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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第三章 花曇(はなぐもり)の刻
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第三十八話 グレイモアの乱

レイナがエリスに対して”友”という名の調略を完了させた頃、神聖帝国で一つの事件が起きる。


貴族連合内でも有数の勢力を誇るヴァルド・グレイモア公爵が神聖帝国に対して反乱を起こした。

彼は1年前、”病死”とされた貴族連合の代表の一人、マルベルト・グレイモア公爵の嫡男で、主力艦隊にも匹敵する私設艦隊を有する帝国大貴族である。

マルベルトは、実際にはラートリーによる毒殺だった。その事実は、ヴァルド公爵をはじめ、計略に長けた者たちにはすぐに察知されていた。


マルベルトは、かつてラートリーがシズクの悪評を流すために利用した人物である。


マルベルトは最終的に、シズクによって計略の反撃に利用されて、ラートリーと敵対した。

その際、ラートリー自身が面倒臭く感じ、露骨にとどめを刺した人物が彼だ。

グレイモア公爵家を全く脅威と感じていなかったラートリーは何の工夫もせずにマルベルトを暗殺した。

公式には病死と片付いたが、ヴァルド公爵がラートリーに恨みを持たないわけがなかった。


外務大臣であるラートリーは、隣国のハイラン国家連合との国境摩擦によって生じた軋轢を緩和すべく、単身和平の使者として長期の訪問を行っていた。

その不在をつき、ヴァルド公爵はラートリー国外追放を目的として、他の貴族連合の貴族達とも裏工作をして、反乱を企てた。

だが、神聖帝国の安定と事前のラートリーの根回しによって、誰も追従しなかった。

それにより、ヴァルドは反乱は始める前から失敗の色が濃く、自領星系に籠城せざるを得なかった。


その討伐において、ノア・クリムゾン 第15艦隊提督が司令官に任命された。トウガの三男だ。


ノアは20歳になったばかりではあるが、その血に流れる軍才で、地道に武勲を貯め、今では自らの力で下部主力艦隊を率いるまでに成長していた。


エリスや他の兄弟達に比べて、武勲を挙げる機会に恵まれなかったノアに、花道を飾らせたく、トウガはその討伐軍司令に任命させるように裏で動いていた。


ココの代以降、家柄だけでは主力艦隊を任せてもらえなくなり、ヴァルド公爵は主力艦隊の提督になる機会を失っていた。

だが、大貴族ともなると下部主力艦隊級の私設艦隊を保持する。

そして、ヴァルド公爵はその中でも最大規模、かつ最新鋭の艦隊を有していた。

それは下部主力艦隊の第15艦隊と比べても、上回った戦力であり、その討伐を任されたノアは、裏工作の効果だけではなく、その実力も評価されての抜擢だった。


ヴァルド公は父マルベルトと同様、蟲毒の一匹であり、毒遊びには長けていたかもしれないが提督としての才覚は乏しく、戦略眼に欠けていた。


ノアの力をもってすれば、討伐自体は難しくないと皆は考えていた。


ノアはトウガやエリスに見送られ、父の背中を追うように意気揚々と出陣した。

その瞳には、兄たちに負けじと武勲を刻む決意が宿っていた。





「セフィ提督、討伐軍はあのトウガの息子、ノア・クリムゾンだ。

 油断はならない相手だぞ。大丈夫か?」


ヴァルド公爵は惑星上の私邸の執務室から私設艦隊へ通信を行っていた。

彼は私設艦隊 旗艦 グレイ・ニャークに搭乗していなかった。


代わりに提督として艦隊指揮をとっているのはセフィ・エル=ナヴィア。

傭兵だった。


彼女は神聖帝国と国境を接する列強国、イリアキテルア聖王国の出身だった。


聖王国は王政、現人神王国、精神主義を特徴とする。

外見は第二の耳がないニャーン、すなわち地球人とほぼ同等だが全体的に小柄、大人でも身長100~130㎝くらいの見た目が可愛らしいヒューマノイドである。

挿絵(By みてみん)


宗教が絡むとニャニャーン神聖帝国と相いれることはないが、

イリア人は外見が非常によく似ている種族のため――耳と身長くらい――

嫌悪感なくニャーンと同居できる種族でもある。


彼女は聖王国の主力艦隊提督として、彼らの聖戦において、多大な武勲を挙げたことのある名将だった。

何らかの事情により、神聖帝国へ亡命してきており、それを貴族連合が客人として匿っていた。

ヴァルド公爵の友人である大貴族の一人が、自身が味方できない代わりに、彼を応援する目的でセフィを派遣してくれていた。


セフィの名声を知るヴァルド公爵はこの戦いを彼女に賭けた。


「問題ありません、ヴァルド閣下。彼はトウガとは違います。

 必ず討ち果たしてみせます。彼を破り帝都へ進軍できれば、今は静観している貴族連合の面々もこの反乱に参加することになるでしょう。閣下はその調略を進めておいてください。」


「頼もしい言葉だな。わかった。その点は任せよ。期待しているぞ。」


「は! ゲートウェイに熱源を感知しています。まもなくこの星系に第15艦隊が現れるでしょう。

 10日の内には接敵するはずです。信じてお待ちください。」


彼女の予言は的中する。8日後、第15艦隊と私設艦隊は遂に対峙した。


ノアの第15艦隊は鉾矢隊形に陣形を組みなおした。

戦力比で言うと不利な状況のノアからすると統率力のないヴァルドが率いる私設艦隊の旗艦グレイ・ニャークをヴァルドごと早々に討ち取ることが、最も被害が少なく、確実な方法だと考えたのだろう。

統率の取れたノアの突撃攻撃は苛烈でこれまでの地方において海賊艦隊を数多く打ち破ってきた。


今回もこれで簡単に勝利を収められると踏んだようだ。


幼い容姿のセフィが、冷笑を浮かべて呟いた。


「敵は鉾矢隊形か、ノアにはまだ私の存在が知られていないようだな。

 この勝負、もらった。全艦、鶴翼隊形へ移行せよ。」


ヴァルドから派遣されている参謀が慌てる。


「お待ちください。敵は鉾矢隊形です。間違いなくこの旗艦グレイ・ニャークを一点集中するつもりです。

 わざわざ隊列を広げて、層を薄くしたならば自ら弱点を狙ってくれというようなものです。」


余裕の表情でセフィが反論した。

子供が大人に対して諭すような形となり、周りからみるととても滑稽だ。


「ふふ。普通はそう考える。

 功に飢えた犬どもは目の前にご馳走がおいてあれば、わき目も振らずに飛び掛かるだろう。

 どんな罠が仕込んであってもな。


 戦闘を開始したら通信は遮断するぞ。私の存在を知られたくない。

 命令コードを送信する。各艦はこれに従って行動せよ。」


各艦の艦長は命令コードを確認し、戦術を理解した。そして鶴翼隊形に移動が完了する。


その直前にノアが動いた。第15艦隊が中央に位置する旗艦グレイ・ニャークに向けて突撃を開始した。


双方が艦砲射撃で応戦する。


セフィの作戦は各個撃破だった。先頭を駆ける数隻ずつを集中攻撃する。


双方が艦砲射撃を行っていたが、既にそこで差がついていた。

下部主力艦隊の低位艦隊である第15艦隊は主砲がX線レーザーだった。

対するヴァルドの私設艦隊はその財力を使って全ての艦船にガンマ線レーザーを搭載していた。

ガンマ線レーザーはX線レーザーよりも短い波長をもち、その破壊力はX線レーザーの比ではなかった。


それが矢のような陣形で細く連なり突撃するノアの艦船に向けて、的確に集中攻撃が行われる。

セフィ艦隊が受けるダメージはたかが知れていたが、逆にノア艦隊にとっては大きかった。

ノアの艦隊はシールドがすぐに揺らぎ立ち消えた。

その揺らぎにあわせて、ほぼ同時に後陣の攻撃艦からプラズマ投射砲が発射された。

シールドが回復する前に、確実に突撃中の前衛艦に命中して、装甲に大穴をあけた。


先頭の艦から順次、狙われ爆散する。

その爆発の衝撃によって、突撃の勢いが鈍る。

その結果、後進の艦もまた逐次、集中砲火を浴びせられる。

ノアからすると完全な悪循環だ。


今までは勢いだけで四散する海賊を相手にしていたノアにとって、初めての強敵だった。

判断が遅れ、突撃させた前衛の大半が各個撃破された。


その爆炎に隠れてセフィ艦隊の空母から発進した艦載機がノアの後衛に向かって襲い掛かる。

ノア側の艦載機は半分が発進する前に空母と共に沈んだ。

艦載機は容赦なく、ノアの艦隊を傷つけていく。



ノアの大敗だった。


ノア艦隊は大部分を喪失しながらも、辛うじて態勢を立て直して後退する。


ただしゲートウェイ方面はセフィ達によって抑えられ、反対方向に退却した。


第15艦隊は、退路を断たれ、完全に孤立した。


まるで、弱った獲物を弄ぶかのように少しずつセフィは包囲していく。


そこでセフィは敢えて動きを止めた。

ノアは苦悶の表情を浮かべながらも司令本部に敗戦を伝え、援軍を要請した。



「セフィ提督、見事だった!さぁ、早くトウガの小倅こせがれに引導を渡してやれ!」


ヴァルド公爵は興奮気味にセフィに通信を繋いできた。


「閣下、お待ちください。奴らは生餌です。

 この生餌を囮にすれば、より大物が食いついてくるでしょう。

 私の狙いは主力艦隊です。それを打ち破れば、流れが大きく変わります。

 貴族連合が全て閣下に集い、閣下が中央にお戻りになるのも夢ではなくなります。」


「おぉ・・!!そうかそうか!それはいい。貴殿なら必ずそれができそうだ。

 次に来る主力艦隊も打ち破ってくれ!」


「は!」


そして通信を切ったセフィは何やら怪しげな笑みを浮かべた。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


「友になれ」という命令の裏には、「娘を、そして愛するものを守る」という、シズクさんの強い決意が隠されていました。


シズクさん、かっこいいですよね!

でも、そんなシズクさんの深い策もむなしく…ついに大事件が起きてしまいました!


今回のポイントは、**「蟲毒の暴発」と「トウガさんの息子、ノア君の危機」**です!


まず、今回の反乱の原因、ヴァルド・グレイモア公爵。

彼は、一年前にラートリーさんに暗殺された、マルベルト公爵の息子です。

ラートリーさんは、シズクさんをハメるためにマルベルト公爵を利用して、最後は邪魔になったからって、あっさり殺しちゃったんですよね。

そのことを知ったヴァルド公爵は、ラートリーさんがいない隙を狙って、ついに反乱を起こしました!


でも、この反乱、実は最初から負け確でした…。

ラートリーさんの根回しのおかげで、誰もヴァルド公爵に味方してくれなかったんです。

一人で反乱を起こしたヴァルド公爵…。哀れです…。


そこに現れたのが、トウガさんの三男、ノア君です!

20歳になったばかりの若者です!

トウガさんは、この戦いでノア君に武勲を挙げさせて、花道を作ってあげようと、彼を討伐軍の司令官に任命させました。


でも、ヴァルド公爵の私設艦隊には、なんと**「セフィ」**という、とんでもない傭兵がいました!

彼女は、トウガさんにも匹敵するくらいの、凄腕の提督だったんです!


「功に飢えた犬どもは目の前にご馳走がおいてあれば、わき目も振らずに飛び掛かるだろう。」

セフィさんのこのセリフ、ゾクッとしましたね!

ノア君のことを**「功に飢えた犬」**と見下しているんです。


そして、その言葉通り、ノア君はセフィさんの罠にかかってしまいました。

いつも海賊相手に成功していた**「突撃戦法」**が、今回は全く通用しませんでした。

ノア君の艦隊は、あっという間にボロボロにされ、逃げ場を失って、完全に孤立してしまいました…。


でも、セフィさんはノア君をすぐには倒しませんでした。

なぜなら、ノア君を**「生餌」にして、「より大物」**、つまり、トウガさんや主力艦隊を誘い出そうと考えていたからです。


「生餌」…なんて恐ろしい言葉なんでしょう…。

ヴァルド公爵は、自分の復讐のために、セフィさんを雇ったつもりでいましたが、セフィさんは最初から、もっと大きな獲物を狙っていたんです!


そして、最後に不敵な笑みを浮かべたセフィさん。

これは、ただの復讐ではありませんね。

この事件は、ラートリーさんの思惑をはるかに超えた、新たな嵐の始まりになる予感がします…!


ノア君、そしてトウガさん、大丈夫でしょうか…!?

作者子ちゃんも、続きが気になって夜も眠れません!


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あとがき


第三章も遂に不穏な動きが見え始めました。


艦隊戦を再現しようとしたら2話分のボリュームになってしまいましたが、

良しとします。


胸糞な二章は短めでしたが、第三章は大乱の爆心地になる章なので

長めを想定しています。


これからどうなるか、未来を予測してみてください。

色々な問題の種は植え付けられています。


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。

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