第二十七話 朝敵
シノはそのような事実を一切知らず、できることを精力的に遂行していた。
今回もまた辺境に顕れたジソリアンの略奪艦隊群を一蹴し、母港である自領ミューニャドロック星系の星系要塞を目指していた。
途中、弾薬燃料の補給と先の戦闘での損傷の修理のため、フートニャム星系軍港に立ち寄ろうとしていた。
急に警戒アラームが鳴り響く。
シノは驚いた。ここは神聖帝国でも内地にある星系のため、襲撃を想定していなかった。
「慌てるな!敵を見定めろ!ここは内地だ。敵と言っても大艦隊ではないはずだ!」
予想外の緊急事態だが、シノは冷静に分析した。
「か・・閣下。攻撃は星系軍港からです。」
「え?」
さすがのシノも混乱しかけた。
だが星系軍港の大型砲台から放たれたガンマ線レーザーが前衛艦艇のシールドに命中し、光を放って激しくシールドが乱れた。
すぐに我に返り、冷静に全艦艇に指示を通達した。
「くっ……事情が分からんが全軍後退、射程外に離れろ!!」
全速で後退し、一旦はフートニャム星内のエアレス荒野惑星の陰に隠れた。
「どういうことだ。フートニャム星系が敵に奪われた話など聞いていないが……。」
怪訝な顔で考え込むシノに向かって情報士官が青ざめながら告げた。
「閣下……このニャーン国営銀河放送をご覧ください。」
その内容は、1年前に先帝ココの遺児ニュクス皇子が反乱を起こし鎮圧されたニュクスの乱についてのニュースだった。
これは、以前の決定により情報統制され、歴史から抹消されたはずの事実だった。
皇室内の反乱ということで、今まで情報の整理を行っていて発表が遅くなったという理由で現時点で初めて発表されたことになっていた。
「な……なぜニュクス様の反乱が今頃……。」
そして、ニュースによると、既に去年の段階でニュクス皇子は反乱の責任を取って自決なされたが、実際の首謀者は、後見人であるシノ・アンバー辺境伯であったと確定され、昨日時点で女帝ウララ陛下による討伐の勅命がラートリー侯爵に与えられたことも発表された。
シノは口を半開きにし、目を見開いたまま、言葉を失って立ち尽くした。
なお、この報道までに、シノの関係者は帝国法に基づいて既に大多数を捕縛済みで、財産没収の上、収容所へと送還されたことも報じられた。
その報道はさらにシノの心を傷つけた。
シノの両親は銀河航行中の物資輸送船団内でこのニュースを知った。
「シノ……。そんな馬鹿な……。」
「あなた……。あの子はこんな大それたことはしません。」
「分かっている。分かっている……。当たり前だ。」
涙を流しながらシノの父は悔いた。
「俺達があの時、どんな手を使っても止めるべきだったんだ……。
俺達がシノを……シノを飢えた猛獣の檻に送り込んだようなものなんだ……。
ニャーン神よ、どうか……シノをお救いください。
シノ……生きてくれ。生き残ってくれ。」
シノの父と母は、抱き合ってその場に崩れ落ちた。
数時間後、警備艦隊が輸送船団を取り囲み、陸戦隊が乗り込んだ。
船団は自動操縦で運行されており、最重要指名手配犯だったシノの両親は
自衛用の拳銃で頭部を撃ち抜き、自決していた。
ニュースを見ながら呆然としているシノは
「捜索中だった朝敵シノの両親が既に自決しており、帝国は財産の没収に留めた」
との速報を見て崩れ落ちた。
「ああああぁぁぁぁ!!! お父さん、お母さん……。」
それはシノの心をえぐった。
副官のレンド中将がシノに寄り添う。
「てっ提督……。お気を確かに……。ここは危険です。
まずはミューニャドロック星系を目指しましょう。
よろしいですね。」
シノは項垂れて涙を流したまま、首を縦に振った。
この事件の余波は大きかった。
シノを奇跡の英雄と讃え、彼女の故郷の者たちはシノを頼った。
シノも極力故郷には報いる為に、たくさんの人たちを取り立てた。
シノの「おかげ」で士官できた。
シノの「おかげ」で出世できた。
このようにシノに感謝し、賞賛していた人たちは身内が連行されるのをみて
シノに関わった「せい」でこんな目に遭った。
という怨嗟の態度に反転した。
事実、数多の無実の人たちが財産を奪われ投獄されることとなった。
シノ艦隊に対しては捕縛、ならびに所在の情報にさえ懸賞金がかけられた。
最後に、朝敵シノを討伐するため、
総司令 第3艦隊 ラートリー侯爵 (第3艦隊に繰り上げ)
副司令 第1艦隊 シズク女公
副司令 第2艦隊 トウガ公爵
が昨日、首都星ニャニャーンから出航したことも報じられた。
こことニャニャーンのややニャニャーン寄りの中間地点にミューニャドロック星系がある
おそらく第5艦隊が到着する前に領地も、母港要塞もラートリー達によって陥落するだろう。
レンド中将はミューニャドロック星系ではなく、国境星系に行き先を変更した。
「提督、ここに至っては是非もありません。
亡命いたしましょう。どこまでもお供いたします。」
シノは何も言わなかった。ただ、涙が止まらなかった。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
今回、気持ち悪くなるほどの胸糞展開です……。
「そこまでやる?」って思う人、多いでしょうけど、やるんですよ。
こういう政争に身を置く政治家たちは。
負けたらこうなっちゃうんです。
それにしてもシノさんが不憫すぎます。
自分の知らないところで、濡れ衣を着せられて、家族を失って、すべてを奪われる。
胸糞なので、すぐに記憶から消してやってください……。
はい、それよりも、シノさんの今後が心配ですね!
この絶望的な状況を、彼女はどうやって乗り越えるのでしょうか!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
物語の感情的ピークの一つであり、
「正義とは何か」「人の心とは何か」「人間の絆とは何か」を問いかけています。
胸糞な展開で続きを読みたくなくなる人もおられるかもしれません。
ですが、願わくば最後までお付き合いいただきますよう。
この後、シノは亡命が成功すると思いますか?
それとも、折れてしまうと思いますか?
皆さまのシノへの想い、率直なご意見をお聞かせください。
ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。
読者が一向に増えないので、作者も迷子になりかけています。
もし何か心に残るようでしたら、評価やブクマ、レビューを頂けたら。
それが次の読者への道標になります。




