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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第二章 忠義と野心の交錯
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第二十五話 心の決壊

神聖帝国はウララ親政の準備を整え終えて、新たな出発に向けて控えていた。

だが当のウララが心を閉ざし、その計画すらも頓挫していた。


ウララはニュクスとジジを失った衝撃から立ち直ることができなかった。


ウララは自らの浅慮を悔いた。

ウララは自らの甘さを悔いた。

ウララは自らの信念を悔いた。


自分を責め続けた。

神聖女帝とは言え、彼女はまだ10代の少女に過ぎない。

この重荷を背負うには、あまりにも若すぎた。


彼女の失意は深く、トウガは毎日のように慰めに訪れたが一向に回復の兆しは見えなかった。


他の四大将もトウガほどではないが、ウララを慰めることに必死だった。

だが、誰の声も、ウララの心には届かなかった。


シズク達でさえも、今のウララを回復させる手段をすぐには見いだせなかった。

トウガはただ情に任せ、寄り添い、呼び続けることが大事だと思っていた。


だが、一向に改善の兆しはなく、虚しく時間だけが流れていった。


ある日、ウララを励ますために謁見したシズクが玉座の間から出てきた。

そこにはトウガが心配そうに立っていた。


「シズク、お前は陛下の事をどう見た?」


シズクはゆっくりと首を横に振った。


「だめだ。私の言葉は届かない。返事はしていただける。

 だが、心が伴っていない。

 何か考え事をされているようだった。

 おそらく後悔の念だ。それも一筋縄ではいかない。

 可哀想だがあの小さな背中では背負いきれまい。

 私の読心術ではそう見た。」


「・・・。できうるならば俺が全てを背負って差し上げたい。」


「・・・諦める」


そう言いかけたところで、トウガが目を剥きシズクの軍服の襟をつかみ上げた。


「うぅ・・・・」


シズクは苦しそうにうめいた後、素早く掌底をトウガの顎に打ち付けた。

まるで糸の切れた操り人形のようにトウガはよろけた。


「苦しいわ!やめよ!女に手を上げるな!

 本当に短気な奴め!

 私達は諦める訳にはいかん。私が言いたいのはそういうことだ。

 私に一つだけ苦肉の策がある。荒療治になると思うが・・・。」


視界がゆれたトウガは膝をつきながら頭を振ってなんとか意識を保とうとする。

そして回復してからうめくように話しかけた。


「す・・すまん。許せ、シズク。

 俺は万策尽きた。もう、お前に頼るしかない。

 その策で陛下をお救いしてくれ。」


「だが、・・・・今、私の頭にある策は、ある意味、毒だ。

 あぁ・・・おい!待て待て!陛下に毒を飲ませると言う意味ではない!

 ただの比喩だ。」


再び目を剥いたトウガを先行して制する。


「お前と話していると疲れる。トウガ、・・今は具体的なことを言えない。

 だが、この策、実行して良いか?」


項垂れながら、小さな声で懇願した。


「頼む・・・。陛下が救われるのなら。」


シズクは暗い顔で頷いた。


トウガと別れた後、シズクは、ラートリーの部屋の前で立ち尽くしていた。

策がある・・・そう言ったシズクだが、実は”彼女は”策を持っていなかった。

策を持つであろう者を知っていた。これが彼女の苦肉の策だ。


つまり・・。ラートリーに頼るという毒の策、苦肉の策、諦めの策だ。


ノックして名乗り、入室した。ラートリーは驚いていた。

シズクでないと見逃したかもしれない微動な驚きだったが。


「シズク殿、何か御用かな?」


「そうだ。用もなければこんな所に来るわけがなかろう。

 今年一番の憂鬱な瞬間だよ。」


「・・・で、それほど憂鬱な顔をして、何の用だ?

 正直、卿の考えていることが読めない。」


「ウララ陛下についてだ。

 私は、人の心を読み、それを使役させることには自信がある。

 だが、人の心を生かし、操り、殺す方法はお前の方が長けている。」


「褒めているのか貶しているのかわからんな。

 だが、つまりは私にウララ陛下の心を生かす策を考えて欲しいと言うことか?」


「そうだ。あんな陛下でも神聖帝国に必要だ。できるか?」


「一つだけ策はある。だが、これは毒だぞ?」


「ふっ・・どこかで聞いた言葉だ。いや、毒なのは承知している。

 トウガも言った。毒のある策でさえも陛下を生かすためならやるべきだとな。」


「分かった。任せろ。準備する。言っておくが卿らも共犯だからな?」


シズクは静かにうなずいた。


ラートリーが準備をすると宣言してからしばらく経った。


トウガは今もなお、足しげくウララの元へ通っていた。

そして、今日はラートリーも同行している。


トウガの話にウララは感情の籠っていない返事を繰り返している。

ラートリーはその姿を見て、皮肉めいた口調でつぶやいた。


「シノが後見になってからニュクス様は変わってしまわれた。

 あの女が余計なことさえしなければこのような事にもならずに済んだものを。」


ウララはラートリーを鋭く睨んだ。

常日頃から彼女も考えていたことをラートリーが呟いたからだ。


ウララの頭の中で、様々な想いが渦を巻いて駆け巡った。


ニュクスは優しい子だった。

あの子があんなことをするわけがない。

シノがそそのかしたに違いない。

直接ではなくてもニュクスを焚きつける手段はいくらでもある。

それを仕組んだのは、きっとシノだ。


ニュクスはあんなことを言ったりしない。

ニュクスはあんなことをしたりしない。

私達とニュクスの絆は何も変わっていない。

それを無理やり捻じ曲げたのがシノだ。

私達は間違ってなんかいなかった。


シノが・・・シノが・・・・。


なぜ私がニュクスを喪わなければならなかったのか?

なぜ私がジジを喪わなければならなかったのか?

なぜ私がこんなにも苦しまないといけないのか?

なぜ私がこんなにも悲しまなければいけないのか?


シノが・・・シノが・・・・。


この一年、ウララが溜めに溜めた心の闇が、ほんの少しの綻びから

心の堤を決壊させ、洪水のように流れ出した。


ウララはこの気持ちを誰かに共感してもらえた気がした。

シノがニュクスをそそのかした。そう信じても良い気がした。

そう信じることが何よりも── 何よりも──


挿絵(By みてみん)


一番、自分の気持ちを楽にした。

自らの過ちから逃げたいばかりに。



「ラートリー候!

 ニュクスをそそのかしたのはシノ辺境伯に他なりません。

 この反逆、決して許されるものではありません。

 シノ辺境伯は強大です。彼女を討つ手立てを考えることはできますか?」


トウガは不安げにウララを見つめ、一瞬驚いたラートリーはすぐに冷静に返した。


「御意。このラートリーにお任せください。必ずや逆賊シノを討伐して見せましょう。」


ウララは曇った瞳でラートリーに命じた。


「勅命です。ラートリー候を逆賊シノ討伐の総司令に任じます。

 トウガ公とシズク女公も参戦しなさい。

 

 ラートリー候、勝利の報せを待っています!」


挿絵(By みてみん)


トウガは何か言いかけた。


だが、その言葉は、どうしても口にできなかった。


その瞬間、トウガの脳裏にシノの笑顔がよぎった。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


ついに……ついにウララちゃんが復活しました!


彼女の心はとっても傷ついていたので、普通のやり方では回復しなかったんです。


こういう時こそ、ラートリーさんの出番!

彼、人の心を操るのが得意そうですよね(褒めてるのか貶してるのか…笑)。


そして、復活の方法がまさかの「責任転嫁」!


「私が悪かったんじゃない。全部シノさんのせいだ!」


いや……それ、一番簡単で確実に立ち直れる方法ですけど、偉い人がやっちゃダメなやつじゃないですかー!


しかも「勅命」!


勅命とは、皇帝が発する絶対的な命令。

どんなに理不尽でも、この一言には誰も逆らえません。


復活の代償がこれかーい!


トウガさん、止めてよー!

読者のみんなの心の声を、作者子が代弁しておきました!


あれ・・作者子の様子が変だ・・・・心が決壊したみたいだ・・・。

れびゅぅぅぅぅうー。

評価ぁあ、ほぉしぃぃいぃ5つぅ・・。


あ・・こういう時は、後ろキーを押してボタンを押して即反転だ!

そしてドアを開けて隣の部屋に逃げれば安全だぞ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


遂に物語が動き始めました。

ウララが、時代のうねりを引き起こしました。


彼女はまだ10代の少女です。

失ったものの大きさに耐えきれず、心の闇に飲まれた末の決断でした。


ウララ、トウガ、シズク、ラートリー──

それぞれの立場や思惑に、皆さまはどこまで共感できましたか?


そして、今回の展開で、誰の言動が一番許せないと感じましたか?

ウララの暴走?ラートリーの誘導?シズクの諦め?それとも、トウガの沈黙?


皆さまの率直な気持ち、ぜひ聞かせてください。


感想やご意見、評価、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。


今でなくても構いません。もし何か感じる所があればぜひ、評価やブックマーク、レビューを

お願いします。それが次の読者へのメッセージにもなりますから。

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