアに笑顔が戻ったのをみて、トウガは退室する。


慌ててエリスも後を追った。


「義父上!もはや時間はありません。レイナを!そしてシズクを討ち取るのです!」


トウガは黙って歩いた。


「義父上!!」


トウガはエリスの方に顔をむけず、歩きながら強い口調で指示を出した。


「エリス。早まるなよ。勝手な行動は許さん。何か事を起こすときは必ず俺の許可をとれ。」


「義父上・・?」


「いいな!」


「はっはい。」


エリスは立ち止まり、それを背にして、トウガは自室へと足早に歩き続けた。

取り残されたエリスは下を向いて呟く。


「義父上・・本当にもう時間がないのです。カイを・・リオを・・・。

 また失うおつもりですか・・・。」


エリスという火種は既に小さな火を灯していた。

この小さな火が、どこまで燃え広がる業火となるのか──それはまだ誰にも分からなかった。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


今回のお話は、もう、胸が締め付けられるようでした…。

トウガさんの悲しみと、エリスさんの焦り、そして、カナリアさんの苦しみが、痛いほど伝わってきましたね。


今回のポイントは、**「トウガさんの圧倒的な真心」と「火種となったエリスさん」**です!


圧倒的な真心

ついに、トウガさんがカナリアさんと対面しました!

エリスさんがセリオン君の言葉に完全に誘導されてしまっているのに対し、トウガさんは、カナリアさんの言葉を**「自分の心で」**感じ取ろうとしました。


そして、その方法は、力でねじ伏せるのではなく、真心で接することでした。

かつてシノさんが苦労したこと、彼女がどれだけ頑張っていたかを語り、シノさんからもらったペンダントを揺らしながら、**「俺はシノを守れなかった」**と、正直な気持ちを伝えます。


この時、カナリアさんの心の中の**「真実」と「偽り」が、激しく揺れ動いたはずです。

ラートリーさんによって植え付けられた「偽りの記憶」と、トウガさんの言葉によって蘇った「本物の記憶」**…。

彼女の涙は、その二つの記憶がぶつかり合った結果だったのかもしれません…。


トウガさんは、カナリアさんの言葉を完全に信じることはありませんでしたが、彼女が**「嘘をついている」ということも、見抜きませんでした。

彼の目に映ったのは、「あの出来事の恐怖」**に怯える、一人の女性の姿でした。


そして、最後にトウガさんは、カナリアさんに**「クリムゾンに仕えてほしい」とまで言いました。

これは、シノさんを守れなかったという後悔と、カナリアさんを心から守りたいという、トウガさんの圧倒的な真心**の現れでした。


火種となったエリス

一方、エリスさんは、ノア君を失った悲しみと、セリオン君の言葉から得た**「偽りの真実」によって、完全に「復讐の炎」**を燃やしていました。


トウガさんが冷静に判断しようとしているのに対し、エリスさんは**「もう時間がない!」**と、焦り続けています。

**「このままでは、カイやリオまで殺されてしまう」**という恐怖が、彼女を突き動かしているんです。


「エリスという火種は既に小さな火を灯していた。」


この言葉が、今回のエリスさんを象徴していますね。

彼女は、**「偽りの真実」を信じ切ってしまったことによって、ラートリーさんの策略の「火種」**となってしまいました。


この小さな炎が、これから、帝国全体を巻き込むような、とんでもない業火へと燃え広がっていくのでしょうか…。

そして、トウガさんは、この火を消し止めることができるのでしょうか…!?


誰か消火してー!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


まさに「静かな炎」。

誰もが火傷しそうな熱を感じながらも、まだ誰も燃え尽きていない。

それが、物語の“次の爆発”を予感させる。

トウガの「動かねばならん」という言葉が、どこで、誰に向かって発火するのか。

エリスの焦りが、忠誠か暴走か、どちらに転ぶのか。

そしてカナリアの証言が、真実か罠か──。

このエピソードは、まさに“導火線”。


何が爆発するのかしっかりと見えましたでしょうか?


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

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