第三十七話 ラートリーの真意
「レイナ、守備はどうだ?」
自邸でシズクはレイナに問いかけた。
「は!問題ありません。エリスは私に対して警戒を解いております。
ですが・・その・・”友”とはどういう意図かお聞かせいただけませんか?
実は私は友というものを持ったことがございません。
これが正しいのか、少々自信がありません。」
「私に”友”を語らせるのか?そんなものはよくわからぬ。
だが概念的に友といえば、話が通じる間柄。
そう思っただけだ。
もし何事も話をできる仲になったのであれば、それでよい。」
「はぁ・・・そうでございますか。」
「ラートリーの策について語っておかねばならん。
今回2名、顧問を追加した点と、敢えて我らの陣営から2名抽出したという真意についてだ。
問うぞ。私とラートリーの実力を正確に分析せよ。無礼講だ、何を言っても許す。」
「は!互角です。おそらく勝敗は時の運、勝つこともあれば負けることもあると思います。」
「無礼講と言ったのは私だが、世辞の一つも言わぬお前は正直だな。だがそれがいい。
その通りだ。
ではトウガやお前はどうだ?」
「トウガ殿ですか?私も近くで接してきて、独自に探りも入れておりますが、
おそらくラートリー同様、互角と思われます。
あの方は単純なように見えて、そこまで単純ではありません。
噂や計略の類に関しても、警戒していなさそうに見えて、そうではないでしょう。
自分で見聞きし、確証を得たものしか信じない傾向があります。
そのうえ、直感も鋭く、嘘を嘘と見抜ける力もお持ちです。
そして、真に追い詰められた時にこそ、冷静に物事を考え、分析する傾向も見えます。
一度信じた正義に向かう姿は苛烈で、何者も止めることが出来ないでしょう。
それほどの強さをお持ちです。
それに引き換え、私は三大臣の皆々様には勝てません。勝てる絵図が描けません。
残念ながら私は皆々様との格の違いを思い知らされております。」
シズクは驚いた顔をした。
「ふふふ。見事だ。その通りだ。あいつはあいつで、やる男だ。
そうでなければ、この政治の毒壺でここまで図太く生きてはいまい。
将というのは、正確に敵を見抜く力が必須だ。お前はそれが出来ている。
そういう意味ではお前も十分我らと並ぶ英傑だがな。
お前にならミオリのことを任せられるかもしれん。」
最後は独り言のようにつぶやいた。
「いや、話を戻すぞ。ラートリーの策略についてだ。
私やトウガにラートリーの毒は効くと思うか?
お前の言った通り、互角の我らには効かぬ。
もし、お前がラートリーならどうする?」
そこまでヒントを与えられてレイナも気づいた。
「・・・・。弱点を作ります。そしてそれが私やエリスです。」
「そうだ。奴はお前やエリスを顧問にして、いずれは調略して
私達の背中を刺す・・・・そう思わせる策を立てておきながら
裏に真意を秘めているだろう。」
そういうと言葉を止めて隣で静かに眠る、我が子ミオリの頬を撫でた。
それほど愛情がこもった撫で方ではなかった。
「お前の言った通りだ。弱点を作る。それだけで十分なのだ。
私やトウガが奴に乗せられて調略対策をしていようものなら、後手に回る。
奴はお前らに対して調略をする必要がないのだ。
私やトウガに対して計略を仕掛ける際の火元にするために
お前達を顧問に追加したのだ。
離れで火事が起きたら、母屋も燃えるものだ。」
「なんともいやらしい策ですね。」
「そうだ。そして既に私とトウガは奴の遅効毒を飲んでしまった。
お前達を受け入れた時からな。
だが、もし私がラートリーならばお前のことは私の弱点とは見ない。
それほどに、お前は成長した。」
「え・・・?」
「謙遜せずともよい。私はお前を買っている。お前が味方で良かったとさえ思っている。
お前に隙が無いとわかれば、もはや一択だ。エリスが狙われる。
私ではエリスを守れん。
トウガも傑物とはいえ、ラートリーの計略を覆すことはできまい。
毒に耐性がある程度の男だ。馬鹿であることに変わりはない。
エリスを守れるのはお前だけだ。いいな?これが友になれと言った私の真意だ。」
「は!そこまで私のことを信頼していただき、光栄の極み。」
「レイナ、もう一つ言っておく。お前自身も警戒を怠るな。
お前に死なれては困る。お前には我が娘、ミオリを守ってもらいたい。」
「ミオリ様をですか?」
「私は計画を誤った。少し逃げていたのだ。もう少し早く産んでおけばよかった。
あの子は幼い。まだ守る必要がある。
もし、私に万が一のことがあればお前が守ってやってくれ。」
「は!必ず!」
再びミオリの頬を優しくなでた。
シズクは自身が母から受けた優しさを模倣してミオリに接している。
だが、その母も今想えば、何一つ愛をこめていない優しさだったんだろう。
シズクは他人の、そして自分の心の扱いには不器用だった。
だからこそ、彼女はミオリを守る誰かを欲していた。
「お前は忠義が過ぎる。自分の命も少しは大切にせよ。
ミオリを守るという我が命を忘れるな。
エリスのことは、しばし任せたぞ。」
「は!」
再び力強くレイナが応える。
だが、そのレイナもシズクのみを見つめ、ミオリのことなど見てはいなかった。
それから数か月後、帝国を揺るがす事件が発生する。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
「はぁぁあぁあぁぁぁぁ!?
よくわかりませんね!
でもきっとシズクさんのことだから裏があるんです。
信じて見守ってみましょう!」
って、以前作者子ちゃんは言いました。
今回は、シズクさんがラートリーさんの真意を解説してくれましたね!
まず、ラートリーさんの策、その名も**「離れに火をつけ、母屋を燃やす」**策です!
ラートリーさんは、シズクさんやトウガさんといった**「五大将」を直接攻撃しても、勝てないことを知っています。だから、直接戦おうとはしません。
代わりに、シズクさんの腹心であるレイナさんと、トウガさんの身内であるエリスさんを「最高顧問」**という役職につけました。
その二人だったら天才ラートリーさんの手にかかれば、問題の火種をつくれると思ったんですね!
つーまーり、弱点がない敵には弱点をこっちで作ってやればよい!っていう長期的な戦略だったんですね!
これがラートリーさんの真の狙いだったんです!
「離れ」であるレイナさんとエリスさんが、政治的な問題を起こすと、**「母屋」**であるシズクさんとトウガさんも、その火事に巻き込まれてしまいます。
もう、ややこしすぎて、作者子ちゃんも頭がパンクしそうです!
でも、シズクさんは、ラートリーさんが何を考えているのか、完璧に理解していました。
ラートリーさんはレイナさんとエリスさんをターゲットにしました。
おそらく簡単な方を獲物にするつもりだったんだと思います。
とりあえず、二人いれとけばどっちかは、馬鹿だろうって思ったんだと思います。
ひでぇな、おい!
友達になれ作戦というのは実はそういうことだったんです!
双方の陣営のどちらを狙うかは隙を見せた方だと考えたんです。
シズクさんは、レイナさんが自分と同じくらい優秀で、ラートリーさんの「離れの火事」に耐えられることを知っているからです。
つまり、ラートリーさんの次の狙いは、「火事に弱そうな」**エリスさんだ、と見抜いたんです!
だけどライバル陣営なので、簡単に手助けできない。
だからこそエリスさんを友達として送り込んだんです。
これなら自然にまもれますもんね!
シズクさん、少しだけ人の心を理解し始めたのかも?
そして、最後に出てきたシズクさんの娘、ミオリさん!
シズクさんは、レイナさんに**「私に何かあったら、この子を守って」**と、人生で初めて、誰かに自分の大切なものを託しました。
「私は計画を誤った。もう少し早く産んでおけばよかった。」
というセリフが、彼女の焦りと、母親としての愛情を物語っています。
彼女は、娘を育てるには、この国はあまりにも危険だと感じているんですね。
**「友になれ」という命令の裏には、「娘を、そして愛するものを守る」**という、シズクさんの強い決意が隠されていました。
シズクさんもラートリーさんも、もう次元が違いますね…。
この二人が戦ったら、いったいどうなっちゃうんでしょうか…!?
次回が待ち遠しいです!
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あとがき
実はシズクはラートリーの真意を見抜いていました。
話している内容はほぼほの第三十三話のラートリーと似通っています。
初手で飲まされた毒、これはエリスには効くのかもしれないがシズクやトウガには効かないもの。
そしてそれはレイナなら中和できるかもしれない。
とても複雑な状況になってきました。
裏の真意まで見抜いたシズク・レイナ。
初手の毒は飲ますことに成功したラートリー・セリオン。
果たしてこの先はどうなると思いますか?
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