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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第一章 栄光と均衡の終焉
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第十九話 破れた想い

ニュクスは号令をかけた。

飛び出したニュクスの私兵達が、一斉にウララとジジに向けて発砲した。



この凶行に、シノやシズクの思惑は一切含まれていなかった。

ニュクスの暴発と言っていい。


ニュクスとその私兵達によって起こされたこの事件は、シノ陣営の在ポニャルー正規軍や、

シノの懐刀の一人である現地司令のリース中将との連携も皆無だった。


ニュクスとウララ・ジジによって、完全に情報統制され、突然決行された極秘会見は

リース中将にとっても寝耳に水な出来事であり、中将はシノの指示を仰いでいる最中だった。


このあまりに早い展開によってシノ陣営は後手後手に回り、結果としてこの暴発に対処ができなかった。


もしシノが主導した場合、より緻密な計画が盛り込まれたことだろう。

しかし、シノにはウララ排除の意志は一切なく、あくまで合法的な退位を目指していた。

ニュクスを利用したとはいえ、大恩ある先帝ココやその遺児に対する敬愛の念は忘れておらず、この事態を事前に察知できていたら、歴史は全く異なる道を歩んだだろう。




だが、ニュクスとしても算段はあった。

もし、ここでウララとジジを亡き者にした場合、もちろん立場が悪くなることは理解できる。

だが、自分にはシノとシズクという後ろ盾がついている。

ラートリーの行動は読めないが、シノとシズクを使ってトウガさえ討ち滅ぼせば、自分にはココの血統がある限り、シズクあたりがどうとでもすると信じていた。


ウララさえ排除できれば、間違いなく神聖皇帝の座につける。

歴史とは、勝者が書き換えるものだ。


そして今、ウララとジジが護衛もつけずに目の前にいる。

これほどの千載一遇の好機は、二度と訪れまい。

二人を殺した後、その混乱に乗じて、隠し通路から逃げ延び、

シノとシズクに合流しさえすればよいのだ。

仮に逃亡に失敗したとしても、ウララとジジを始末しさえすれば、最後のココの血統である自分を害する決定を行える者はこの場にはいないだろう。

混乱の中、評議会に決定を持ち越されるはずだ。

そうなると間違いなく、シノとシズクが動く。

ラートリーでさえ、ウララがいなくなればニュクス擁立に動くだろう。

この凶行にも、ニュクスなりの勝算はあった。


シノやシズクに頼って待っていても、いつ神聖皇帝の座が手に入るかはわからない。

むしろ要らなくなったらごみのように捨てられる恐れすらある。

ニュクスがこんな賭けに出たとしても心情的にはわからなくはないのだ。


これは積年の恨みだけではなく、間違いなくニュクスの政治的な思惑も存在した。




「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ウララの悲鳴が、玉座の間に響き渡った。

その悲鳴は、銀河の果てに吸い込まれるように、誰にも届かぬ孤独な叫びとなった。

同時に、銃声が、空間を裂いた。


閃光。衝撃。破裂音。

玉座の間は、瞬く間に戦場へと変貌した。


ジジは反射的にウララを抱き寄せ、身を縮めて覆いかぶさっていた。

その動きは、訓練された兵士のものではなく、本能と切実さに満ちていた。

彼は腕で自分の頭と首を守り、背中を丸めて銃弾を受け止める。

その姿は、忠義の象徴というより、ただ一人の少女を守ろうとする男の姿だった。


「陛下、動かないでください!」


ジジの声は、銃声の中でもはっきりと響いた。

ウララはジジの言う通り、小さくなって震えていた。

彼女の瞳は、恐怖と混乱で焦点を失っていた。


銃弾がジジの左肩に命中し、血しぶきが飛び散る。

次の瞬間、頭と首を守った腕に一発命中し、さらに脇腹にも一発かすめた。

だが、あの瞬間、彼は冷静に腕で急所を守ったため、全て致命傷には至らない。

もちろんウララにも銃弾は届かない。

ジジは歯を食いしばり、苦しげな吐息を漏らしながらも、ウララを守り続けた。

飛び交う銃声とジジの小さな呻き声はウララの思考を容赦なくかき乱した。


──なぜ、こんなことに。

ウララの思考は混乱し、過去の記憶が断片的に蘇る。


庭園で笑い合った日々。

ニュクスが転んで泣いた時、ジジが手を差し伸べた姿。

あの頃の三人は、確かに絆で結ばれていたはずだった。

だが今、ニュクスの私兵たちは、姉であるウララに、

そして兄のように慕っていたはずのジジに向けて銃口を向けている。

その現実が、ウララの心を容赦なく引き裂いていた。



気配を消すために、ニュクスの私兵達はジジとウララからは離れた距離に潜伏していた。

私兵たちは、玉座の間の柱の陰や壁際に潜伏していた。

距離はおよそ十五メートル。

長距離からの発砲は精度を欠き、訓練不足の彼らの銃撃は散漫だった。


結果として小さくうずくまり急所を守ったジジには、肩や腕などに数発しか命中しなかった。

彼らは初撃でジジの命を奪うことはできなかった。


だが、銃弾の音と火花、そして血が、空間を支配していた。

玉座の間の空気は、硝煙と焦げた石の匂いに満ちていた。


銃声と同時に隣室で最大限に警戒していた近衛兵がすぐに突入した。

彼らはノアールが鍛え上げた精鋭部隊だ。

そして、この近衛師団は、単なる精鋭ではない。

彼らは帝国の盾として、戦術・連携・判断力のすべてにおいて完璧に訓練されていた。

柱の陰から飛び出すタイミング、射線の重なりを避ける配置、遮蔽物の利用──

その連携は、まるで一つの意志を持つ生物のように滑らかで、無駄がなかった。

彼らは皆、射撃の名手であり、精度の高い最新型の銃器を手にしていた。


「陛下を守れ!全員、突入せよ!」


その号令と共に、近衛兵たちは一糸乱れぬ動きで私兵たちに反撃を開始した。

一斉に飛び出し、正確な射撃で次々と私兵を撃ち倒していく。


銃弾が柱に命中するたびに、石片が飛び散り、床に火花が走る。

私兵たちは混乱し、反撃の精度を失っていく。


瞬く間に暗殺を企んだニュクスの私兵達は全滅した。


ニュクスはその様子を見て、顔を青ざめさせた。

彼は玉座の背後に設けられた隠し通路へと駆け込む。

その通路は、宮殿の地下を通って外郭の軍港へと繋がっている。


後方に控えていたニュクスの私兵たちが一斉に飛び出し、

通路の入り口を守るように配置される。

彼らはニュクスの逃走を援護するため、近衛兵に向けて激しく銃撃を開始した。


同時に、宮殿外からも爆発音が響く。

ニュクスの私兵が、外郭に展開していた近衛兵たちにも襲い掛かっていたのだ。

爆発の衝撃で窓が割れ、破片が玉座の間に降り注ぐ。

硝煙が立ち込め、視界が曇る。


これらの行動はおそらくニュクスの脱出を助けるため、かねてより計画されたものだろう。

本格的な戦闘が開始された。


ジジは血を流しながら立ち上がり、ウララを守りつつ近衛兵のもとへ向かう。

彼の足取りは重く、痛みで顔を歪めながらも、決して倒れなかった。


近衛兵が合流し、二人の盾となるべく取り囲んだ。

何人かの近衛兵は文字通り、盾のようにニュクス私兵の銃弾を浴びて絶命する。

それでも彼らは幾重に二人を取り囲み死守した。


周りの近衛兵が援護にまわり、ニュクスの兵を撃ち倒していく。


ジジは震えるウララの傍にひざまずき、その手をしっかりと握り、静かに語りかけた。


「大丈夫です。私と私の部下たちが必ず陛下を安全にお守りします。」


ウララは涙を浮かべながら、ジジの手を握り返した。

その手は、血に濡れていたが、温かかった。

そしてジジはゆっくりと握った手を離すと、立ち上がった。


「陛下を必ずお守りしろ!よいな!

 残りの半分は私に続け!

 反逆者、ニュクスを討つ!!」


その声は、玉座の間に響き渡り、まるで帝国の盾が最後の命令を下したかのようだった。

忠義と覚悟が宿っていた。


近衛兵たちは即座に動き、ウララを囲んで安全を確保した。


ジジは立ち上がり、近衛兵を指揮して、襲い来る兵士に立ち向かった。

玉座の間の私兵達を全て片付けたあと、近衛兵が隠し階段を発見する。

それは薄暗い地下道につながっていた。

ニュクスを守る私兵にも負傷兵がいたのだろう。血の跡が続いている。

これを追えばニュクスにたどり着くだろう。


ジジは応急処置を施すため、近衛兵の医療班から止血用の布を受け取る。

肩や腕などの傷口に簡易包帯を施す。

痛みは激しく、視界が揺れる。

だが、倒れるわけにはいかなかった。


そして半数の近衛兵を連れて、隠し通路へ向かった。


……逃がすわけにはいかない。


――もし、取り逃がしたら


一時の乱心としてシズクやシノが何事もなかったように収めてしまう。

そしてニュクスはまた繰り返すかもしれない。

あるいはこの会見自体を引き合いに出して、シズク達がウララの廃位に動くかもしれない。


――もし、彼を排除したとしても


この状況であれば、ニュクスを反逆者として裁くことができる。

オブジディアン家を守りつつ、ウララのためにニュクスを排除できるのだ。

また、この責をシズクやシノにとらせることもできるかもしれない。




ニュクスを生かしておくわけにはいかなくなった。

刺し違えてでも――今がその時だ。




ジジは気力を振りしぼり、近衛兵を連れてニュクスを追った。

その瞳には、静かな怒りと、揺るぎなき忠義が宿っていた。


彼は知っていた。

この追撃が、自らの命を削るものであることを。

だが、それでも進むしかなかった。


──父上。

私は、あなたの遺志を継ぎます。

この命、陛下のために捧げます。

その言葉を胸に、ジジは隠し通路へと踏み込んだ。

その先に待つものは、血か、死か、勝利か


──それはまだ誰にも分からなかった。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!


硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


戦闘が始まっちゃいましたね!

細かいことは本文を読んでいただければ分かりますが、一番大事なポイントが2つあるんです。


1つ目のポイント:ニュクスはボンクラじゃなかった

ニュクスはただのボンクラではありませんでした。彼は彼なりに政治を行い、ウララに対して行動を起こさなければいけない理由があったんです。


つまり、彼を追い詰めてしまったのは、個人の性格ではなく「政治」そのものだったんですね。


2つ目のポイント:中策の実行

覚えてますか? ラートリーさんの「救国の三策」を。


その中の「中策」は、「ジジがニュクスを排除すれば、国は安定するが、ジジが悪者になる」というものでした。


でも、この状況はどうでしょう?


ニュクスがウララを襲った! ジジはウララを守るために、反逆者を討つ!


これなら悪者になることなく、ニュクスを排除できますよね。


そうです。結局、上策よりも中策の方がジジにとって有効だったんです。


でも、実行は難しかった。


だからこそ、これはまたとないチャンス。


もしこのチャンスを逃したら、ニュクスは許されて、また同じことを繰り返すかもしれない。


ジジがここで「戦う」と決心したのは、もう必然だったんです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


第一章クライマックス、今回は2話分に拡張してお届けしております。


**「絆では守れないものがある」**

──その現実が、あまりにもつらく、あまりにも重い。

ウララ、ジジ、ニュクス

──かつて笑い合った三人の記憶が、今や銃声にかき消されていく。

そして、ラートリーが語った“救国の三策”──その中策が、遂に血の選択として現実になりました。


ジジは刺し違える覚悟を胸に、帝国の未来を背負って動き出します。

次回、第一章の終幕です。


この三人の絆は、果たして再び繋がるのか?

それとも、完全に断ち切られてしまうのか?


皆さまなら、ジジの選択をどう受け止めますか?

ウララの笑顔を守るために、あなたならどう動きますか?



ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。 もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。


※ふりかえり詐欺シリーズはここまでです。すみません、ニュクス並に暴走していました。

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