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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第二章 忠義と野心の交錯

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第二十六話 トウガとシノ

トウガの脳裏に楽しかった過去の記憶が去来した。


シノの笑顔だ。


ーーーーーーー


第9艦隊参謀長のシノはトウガの快進撃によって、少将に昇進していた。

最初の頃こそ平民として艦隊内で蔑まれていたが、トウガの気風が充満する第9艦隊では、今や頼れる参謀長としてシノはトウガと共に尊敬の目で見られるようになっていた。


「トウガ様、進軍を止めてください。」


「ん?どうした?」


「おそらく惑星レニャーン軌道上に敵主力艦隊が集結しています。

 こちらは下部主力艦隊、敵方は少なく見積もっても1.2~1.5倍の戦力が見込まれます。

 正面からの正攻法はやや犠牲が大きくなりすぎます。策を用いましょう。」


「わかった。それを採用する。実行してくれ。」


「はぁ?話を聞いてから判断しろ・・こほんっ・・してください。」


「あぁ、すまんすまん。だがお前、時々、ため口になって面白いよな。」


トウガが愉快そうに笑い、シノが渋い顔をする。


「とにかく・・・。

 私の調べでは敵艦隊は統率力が高くて有名なピヒョーン提督が率いています。

 あの艦隊の強さは彼によるものです。彼を堕とせば自然と自壊するでしょう。

 そして彼は適確に機を見て総攻撃を仕掛ける傾向が見受けられました。

 その時に前衛・中衛艦隊を惜しみなく投入し圧倒的に押し切る傾向もあります。

 ですが、その瞬間、後衛に控える彼の旗艦が無防備になります。


 そこでトウガ様に奇襲をかけていただきます。

 高速艦艇のみで編成した高火力分艦隊をレニャーンの外軌道上の小惑星帯の中に

 身を隠しながら進行し、レニャーンの裏側から回って敵艦隊の上方より強襲していただきます。

 

 私が本艦隊を率いて、善戦しつつも機を見て巧妙に後退します。

 敵が追撃の総攻撃をかけてきたのを見て旗艦を打ち破ってください。

 その後、混乱をきたした敵艦隊を私が撃滅し、トウガ様と合流します。」


「うむ、やはり聞くまでもなく、その策でいいじゃないか。」


「いえ、普通の提督なら却下します。小惑星帯を高速で突っ切るのは無謀ですし、

小規模艦隊で敵の中心に突撃するなんて、命がいくつあっても足りません。」


「いや、まさに俺向きの役割だ。お前なら上手く誘導してくれるだろうし、

 最後の仕上げも任せられる。

 ふはは、危険だと言い切りながら、何の遠慮もなくその危険を押し付けてくる所、

 俺はお前のそう言う所は好きだぞ。」


「・・・。嫌味ですか?」


「ふははは・・・。よし、その作戦でいく。」



第9艦隊は、シノの策に従い、二手に分かれて進軍を開始した。

トウガ率いる高速分艦隊は、小惑星帯の影に身を潜めながら、レニャーンの裏側へと回り込む。

小惑星の重力変動と磁場の乱れが、航行を困難にする。

一歩間違えば、艦体が岩塊に衝突し、爆散する危険すらある。

それでも、トウガは笑っていた。

「シノの読みなら、信じて突っ込むだけだ。」


・・・・


シノは本艦隊を率いて正面から敵と交戦していた。

ピヒョーン提督の艦隊は、果敢にシノに襲い掛かった。

勇猛に見えて、それでいて、隊形に一切の乱れもない。

まさに名将。

綺麗に整列した敵の艦砲一斉射撃は各艦から少しの時間差で

第9艦隊の中心へ正確に放たれる。

波長の短いX線レーザー砲は高い破壊力で、命中したシールドを大きく揺らす。

波状的に打ち込まれる攻撃によって、その揺らぎが回復する前に次のレーザー砲を受け、シールドを貫通する。


複数の艦からは爆炎が上がった。


「く・・・。わざと誘い出して退く・・・。そんなこと不要かもね・・。

 今すぐ逃げ出したいくらいだわ。

 各艦、こちらも負けるな。撃ち返せ。

 ここにはトウガ様が乗っていると思われている!

 殴り合いで負けてみろ、クリムゾンの旗に傷をつけるぞ!」


シノもトウガの口調を真似をして珍しく熱くなって指示を飛ばす。


「撃てぇ! 左翼、右翼艦隊はレールガンもお見舞いしてやれ!!

 撃て、撃てぇ!」


(トウガ様・・あなたを危険に晒すわけにはいかない。

 必ず相手を熱くさせ、そして引き寄せて見せます。)


敵も変わらず正確な波状攻撃を繰り返してくる。


(ある程度は被害も見せなければ相手が好機とは見てくれない。

 もし誘導に失敗したらトウガ様を敵の真っただ中に突入させてしまう。

 それだけは避けなければならない。)


「頃合いか・・。」


殴り合うかのような艦砲戦で、双方いくつかの艦は大破、あるいは中破して

火の手が上がる。


だが、見た目の炎上に比べてシノが率いる第9艦隊はそこまで損傷は受けていなかった。

初撃でシールドを貫通した一部のX線レーザーによって一定の被害を受けたが、その後は

シールドコンデンサにため込んだ余剰エネルギーを前線艦で惜しみなく使わせた。

結果、それ以降の被害は最小限に抑えられている。


本来、艦隊戦力比ではこちらが圧倒的に不利だ。

双方五分の被害が出ている。(ように見せている)

普通に考えて、この殴り合いを続けていたら間違いなく先に倒れるのはこちらだ。

ここで退くことに違和感はない。


「トウガ様から預かった艦隊だ。

 壊して怒鳴られたくないしね。

 全艦急速後退、前面のシールドに全出力を回せ。

 追加装甲も全て前面に展開しろ。

 実弾兵器で応戦だ!狙う必要もないぞ!

 オートキャノンを派手にぶっ放せ!」


連射レートの高いオートキャノンで弾幕を演出しつつ、シノは

防御に特化して後退を始めた。


機を見たピヒョーンが総攻撃を指示する。

敵の前衛と中衛が、慌てて逃げる第9艦隊に襲い掛かった。


「大丈夫、今は耐えて!トウガ様を信じよう!」


敵前衛・中衛の全力突撃にシノは耐えた。

そして伸びきった隊形の隙をつき、その背後から、

トウガの分艦隊が現れ、敵が対処するよりもはやく突進した。

小惑星帯を抜けた艦隊は、まるで彗星のように降り注いだ。

高火力砲が旗艦を貫き、爆炎が宇宙を染める。


敵艦隊は混乱した。

指揮系統が崩れ、シノは即座に反撃を開始。


「全艦、突撃! この瞬間を逃すな!」


トウガの奇襲と、シノの誘導。

それは、信頼が生んだ連携だった。


・・・・・


「シノ少将、トウガ様がお戻りになられました。」


「おかえりなさいませ。見事な采配でございました。」


「おぉ、シノ。ご苦労だった。その言葉はお前にそっくりそのまま返すぞ!」


圧倒的な勝利を収めた。シノの読みは的中し、無防備になった旗艦をトウガは撃破した。

そして、それによりできた一瞬の隙をついて、シノは

敵大艦隊を縦横無尽に切り裂いた。

最小限の被害で最大限の戦果を挙げた。


言うのは簡単だが、実行するにはトウガとシノでなければ不可能だっただろう。


それくらい難しい作戦だったが、この二人はやり切った。

敵主力艦隊を撃破し、名将ピヒョーンを討ち取るという、これまでにない大武勲をあげた。


トウガは近づいてきて豪快に笑いながらシノの頭を撫でた。髪が乱れるほどに。


「やっやめてください!」


「いやぁ、父上が忙しすぎて子作りを怠ったせいか、俺には兄弟がいなくてな。

 お前を見てると、妹がいたらこんな感じだったのかもなと思う。」


シノは困って苦笑いしつつ、その手を払いのけた。




また、別の記憶が去来する。



「よくやった、シノ! 今回も大武勲だ!」


「はい、トウガ様のおかげです。」


「・・・お前は本当に控えめな奴だな。

 楽しそうに笑う姿をみたことがない。」


シノは驚いた顔をしたあと、自然な笑顔を作って返した。


「え?そうですか?

 でもそんなことありません。これでも笑顔が可愛いって言われたことが何度もありますし。」


「そうそう。その作り笑い。お前は得意だよな?」


シノは一瞬固まる。


「あとは・・敵を欺いた瞬間の可愛げのないあの笑い。

 くくく・・あれも得意だな。」


不服そうに言い返す。


「なんですか!

 それでは私が性悪にしか見えないじゃないですか!」


「はははは」



・・・・



「シノ少将に女男爵の爵位を与え、中将に昇進させたのち、下部主力艦隊 第12艦隊の提督に任ずる。」


「はっ・・謹んで拝命いたします。今後さらなる精進をもって神聖帝国に忠誠を誓います。」


叙任式のあと、廊下でトウガとすれ違った。


「トウガ様!

 遂に私は貴族になれました!提督にもなれました!

 トウガ様のおかげです!」


「よかったな、シノ!それはお前の努力の結果だ。

 ふははは。


 ん? そう!それだよ、それ!」


”満面の笑み”のシノは、何のことかわからず固まった。


「次は主力艦隊だな。」


「はい!」



ーーーーーーー



その満面の笑みだ。


シノの笑みがトウガの脳裏から離れなかった。


だが、この1年、ニュクスとジジを失った悲しみにより、

失意の底に閉じこもり、一切の感情を示さなかったウララ陛下が――

今、シノの討伐を命じることで遂に自我を取り戻された。


それはウララ陛下が”シノのせいに”することで逃げていることに他ならない。

決して正しいことではない。


だが、トウガはウララの勅命に反抗することができなかった。

シノに救いの手を差し出すことができなかった。


脳裏に浮かんだシノの笑顔が、次第に色褪せていった。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


今回はあとがきに物語の裏設定がオマケでありますよ!


まさかー! 今回は、トウガさんとシノさんの思い出話です!


これって、乙女ゲームで言うところの回想モードですよね!

つまり、二人の関係は**「救い」がある**はずですよね!?


それともあれか、バッドエンド直前に無理やり過去のハッピー回想を見せつけてきて落差大きくする鬼友人の所業かぁ!


もう、トウガさんとシノさん、ベストパートナーじゃん!

親密度、星5つじゃんね!


なんで、ここでウララちゃんの勅命を止めないの、トウガ!

お前はそれでも男かー!


…はい、読者ちゃんの心の声を作者子ちゃんが代弁しました。


でも、このエピソードでシノさんの本当に純粋な部分が見えましたね。


平民だから、つらい時でも作り笑いが常態化しちゃってるところとか。

でも、そんな彼女が、トウガのおかげで夢がかなって、最高の笑顔を見せるんです。


おい、トウガ!

そんなご褒美みたいな笑顔を、色あせさせるようなことをするなー!


…はい、二度目の代弁でした。


シノさん、どうなっちゃうんでしょうか!?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


忠義と記憶、命令と感情、正義と逃避が複雑に絡み合い、

トウガという人物の内面が深く掘り下げられています。


この記憶こそが、トウガとシノを語る上で欠かすことができないシーンのため、今回は2話分のボリュームでお届けします。


まさに「忠義の痛み」と「正義の沈黙」を描いた物語の核心です。

トウガはこの暴走を止めると思いますか?

──それとも、止められないと思いますか?

シノは黙って討たれると思いますか?


皆さまの予測をお待ちしております。


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。



■★おまけ★■

裏話的な物語の背景設定です。

本作で登場する艦隊について。


・主力艦隊

第1艦隊~第5艦隊が該当します。

弩級戦艦を数隻配備し、その一つが旗艦となります。

そして戦艦や重装甲艦、大型空母も多数配備され、巡洋戦艦(重巡洋艦に相当)、巡洋艦、攻撃艦、

駆逐艦、フリゲート級高速艦、コルベット級小型高速艦が

合計100隻以上配備される、言葉の通り主力艦隊です。

宇宙軍大将が提督に任命されます。


・下部主力艦隊

第6艦隊~第20艦隊が該当します。

第6~第10艦隊はその中でも上位とされます。

旗艦は戦艦が割り当てられ、重装甲艦・戦艦・巡洋戦艦・中型空母といった

主力艦も一部割り当てられます。

第11~第20艦隊は下位とみなされて

旗艦も巡洋戦艦辺りにとどまることが多いです。

主力艦も上位に比べれば配属数は少なくなります。

艦数は60~100隻程度で主力艦隊には及びません。

中将・大将が提督に任命されます。


・地方艦隊

第21艦隊~が該当しますが、第21哨戒艦隊や第22対海賊艦隊と

いったように用途別の名称で呼ばれることが多いです。

巡洋艦、あるいは駆逐艦が旗艦となります。

艦数も30隻程度が主となります。

主に内地に配属されることが多い艦隊です。

少将や准将が提督に任命されます。


・私設艦隊

ニャニャーン神聖帝国は貴族社会です。

公爵や侯爵、伯爵といった大貴族は自費で賄う艦隊を

保持している場合があります。

主に自領の警備に当たります。(反乱時の戦力にもなりますが)

下部主力艦隊の下位に当たる戦力の艦隊が多いですが、

公爵などの一部の大貴族は例外的に、下部主力艦隊の上位艦隊戦力にも匹敵する

私設艦隊を持っている場合もあります。


なお、旗艦に関してはそのカラーリングは提督に任されています。

自身のパーソナルカラーで染め上げる場合が多いです。

そして、貴族社会ならではですが、旗艦に対して自由に装飾することが認められています。

上位貴族の旗艦は皆、煌びやかで荘厳、あるいは勇壮です。


裏話ですが

トウガの深紅の旗艦〈トゥルフニャッド〉に施された「黄金の波目模様」、

本人は炎の揺らぎをイメージしていていましたが、周りから「波目」とばかり

言われてしまって、「炎のつもりだった」と言い出せなくなったようです。

本人も最近波目模様に見え始めてきています。



また、トウガから独立したシノ中将率いる第12艦隊は下部艦隊のしかも下位の位置付けです。

そして相手は名将モーグ率いる主力艦隊。

この圧倒的な戦力差を彼女は覆しました。

平民出とはいえ、無視できない戦果でした。

彼女はこの圧倒的な実力をもって、主力艦隊に任命されました。

(女帝ココや皇配ハル、トウガ達、四大将の強い推挙によってなされましたが

 貴族連合などからは強い反感は消えませんでした)

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