第三十六話 友と言う名の調略
「本日の議題はこれまでです。
陛下、議事録を15時にお届け致します。ご確認願います。」
ラートリーが国務会議を閉会した。
ウララが退出するまでの間、五人は深々と頭を下げる。
そして五人が頭を上げた。ラートリーは新しく参加した二人に顔を向けた。
「どうだ?勝手は掴めたか?継続審議中の案件は山ほどある。
次回までに、すべて頭に叩き込んでおけ。」
そう言い放つとラートリーはその場から立ち去った。
続いてトウガやシズクも何か話をしながら退室した。
エリスは着席したまま、今日の資料や保留案件について慌てて中身を確認している。
「これ、よかったら使う?」
立ち上がって近づいてきたレイナが自分のタブレット端末をエリスに見せた。
全ての継続審議中の議案に関して、過去の議事録からの情報を
注釈としてまとめ上げ、現状ステータス、課題点が簡潔に、そして深掘りしてまとめられていた。
「あ・・?」
「私はレイナ・ブランウッド。これからよろしくね。」
「・・エリス・ロゼヴェールよ。よろしく。」
エリスの表情は硬い。もちろん彼女はレイナがシズクの腹心であることは承知している。
警戒するのも仕方ない。
レイナも警戒されていることはよくわかっているため、穏やかに接する。
彼女も他人の素質を判断するために、相手をじっくりと観察する癖があるが、
今回は封印している。
「私はこういうのをまとめるのは得意なの。良かったら転送するわ。
早くウララ陛下のお役に立てるように一緒に頑張りましょう。」
「えぇ。」
「ラートリー殿・・不気味よね。ふふ。
なにか・・こう・・見透かされているようで発言しにくいわ。」
唐突でレイナが笑顔で話題を振った。
「そうね。」
当たり障りなく返事をするエリス。
「トウガ殿のことは私は少し誤解していたわ。とても厳格で怖い方だと思っていました。
常に私達新人に対して、気を使っていただき緊張しないように心配りをされていた。
思ったよりお優しい方なのね。」
「そうよ、義父・・・、いえ、トウガ様はいつもそういう方なの。」
ようやく会話の糸口をつかんだとレイナは思った。
「そういえば、トウガ殿はエリス殿の義理のお父様でしたね。少し羨ましいわ。
私は人質生活が長くて、父の顔は忘れてしまいました。」
「・・あなたはシズク殿の人質でしたね。シズク殿はどんな方なんですか?」
少し驚いた顔をしたレイナは、改めて辺りを見回した後、1歩だけエリスに近づき
自分の首に親指を当てて、意地悪そうな笑顔のまま、横に引いた。
「油断すると、これ。」
二人は目を見合わせていたが、少ししてエリスが少し噴出した。
それに合わせてレイナも笑いながら
「嘘、嘘。私のことをしっかりと教育してくださった恩人よ。」
そう言いながらも、片目をつぶって舌をだした。
「あははは・・・。」
エリスも遂に 笑い出した。
「レイナ殿も大変なのね。なんとなく想像ついたわ。
ありがとう。この資料はいただくね。
正直、色々なことが起こりすぎて困ってたの。」
「お安い御用よ。もし会議の場で困ったらお互い助け合いましょうね。
正直なところ、あの三人の中にいたら私達、場違いすぎて。」
「えぇ。レイナ殿がいて良かった。私一人ならどうしようかと思ったわ。」
「では改めて。今後ともよろしくお願いします。」
レイナはそう言って手を差し出し、固く握手が交わされた。
それ以降の国務会議ではお互いが意見を補完しあうなど協力関係を維持した。
また、皇宮内では二人で過ごしたり、会話で盛り上がることも増えた。
エリスは最初の方こそ、彼女は口巧みにトウガ陣営のことを探りに来ていると警戒していたが、
レイナは一切、そういう意味での政治的な会話は行わなかった。
むしろ、シズク陣営の動きについて、エリスの問いかけには素直に答えていた。
いつしか、エリスの警戒は薄れていった。
ある時、エリスが国務会議で議題を初めて提案した。
「近年、続く戦乱により戦災孤児が増加していると聞き及びます。
それを見て見ぬふりをするのは治安の悪化にもつながります。
また、子供たちはこの神聖帝国の未来を背負う者達でもあります。
孤児院を作る予算を割いてみてはいかがでしょうか?」
シズクが冷静にエリスに問いかけた。
「孤児が増加しているのは把握している。だが、どこまで実施するのだ?
一部の対応では、付け焼刃にすぎん。
お前の言う効果を望むならば、予算は無尽蔵に膨らむぞ?」
シズクの言い方に特に厳しさはなかったが、エリスは固まりかけた。
トウガが助け舟を出そうとした時に、レイナが割り込んだ。
「シズク様、エリスの懸念も無視はできません。
近頃、海賊どもが戦災孤児を誘拐し、他国へ奴隷として売り払う事例が確認されております。
我々が把握する以上に治安の悪化や民の怨嗟は広がっている可能性があります。」
シズクはきつい目でレイナを睨んだが、話をつづけた。
「よかろう。レイナにシズク、まずは報告書にまとめよ。
現在状況と、どこに注力して対処すると効果的かを、見えるようにせよ。
陛下、それでよろしいでしょうか?」
「はい、レイナ、エリス。戦災孤児に関しては私も深い懸念を感じます。
早急にまとめて報告をしてください。」
「は!」
二人は同時に返事をした。
その日から二人は夜遅くまで協力して、議案と報告書に取り組んだ。
レイナが各地の状況をまとめ、エリスは実際に海賊達を捕らえて計画を聞き出したりもした。
二人は協力し合い、時に揉めることもありながらも一歩一歩着実に法案と資料をまとめ上げた。
次の国務会議で継続審議中のエリスの孤児対策案の審議を再開した。
「ふむ、治安の悪化に傾向がありそうだな、重点的に一次、二次と対策を分けて打つことで
予算と救済を両立できる可能性もありそうだ。」
資料を確認しつつ、ラートリーが評価を行う。
「予算割りと用途に関してもよく考えたようだな。」
シズクも素直に認めた。
「陛下、二人の案について、いかがいたしますか?
案2あたりが妥当かとは思いますが。」
トウガは微笑みながらエリスをみて、その後ウララに確認した。
「はい、私も案2が妥当かと思います。シズクやラートリーの意見はどうですか?」
「御意、問題ないかと。」
シズクが返答し、ラートリーも頷いた。
「では、レイナ、エリス。案2を承認します。実行に移してください。
あなた方の提案はとてもよかったわ。今後とも若いあなた方の活躍に期待します。」
「は!ありがたき幸せ!」
二人は同時に返事をした。そしてそっと目を合わせて笑顔を向ける。
このような事案が何度も続き、いつしか彼女達の友情は、確実に形をなしていった。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
今回は本当に乙女ゲームの主人公と親友みたいな、良い展開でしたね!
そのうち、イケメンの先輩がひょっこり、登場するんじゃないかって期待しちゃいますよね!
でも、この物語、サイコパスばかりだから、イケメンが出てきても、きっと期待薄そうです。
いやいやいや、待て待て。
うふふふ…。
この作者子ちゃんの手にかかれば、イケメンの一人や二人、さらさらっと書き加えて登場させることだって…!
げへへへ…。がふっ!…誰だ、石投げつけた奴!
まあ、冗談はさておき、この二人、完璧に友情を育んでいましたね。
でも、シズクさんからの最初の指示は**「調略」**でした。
「たぶらかして、味方につける」…そんな怖い命令だったのに、この友情は作り物だったんでしょうか?
んー…。
作り物の友情は、逆に危険ですよね!
この先、この友情がどうなっていくのか、作者子ちゃんは波乱の予感しかしません!
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あとがき
少しだけ落ち着いた展開になりました。
前話が謎のといかけであるため、この行動にも考えさせられますよね。
はたしてシズクの読みは正しいのか?
またはレイナはシズクの分身のような人物、そんな彼女が友情を育めるのか?
油断できない展開です。
★▼オマケコーナー!!▼★
この物語に登場する艦型式について、簡単にご紹介します。
宇宙空間での運用を前提としているため、地球上の艦船と比べてはるかに巨大かつ高性能な設計となっています。
記載のサイズや運用人数は目安であり、艦内の自動化が進んでいるため、実際の運用にはその3割程度の人員でも航行可能です。
●弩級戦艦
- サイズ:約1000m
- 運用人数:約900人
- 役割:艦隊の旗艦、または主力となる超大型戦艦。単独で惑星制圧が可能な戦略級兵器であり、圧倒的な火力と防御力を誇る。艦隊の火力中核を担う存在。
●戦艦
- サイズ:約600m
- 運用人数:約500人
- 役割:艦隊の攻撃力を支える主力艦。弩級戦艦に次ぐ大型艦で、多様な武装と堅牢な装甲を備え、艦隊戦の中核を成す。
●空母
- サイズ:約500m
- 運用人数:約650人(艦載機パイロット・整備士含む)
- 役割:多数の艦載機を運用し、広範囲にわたる攻撃・防御・偵察を行う移動航空基地。艦自体の武装は最小限で、艦載機運用に特化した設計。
●巡洋戦艦(重巡洋艦)
- サイズ:約400m
- 運用人数:約300人
- 役割:戦艦に近い火力と、巡洋艦を凌駕する速力を併せ持つ艦種。防御力は戦艦に劣るが、高速強襲・偵察・追撃など柔軟な運用が可能。
●巡洋艦
- サイズ:約250m
- 運用人数:約200人
- 役割:偵察、哨戒、艦隊護衛、通商路保護など多岐にわたる任務を担う汎用艦。バランスの取れた武装と速度を持ち、単独での作戦行動も可能。
●駆逐艦
- サイズ:約150m
- 運用人数:約80人
- 役割:艦隊の護衛、対艦・対宙攻撃、対潜水艦作戦などに対応する高速・高機動艦。小型ながら重武装で、艦隊の「盾」や「矛先」として機能する。
●フリゲート級高速戦闘艦
- サイズ:約80m
- 運用人数:約30人
- 役割:高速・小型の武装艦艇で、奇襲攻撃・哨戒・偵察に特化。ミサイル艇や魚雷艇に近い役割を担い、単独または小部隊での運用が多い。
※コルベット級との違いは、奇襲性能と高速性に特化している点。
●コルベット級高速戦闘艦(小型)
- サイズ:約50m
- 運用人数:約15人
- 役割:沿岸域の防衛、哨戒、特殊任務に用いられる極小型艦。ステルス性を重視した設計や無人機運用能力を持つ場合もある。少人数での運用を前提に、高度な自動化が進んでいる。
※フリゲート級との違いは、特殊任務・ステルス性・少人数運用への特化。
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