第三十四話 静かなる刃の芽吹き
シズク派の新たな最高顧問にして主力艦隊 第4艦隊提督に抜擢された
茶髪のレイナ・ブランウッド侯爵。
彼女はアジュール公爵家の従属関係にあるブランウッド伯爵家の次女として生まれた。
シズクが21歳の時、神聖女帝ココが崩御し、彼女は五大将評議会の一人となった。
ちょうどその頃、ブランウッド家からの客人としてレイナはアジュール家に一室を与えられた。
いわゆる人質だ。
その時、レイナは10歳。
シズクの元には多数の下級貴族の人質が働いている。
大抵は侍女や近侍兵になるが、シズクはどんな人質も必ず最初に謁見する。
それが準男爵のような最下層の貴族であっても例外なくだ。
そして会話することで、どんな身分の者でも素質を見定めた。
彼女の周りには他分野において優秀な人材が多い。
そのため、優秀な者の特徴は直感として何となくわかった。
興味が湧いた者には、その適正がどこに向いているかを各部門の側近達に見定めさせ、
適した部署へ配属させた。
興味が湧かなかった者達が、侍女や近侍兵となる。
もちろん初見で見抜けなかった場合でも、途中で光を見出せば、取り立てることもあった。
シズクは人材愛が強かった。
レイナの場合は大貴族である伯爵家の出身のため、さすがに兵士や侍女として
扱うわけにはいかない。伯爵家の面子を立てるためにも参謀の一人として近侍させた。
優秀な者であれば重用し、興味が湧かない者は顧みられることもなく、
参謀と名の付いた、ただの人質で終わった。
レイナがシズクに仕えた年はちょうどシズクが評議員として活動開始の時期であるため
多忙を極め、謁見はほとんど行われなかった。
しばらく彼女は参謀という名のただの人質扱いを受けていた。
ある日、シズクはようやく多忙の中に一息つける時間を見つけた。
そして、人質の中に埋もれた、新しく入った参謀の一人に目を向けた。
「お前が新しくきた・・・ブランウッドの次女の・・レイナだったな?」
「は!レイナ・ブランウッドと申します。
以後、ご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。」
その言葉を受けながらシズクは静かに観察していた。
いつものことだ。ほんの少しの違和感も彼女は見抜くことができる慧眼の持ち主だ。
これで大抵、素質の有無は見抜けたりする。
シズクは違和感を覚えた。レイナは全く動揺していなかった。
18歳で序列一位まで昇りつめた女傑シズクは皆から恐れられていた。
家柄ではなく、その能力によって銀河で恐れられる大提督の一人に成り上がった人物だ。
どんな人物でも、そんなシズクに凝視されたら、恐怖で目をそらすか、冷や汗の一つもかく。
だが、レイナは全く物怖じを感じなかった。10歳の少女だというのに。
それどころか、レイナの純粋で鋭く刺しこむような瞳は、逆にシズクを
見定めているように感じた。
シズクは戯れにレイナに問いかけた。
「お前は私をどう見た?無礼講だ、何を言っても許す。」
「・・・よろしいのでしょうか?」
「くどい。」
「は! 仕えても良いと思いました。」
「なんだと?! ・・・はははは。そうか。
私は、”お前が”仕えるに値する主君か。」
「はい。」
「よかろう。私もお前を試してやろう。私にとってお前が使い道があるかをな!
明日からお前に徹底的に教育を施してやろう。そしてお前の得意な分野の
最高の進路を用意してやる。私の期待に応えてみろ。」
「え?あ、はい。必ずご期待に添います。」
これがレイナとシズクの出会いだった。
それ以降、レイナはシズクの期待に応えて、みるみる知識をつけていった。
過去の自分に似ている・・・シズクは密かにそう思った。
ある時、次のような事件があった。
レイナ12歳の時、シズクはレイナを連れて、シズクに恨みを持ちつつも、
従属を余儀なくされている元貴族連合のヌレンヌ伯を訪問していた。
シズクは既にヌレンヌ伯の裏切りを諜報で把握していた。そして貴族連合の
ニャーレン侯と繋がっており、この場でシズクを毒殺しようとしていることも
把握していた。
あえてシズクはこの会見に応じた。その毒を敢えてヌレンヌに飲ましてやろうと
シズクは考えていた。
そして拒否した場合はその場で始末しようとして近侍兵を多数引き連れていた。
ヌレンヌを他の裏切者に対する見せしめとして派手に処断しようと考えていたのだ。
伯爵家の庭園にてシズクとヌレンヌが向かい合い、紅茶と茶菓子が添えられている中、
会見が続いた。
「シズク様とお話出来て大変光栄です。どうぞ、お茶もお召し上がりになってください。」
シズクはヌレンヌの勧めに従ってティーカップに手を伸ばした。
そこで――お前がこれを飲め――とでもいうつもりだった。
その時、後方に控えていたレイナが疾風のごとく駆け寄り、シズクすらも反応できない速さで
ティーカップを奪い、自ら飲み干した。
レイナが血の塊を吐いた。
さすがのシズクも驚いた。
彼女はすぐに指示をだし、毒殺未遂で近侍兵によってヌレンヌを射殺した。
この毒は、ニャーレン侯が好んで使う胃壁破壊型。
毒の種類まで諜報活動で入手していた。
吸収される前に吐き出せば、命は助かる。
レイナにはシズクの教育の一環で毒物耐性訓練を受けさせていた。
彼女の体は、常人よりも毒への反応が早く、処置が間に合いやすい。
シズクは慌てながらも、すぐにレイナの顎を押さえ、浄化剤を流し込んだ。
その後、専用の胃洗浄装置で内容物を強制排出し、
最後に解毒剤を注射した。
間一髪でレイナは命を取り留めた。
シズクはレイナを叱りつけ、この暴挙の理由を問いただした。
弱々しい声でレイナは答えた。
「はぁはぁ・・。伯爵は紅茶を薦めた際に、目の奥に偽りが見えました・・。
また紅茶を運んだ侍女に・・不自然な汗を見ました・・・。
これは毒殺を企んでいることに・・・こふっ・・間違いありませんでした。
もし・・・。こふっこふっ・・。あなたが死んだら、この国の未来はなくなる。
はぁ・・・はぁ・・・・。
ですが・・・、私が死んでも何も変わらず・・・・、むしろ伯爵を罪に問えます・・・。」
「・・・お前の忠義はよくわかった。だが、以後このような真似は二度とするな。」
彼女には毒の件は一切伝えていない。
12歳の少女が自分で判断し、ためらうことなく一気に毒を飲み干した。
シズクはレイナの忠誠心と冷静な判断力、そしてその胆力を認めざるを得なかった。
シズクと同様、レイナもまた、大貴族の次女として生まれ、既に心が壊れていた。
これ以降、シズクは側近の中でもレイナを特別な目でみるようになった。
彼女はその期待に応え続けた。
ニャニャーン士官学校でも最上位の成績で卒業し、シズクの艦隊の参謀長として活躍した。
彼女はシズクの庇護のもと、武勲を挙げ続け、その後独立し、下部主力艦隊の第11艦隊提督に就任した。
そしてシズクの元から羽ばたき、自らの力で武勲を挙げ続け、23歳になった頃には
中将に昇進し、侯爵位と下部主力艦隊筆頭第6艦隊提督の地位を授けられた。
かつての五大将の奇跡には及ばなかったが、間違いなく次世代を担う傑物には育っていた。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
今回は、新キャラのレイナさんのお話でしたね!
彼女とシズクさんの、とんでもない出会いの物語…!
ところで、皆さん、10歳の頃って何をしていたか覚えてますか?
私は……えーっと……宿題サボって、ゲームばっかりしてました!
ちがーう!ちがう!作者子ちゃんはミニバス始めました!
めっちゃカッコいいバスケ少女ですよ!
何も無い所で転んで怪我したことありますけど…。
さて、今回の主人公、レイナさんは全然違いましたね!
彼女は、**「大貴族の人質」としてシズクさんのもとにやってきました。
人質って言われると、なんだか可哀想な響きですけど、この世界では、それが当たり前のことなんです。
そして、その人質たちを、シズクさんは一人ひとり面接して、「使える子かどうか」**をチェックしていたんです。うわぁ、こわいですね…。
そして、10歳のレイナさん、なんとシズクさんを逆に品定めしちゃいました!
「この人、仕えるに値する主君だわ」って!
もうこの時点で、只者じゃないですね!
その後、シズクさんのスパルタ教育を受けて、みるみるうちに優秀になっていったレイナさん。
そして、あの**「毒茶事件」**です!
シズクさんが毒殺されそうになった時、レイナさんは、12歳の女の子ですよ?!
それでも、瞬時に状況を判断して、自分の命を投げ出して、シズクさんを守りました!
「もし…あなたが死んだら、この国の未来はなくなる。ですが…私が死んでも何も変わらず…」
うわーん!このセリフ、悲しすぎます!
レイナさんは、12歳にして、自分の命の価値を、自分自身の心の中でゼロにしてしまっていたんです。
シノさんもそうでしたけど、この世界では、生き残るために、心を壊すしかないんでしょうか…。
でも、この事件があったから、シズクさんは、レイナさんのことを特別な目で見るようになったんです。
自分の**「分身」**として、大事に育てたんでしょうね。
そして、そんな風に育てられたレイナさんは、今や、シズクさんの右腕として、最高顧問にまでなりました。
まさに、**「忠誠の結晶」**ですね!
この二人の絆が、今後の物語にどう絡んでくるのか…!
作者子ちゃんも、ドキドキが止まりません!
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あとがき
茶髪のレイナ・ブランウッド侯爵の掘り下げです。
シズクとは一回り年齢差がありますが、まるで小シズクと言わんばかりの逸材です。
ラートリーというバケモノを相手にでも、対峙できそうな気配を感じましたでしょうか?
シズクが絶対の信頼を寄せる腹心、ここに誕生です。
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