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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第二章 忠義と野心の交錯
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第二十二話 シズクの読み

ニュクスの乱の半月前。


皇宮内が慌ただしい。

宇宙嵐に見舞われたソノニャフ星系に向けて、ウララが第3艦隊を護衛に慰問も兼ねた巡幸を行うと告知されている。


シズクは当然のように諜報部門に探りを入れさせたが、それ以外の目的は出てこなかった。


「裏は取ったか?」


「はい、今回はソノニャフに向けた巡幸に間違いないと思われます。

 燃料はソノニャフに向けて妥当な量を搭載しています。

 また、軍事物資を削ってその分、救援物資を積み込んでいます。

 航路スケジュールにしても不審な点はございません。


 こちらの手の者のゲートウェイ管理者に行き先を確認しましたが、ポニャルーに設定しているのは間違いありませんでした。

 ソノニャフはポニャルー経由で向かうのがFTL航路から考えて合理的で、不審な点は感じられません。」


「そうか、分かった。引き続きトウガ、ジジ、ラートリーの動きに気を抜くな。」


「は!」


だが長年この世界にいる彼女はわずかな違和感も察知できる嗅覚が鍛え上げられていた。


慰問にしては近衛師団の人数が少し多い。

臆病なウララが増員を希望した、あるいはジジが

ウララの権威を示すために多めに動員した

と考えれば納得できる程度の違和感だ。


だがそういう違和感は徹底的に洗い出す癖がついている。

シズクは第3艦隊所属の近衛師団がせわしなく準備をしているフロアを訪れた。


そのまま歩を進める。

一人の近衛兵が荷物の積み込みを行っており、そこに向かってわざと視線を逸らしながら近づいた。


案の定、荷物を持ち運んでいる兵士とぶつかり、シズクはよろけた。

気づいた兵士は驚き、慌てて深々と頭を下げて謝罪した。


「シズク閣下、申し訳ございませんでした。お怪我はございませんでしょうか?」


「大丈夫よ。私がよそ見をしていたのが悪いのです。気にしなくていいわ。」


「はっ。お許しいただき、ありがとうございます。

 あ。閣下、お荷物を落とされませんでしたか?」


そういうとその兵士は荷物の中から小型端末を拾い上げ、少し触った後、

恭しく差し出した。


シズクは一瞥すると、一瞬の沈黙の後、何事もなかったかのように受け取った。

そしてシズクも少しだけ触ってみて、再び差し出した。


「これは私の物ではありませんね。

 近衛師団の荷物なのでは?

 ふふ、あなた、よほど緊張しているのかしら?」


兵士はハンカチで汗を拭きながら再び深々と謝罪した。


「失礼いたしました。」


彼が掲げた端末には「ポニャルー」と書かれていた。

そしてシズクは“証拠隠滅”とだけ記し、静かに差し出した。


兵士は緊張しながら受け取り、流し見た後、それらの文字を消去した。


「あまり長居すると邪魔になるわね。失礼するわ。」


そういうと足早にシズクは自室に向かった。


シズクの姿が見えなくなってからその兵士の同僚が近づいてきて、からかってくる。


「お前、命拾いしたな。もし閣下の機嫌がよくなかったらどうなっていたと思う?」


「あぁ、そうだ。殺されるかと思った。」


顔を見合わせて笑いあった。



先ほどの兵士はノアールの時代から潜伏させている間者だ。

既に近衛兵として完全に溶け込んでいるはずだ。

彼の情報に間違いはないだろう。


諜報部門にすら明かしていないシズク直属の間者はあらゆる所に数えきれないほど存在する。

彼女は諜報部門を信用していないわけではないが、諜報部門の調査結果で違和感が取れない場合は、最後の手段として、そういう子飼いの間者を使う。


自室に到着すると諜報参謀を呼び寄せた。

頭の中をフル回転させる。


ポニャルーだと・・・・。何をする気だ?

ニュクスの排除か?ジジが動くならわかるが、なぜ陛下が?

念のため、ポニャルーの全ての情報は消すように指示した。


その時、シズクは気づいた。


しまった・・・ジジか、これはジジの策略だ。

奴を甘く見ていた。


やはり奴はニュクスを消す気だ。


ウララを同行させることでニュクスを消したとしても、ニュクス側に罪を着せることが出来る。

生きた勅命を連れ歩くようなものだ。

その場でニュクスを強引に排除しても不敬と言いきってしまえばそうなってしまう。

まさか奴がウララにこれほどの危険を冒させてまで、こんな大胆な行動に出るとは。

それにウララはニュクスの排除を承諾しまい。

ウララの信用を失う覚悟でニュクスを消すのだ。

トウガならば到底できないことだ。


諜報参謀が入室した。


「はっ、お呼びでしょうか!」


「・・・下がれ!」


「は?」


「下がれ!」


「はっ!失礼いたします。」


妨害工作を命じようとしたが、あまりにも時間が足りなかった。

代わりに法務、人事に詳しいものを呼んだ。


彼女は早々にニュクスを切り捨てた。


妨害を諦め、事が起きた際の火消しの対応を事前に開始した。



ドンッ


冷静さを崩さぬシズクが、机をたたいた。


「シノの次はジジか・・・。見下したものに出し抜かれる。

 これほど自尊心を傷つけられることはない。」


大きく深呼吸をした。

そしていつものシズクに戻る。


「今はやれることをやる。」


入室した法務と人事の担当者と次の一手を模索し始めた。




シズクはウララの行動を読めていなかった。

ウララがここまで愚かな行動をとるとは思っていなかった。

ウララを買い被っていた。

ジジを侮っていた。


それ故に、この予想外の行動を、ジジによるものと見直して、出し抜かれたと誤解した。


シズクの読みは間違っていた。


それなのにシズクの対応は正しかった。


シズクとシノ、ほんの少しの運の差が、その運命までも変えてしまうのかもしれない。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


今回はシズクさん視点です。


ニュクスの乱の直前ですね。


彼女らしい万能さで、わずかな違和感から危険を予知しました。

そして、対策を打つのも相変わらずの速さです。


でも、実はシズクさんも間違っているんです。


彼女は、ウララちゃんの巡幸の真の目的を読み間違えました。

「ニュクスくんの排除を狙った、ジジさんの策略だ!」と。


でも、結果的にその対策は間違っていなかった。

シノさんが後手に回った一方、シズクさんは先手先手で動けていましたよね。


こういうところが、人生の面白いところというか、深いところというか……。

どうなることやら!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


シノは勝利したが、対応に誤った。

シズクは読み違えたが、対応は正しかった。

面白いですよね。何事も思い通りにならないと言うことです。


皆さまはこの皮肉をどう感じましたか?


さて、ニュクスによる反乱の戦後処理が残っています。

この2人の運命はどうなるか、予想をぜひ教えてください。


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