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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第一章 栄光と均衡の終焉
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第十二話 皇弟 ニュクス懐柔

シズクは即座に行動を開始した。


ニュクスに対しての接触を試みる。だが、ここで計画は唐突に頓挫した。

シズクの申し出はニュクス側によりその場で拒否された。


挿絵(By みてみん)


既に彼の後見はシノがその座についていた。


「シズク閣下、我々の後見の申し出ですが、殿下より謝辞と共に断りの通達が参りました。」


「なんだと?隠遁皇子の分際で強欲なことだ。

担当に伝えよ。お慰めとして金品は惜しむな!

いくらでも使って良いと!」


「いえ、閣下。違います。

 すでに後見人がついており、付け入る隙がございません。」


「何だと?!」


(ラートリーか!

 奴は中道、ニュクスには興味がないはずだ、私への嫌がらせか?)


「シノ辺境伯とのことです。」


シズクは目を向いて問い詰める。


「何?!裏は取れているだろうな?」


「はい、間違いございません。」


(馬鹿な!?皇族が私よりも平民のシノを選んだというのか?)


「背景を詳しく調べよ。」


「はっ!」


シズクは完全に出し抜かれていた。

あれほどシノに対して警戒をしていたにも関わらずだ。




1年ほど前に遡る。


シノは久しぶりに帰郷した。

士官学校を卒業してから、トウガの参謀長になり、自身が提督となって武勲を上げ、今の地位を手に入れるまで彼女はまさにそのことだけに人生を捧げていた。

何年ぶりかも定かでないほど、長い空白があった。


彼女は平民出身ながら主力艦隊の提督となり、ついには五大将評議会に名を連ねるまでに出世した。

今やシノ辺境伯と呼ばれる念願の大貴族になった。


そして彼女はまだ若い。

彼女はなんぴとたりとも予想がつかない速度で、栄光の道を今なお昇りつめている。

それこそ、この町には彼女が貴族にあこがれていた少女時代を、昨日のように覚えている人たちも多数存在するのだ。


これは、故郷に錦を飾るという次元を遥かに超えた快挙だった。

奇跡その物とも言えた。

極秘での帰郷であったにも関わらず街が沸き上がった。


彼女は常に誰かの監視を感じていた。この行動も監視されているだろう。

だからこそ、彼女はあえて無邪気に民衆の声援に応じた。

貴族にあこがれた少女がその夢をかなえて凱旋した姿のように見せる為に。


夜は両親と共に過ごした。


彼女の両親は、シノが大提督や大貴族になったことよりも、ただただ元気な姿を見せてくれたことを喜んだ。

そして今なお、政治と言う魔境に席を置く娘が心配でならなかった。

できれば、このまま留まって平和な暮らしを続けて欲しいとさえ願っていた。


だが、シノは止まることを知らない。今日、ここへ来たのも確固たる政治的目的があったためだ。


シノの両親は銀河海運商会の経営者であり、その敏腕で財を成してきた。

国中に知己がいて、あらゆるところに出入りがしやすかった。


シノはただそれだけに目を付けた。再会を喜ぶ両親に対して、笑顔で率直に指示を出す。


「お父さん、お願いがあるの。」


そうして彼女が告げたのは、


「商会の伝手を使って、私の名義で極秘裏に皇弟ニュクスを懐柔してほしい」


と言うことだった。


父は即座に猛反対した。


皇室に対して調略を仕掛ける――

それはすなわち、飢えた猛獣の檻の中に入っていく娘を応援するようなものだ。


政治を知らない平民の父ですらもわかる。

その危険がいかに常軌を逸しているかを本能的に悟った。


両親とシノは真夜中になるまで言い争った。

そして遂に両親が折れた。彼らは知っていた。

彼女が高みを目指すことを諦めない子であると言うことを。


もし自分達が断っても娘は別の方法で猛獣と対峙することになるだろう。

ならば親として自分達の手で彼女に対して万全の支援を行うのが最良だと。


翌日、民衆の称賛を受けながら、彼女は再び皇宮へと戻った。



その後、シノの両親は、極めて目立たぬやり方で、ありとあらゆる方法をつかい、ニュクスに接触した。

贅沢品を献上し、生活を支援することで、シノの名代としてニュクスの懐に深く入り込んだ。

この一年の調略は功を奏し、ニュクスはシノを後見人と定め、ニュクス・シノ間には何者も割り込む隙を与えなくなっていた。





これがシズクが出し抜かれた理由である。

シズクは貴族であり、計略に平民を用いることは滅多にない。

仮に用いる場合であっても、愚かな平民には、必ず首謀者が適宜、直接指示を出し続けるものだと考えていた。

シノの身辺に探りを入れたところで何も出てはこなかった。

なぜならシノは本当に何もしていなかったからだ。

ただ両親を信じて任せていただけだった。


そのため、自発的にシノのために動く商会による懐柔工作を見抜くことはできなかった。

まさに平民であるシノの強みを活かした調略であったと言える。



「……と、いう次第にございます。」


「お前、シノの周りの監視を怠ったな?」


シズクは怒りを露わにした。


「い、いえ、監視は常に行なっており、両親、シノに共通して接触したものはありません!

 また、接触者の身元もはっきりしており、不特定な者は商売相手のみですが、それらも怪しい点はございませんでした。

 通常通信、秘匿通信、果ては伝書鳩の類も用いておりませんでした。

 直接接触も一年前にシノが故郷に凱旋した際のみです。」


「それ以降一度も指示を与えていないだと?

 親が、娘のために自発的に動いたというのか?

 しかも一年前から準備していたというのだな?

 

 くっ、シノ、よくもやってくれたな!」


シズクは考えを改めざるを得なかった。

親の愛とは忠義にも匹敵するのか。

今まで親の愛を知らぬシズクは忠義にすら及ばぬものと、過小評価していた。


そしてシズクにとって1点腑に落ちないことがある。

政争に慣れないシノが自分より先に忘れ去られた存在であるニュクスの利用に気づいた点だ。


だが、それも考えることをやめた。

シノは、シズクでさえもその実力を認める英傑の一人である。

自分より劣ると決めつけるのは今後も後手に回る危険性がある。


今回は、彼女が一枚上手だった。

シズクは、敗北の苦味を噛み締めながらも、素直にそれを認めるしかなかった。


後見人の座はシノに奪われたが、ウララ支持に回ったところで、トウガやジジの後塵を拝するのは明らかだった。

ウララとニュクスを天秤にかけた際に、やはり傀儡に相応しいのはニュクスであった。


そのため、結局シズクはシノに味方することにした。


シズクにとっては、体制を築いた後にシノを追い落とす方が得策だと判断したに過ぎない。



「シノ……。食えない女ね。私を出し抜いたつもりかもしれないけど。

 この世界はそんなに甘くないわよ?」


同じ相手に二度出し抜かれることはない……。これはシズクの絶対の自信によるものだ。


ニュクスを皇帝にする。シズクとシノは新たな目的に向かって評議会に臨むことになった。


★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


ボンクラな皇弟と仲良くなって、その後見人になろうってシズクさんが企んでいたんですが、なんと、シノさんに先を越されていました!


第9話、覚えてますか?


あの時のシズクさんとシノさんの会話、あれは今回の布石だったんです!


シズクさんはずっとシノさんを警戒していたんですが、まさか、本人抜きで、シノさんのご両親が交渉をまとめていたとは思いませんでした。


シズクさんはサイコパスで、親のことを全く信用してないんですよね。だから、まさか家族が娘のために頑張るなんて、想像もできなかったんです。


ある意味、ちょっと可哀想ですよね。


後見人の座はシノさんに奪われたんですけど、シズクさんとしては「今すぐ必要ってわけじゃないし、とりあえず放っておいて後で考えよ」って思ってます。


ということで、シズクさんとシノさんの同盟は継続!


…政治って、本当に難しいですね!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


ここでは単なる後見人争いではなく、貴族と平民の思考様式の違いが生んだ“情報戦の勝敗”が描かれています。

「シノはただの野心家ではなかった」

「シズクは完璧ではなかった」

──そう感じた方もいるかもしれません。

それでも、彼女たちは共闘を選びました。


遂に賽は投げられました。

皆さまは、ウララ派とニュクス派、どちらが帝国を導くと思いますか?


それとも、ラートリーのように中立を貫くべきでしょうか?次回もまた、ぜひ見届けてください。


感想やご意見、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。



前話を忘れた方向けの振り返り一コマ

挿絵(By みてみん)


(私の物語はタイトル詐欺と言われます。なので振り返り詐欺も追加で)

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