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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第一章 栄光と均衡の終焉
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第十五話 救国の三策

今回の評議会も大荒れのまま閉会した。


ジジは「ウララ廃位案」の可能性とそれを阻止する策を考えていた。


シズクとシノが退室していく。


それをじっと見つめていたが、結局、業火に燃える神聖帝国が重なり、頭を振って否定する。


トウガがいつものように猫背のまま、怒りとも落胆とも自己嫌悪ともとれるような表情のまま退室しようとしていた。


トウガの退室を見届けてから遂に意を決したようにジジも立ち上がった。


「待て!ジジ。」


周りが見えていなかったジジは背筋が凍る思いがした。

声のする方へ顔を向けると、そこにラートリーが立っていた。


「らっラートリー殿!?」


「座れ!」


妙な威圧感に逆らえず、ジジは自席に座った。

そしてラートリーもいつもの議長席に座る。


「卿の覚悟は本物か?」


唐突なその一言で、心を見透かされたような気がして体が固まる。


ラートリー……父上も仰っていたが……こいつは化け物か?


「と、申されますと?」


努めて冷静にふるまう。


「もし違ったら申し訳ないが、卿がトウガ殿にその考えを述べた場合、

 間違いなく神聖帝国は二分され、焦土と化す。

 その覚悟があるかと問うている。」


心拍数が上がるのが分かった。

こいつは人の心が読めるのか?


しばらくジジは黙り込んだ。

言葉を慎重に選んでいたと言える

これは単なる雑談ではない。自らの言葉に国の未来がかかっているような気がした。


それを察してかラートリーは揺るがぬ目でジジを見つめたまま急かしたりもせず、ただ待った。


いくら考えてもその考えはまとまらなかった。


四大将と自分では器が違い過ぎる。

そして考えるのをやめた。

全てを見透かされている以上、下手に繕っても意味がない。

私は若い。この気持ちを、トウガ殿の前にラートリーにぶつけてみるのも悪くないかもしれない。


「御明察の通りです。正直なところを申し上げると覚悟はできておりません。」


「ふん。」


予想に反してラートリーは笑顔を見せた。

怪訝な顔で、ジジは見返す。


「素直で良い。それは当たり前だ。卿の年でその覚悟が出来ていたら

 卿は私にとって最大の脅威と見なして消さねばならんところだった。」


一瞬ジジが固まる。


「ん?冗談だぞ?真に受けるな。

 いや、すまん。

 私は冗談が苦手でな、未だかつて冗談を笑ってもらえたことがない。」


ジジは少しだけ緊張がゆるんだ。

ラートリーの捉えどころのなさに困惑しながら。


「卿はまだ成長途中だ。だが見どころはある。

 いずれは、この神聖帝国を背負ってもらわねばならん。

 短慮はよせ。トウガ殿に話せばこの国は取り返しのつかないことになる。」


分かっていた。分かっていたが策がない。

自然と、この言葉が出てしまっていた。


「ラートリー殿。私はどうしたらよいのでしょうか?

 中道を歩むあなたに聞くべきではないのかもしれませんが、

 私はウララ陛下とこの国を是が非でもお守りしたい。」


再びラートリーに笑顔が戻る。


「やはり卿は素直で良い。では私が卿に”救国の三策”を与えよう。

 上中下は私の主観だ。卿が気に入ったものを実行したらよい。」


「救国の三策?」


ラートリーは真剣に語り始めた。


「まず上策。

 卿が私を説得できれば良いのだ。この評議会は5人制。

 私を抱き込むことができればウララ陛下の世として安定する。

 だが時間はかかるぞ。

 なにしろ私はとても厄介な人物だからな。」


少しだけ間を置いてラートリーは話を進める。


「次に中策。

 卿がニュクス様と刺し違えるのだ。

 シズク殿もシノ殿もココ先帝陛下の血統を絶やすことまでは望んでいない。

 卿にとって重い選択となるだろうが、神聖帝国は無傷で済むだろう。

 それに卿次第では卿も無傷でこの中策は実行することも可能だ。」


ジジは驚きの顔を隠せなかった。

こんなにも容易に、皇室を害する発言ができるものなのか?


「そして下策。

 卿が考えた通り、トウガ殿と結託し、内乱を起こす。

 徹底的にシズク殿とシノ殿を討ち滅せばウララ陛下の世は誰にも傷つけられなくなるだろう。

 ただし、神聖帝国は焦土と化すがな。

 場合によってはその機に乗じて他国に侵略されて、国自体を保てなくなるかもしれん。」


ジジの思考は、これまでにもなく荒れた。


「これが私が卿に与えることが出来る”救国の三策”だ。」


中策の時点でラートリーの不敬を問いただして排除することもできるかもしれない。

いや、おそらく彼は我々にそれがなしえないことも計算してここまで踏み込んだ話をしてきたのだろう。

もし私がこの話を誰かに漏らした場合、確実に揉み消される上に、ラートリーはシズクと結託してウララ陛下の排除に動くのは明白だ。


ラートリーは確かに下策は望んでいないのだろう。

彼はあくまで帝国の安定を望む中立者だ。

あえてこの三策を持ち出したのは、下策を封じるためと考えるのが妥当だ。


そして深読みすると、実は上策ではなく中策こそが最善と考えている可能性もある。

場合によってはニュクス排除を上手くやるために協力すらしてくれるのかもしれない。

仮にそれで上手くできたとしてもラートリーに弱みを握られる。

あるいは、もっと単純にオブジディアン家を邪魔な血統と共倒れさせる目的かもしれない。

中策はすなわちオブジディアン家の最期だ。


私にはオブジディアン家を潰す覚悟は持てない。

これでは私は上策しか取れない。短慮を起こして中策を実行しても結局ラートリーが利するのみ。

この男、涼しい顔をして、なんて恐ろしい策を投げかけてくるのだ。


いや、待てよ。中策を誰かにやらせる案もあるのか?

だが、ニュクスにはシノがついた。一筋縄ではいくまい。もう手遅れだ。

自らが刺し違える覚悟は確かに必要だろう。


結局は上策を取らせる目的か?

だったら何を狙っている?

時間稼ぎか?

わからぬ……。私はどうしたらよいのだ?!


ジジの考えを遮るようにラートリーは割り込んできた。


「ふふふ、悩んでいるな?最初に言った通り、私は上策を推す。」


「……そうですね。私も上策を考えます。

 ラートリー殿は私に落ち着けとおっしゃりたかったのですね?」


「そうだ。やはり卿は見どころがある。

 卿はこの国のために必要だ。

 短慮を起こすなよ。」


そしてラートリーはジジを置き去りにしてさっていった。


ジジは思考の嵐の中に取り残された。

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


今日のテーマは、緑髪の天才、ラートリー殿の「救国の三策」!


仰々しいネーミングですよねー。まぁ、カッコつけたがりなので許してあげてください(笑)。


この「三策」は、実は大人の世界でよく使われるハメ技なんです!


相手に3つの選択肢を提示するけど、そのうちの2つは選んだら地獄を見る、絶対に選んじゃいけない道!


今回のラートリー殿も同じで、本当は「上策」をジジちゃんに選ばせたいんですよ。


でも「これやれ!」って言っても、素直に聞くわけないですよね?


だから、わざわざ「中策」と「下策」っていう、とんでもない道を見せて、「ほら、これ以外に手はないんだぞ?」って、こっそり誘導してるんです。


「他の道は地獄だぞ? だから私の言うことを聞きなさい」ってことですね。


ジジちゃんは頭がいいから、このカラクリには気づいてるけど、頭の中は「え、じゃあどうすればいいの!?」って大パニック!


ラートリー殿、笑顔でやってるけど、やってることがエグいですねー!


でも、それだけジジちゃんのことを買ってるってことでもあって……。


みんなも気を付けてね!世の中の「3択」には、要注意ですよ!



あー、でもですよ。


天才は普通じゃないんです。


普通ならここで上策を選ぶんですけど…。


彼の本当の思惑、覚えてますか?


中策……。


あっ、ぷぷっ。口が滑っちゃいました!


さて、この後どうなるんでしょうね?


続きは本編で!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


見事なまでのラートリーによる選択の毒。

これは若いジジを極限まで追いつめるでしょう。

どの策を取ったとしても何かしらのデメリットがある。


この後ジジが取る方法は?


ラートリーの真意は?


皆さまはこの天才達を相手にどこまで先を読めますか?


推理の先をお聞かせください。




感想やご意見、評価、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。


前話を忘れてしまった方への振り返り一コマ

挿絵(By みてみん)

(私の物語はタイトル詐欺と言われます。なので振り返り詐欺も追加で)


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