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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第二章 忠義と野心の交錯
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第二十九話 最高峰の景色

シノの逃避行はかつての同僚である三大将との対峙という形で結末を迎えた。


「…………。ははは……。私も疲れていたようね。

 なぜ正確な出航日を報じていると思ったのかしら……。

 相手はラートリーなのに。

 事前に進軍しておいて、頃合いを見て発表するに決まってるじゃない。

 あの報道すらラートリーの計略だとなぜ気づけなかったのか……。」


自嘲気味にシノが呟く。


シノ艦隊は取り囲まれ戦闘は不可避だった。


レンド中将はシノに問いかける。


「戦いますか?突っ切りますか?

 あるいはかなり危険ですが、この位置から緊急FTLジャンプで逃れますか?


シノは迷ったまま答えが出ない。だが、考えている猶予もなかった。


「この状況で戦って勝てるとは思えない。

 しかも相手はあの三大将だ。

 三人を相手にすることはないが、そうなると相手はラートリー一択だ。

 前方にいるのがトウガ様であればまだ望みが持てたかもしれない。

 一番相手にしたくない奴が道を遮っている。

 当然素通りも許されることはない。


 緊急FTLで逃げるか?

 やはり危険だ。ジャンプ先で恒星に突入しないとも限らない。」


レンドが肩を落とす。


「最後の賭けだ。」


シノはそう呟くと暗い表情のまま、通信設備の前に進んだ。


挿絵(By みてみん)

彼女は諦めずに、かつての同僚である三大将に最後の助けを求めた。


「シズク様!!陛下に……陛下にお取次ぎを。

 私は何もしておりません。ただ、ニュクス様をお守りしていただけなのです。

 どうかシズク様の手で……」


「シノ…………もういいわ。黙って。貴女には死んでもらった方が私にとって都合がいいのよ。

 全ての責任を背負って、潔く果てなさい。」


「シィズクゥ--!!!お前だって同罪だろうが!!!」


通信は切られ、最後の叫びはシズクには届かなかった。


深い落胆の中、今度はかつての上司であり、最も理解してくれると信じたトウガへ通信を繋いだ。


「トウガ様!!どうか、どうかお聞き届けください。私は何もしておりません。

 陛下にお伝えください。私は改心いたしました。今は陛下への忠誠のみにございます!

 トウガ様、なにとぞ……。」


「シノ、残念だよ。お前が乱に関わっていたかどうかはこの際どうでもいいんだ。

 お前が皇弟を野心のために利用しようとしたのは事実だ。

 そんなお前を排除せざるをえない。それが政治だ。」


「トウガ様、お待ちを!!」


通信は切られ、最後の懇願はトウガに届かなかった。


毅然とした態度でトウガは通信を終わらせた後、打って変わって、うつむきながら自室へと向かった。

退室する直前に消え入りそうな声で副官に指示を出した。


「すまない……。この戦いはお前達に任せる。うまくやってくれ。」



最後の望みをかけてシノはラートリーに通信を繋いだ。


「ラートリー様、お待ちください。私は何もしておりません。

 お助けください、陛下へのお取次ぎを。

 もしお助けいただけるのであれば生涯あなた様に忠誠を誓います。」


「シノ、私は勅命で動いている。お前を助けるわけにはいかない。

 詰めが甘かったな。お前はここで退場だ。」


通信は切られ、最後の希望も潰えた。


挿絵(By みてみん)

「…………。

 どいつもこいつも。お貴族様は私達平民を雑巾とでもおもってるんだろう!!

 汚れたら捨てるか!

 くそおぉぉぉぉ!!全艦、戦闘態勢を取れ!!

 馬鹿貴族どもを皆殺しにしてやる!!


シノは戦った。策略は見抜かれ、戦術は行き詰まり、攻撃は届かなかった。

無敗を誇る彼女と言えども、疲れ切り、弾薬も尽きた状態で、

非常識な強さを誇るこの三人の前ではなすすべもなかった。


彼らの攻撃は容赦なく、この戦いの勝敗は既に見えた。

シノ艦隊は大部分を撃沈され、今もまだ三艦隊の猛攻に対して防戦一方となっている。


レンドが心配そうに声をかけた。

「提督…………。」


「く……もういい!こんな国に未練も何もあったものか。

 自動計算で緊急FTLジャンプ、準備開始!行きつく星系ならどこでもいい。

 亡命先など後から決めれば……」


言いかけた時に旗艦が大きく揺れる。直撃を受けた。


オペレータが悲痛な顔で叫ぶ。


「FTLドライブ、ダウン!ジャンプ不能です!」



シノはお尻から崩れ落ち座り込んだ。


「くそ……誰だ。誰がウララを焚きつけた!

 私は……私は……なぜだ……理不尽だ……。

 私はただただ努力をして……最高峰に登りたかっただけなんだ。

 お前達、貴族共が当たり前のように見る景色を見たかっただけだ。


 それの……何が悪いんだ?」


立て続けに直撃を受け、シノの旗艦は宇宙の塵と消えた。


後世の歴史家から「シノの乱」と呼ばれる事件である。





黒髪 シノは第12艦隊提督となり初めて旗艦を手に入れた。

巡洋戦艦 ニャンスゴーダル。

黒色のパーソナルカラーにしようと最初は考えた。


だが、隣のドックには黒髭ノアールの弩級戦艦 メルクゥニャムが停泊していた。

黒光りし、要所に装飾が施された荘厳な船だ。


彼女はそれを見た後、ニャンスゴーダルを灰色に染めた。

平民は目立ってはいけない。彼女の悲しい信念からだった。


それ以降、彼女の旗艦は灰色だった。

いつしか、彼女は武勲を上げ続ける内に、「暗き星」の二つ名を冠するようになった。


それは第5艦隊になっても同様だった。


暗き灰色の弩級戦艦 ニャンスワル。

この暗き星の艦隊は、その名とは裏腹に銀河に轟くほどに輝かしい戦績を上げ続けた。




そのニャンスワルを最後に撃ち抜いたメガキャノンを放ったのは

華やかな装飾に彩られ青色に輝くシズクの旗艦 メルエルニャだった。


貫かれたニャンスワルは、シノの夢を道連れに、虚空にまばゆい光を放って消えた。



「忠義とは、時に最も残酷な裏切りを生む。

 野心とは、時に最も純粋な信念を砕く。

 そして、帝国とは──そのすべてを呑み込む器である。


 かつての輝きを失い、暗き黒星、頂きを見ずに消ゆ。


 忠義は、届かぬ祈りとなり、

 野心は、過去の影となって罪へと変わる。

 帝国は、真実よりも都合を選び、運命を塗り替えてゆく。

 かつての英雄は、

 その名を朝敵と呼ばれ、

 その命は宇宙の塵となった。

 彼女の叫びは、風に流され

 帝国の空に晴れ渡る。」

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

今回、胸糞展開パート2、って感じでしたね……。

シノさんが本当に可哀想で、読んでてつらかったです。


さて、今回のポイントは、**シノさんの「最高峰の景色」**です!


シノさんは、平民として生まれ、どんなに頑張っても報われないんじゃないかって、ずっと諦めていたんです。

そんな彼女の唯一の夢が、「貴族の見る最高峰の景色」を見ることでした。


このエピソードで、彼女は三大将に囲まれて絶体絶命……。

そこで、彼女は最後の望みをかけて、かつての仲間たちに助けを求めました。

でも、誰も助けてくれませんでした……。


シノさんにとっては、ただただ努力して、ひたむきに夢を追いかけただけなのに、それが**「野心」**として切り捨てられてしまったんです。

貴族たちにとっては当たり前にある景色が、彼女にとっては命を懸けるほどの価値があったんですよね。


そんな彼女の最後の叫びは、「一体、何が悪いんだ…?」という、ただただ純粋な、悲痛な問いかけでした。


「忠義は、届かぬ祈りとなり、野心は、過去の影となって罪へと変わる。」

「帝国は、真実よりも都合を選び、運命を塗り替えてゆく。」


って、なんかすごく深い言葉が並んでますよね。

つまり、この世界では、正しいことよりも、都合が良いことが選ばれちゃうってことなんです。

シノさんは、その犠牲になっちゃったってことなんですね……。


これから、この三大将がどんなふうに罪を償っていくのか、作者子ちゃんも固唾を飲んで見守りたいと思います!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


かつての仲間たちが、それぞれの立場でシノを切り捨てる構図が、政治の冷酷さと人間関係の儚さを象徴しています。

とても重く辛いシーンです。


でもニャニャーン神聖帝国は歴史上、これからも数百年続きます。

つまり救いがあるということ。

しばらく辛い混迷が続きますが、もう少しお付き合いください。


余談ですが、

黒髪の英雄が2人いることに皆さまは気になりましたでしょうか?

作者がずぼらだから黒髪を二人も作ってしまって、後から気付いても

引き返せなかったんだろうなぁとか思われましたか?

名推理です。

ですが、そこからこれらの詩(伏線)が浮かびました。

序章の終幕詩において、その黒髪2人は黒き盾と、暗き星に分けられました。

一方は忠臣として歴史に輝き、一方は暗き星として歴史に押し潰されました。

それがこの2章の終幕詩や旗艦の色で回収されます。

この行く末をあの時、予測できましたでしょうか?


このように伏線を思い出して読んでいただけると幸いです。


次回新章が始まります。

二章全体を通して、皆さまの想いがあれば教えていただけませんでしょうか?


シノの最期をあなたはどう受け取りましたか?

(私のアドバイザーはシノ推しらしく、色々言ってました)


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。


読者が一向に増えないので、作者も迷子になりかけています。

もし何か心に残るようでしたら、評価やブクマ、レビューを頂けたら。

それが次の読者への道標になります。



■■■去りし英雄■■■

挿絵(By みてみん)

暗き星 シノ・アンバー辺境伯 (享年37歳)

平民出身。そのため相当苦労したようだ。

彼女の戦略・戦術は太古から続く戦術書を全て読破し身につけた。

そのため如何なる状況下でも最適の戦術を繰り出し、無敗を誇った。

かつて大国との衝突時に当時第12艦隊司令だった彼女は貧弱な艦隊を率いて

敵の主力艦隊の名将モーグ提督を討ち取り、その功で辺境伯の地位と

第5ニャー艦隊提督の地位を手に入れた。

彼女は辺境伯として大貴族入りしたが、伯爵よりも軍権力が高い辺境拍という立場が

気に入っていたようだ。

そして大貴族に迎え入れてくれたココ女帝に絶対の忠誠を誓った。

他の4大将は家柄よりも人を見てシノと接してくれたおり、平民ではなく、

同格として扱ってくれていた。

そのため、シノは実は他の4提督を心より尊敬し、目標としていたと言われている。

その忠義と尊敬の対象によって、朝敵に堕とされ、討たれた。


※不老長若種のニャーンであるシノは、アラフォーとはいえ、地球人から見たら20代に見える。

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