第十八話 姉弟の対話
メルクゥニャムはポニャルーの軍港に寄港した。この訪問には主力艦隊である第3艦隊全艦が同行している。
一部は寄港に同行したが、残りの九十隻近くの軍船は惑星軌道上で待機している。
あまりの物々しさに住民たちは戦慄した。
軍港では着飾ったニュクスの私兵たちが盛大に出迎えた。
ウララとジジは、第3艦隊付属の揚陸装甲車と1000人規模の最新装備で身を包んだ精鋭の帝国近衛師団兵が乗る車両によって、厳重に警備されてニュクスの宮殿に向かった。
ニュクスの宮殿についた後も百人の近衛兵に守られウララは宮殿内を進んだ。
残りの近衛兵が方々に散り、宮殿を取り囲みつつ、警戒に当たる。
「ねぇ、ジジ。少々、物々しすぎるのでは?これではニュクスが委縮してしまうわ。」
「それはなりません。これでも少ないくらいなのです。」
厳しい顔で返した。
ウララもジジの性格はわかっており、こういう時は全く折れないのを知っていたのですぐに諦めた。
そしてニュクスが待つ玉座の間に到着した。
ニュクスは姉の姿を確認するとすぐに玉座から降り、姉の元へ駆け寄った。
「姉上、ようこそおいで下さいました。お疲れでしょう。」
ウララの前にひざまずき、挨拶を交わす。
「ニュクス、あなたも元気そうで何よりです。」
他愛もない話や、ウララの子供の頃の思い出話など、しばらく談笑が続いた。
ニュクスが頃合いを見て話題を変える。
「お忙しい姉上のお時間をあまり取るわけにもいきませんからね。
積もる話もありますが、単刀直入に申します。
姉上が直接お越しになったということは例の噂の件ですね?」
和やかな姉弟の会話の傍で寸分の隙すらみせず、ジジが後ろで控えていた。
その話題に触れた時にさすがに表情が厳しくなった。
「はい、ニュクス。
あなたにお願いがあって来ました。
きっとあなたの周りにはあなたに対して良からぬことを囁く者がいるのでしょう。
ですが、その讒言に決して耳を傾けてはなりません。
私とあなたは残された唯一の身内。
争わず協力して母上の理想を共に追いましょう。」
ニュクスはウララの目をしっかりと見つめた上で少し間をおいて答えた。
「……。
それは、姉上も同じではございませんか?
姉上の方こそ、常々讒言に晒され、唯一の血のつながりのある私でさえも
邪魔となったのでしょう。
今日の目的はその後ろの兵を使って、姉上直々に私の命を摘みに来たのでは
ないのですか?」
驚いたウララはすぐに悲しそうな笑顔で優しく語り掛けた。
「何を言うのです!
父上と母上を失い、深い悲しみの中で共に過ごし、遊び、学び合った
──私とあなた、そしてジジは、特別な絆で結ばれていたはずです。
姉弟の絆の他に私達はもっと強い絆で結ばれているのです。
他人の讒言ごときでこの絆を壊せるものではありません。」
ニュクスは大げさに腕全体を使って近衛兵達を指し示すとこちらも悲しげに訴えた。
「姉上、このように私を兵で取り囲んでおきながら、
説得力はありませんよ。
姉上が私に死を命じるのであれば仕方ありません。
一思いにお願いします。」
「ニュクス!
悲しいことを言わないで。
あなたとはもっとしっかりと話し合いたいのです。
私達は協力することが最も必要とされているのです。
ジジ、近衛兵を下げなさい!」
ウララは毅然とした態度でジジに指示をした。
「?! それはなりません、陛下!!」
「ニュクス、私とジジとあなた、この三名ならば冷静に話を聞いてくださいますか?」
「……姉上。」
「ジジ、何をしているのです。兵をさげなさい!
あなたもニュクスの事はよく知っているはずです!
私とニュクスの間に何も危険はありません!」
ウララは今度は直接近衛兵に向けて指示を出す。
「あなた達は早く下がりなさい!」
誰も動かなかった。空気が、凍った。
顔を見合わせて困る近衛兵達。
「……承知しました。ただし下げるのは隣の部屋までです。
皆、隣の部屋にさがれ。ただし気を抜くなよ。」
近衛兵達はゆっくりと隣の部屋まで下がる。
ジジが目立たないように近衛兵長に向けて目くばせした。
近衛兵長はしっかりとうなずき、退室した。
遂にウララとニュクス、そして傍に控えるジジの三名での会見が始まった。
「ニュクス、これで私達を信用していただけたかしら?
私はあなたを害そうなどと微塵も考えておりません。
それよりも神聖帝国の未来のため、あなたとは話し合いに来たのです。
このままではこの国が二分されます。
それは民も苦しめることになるのです。
よく考えて、ニュクス。」
「民?それが何だと言うのです。
それよりも姉上、私と姉上はたった1年生まれが違うだけで、
なぜこうも違うと思いますか?」
そう言ったニュクスの顔はかつての子供の頃のそれではなかった。
厳しい目でウララを見つめる。
「え?」
困惑するウララを無視して、そのまま捲し立てる。
「姉上は神聖女帝としてこの銀河を統べる立場にある。私はどうですか?
この辺境の惑星に化粧領を与えられただけで、何一つ為すべき使命もなく、
まるで忘れ去られた存在のように追いやられているのです。
たった1年ですよ。
それだけの差で、帝国法典では“第一子のみが神聖血統を継承する”とされ、
私は儀礼上の存在に過ぎない。
評議会の席もない、軍の指揮権もない、ただの飾りに過ぎません。
協力?私の協力がどこに必要だと言うのです?」
「ニュクス……待って。何を……。」
「姉上とは分かり合えぬと、申し上げているのです!!」
空気が変わった。ジジは反射的にウララを抱き寄せ、身を挺して覆いかぶさった。
玉座の背後に垂れ下がる深紅の帷。その奥に、誰も気づかぬまま兵士が潜んでいた。
彼らは女帝の命を狙うため、静かに息を潜めていた。
飛び出したニュクスの私兵達が一斉にウララとジジに銃口を定めた。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
ついに姉弟が再会しましたね。
やっぱり二人の間の「温度感」が全然違いました。
ウララちゃんは、純粋に弟と「仲直り」をしたいだけ。
でも、ニュクスくんは、子供の頃に感じた**「格差」と「孤独」**をずっと引きずっていた。
だから、ウララちゃんの行動が、全部「上から目線」にしか見えなかったんですね。
ここはもう、説明は要らないと思います。皆さんも、心に刺さるものがあったんじゃないでしょうか。
そして…、ピーンチでーす!!
ウララちゃんの純粋さが裏目に出て、大ピンチ!
ジジさん、なんとかして!
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あとがき
人の心はとても難しいものです。
あれほど支えあい、敬愛しあった唯一の身内でさえも、
いつのまにか理解できなくなってしまう──それが、絆の盲点なのかもしれません。些末な嫉妬心から、ニュクスは大事件を起こしてしまいました。
ですが、彼の心の奥には、もっと深い孤独や渇望があったのではないでしょうか?ウララとジジ、そして神聖帝国の行きつく先は──
皆さまなら、ウララの笑顔を守るために、ジジはどう動くと思いますか?皆さまの推理と希望、ぜひ教えてください。
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前話を忘れてしまった方への振り返り一コマ
(私の物語はタイトル詐欺と言われます。なので振り返り詐欺も追加で)