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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第三章 花曇(はなぐもり)の刻

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第三十話 新しき時代の幕開け

第三章 花曇はなぐもりの刻


シノは忠義と野心の狭間で、英雄から朝敵へと転落し、

ウララは喪失の痛みから逃れるために、勅命という名の刃を振るった。

シズクは冷徹に読み、トウガは情に揺れ、ラートリーは均衡を保った。

それぞれが、それぞれの正義を掲げながら、

帝国は静かに、しかし確かに、次なる季節へと歩みを進めていく。

「花曇の空に、若き蕾は揺れ

 忠義は誓いとなり、絆は刃となる


 帝国の春は、静かに始まり

 その根には、毒が潜む


 咲き誇る者は、まだ知らぬ

 その美が、誰かの影を裂くことを


 風は優しく、空は穏やか

 だが、雲の奥には雷が潜む


 この刻、花々は語らず

 ただ、運命の庭に立ち尽くす 」



シノ・アンバー辺境伯はウララの勅命により討伐された。


残った三大将は、後味の悪さを感じつつも、次の展望に向けて前を向いている。

もはやシノは過去の人とでも言わんばかりに──。

時代は、過去を振り返ることなく、無情に進み続ける。



そして最も大きな変化として、評議会は解散され、女帝を中心とした最高顧問制ウララ親政へと政治体制は移行した。

実質的には、ウララが参加するようになっただけの評議会政治と大きくは変わらない。

だが、形式上の主役は、ようやく神聖女帝ウララに受け継がれた。


そして1年、滞りなく帝国は運営され、ようやく平和が訪れたと人々は感じ始めた。


だが人知れず帝国を覆う暗雲が形成されつつあった。


妙な噂の芽が息吹き始めた。


ニュクスの乱の黒幕は実はシノではなくシズクであり、失敗したシノをシズクが速やかに排除した。


そういう噂である。

元々、誰もが想像したことがあるような内容で、誰もが流しかねない噂だ。


だが、もちろん事実ではなく、そんな幼稚な噂が発生することはシズクは想定しており、

放置するはずがなかった。

その噂は決して火元に昇華することなく消えていった。


だが、夏場の雑草のように抜いても、また芽吹く。

それを繰り返した。

ニュクスを風化させるにはまだ時間がかかった。




宮廷内でシズクとラートリーがすれ違った。二人は会釈すら交わさない。

唐突にラートリーが呼び止める。


「シズク殿。」


「ん?」


シズクは足を止め、無表情でゆっくりとラートリーの方に振り返った。


挿絵(By みてみん)


「何か用か?ラートリー。」


「噂の処理に苦労しているようだな。」


少し間をあけた後、シズクが返す。


「馬鹿馬鹿しい。私がニュクスの乱の真の黒幕で、シノがしくじったせいで切り捨てた──

 という噂のことか?」


「そうだ。私はそんな噂はどうでもよいのだが、中には信じる者もいる。」


「トウガのことか?だから馬鹿は嫌いなんだ。

 心配するな。大事になる前に消している。

 それに私は私で噂の根を探っている。

 非常に鬱陶しい。消しても消してもどこかから現れる。

 あぁ。ちなみにな、ラートリー。この噂の出所はお前だと私は確信している。

 なかなか尻尾を掴むことが出来ない。お前以外に為せないだろう。」


余裕な表情で何も悪びれずラートリーが返す。


「まぁ、そう思われるのも仕方ないな。卿が失脚すれば、私にとっては

 確かに都合が良い。

 だが、残念ながら違うぞ。

 私は第一に神聖帝国の安定を考えている。

 不本意だが、卿の存在は私の構想から外せない。

 それにだ。卿は私を侮りすぎだ。

 私ならもっと迅速にもっと的確に卿を引きずり落とすことができるだろう。」


あながち間違っていないかもしれない。

それほどラートリーは何をやらせても恐ろしく正確にやり遂げる。

シズクの目に暗い殺意が浮かぶ。


ラートリーがわざとらしく冗談扱いにして続けた。


「あぁ、すまない。冗談だったんだが。

 どうも私には冗談をいう素質”だけ”がないんだ。

 こうも冗談が笑ってもらえないと私も悲しくなるな。

 話を戻す。卿は私を信用していないようだから、私は私で勝手にやらせてもらう。

 貴族連合のマルベルト公爵が不穏な動きを示している。

 卿は卿で尽力したらよい。

 だが、トウガ殿には気をつけろ。この噂、早めに摘み切らないと

 取り返しがつかなくなるぞ。」


シズクがゆっくりと目を閉じてから見開くといつもの様子に戻っていた。


「マルベルトか。奴には随分恨みを買っているのは確かだ。

 だがな、ラートリー。

 恨みを買っている奴らは扱いやすい。

 むしろお前のような何を考えているか、わからない奴の方がよっぽど危険なんだよ。

 まぁいい。

 そういうことならば、マルベルトのことはまかせたぞ。

 私は徹底的に、お前を洗い出すことにしよう。」


「まったく、可愛げのない奴だ。まぁ、任せろ。

 今、この国から卿とトウガ殿を失うわけにはいかないからな。」


そう言い終わると一瞥すらせずに二人は再び歩き始めた。





執務室に戻ったラートリーはずっと顎を撫でている。


「くそ・・シズクめ。マルベルトのことなど、全く信じていないではないか。

 あくまで私を疑うか。やはりシズクは喰えん奴だ。」


マルベルトが噂の出所なのは真実だった。

だが無意識に焚きつけたのはラートリーの毒だった。

そして裏からマルベルト達ですら、気づかないように極秘裏に援助し続けたのもラートリーだ。

マルベルトは自分が手駒に使われているとは微塵も感じていない。


ココの代より長らく中央の政治から遠ざけられていた貴族連合は、シノの失脚を見て

シズクを追い落とす絶好の機会だと認識した。


彼らとて200年間、政治の毒壺の中で他を喰らい続けてきた蟲毒こどくの一種だ。

計略は彼らの得意分野である。


蟲毒とは古代、毒蛇や毒グモ、サソリなど、毒を持つありとあらゆる生物を壺に閉じ込めて

殺し合わせて、最後まで生き残った生物から毒を生成する呪術であり、マルベルトはその中で

生きてきた猛毒の虫の一匹と言える。


毒虫に矜持などというのも妙な話だが、自らの手でシズク如きは追い落とせると考えていても不思議ではなかった。

既にラートリーの毒に侵されているとは知らず。


「・・・。

(この策は無駄だった。マルベルトのことは切る。

 あえて何もする必要はあるまい。今まで守ってきてやったが、

 ここで私が手を引けば、奴はシズクによって排除されるだろう。)」


顎を撫でながら、再び自分に向けて独り言を言う。彼の悪い癖だ。


「ラートリー、次にお前はどうする?

 今の帝国の安定は望ましいが、シズクとトウガは今のままにはしておけん。

 さぁ、考えろ。お前の全てを使って成し遂げてみろ。」


顎を撫でるのを止める。


「焦るな。時間はある。」

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


新章スタートです!

今回のサブタイトルは**「花曇の刻」**!

なんだかすごくきれいな言葉ですよね。でも、ちょっと寂しげな響き…。

実はこの「花曇」、桜が満開の時期に、空がぼんやりと曇る天気のことを言うんですって。

桜はきれいなのに、空はどんより曇っている。なんだか、このお話にぴったりなタイトルですよね……。


さて、今回のポイントは、**「毒虫の壺」と「静かな嵐の予感」**です!


シノさんがいなくなって、ウララちゃんの親政も始まって、これで一件落着……。

かと思いきや、そうは問屋が卸しませんでしたね!

平和な空の下、とんでもない「噂の毒」がまき散らされ始めました!


シズクさんを「ニュクスの乱」の黒幕だと仕立て上げる、あのイヤ〜な噂。

シズクさんは「犯人はラートリーさんだ!」と確信しているんですけど、ラートリーさんは「俺じゃないよ、冗談だよ」と笑ってごまかします。

でも、実はこの噂、ラートリーさんが無意識に仕掛けた毒だったり、その裏で貴族連合のマルベルト公爵が動いていたり……もう、頭の中がこんがらがっちゃいますよね!


この貴族連合、作中では**「蟲毒こどく」と言われています。

毒を持つ生き物を壺に閉じ込めて、最後に生き残った一匹から毒を作る、っていう恐ろしい呪術のことです。

つまり、貴族たちは、お互いを蹴落とし合うことで生き残ってきた猛毒の虫**ってことなんですね……。うわぁ、こわい。


でも、一番怖いのはやっぱりラートリーさんです!

彼は、マルベルト公爵を使ってシズクさんを追い落とそうと画策しているんですけど、シズクさんから疑われた途端、手のひらを返してマルベルト公爵を切り捨てることを決めました。

「もう用済みだから、シズクにやられちゃえ」ってことですね……。ひどい!


そして最後に、ラートリーさんが自分自身に問いかけるシーン。

「焦るな。時間はある。」って……。

このセリフ、ゾクッとしましたよね!

まるで、この国全体を大きな将棋盤に見立てて、彼は時間をかけて、ゆっくりと、すべてを自分の思い通りに動かそうとしているみたいです。


これから、この平和な国で、どんな嵐が巻き起こるのか……。

作者子ちゃんもドキドキしながら、見守りたいと思います!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


第三章の始まりです。


ウララは見かけ上、立ち直り、神聖帝国はようやく正しくスタートしました。

ですが、この三大将が並び立って、鼎立を維持するのはできるのでしょうか?


既にラートリーとシズクの両立は破綻しているのかもしれません。


皆さまはどう考えられますか?


ご意見お待ちしております。


感想やご意見、評価、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

感想のログイン制限を外しました。気軽に感想をお聞かせください。



オマケ

■■覇を争う者達■■

挿絵(By みてみん)

蒼氷の剣 シズク・アジュール女公 (36歳)

皇族にして、自身も継承権8番目に連なる公爵家の当主である。

多才であり、その統率力は歴代最高とも評されながらも、政治、策謀においても隙がない。

観察癖があり、微細な違和感からも相手の心情や、事態のリスクを察知することが出来る。

冷静沈着だが、意外と沸点が低く周りから恐れられている。

幼少時、愛情を一切得られなかったため、心が壊れているとラートリーに分析された。

彼女自身は野心の塊であるが、帝位は狙っておらず、カリスマ的象徴を据え、その背後から全権を掌握することを狙っている。

ニュクスの乱では、責任を問われかけたが、持ち前の危機管理と冷酷さでシノを切り捨てて乗り切った。

神聖帝国の”蒼氷の剣”の尊称を持ち、敵艦隊から恐れられている。


挿絵(By みてみん)

赤炎の槌 トウガ・クリムゾン公爵 (42歳)

ココの従姉妹を妻として娶っており、皇族の一員である。

公爵家の当主であるが、トウガを含めた過去三代の当主は全員宇宙軍大将を務めて主力艦隊提督に任命されている生え抜きのエリートである。

元々優秀な一族であったが、その中の過去最高の逸材と謳われた猛将である。

忠誠心が強く、熱血で、情にも厚いため、人望を集めている。

兄弟がいなかったため、大家族に憧れており、自身は四児の父で全員男児。

親に捨てられた親子ほど年齢が離れた従妹も養女に迎え入れている。

単細胞と思われがちだが、相手の心情や物の真偽を見抜く力を有しており、この政治の世界でも図太く生き抜いている。

あまり人を貶さない善良な人物だが、もちろん政治家でもあるため、合理的な判断もできる。

ニュクスの乱では情に揺れつつも、その合理的判断でシノを切り捨てた。

彼女からもらったペンダントを肌身離さず身に着けているのはその罪悪感からか。

彼の旗艦は深紅に染め上げられ黄金の波目模様がアクセントの勇壮な弩級戦艦〈トゥルフニャッド〉

神聖帝国の”赤炎の槌”の尊称を持ち、シズクと並んで帝国の2大最終兵器と敵艦隊から畏怖の対象となっている。


挿絵(By みてみん)

緑風の策士 ラートリー・ヴァーダント侯爵。 (43歳)

自身は伯爵家の出だが、天才的な軍略で敵を打ち破り現在は侯爵位を受けている。

かつて爬虫類星人との戦争時に彼が率いる第4艦隊一つで、その捉えどころのない画期的な戦術のもとに3つの艦隊を撃滅した。

皇族ではないため、常に一歩引いた位置で控えめにふるまっている。

シズクとは策略家としてのライバル同士でお互いが認めつつも、警戒しあっている。

何を考えているか読めぬ──それゆえ、最も危険な男。

常に中立を維持して帝国の安定を目指している。

その名目で容赦なくシノを切り捨てた。

彼の旗艦は緑一色に塗られて一切の装飾がない弩級戦艦〈ニャンフューメルン〉

緑風の策士の異名を持ち、敵提督は最大限の警戒をする。が、彼の策には抗えない。


挿絵(By みてみん)

神聖女帝 ウララ・ニャーリ (19歳)

強烈なカリスマをもって、五大将を束ねることができた神帝ココの後継者。

ココの突然の崩御により3歳で帝位を継ぐ。

成長して彼女にもカリスマの片鱗が見え始めたが、物心ついた頃から女帝として周りに愛され、自由に成長したこともあって、考えが甘い所もある。

現在、その甘さから信頼する弟に裏切られ、兄のように慕い、信頼していたジジを失った。

罪の意識にとらわれていたが、シノに責任を転嫁することで、ようやく立ち直った。


※彼らは不老長若種のため、皆が20代くらいの外見を維持している。

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