第三十九話 裏切りの影
ノア・クリムゾンの敗北――その報せは、帝国の中枢を揺るがした。
そして現在もなお、孤軍奮闘していると。
「待て、トウガ!お前は軍務大臣だ。心配なのはわかるがお前が行くわけにはいかん。」
ラートリーが不在中はシズクが議長役だった。
「しかしっ!」
「落ち着け。すぐに援軍をだす。まずは冷静になれ。
状況を調べさせた。敵にはイリアのセフィ・エル=ナヴィアがついている。
確かに最近亡命してきており、貴族連合のヴァルドの一派が匿っていたらしい。
セフィがグレイモアの艦隊を率いていたのであれば、確かにノアでは荷が重かった。」
「だから俺がっ!」
「シズク殿、私にっ!」
トウガとエリスが同時に叫んだ。
「・・・エリスだ。エリスに向かって貰おう。
トウガ、お前が離れると国政に支障が出る。
それにエリスならお前だって安心して任せられるだろう?」
トウガは唇を嚙みしめながら無言でうつむくと弱々しく返事をした。
「・・・エリス・・。頼む。ノアを助けてやってくれ。」
「は!必ず!」
努めて冷静に、シズクが追加条件を述べた。
「エリス、一つだけ条件を追加する。レイナも連れていけ。
今のお前は焦りが見えて少々危うい。良いな?」
エリスは少し驚いたが、すぐに真顔に戻って答えた。
「は!レイナ殿にも来ていただけるなら、これほど頼もしいことはありません!」
心配そうに見ていたレイナだったが、受け入れられたのをみて、力強く返事した。
「は!必ずノア殿を救い出して見せます。」
「陛下、私が独断で決めてしまいましたが、よろしかったでしょうか?」
心配そうに見つめていたウララもしっかりと頷く、
「はい、シズクがそう判断したのなら間違いありません。すぐに出撃してください。」
トウガは祈るような目でエリスを見た。
エリスも力強く頷いた。
レイナとエリスの第4艦隊、第5艦隊は急ぎ準備に取り掛かった。
燃料、シールドコンデンサ、食料、軍備も急がせたため想定の半分程度しか
積載できなかったが、まずは急行することを優先した。
特に時間のかかるミサイルや実弾兵器の積み込みが省略された。
実弾兵器を欠いた状態は、三すくみの一角を自ら封じて戦うに等しい。
もちろん牽制用に少量の積み込みは行う。
実弾兵器はシールドを貫通して、直接船体にダメージを与えるが、装甲に阻まれる。
シールドはエネルギー弾を遮断するが、実弾には無力。
エネルギー弾は装甲を容易に破壊できるが、シールドに遮断される。
艦隊戦においては、三すくみのように、どれかを強化すると別の弱点が露呈する。
現状、第4、第5艦隊は、この不利を承知で敵地へと向かう。
補給状況は極秘事項とされた。
ゲートウェイ突入のためにこの2艦隊は並行して待機した。
レイナが心配して第5艦隊の旗艦に訪れていた。
「エリス、落ち着いて。必ず助け出しましょう。ノア殿もトウガ殿のご子息。
そんな簡単に討ち取られる方ではありません。
焦らずいつも通りのあなたであれば、必ずセフィ如き打ち破れます。
私も命を懸けてあなたを支援します。」
1分1秒でも惜しいと考えていたエリスであったが、レイナが優しく背中に手をまわして語り掛けてくれたことで、少しだけ落ち着いた。
「えぇ、ありがとう。本当にあなたが来てくれてよかった。お願い、レイナ。
ノアを守りたい。力を貸して!」
「もちろん!
エリス、予備エネルギーポットを多数ゲートウェイに接続させたわ。
通常より3日程度は起動を短縮できると思う。
今の内にセフィについて情報共有するわ。」
エリスは目を潤ませながら、レイナの手を握った。
「ありがとう。・・・この恩は絶対に忘れない。」
レイナの手配によりゲートウェイは時間短縮して起動した。
第4艦隊と第5艦隊が戦場に向けて飛び立とうとしている。
レイナは艦橋で静かにゲートウェイを見つめながら、思考を巡らせていた。
・・・ノアは助けないといけない。
ここで失敗するとせっかく掴めたエリスの心が離れてしまう恐れがある。
ゲートウェイが普通に接続できた。あちらから遮断もされていない。
つまりセフィは私達を誘っている・・。
何か裏の手があるか・・・。
その時、レイナは頭の片隅に本来考えてはならない未来が見えた。
エリスが戦死したら・・・・。
母屋を燃やす燃料はなくなり、火事の心配をしなくても済む・・。
レイナの瞳が微かに揺れた。心の奥で、何かが軋んだ。
この未来はシズクですら選択していなかった。
だが、これほど効果的な対策はない。
だが、この状況では、シズクに相談はできない。
「・・・ふ。短刀が意志を持てば主人の指すら傷つける。
あってはならないことだ。」
「は?提督、何か仰いましたか?」
「いや、何でもない。全艦、ゲートウェイに向けて前進!」
艦船は次々とゲートウェイに吸い込まれ、光の粒となって異空間へと消えていった。
そのまま、戦場のゲートウェイ前に次々と出現し、第4、5艦隊の移動は完了した。
ノア艦隊と私設艦隊を星間レーダーが捉えた。
無人の不毛な惑星を背にノアの残存艦隊が行き場を失っていた。
セフィはノア艦隊の止めを刺すつもりはないようだった。
ノアが動けばその動いた艦船に攻撃を加えて撃沈する。
だが、決してノアの座乗する旗艦に対しては攻撃を加えない。
そう、まるで、少しでも動けばそこに銃口を向ける――人質を脅して
救援者を急き立てるように。
セフィはやはり我らを誘っている。
レイナは急いでエリスに通信を繋いだ。落ち着かせるために・・・。
「エリス、落ち着いて。これは罠だ。
しっかりと状況を見極め、冷静に作戦を立てるんだ!」
エリスはレイナの方には一切視線を向けず、ノアの艦隊を凝視していた。
「全艦!最大船速で突入する。ノア艦隊の前方に割り込んで盾となれ!」
「エリス、やめろ、それは罠だ!!」
さすがのレイナも焦って叫んだ。
セフィの艦隊は実弾兵器を装填し、攻撃に回すエネルギーも全てシールドに充填した。
まるで、第4・第5艦隊の補給状況を正確に把握しているかのようだった。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
前回、トウガさんの三男、ノア君が、セフィという恐ろしい傭兵に大敗北しましたね!
そして、セフィさんはノア君を「生餌」にして、トウガさんたちを誘い出そうとしています!
今回のポイントは、**「救出劇の裏に隠された、新たな罠」**です!
ノア君の敗北の知らせに、軍務大臣であるトウガさんは、すぐにでも現場に駆けつけようとします。
でも、冷静なシズクさんはそれを止め、エリスさんとレイナさんに、ノア君の救援を命じました。
この時、シズクさんは「エリスは焦りが見えるから、冷静なレイナも連れていけ」と、二人の協力を強く求めたんです。
そして、急いで出発したエリスさんとレイナさん。
でも、出発前、レイナさんは恐ろしい考えが頭をよぎりました。
「もし、エリスが戦死したら、ラートリーさんの策の火元が消える…」と。
この考えは、彼女の心の奥底に隠されていた、もう一つの**「忠誠の形」**かもしれません。
シズクさんの計画を完璧に遂行するために、不要なものを排除するという、シズクさんと同じような冷徹な思考。
でも、彼女は**「短刀が意志を持てば主人の指すら傷つける」**と、その考えを否定します。
これは、レイナさんがシズクさんの忠実な「短刀」でありたい、という決意を表しています。
このセリフが、今後の物語の重要な伏線になる気がして、作者子ちゃんはゾクゾクしました!
そして、いよいよ戦場に到着!
セフィさんは、まるで、二人の艦隊の弱点を知っているかのように、完璧な布陣を敷いていました。
しかも、エリスさんを焦らせるために、ノア君を人質のように扱う**「精神的な罠」**を仕掛けてきたんです!
この罠に、エリスさんは見事に引っかかってしまいました。
レイナさんの忠告も聞かずに、「全艦!最大船速で突入する!」
もう、トウガさんの息子を助けることしか、頭にないようです…。
エリスさんが突入した先には、実弾兵器を構えたセフィさんの艦隊が待ち構えています。
エリスさんの艦隊は、急いで出発したために、実弾兵器を積んでいません。
完全に**「詰み」**の状態です…!
この状況、**ラートリーさんの「離れに火をつけ、母屋を燃やす」作戦が、ついに本格的に始まってしまったのかもしれません。
そして、この火事を起こしているのは、セフィさんという、ラートリーさんの予想をはるかに超えた「火付け役」**です!
果たして、エリスさんはこの絶体絶命のピンチを乗り越えられるのか?
レイナさんは、エリスさんを守り抜くことができるのか?
作者子ちゃん、もうハラハラしすぎて心臓が持ちません…!
次回が待ち遠しいです!
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あとがき
戦術的な駆け引き、感情の暴走、そしてレイナの“揺らぎ”が交差することで、物語は一気に感情と構造の臨界点へと突入しました。
レイナの心の揺らぎ、エリスの感情の爆発、これらはとてもリアルに見えたのではないでしょうか?
この二人の行く末、そしてこの戦いの先、皆さまは先読みできますでしょうか?
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