第十六話 ウララの秘策
ジジはラートリーの言葉に取り憑かれていた。
そして後悔した。これは彼の心理戦だ。
聞かなければよかった。
何一つ解決しないくせに、思考を鈍らせる毒を打ち込まれたようなものだ。
上策を伝えるためにわざわざこのような形にはしない。
つまりはこれはやはり中策が本命と見るべきだろう。
そして中策の狙いをよく考えなければならない。
ニュクス排除。
オブジディアンの道連れ。
トウガ派の混乱。
時間稼ぎ。
どれを考えても、もっともらしく、全てがラートリーに利する。
この三策を聞く前に自らニュクス排除の手立てを考えていた方がよかった。
まだ、その方が裏をかくこともできた。
自室に向けて歩く際に曲がるべき廊下を通り過ぎて、しばらくしてから慌てて戻るほど、彼を悩ませていた。
そんな時、急に腕を掴まれて大げさに驚いた。
「し、し、失礼いたしました!」
ウララの侍女の一人だった。
「先ほどからずっとお呼びしておりましたが気づいていただけなかったため、やむを得ず・・・」
ジジはすぐにさわやかな笑顔を作って返答した。
「いや、こちらこそ驚かせて済まない。少し考え事をしていたんだ。
大丈夫だ。気にしなくていい。
それで、私に何か御用ですか?」
「あ、はい!陛下が庭園にてジジ様をお呼びです。
かつてのようにジジ様とのお茶会を希望されております。」
「陛下が?
承知しました。すぐに参りますとお伝えください。」
庭園に呼ばれたジジがウララと二人きりのお茶会を実施していた。
ウララはジジとお茶会をするのが大好きだった。
よくジジを招いては、いつもお菓子を食べながら花を愛で談笑していた。
ジジがオブジディアン家を継承してからは、なかなかその時間が取れなかったが、久しぶりにウララと二人きりのお茶会を行うことが出来た。
ウララは子供の頃の話を中心に楽しそうにジジと語り合った。
しばらくの談笑のあと、唐突にウララがジジに問いかけた。
「ジジ、最近聞きましたの。評議会が荒れているようね。」
手に持つお茶をこぼしかけながら、ジジは焦って返答する。
「あぁ……陛下。大変申し訳ありません。
私達が不甲斐ないばかりに陛下の御心をお騒がせすることになろうとは。」
優しげな笑顔のまま、ウララはそのまま続けた。
「ニュクスね?最近私を廃位してニュクスを立てようとしている一派があると。」
「……。いえ、それはあり得ません。トウガ様と私が居る限り、そのような愚挙は決して起こさせません。」
少しだけ間をおいて、しっかりとジジの目を見つめ、ウララが依頼した。
その目には強い信念が宿っていた。
「ジジ、お願いがあるの。
ニュクスはね、決して悪い子じゃないの。
あなただってそんなことは誰よりも分かっているでしょ?
きっと私と直接、顔を合わせて話し合えばあの子はわかってくれるはず。
私に任せてもらえないかしら?」
「なりません。」
一時の思慮もなく断られたことで不満そうな顔をしながらも
ウララは引き下がらなかった。
「トウガやあなたが動けば国を割る内乱になるわ。
私が直接伝える言葉ならニュクスにも必ず通じると思うの。」
「なりません。危険です。
ニュクス様はご理解いただけたとして、その周りがそれに従うとも限りません。」
頑ななジジに対して、ウララも諦めない。
「それはわかっているわ。だからあなたにお願いするの。
あなたは今や五大将の一人。そしてあなたの兵は近衛師団ともみなされている。
そんなあなたが一緒なら安心して向かうことができるわ。
あくまで私が説得するのはニュクス。
彼さえ理解してくれたら時間と共にこの乱れは収まると思うの。
もしあなたが断れば私は他の誰かに頼むだけよ?」
ジジの困った顔をいたずらっ子のような笑顔でウララは見つめた。
「……。
承知いたしました。他の者に任せるくらいなら私が陛下をお守りいたします。」
始めから答えが分かっていたかのようにウララは満足げにほほ笑んだ。
こうして女帝ウララは皇弟ニュクスを説得するため、五大将ジジを率いて
直接ニュクスの領土へ向かい会見を行うこととなった。
ジジはラートリーの言葉が胸の奥にひっかかった。
ただ、偶然が重なっただけなのは頭の中では理解している。
だが、ウララのこの行動すらもラートリーの深謀術策の一つであるような気がした。
あるいは、天によって既に定められた運命のような気もした。
その夜、ジジは夢を見た。子供の頃の夢だ。
ウララは微笑みながら庭園を走り回っている。
その後をついて走る幼きニュクス。
それを見守りながら追うジジ。
ニュクスがふざけてウララにとびかかって抱き着いた。
二人とも笑いあっている。とても楽しそうだ。
だが、ジジは……なぜか大人の姿になったジジは、
ふざけあって笑っている子供のニュクスをウララから引き剝がし
その心臓に短剣を突き立てた。手が血に染まる。
そこでジジは飛び起きた。悪夢のせいで全身が汗で濡れていた。
「くっ……。これもラートリーのせいだ。」
ジジはそう呟き、汗に濡れたまま机に向かうと、一通の書類をしたためた。
この会見はウララの強い意向もあって、ジジの手配により極秘裏に準備が行われた。
だが、これが神聖帝国を揺るがす大事件を引き起こすことになる。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
ジジさん、悩んでますねー!
そりゃそうです、わざわざラートリーさんが**「悩む毒」**を仕込んできたんですから。
こういう、人の心にズバッと刺さるような発言をする人、いますよね。
さて…、そんな彼の前に、ついに王道ヒロインのウララちゃんが登場です!
彼女、ただの守られ系ヒロインかと思いきや、まさかの積極的行動!
「内乱になるくらいなら、私が直接弟と話すわ!」
もうね、完全に典型的ヒロイン行動ですね。
そして、ジジさんが彼女を護衛する王道の騎士様!
ジジさんが見た悪夢も、何かを暗示しているみたいで…。
やっと、政治の世界を飛び越えて、冒険ファンタジーみたいな感じになってきました。
…って思ってるのは、作者子ちゃんだけですか?(笑)
さあ、この後、どうなるんでしょうね!
あ……ちょっとだけ裏話!
ウララちゃん、幼いころからお兄ちゃんのように頼りになるジジさんのこと・・本当は・・ウフフフフフ。
えっと…ジジさん、既婚者です!残念!
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あとがき
遂に王道ヒロインらしいヒロインが登場です。
冷徹な戦略が支配していた評議会の空気に、ウララという“人間的な希望”が差し込まれる場面です。
ウララは決して傀儡などではなく、強い信念を持った女帝であることが示されています。
和やかなお茶会ですが、ラートリーの言葉が皆さまも引っかかるのではないでしょうか。
ウララの強いカリスマ性がどう作用するのか?
ジジに打ち込まれた”救国の三策”という名の毒がジジにどう作用するのか?
予想がつきますでしょうか?
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↓前話を忘れてる人向けの振り返り一コマ
(私の物語はタイトル詐欺と言われます。なので振り返り詐欺も追加で)