第二話 先駆の秘密兵器
各提督から第3艦隊旗艦のメルクゥニャムに向けて通信が開かれる。
「陛下っ!!やりました!!我らはやり遂げました!!」
トウガが感極まってモニタに顔を近づけ、泣きそうな表情で叫んだ。
「はい、皆さん、本当にお見事でした。あなた方を私は信じておりました。」
「信じていただけるのは大変光栄ではありますが、危険です!
本来はこのような場所に陛下がお越しいただくわけにはまいりません。」
「あら、ラートリー候は手厳しいわね。」
いたずらに微笑みかけたココはふと遠い目で宇宙の先を見つめる。
銀河歴203年 当時皇女だったココは皇位継承権1位でありその聡明さと人を惹きつける能力により
輝かしい未来が約束されていた。
そんな彼女の皇配候補として、各公爵、侯爵家が名乗りをあげ熾烈な政争を繰り広げていた。
銀河歴205年 大貴族達が政争を繰り広げ、婚約者がなかなか決定しないという異常事態の中、
さらなる異常事態が発生した。
ココは自ら婚約者を選び父帝に紹介した。その彼、ハル・アージェントは伯爵家の出で、今回の政争に参加する資格すらない男だった。帝国史上類を見ない恋愛による選定だった。
父帝も難色を示したが、信じる愛娘ココの強い意志に折れて、遂に父帝自らがハルの後ろ盾になることを決め、婚約者とした。
その後、父帝はすぐに病死する(少なくとも史書ではそう書かれているが、暗殺とみなされている)。
だが、これは反ハル派貴族連合にとっては浅慮であり、ココが女帝として即位してその力を発揮するという裏目工作となってしまった。
ココは女帝となるや、ノアールの支持と強大な武力を後ろ盾にして、ハルの政治手腕により、今までの世襲貴族による軍権を改革。
彼女が見出した異才達を取り上げた。
序列一位 シズク公。彼女は公爵家の出で出自は問題なかったが、その若さと底知れぬ野心が批判を生んだ。
序列二位 トウガ公。彼も公爵家であり、どちらかというとその忠誠心の強さから貴族連合は煙たがった。
序列三位 ノアール候。彼が元序列一位であったため、女帝支持の見返りもなく、無下に降格させられたと見なされ、反抗の礎として逆に貴族連合には好感を持たれた。だが実際は彼の忠義は厚かった。
序列四位 ラートリー候。門閥貴族連合をごぼう抜きしての採用であるため、才は認められていたが、反感は高かった。
序列五位 シノ辺境伯。平民出の主力提督であり、シノ一人のために反ココ派が大きく蠢くことになった。
だが、結果的にこの人事は正しかった。
この5大将の力は本物であり、力を持った彼らがココに対して絶大な忠誠をもって仕えたことで
貴族連合は手も足も出なくなった。
そしてハルはココの皇配となった。貴族連合はハルのことをココを誑かした色男とでも思っていたようだが、実際はその人柄と才能を愛したココが、熱烈にアプローチしたようだ。
ハルは政務のスペシャリストとも言えた。彼はあらゆることに気づき、あらゆることの手配に長け、あらゆることを察し、そしてココの代わりに全ての政務を担った。
ココはニャニャーン史書では万能皇帝のように記されるが、実際の所は人を見出し、人を惹きつける能力が高い人物だった。
彼女の治世は政務のハル、軍務、策謀の5大将によって支えられ、かつてない繁栄の時代が幕を開けた。
ココとハルの仲はとてもよく、ウララ、ニュクスという二人の子供を授かり、帝国の未来は明るく見えた。
銀河歴210年 若くして皇配ハルは薨去した。
ニャニャーン神聖帝国の各歴史書には病死とも戦死とも暗殺とも記されている。
そしてその後、どの史書にも一切の登場がないと言う、完全に歴史に消された皇配だった。
ハルを失ったことで片足をもがれたようなココは、その悲しみに迷った挙句に暴走して無謀な先駆討伐という政治判断を下したと言われている。
「・・。(ハル・・・。こんなことをしても、あなたはきっと喜ばない。でも……
何かをやり遂げなければ、私は前に進めなかったの)」
ふっと視線を元に戻して、ココは5提督に笑顔を向けた。
その途端、メルクゥニャムが激しく揺れてココも態勢を崩しそうになりノアールによって支えられた。
「何事だ!報告せよ!」
ノアールが叫ぶ。どうやら先駆旗艦から放たれた小型のミサイル状の物体が被弾したらしい。
だが爆発もせず、ただ突き刺さっただけだった。
ノアールの指示でそのミサイル状の物体の調査が行われた。
不安そうに状況を見守るココが急に眼を見開いて苦しみだした。
口から塊のような血を何度も吐き出す。
ノアールが驚いて抱きかかえ医務室に運び軍医の治療が始まった。
あのミサイル状のものは先駆文明1万年の技術が詰め込まれた秘密兵器だった。中に格納された
ナノマシンが特定の人物に取りついて体内から内臓を破壊し尽くす暗殺兵器だったのだ。
勝利の通信により女帝の所在と人物情報が特定され、滅びゆく旗艦から彼女に向けて撃ち込まれた最悪の暗器だった。
女帝ココは勝利と同時に内臓を打ち破られて27歳という若さで崩御した。
ニャニャーン神聖帝国は激震に見舞われた。
「千年に一度、星は並び、
英雄は集い、奇跡は起こる。
赤き炎は敵を焼き、
青き氷は道を切り開き、
緑の風は策を巡らせ、
黒き盾は玉座を守る。
暗き星は誰よりも高く舞った。
だが、奇跡とは常に代償を伴う。
勝利の瞬間、女帝は血を吐き、
帝国の空に、静かなる死が降りた。
ココよ、あなたは人を見抜き、
人を信じ、そして人に託した。
その信は帝国を救い、
その死は帝国を揺るがした。
奇跡は咲き、そして散った。
だがその種は、次なる季節を待っている。
ニャニャーン神聖帝国の物語は、
今、始まったばかりなのだから。」
序章が終了し、遂に次回からニャニャーン大乱の幕開けです。
ココは非常に残念でした。
可愛い挿絵が付いたからと言って 油断できないのが本作です。
主役級の人物が揃う中、誰が真の主役か。
それを予想しながら読み進めるのも面白いかもしれません。
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本作は政治の頂点で繰り広げられる息詰まるお話です。
読み疲れたらこちら。
本来のニャーン達の日常から、ギャグ、シリアスまでの
疲れない話がここにあります。
ニャニャーン番外短編集(不定期更新)
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